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「――構造材そのものはかなりの厚み。でも五十メートルちょっとというのは全体のスケールから見たらむしろ異常に薄い外壁だな。いくら炭素結晶材の強度が高いといったってこんなぺらぺらの壁で『辺(エッジ)』にかかる途方もない力を支えられるはずもない」
 この『温室』の窓が素通し――つまり透明な材質でふさがれていないことはあらためて降下途中の『ハルバン』の観測で確認ずみだった。探査機の軌道変化で天体の質量も測定でき、この惑星が確かに地球なみの表面重力を持つこともわかった。なんといっても下界から上昇気流にのって雲がここまで上がってくるのだから疑いようもない。あきらかに大気は重力で引き留められているのだ。したがって球殻の重さはほぼ地球質量――六掛ける十の二十一乗トン前後と見積もられる。言うまでもなくひとつひとつの『辺(エッジ)』に加わる圧縮と捻れの力は想像を絶する規模だろう。
「――内部にずっと強固な高密度の芯があってわたしたちはまだカバーに穴を開けただけなんじゃないかな? ……なにしているの?」
「しっ……なんか音が聞こえないか?」
 ウィリアムはコンソールにちかづくとヘッドホンを耳につけて彼方の天体からとどく微かな囁きに耳をすませた。
「さっきから吹いている風の音じゃない? 日暮れが近づいてきたからでしょ?」
「いや、べつの音。――機体の下からだな。なんか掘削パイプの開口部から聞こえているみたいだぞ」
 夫の言葉にはっとしてカシルはモニター画面のデータ群にすばやく目をはしらせた。
「ああ、これだ! ……ほら、パイプのなかが負圧になっているわ」
「空気が逃げている?」ウィリアムは妻が指さすグラフのひとつを確認して目をしばたたいた。
「ほんとだ。……てことは、『エッジ』の内部はからっぽ――真空ってことかい?」
「まさか。からっぽのはずはないじゃない……それじゃ、大気をひきとめる力はいったいどこから来てるの?」
 カシルの苛立たしげなつぶやきが終わるのを待っていたかのように――とつぜんモニター画面が激しく揺れ動いてあらゆる計器がめちゃくちゃな数値を示しはじめたのだ。

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