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 放射線の降り注ぐ宇宙を旅するシーカーにとって旅の途中で子供をつくることは少なからずリスクを含む。だからたいていはクレイドルに卵子や精子を残し、十分な財産を稼ぎ出し帰還したのちあらためて子供をこしらえて安定した暮らしを営むというのが常道だ。とうぜん彼らもその心づもりだったのだが――長男が生まれ、息子を孤独にさせたくないためにさらに長女までつくるはめになった。つまりは子供たちはセイジ夫妻にとってまさに失敗の産物にほかならないのだけれど……ウィリアムは思う。まあこいつは生涯最良の失敗と言っていいかもしれない。
 急に家族が増えたので居住区画が手狭になった。以前『蜘蛛』にあやうく夫を『分解』されかけたカシルはイシュタル機械のプログラムを集中的に研究して作業ユニットたちをかなりの程度手なずけることに成功していた。そこでふたりは蜘蛛たちに命令して『菜園』を建設させたのだった。
 『菜園』は直径十メートルのチューブが『ラブソング』の外周をぐるりととりまいているだけの単純な構造だ。内部は一気圧に保たれ普段はイシュタル機械の推進力が一G環境をつくり出している。二層に仕切られた外側部分は中性子線対策もかねた水耕栽培のタンクがずらりと並び内側部分は運動やリクリエーションのための空間。ジョギングコースに沿って芝が植えられ壁ぎわにはさまざまな花が咲きみだれる花壇もある。ところどころ樋から導かれた小さな滝が太陽灯の光を反射してきらきら輝いてさえいた。操船に手のかからない巡行時などセイジ一家は食事と睡眠以外のほとんどの時間をここで過ごした。子供達が成長するまでなるべく人工冬眠は控えるようにしているいま、恒星間ラムジェットシップのなかにそうして遊び回ったり手入れをしたりする庭があるというのは自分たちにとっても子供たちにとってもとても大切なことなのだ。
 しかし残念ながらいま彼らはそのお気にいりの場所を遠く離れている。『ラブソング』から飛び立った『サガ』の狭い空間に押し込まれ、運動不足で家族全員すこしとげとげしはじめていた。……とにかく、あとすこしの我慢だ。ウィリアムは自分に言い聞かせた。言わばこれははじめての野外キャンプへのドライブ旅行なのだ。自宅の裏庭しか知らない息子たちもおそらく自然の懐に抱かれることがどういうことかこれで学べるんじゃないだろうか?

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