[3−2]
「地球人類はまともでなかったというわけかい? でも彼らはそのとき切羽詰まっていたのだし――」
「それで危険を顧みず? そうかもしれない。でもティプラーへの反論以前にそもそもそうした自己増殖型の機械は果てしなく数が増えてしまって現実には到底使えそうもないとは思わない?」
「うん、確かに以前からぼくも疑問に感じてはいたんだ。ほうっておいたら『イシュタル機械』はありとあらゆる星系の資源を食い尽くしてしまうはずだ。最終的には銀河系そのものが『機械』で置き換えられてしまうんじゃないかなって」
「まあ実際にはそこまではいかないだろうけど、果てしなく増殖する機械が脅威であることは確かだわ。そんな単純な理屈をご先祖さまが気づかないわけがない。ということは彼らが造った『機械』はそういうものではなかったってことじゃない?」
「じゃあいったいぜんたいどういうものだったと思う?」
「ロボット工学ではこの種の問題の解決法はひとつしかないの。つまり『スマリヤンのロボットの島』のやり方よ」
「『スリムヤン』? 細身の中国系かい?」
「わざと間違えているでしょ。レイモンド・スマリヤンは二十世紀から二十一世紀にかけて活躍した数学者にして論理学者にして魔術師。白いお髭の素敵なおじいさまだわ」
「ふうん、意外だな。そういう趣味だったのね?」
「なに言ってるの。まじめに聞いてよね――とにかく彼が書いた『無限のパラドックス』という本のなかに架空の島が登場するの。もともとはロボットのプログラムの例を借りて自己言及、ひいてはゲーデル数と論理式による引用の話題へとつながっていくのだけど、それは今はおいておいて――その島ではたくさんのロボットたちがどったんばったん大騒ぎをしている。あるロボットはただ無目的に歩きまわり、べつのロボットは出会った相手をひたすら破壊する、さらにべつのやつはばらばらになった部品から新しいロボットを組み立てる、といった具合。
戻る/進む