[3−13]
父親と子供たちが制御ルームに戻ってくるのと観測窓の外が明るくなるのとが一緒だった。そこはふたつの雲の山脈に挟まれたような場所で頭上にはジオデシックの編目越しに薄暗くなった紺碧の空と幾つか星も見えた。
「だいじょうぶ?」
「ああ、子供たちなら元気だよ」
「よかった。こちらもどうやら逃げ切れたみたいよ。周囲にそれらしい影はないわ」
ウィリアムは安堵のため息をついた。
「あるいはいまのが一番懸念していた事態だったかも知れないな。まあ、無事にすんでよかったよ。たぶんもうあの場所にもどることもないだろう」
「いつのまにやらちょっと明るくなっているわね」
「うん……雲のなかにいる間に日付がかわってしまったんだ。はや夜半をすぎて早朝だよ。探検開始二日目だな」
真夜中でも完全に暗くなることのないこの世界では黄昏から朝焼けへと一足飛びに変わってしまうかのようだった。夜のない世界――なんだか損をしたような気分だ、とウィリアムは思った。
「いまの雲の中での操船で姿勢制御用の推進剤をずいぶん使っちゃったわ。補給しなくては」
「見てご覧――あそこにいくつか水球が溜っている場所があるだろ。あそこへ行って水をわけてもらおう」
「わけてもらおう、か――まるで旅の途中で立ち寄る谷間の村じゃないの」
「なんだかひと波乱乗り越えてすっかりこの世界の住人になった気分だよ」
目的地に到着するまえにふたたび雲にまとわりつかれることを心配したが、むしろあたりは急速に晴れわたりつつあった。気がつかないうちに大気の循環が『サガ』を乱流の外へと運んでいたのだ。ふりかえると例の『イレギュラー』もかなり遠くに離れている。
「どうやら自転の影響がこのあたりの大気にまで及んでいるようね」
戻る/進む