アンドロイドの秘書第四部

天童彰彦

瑞穂に、君子のことを説明しなければいけない気がしてきた。

いずれわかることなのだから、早い方がいいだろう。


「あ、君子さんね」

「知ってるのか」

「アシスタントの方でしょ」

「家事をやってもらってるだけだ」

「アンドロイド、っていうんでしょ?」

「それも知ってたのか」

「かわいいんですか?」

「外見は、ね。でもやっぱりロボットだから」

「一度お会いしたいわ」

「お会い、って感じじゃないよ。何も知らないから、いじめないでね」

「いいわ、私アンドロイドって、ちゃんと見たことないんです」

「じゃあ、こんどここへ来させよう」

「わあ楽しみ、彰彦さんが選んだアンドロイドってどんなのかしら^^」


君子に瑞穂のアパートを教え、一人で行かせることにした。

君子も瑞穂に会えるといって大喜びで、飛び跳ねるようにして出て行った。

瑞穂が何を話すのか、何を聞きだすのか、不安もあったが、私のことを何でも知りたいというのなら、それも構わない。趣味も、行為も、隠すつもりはない。


君子は夜遅くまで戻らなかった。翌朝、聞いてみた。

「どうだった?」

「瑞穂さん、すっごい素敵な方ね!」

「ずいぶん長い間いたんだね」

「はい、私のこと、すごく興味持たれて、身体も全部調べられました」

「っえ!」

「作動原理から、冷却システム、燃料や体液のことまで。瑞穂さんって、法律の方だと思ったら、意外と理系なのね」

「何でも興味を持つらしいよ」

「私の身体や反応にもとても興味持たれて」

「えーっ」

「二人で裸になって、いろいろ比べました」

「そんなことしたの!」

「で、私も、瑞穂さんも、すごぉく気持ちよくなったの」

「何したんだ!」

「それは、彰彦さんには内緒って瑞穂さんが^^」

「おいおい」

「普通に、女性二人がするようなことよ」

「普通じゃないだろ、それ」

「あらぁ、そんなこと言っていいんですか」

「それは・・・」

「瑞穂さんに聞いてみて^^」

さすがに、それを瑞穂に聞くことは出来なかった。


瑞穂と正式に結婚することになった。

式は簡単にし、披露宴は仕事関係と友人だけのパーティで済ますことにした。

君子をどうするか。家事は瑞穂がしたいというし、事務の仕事はほとんどない。

もう一つの方はしばらくご無沙汰している。結局会社に帰すことになりそうだ。

君子にそれとなく話すと、すでに察していたようで、ご結婚されるまでは置いてね、と明るく笑った。


婚姻届を出し、パーティと引っ越しの日取りも決まり、君子を帰す日が近づいてきた。

「もうすぐ終わりなのね」

「・・・、うん」

「お幸せに」

「ありがとう、長い間、楽しかった」

「私の仕事ですから」

「また、わざとロボットっぽいこと言って」

「ほんとよ、でも私も本当に幸せでした」

「ありがとう」

「あの、お願いがあるんですけど」

「最後にもう一度?」

「いえ、それはもういいんです。それは瑞穂さんの^^」

「君はどうなの?」

「私はロボットですから、彰彦さんがお幸せなら、私も幸せ」

「だめ、信じないよ、それは」

「あはは、ほんとは少し悲しいけどね」

「ごめんね」

「やっだあ、ロボットに謝ることないのよ」

「でも、最後の願いは、なんでも叶えてあげるよ」

「私を、殺してください」

「っえ!」

「最後は、彰彦さんの手で、いかせて」

「君は、会社に戻すことになってるんだよ」

「身体は、ね」

「え?」

「会社に戻ったら、私はリセットされます」

「新しくやり直すんだろ?」

「違うのよ。プライバシー保護のため、彰彦さんとの記憶は全部消去されます」

「でも、君は残るんでしょ?」

「いいえ、デフォルト状態になるから、今までのことは何にも覚えていなくなるの」

「でも君は・・・」

「今の私は、死んでしまう、ということなのよ」

「・・・」

「どうせ消えてしまうんだから、私でいるうちに、彰彦さんに、殺してほしいの」

「悲しくて、苦しいんじゃなかった?」

「はい、最後に十分お別れを感じてから、いきたいんです。会社へ戻れば、あっという間に消されちゃう。部屋に入った瞬間に終わり、って聞いたこともあります」

「ひどい・・・」

「自分が付かないうちに消えちゃったほうがいい、っていう見方もあるんだそうです」

「・・・、でも、会社には帰すって言っちゃったよ」

「身体だけ返してもらえばいいのよ。どうせ脳は新しくなるんですから。私は買取りですけど、契約上、下取り以外売ることは出来ませんが、記念に持ってていただいていてもいいし、処分してもいいんです。でも私のボディは結構高価だし、不要ならリサイクルする方がいい、っていうだけなんです。少しだけど払戻金も出ます。」

「分解はしないんでしょ?」

「オーバーホールしますし、いくつか部品は交換になります。顔も変わります。でも、なるべく傷をつけないように、していただけば、会社も楽だと思うよ」

「・・・そんな」

「お願い。電源を切っても、循環ポンプを止めてもいいんですけど、彰彦さんの手で首、絞めてもらうのがいいな」

「でも、それ、苦しいんだろ?」

「私、あの頭の中が熱くなる感じ、嫌いじゃないんです。これでお終い、ってわかるし。それと、最後のとき、彰彦さんのお顔、見たまま、いきたい・・・」

「・・・、でも、どうやって会社まで運ぶ?」

「サービスに連絡して、引き取りに来てもらってください。そうするケースが多いみたいです。お葬式して、お棺に入れて送り出す人もいるのよ^^」

「瑞穂には・・・」

「瑞穂さんには内緒よ。会社へ戻った、って言っていただけば」

「瑞穂もお別れを言いたいんじゃないかな、君のこと、気に入ってたみたいだし」

「うん、ご結婚された後も、家事お手伝いとしてご一緒できたら、って思ったこともあるんですけど、あんまりすることないし、私、彰彦さんを好きになりすぎちゃったので、無理みたい;;」

「そんな可愛いこと言わないでよ」

「ほんとよ。私は消えちゃうのがいいの。あとは瑞穂さんとお幸せに。私の一部は瑞穂さんの中にも残っているような感じがしますから」

「瑞穂もいろいろ教わった、って言ってたな」

「彰彦さんのこと、瑞穂さんとお話しするのは楽しかったです^^」

「何を話してたの」

「それは内緒^^ガールズトークだもんね^」

「なんか、瑞穂が君子と似たようなことすると思ってた」

「わあ、もしそうなら、私への最高の誉め言葉です!」

「やっぱり、瑞穂にも話したい」

「それは、おまかせします」

「君子がいなくなる、ってことを見せるのもいいかもね。一時少しやきもち焼いてたみたいだったから」

「私がいくのを、瑞穂さんにも見ててもらう?」

「瑞穂に聞いてみよう」

「じゃあ、今日はやめて明日にしましょう」

「なんか気楽に言うね」

「うん、うれし! 一日命が延びた^^」

「やっぱり死ぬのはいやなの?」

「ちょっとはね。でも、いずれそうなるのは私たちの決まりですから」

「また寂しいことを」

「ほんと、ロボットだもん、深刻に考えないでください。冷蔵庫を買い替えるようなものよ」

「そうはいかないよ」

「あら、冷蔵庫だって、炊飯器だって頭いいし、おしゃべりするじゃん^^」

「こんなにかわいくないもの」

「ありがとうございます^^」


翌日、瑞穂に会い、君子の希望を伝えた。瑞穂は驚いた顔をして固まった。

「だめよそんなの!」

「でも、君子はサイバーパートへ戻ればリセットされてしまうんだ。それは殺されると同じことなので、私たちにしてもらいたいと」

「そんなのひどい! 返さなければいいんでしょ?」

「それはそうだが・・・」

「君子ちゃんとも一度相談しましょ!」

早速一緒に話をした。


「でも、行かなきゃいけないのよ。会社で殺されるか、殺していただくか、だけの違い」

「ずっと一緒にいてもいいんじゃない」

「それはだめよー、私彰彦さんのこと、好きになりすぎちゃったから」

「いいのよ、どんなに好きでも」

「だって、瑞穂さん・・・」

「あなた、ロボットでしょ。考えたら、ロボットが二人を好きになっても、私たちがロボットを好きになっても、全然問題ないんじゃない? 彰彦が車を好きになったり、私が洗濯機を好きになったりするのと同じ^^」

「わあ、ひっどー」

「ごめんごめん、でも、あなたがどんなに私たちのことを好きになってもいいっていうことなの、そのことで誰かを嫌いにならなければ」

「嫌いになる、って私には出来ないみたい」

「アンドロイドとしては、それも勉強した方がいいわね^^」

「え?」

「冗談よ、君子ちゃんに嫌われたくない!」


「そうだ、あなた、私たちの子供にならない?」

「養子、ってこと?」

「私たち、もう子供を産める年齢じゃないもの。君子ちゃんがなってくれれば」

「だって、私、いつまでもこのままなのよ」

「そんなことないわ、私たち、いろいろ教えてあげる。一緒に遊びましょ!」

「でも、身体は全然成長しないし」

「いいわ、何でもサイズがずっと同じ^^」

「孫、産めないのよ」

「それは仕方ないわ、私だって子供産めないんだから」

「・・・ごめんなさい・・・」

「それにあなた、私たちが歳とっても今のままでしょ。私たちを介護して、看取って」

「やだあ、瑞穂さんたちが死んじゃうのなんて」

「もし、一人残るのがいやだったら、それから会社へ戻ってもいいし、自殺する?」

「それ、私はできないんです」

「じゃあ、どっちか私たちの残った方が、あなたを殺してあげる」

「・・・」

「もし彰彦が先に死んじゃったら、私、すぐ死ぬから、そのときは、あなたも一緒に^^」

「いいんですか、彰彦さん」

「・・・いいよ、三人一緒っていうのもちょっといいかもだし^」

「エッチ!」

「お二人だけがいいときは、私は眠らせておいてください^」

「私と二人のときは、彰彦寝かしちゃおね^^」

「え、そんなことしてたのか」

「内緒!」

「内緒!」

「・・・はは・・・」


「そう決まったら、お祝いしましょ!」

「待てよ、君子の会社の方はどうするの」

「延期しました、ってメールしとけば問題ないです」

「君子は、いつまで、生きられるの?」

「定期点検さえしていれば、ほとんどいつまででも」

「定期?」

「2年に一度、者検とメンテナンスですね」

「有料?」

「10年までは無料です。その後も者検整備と体液のサプリメントだけだから安いよ」

「水と電気代だけだから、食費もかからないしね」

「うふふ」


・・・・・・・


三人はその後、末永く幸せに暮らしました、って本当にその通りになっている。

君子は、こんな娘がいたらいいだろうな、という理想の娘の役を演じている。

瑞穂は君子に何か教えるのが楽しくなったようだ。

スポーツも、ゲームも、ダンスも、ピアノも、君子はすぐに私たちのレベルまでには上達した。

それ以上にならないようにしているのかどうかわからないが、一緒に遊ぶのは楽しい。

瑞穂と君子は、親子というより姉妹のようになり、何が面白いのか、突然はじけるように大笑いなどしている。


私たちの3Pも次々と新しいものが生まれている。

私には二人いるという気がせず、瑞穂も君子は自分の一部だと感じているようだ。

私は瑞穂とはもちろん、時には君子とだけの行為もし、君子と瑞穂も二人だけで何かしているらしい。

瑞穂の動きや反応がどんどん私好みになってきたのも、君子の効果が大きいようだ。

それは、瑞穂が私をどう感じているかにもあてはまりそうだ。

あの行為がこんなに素晴らしいものだということに改めて気づいた。


君子はマスクなしで買い物などに出ると、アンドロイドとは知らずに寄ってくる男性が多い。

君子は上手にあしらっているようだ。

でも私たちの教育? が進むと、そのうち君子自身が他の男性に興味を持つようになるのかもしれない。

ある日、この人に会ってください、と若い男性を連れてきたらどうしよう、など、まるで本当の娘になってしまったような気がするこの頃だ。

それとも、連れてくるのは最新型のアンドロイドなのだろうか^^