クロヌリ

小林ひろき

「この作品は第1回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト https://www.pixiv.net/novel/contest/sanacon の共通文章から創作したものです。」



朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。

つづけて解説者が話す。

「 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■ 」

「この帯域もインクズに食われた」と七瀬司令官は言った。言葉すらも飲まれた。情報は消えた。インクズは怪物である。

「司令官、いま我々の取るべき行動はなんですか」

とオペレーターの八千矛。

「待つ、ことしかない。いや待てるのは幸運だ」

七瀬はじっと船外を見た。七瀬は沈黙する。


事の発端を話さなければなるまい。

世界の果て。六道境界リクドウ・ホライズンが見つかって十五年。世界は十二個存在することが分かり、六道境界から流れ出す様々な電波から人々は情報を共有し、文明を発展させていった。

文明の発展の功労者、孫美名は境界のかなたの情報翻訳者だった。翻訳機から流れてくる音楽にも似た情報を解読している最中――。

「闇が、闇が下りてくる」

彼女は気を失った。そのまま彼女は死んだ。

すぐさま彼女の脳を切り開き、電極を差し、彼女の最後に見た景色が再現された。

見えたのは闇だ。闇が広がり、落ちていく。

VRによる仮想現実によって再現された「闇」によって三人のオペレーターが病院送りになった。

闇は現在ではインクズと呼ばれている。彼らは情報を食い荒らす害虫だ。今では諸世界の基盤である情報ネットワークまで被害にあっている。

いま世界の終わりを迎えようとしている第九の世界は、インクズによって消失した。

七瀬たちは六道境界を前にして世界の終わりを苦々しく眺めている。

彼らにできたのはブラックホール・デバイスに消えゆく世界を記録していくだけであった。世界にいた人間、動物、文明、自然。全てを記録し終えると七瀬はため息をつく。

インクズによって消失した世界は十一。もう後がない。

七瀬はブラックホール・デバイスを介して各世界の指導者と議論を交わす。 

「インクズによって世界は恐怖にさらされている」

「いま、あいつらを滅ぼさなければ、我々が滅亡する」

「わかっています。けれど彼らの弱点はなんでしょう」

第五の世界の指導者、アリスはじっと七瀬を見た。

「これまでのインクズの侵攻は情報を食べることにあったはず。彼らが世界を滅ぼすならばそれでいいでしょう」

「え?」

アリスは態度を崩さない。

「世界が滅ぶ前に六道境界を閉じ、インクズもろとも滅ぼしてしまいましょう」

六道境界を閉じる前代未聞の作戦が始まった。そもそも、もうすでに世界は保存と統合がなされている。境界を閉じることに異論を唱えるものはいなかった。

六道境界は世界がひとつ上の次元に織り込まれて格納されている。格納された世界の裂け目からインクズは来るのだ。なかの構造が四方八方に裂けているため、彼らは侵攻する。

裂け目はマイナスの引力を与えると閉じることが理論的に証明されている。七瀬たちは宇宙船に乗り、高密度のダークエネルギーを放射し、六道境界を閉じようとしていた。

オペレーターの八千矛が状況を観察している。

「七瀬さん、六〇分後には私達もこの肉体から情報へと移行しなければなりませんね」

「この作戦がうまく行けば、だな。もうじき世界の終わりを告げるニュースが始まる」

「え? モニターにつなげます」

「なんだ?」

インクズの襲来だった。

「情報消失率八〇パーセント。止まりません」

八千矛は悲鳴を上げた。

「このままでは、我々も■■■■■■■■■■■■■■■■」

「七瀬さん!」

彼の身体はインクズに食われていった。


雑音が整理され、調べとなっていく。

「八千矛! 八千矛!」

誰かが叫んでいる。

「七瀬さん。一体私達はどうなっているのですか?」

「インクズに食われたはず、だった」

「身体はなんともないです」

二人はお互いの身体を観察し合った。何も変化はなかった。

「六道境界は?」

「私もそう思っていたところです」

七瀬は六道境界を眺める。ぽっかりと開いている境界が見えた。

「作戦は失敗した」

「そのようですね」

「世界は終わった」

「誰も責めやしないです」

「待て、世界は終わったなら、なぜ俺たちは無事なんだ?」

「それは……」

八千矛は考えた。手元のブラックホール・デバイスを開く。

「こちら、八千矛。作戦失敗しました」

「繋がるか?」

「いいえ」


世界が終わるとき、二人の意識はインクズに飲み込まれた。インクズは二人を媒介にして、ブラックホール・デバイス内に侵入する。あらゆる生命の情報を食べながらインクズはヒトの意識を理解した。

そしてインクズはヒトと共生する方法として意識内に入り込んだ。

例えば、物語の終わりのなかにひっそりと■。