ドクター松ヶ戸の科学恐怖夜話 リサイクル?

稲葉小僧

今日も今日とて、孤高の天才科学者、松ヶ戸際江洲(まつがとさいえす)博士。

得体の知れぬ実験を始めようとしていた。


「助手よ。今回は、人体の究極リサイクル実験じゃ。儂の開発した「損傷部位入れ替え薬」で、四肢損傷した重傷者に、死体から、キレイな部位を移植……いや、入換という方が良いか? を行うための薬液が、どこまで通用するかの実験じゃ」


助手は、今更ながらのタメ息をもらし、


「博士、そのうち神仏のバチが当たりますよ。どうせ、お国の偉い人たちの認証は取ってるんでしょうが、毎回毎回、命を何だと思ってるんでしょうかね、この人は」


松ヶ戸博士は、フンと鼻息も荒く、


「命がなんじゃと? 今は、計算機の進化型であるコンピュータまで独自意識を持っとる時代じゃぞ。人間は、思考できる生物の一つじゃろうが。ブツブツ言っとらんで、仕事をせんか!」


「分かりました、博士。死者の肉体への薬液は、十分に染み込みました。移植手術、いえ、交換手術を行う準備はできてます」


「分かった……聞いたな? 黒医師よ。お前さんの出番じゃ。さすがの儂も、医学博士の資格は持っていても、医師免許は持っておらん。お前さんだけが頼りじゃ」


スピーカーから、隣室にいると思われる人物の声が聞こえる。


「了解だ、松ヶ戸博士。複雑骨折の患者、内臓疾患の患者と二種類の患者との部位交換手術に着手する……術式、開始だ」


それからは、血圧の定期報告と、黒医師の看護師への指令と、あとは機械音くらいしか聞こえてこない。

しばらくして(約2時間後)


「部位交換手術、終了。後は24時間、様子を見る事を勧める。手術後、それで異常が見られなければ、この薬液は人類に途轍もない効果をもたらすだろうな」


松ヶ戸博士、答えて曰く、


「うむ、分かった。報告とレポート、学会への提出は、それ以降としよう」


数日後(さすがに24時間では早すぎると思われたようで、政府の上の方から数日は様子を見ろとお達しがあった)


「助手よ、見事に成功したぞ! どうじゃ、儂の開発した、部位入替薬の効果は!」


「あのー、博士? ひとつ聞きたいのですが、良いですか?」


「何でも聞けば良いではないか、儂は今、気分が良い」


「あの薬液って、入替って名付けられてますよね。例えば、入替た後に、入替った部位の片方が無くなったら、どうなるんです?」


「あれは、薬液とは名付けとるが、実際には接合場所を替えとるだけじゃからな。片方が損傷したら、もう片方にも影響があるぞい」


とたんに、助手の顔色が悪くなる。


「えーっと……博士? お分かりかも知れませんが、この国では死体は全て焼却処理されます。死体が焼かれるということは、その接合場所にも高温が……」


ギャーッ! 

世も末かと思うような悲鳴が、病床の一室から上がる。

そこは、手術を受けた患者の二人が収容されているはず。


「あ、死んだ後のことなど考えておらんかった……まあ、科学の進歩に犠牲はつきものじゃて。この薬液は、もう少し改善しないといかんな。あるいは、死体の方はホルマリン漬けにするとか」


ホルマリンは、それはそれで問題ありそうだと、助手は思ったが、口には出さなかった……