深夜の高速道

稲葉小僧

俺は今、深夜の高速道路を車で走っている。

客先へ行くのに、ちょうど都合が良かったので自家用車で向かったため、帰りは少々遅くなったが直帰にしてもらった。


はぁ……

言いたかないが、これって上司のミスだよなぁ、どう考えてもさ。

上司から**ってお客様のところへ向かえという指示だけ受けてナビに目的地を入力。

ナビが目的地じゃない場所へ誘導することもなく、すんなりと客先へ。

だが、それからが……


客先が激怒しているのは理解できるんだが、どう考えても俺の担当ではない。

誰がやらかしたのか分からないので、とりあえずは客先の言い分を聞く。

30分も話してた(怒鳴ってた)だろうか、話疲れて黙ってしまったため、こっちから口を開く。


「お怒りは、ごもっとも。とりあえず、私はこの話を上司に伝えます。御社の担当は、どうなっていますでしょうか?」


それで俺が担当じゃないと気づいたようで。


君が悪いわけじゃない、そういうことなんだが、君んところの****君が無茶なことばかり言うんだよ……


などと逆に謝られる始末。

こちらも下手に出て、


「お気持ちは十分に理解しました。では、正式に、こちらの落ち度ということで案件とさせていただきます。担当には、そちらのお怒りは伝えておきますので」


俺が終始冷静だったのが変に気に入られたようで、では帰りますという俺を、まあまあと引き止めるお客様。

車で来ているため、さすがに酒の席には付き合えなかったが、夕食を一緒にとまで言われて機嫌を損ねるわけにもいかず、ずるずると、この時間。


帰りに2時間……

家まで遠いなぁ……


日付も変わり、午前二時。

丑三つ時ってやつか……

などと思っていたら電光表示版に「この先、事故にて通行止め」などと表示が。

仕方がない、一旦降りて下道で家まで。

深夜だから混雑などはしてないので、なんとか1時間と少しくらいで帰れるかな? 


下道で走行中、なぜか交差点の信号で止まる止まる。

まあ、イライラしても仕方がない。

俺はミントガムを噛み、頭をスッキリさせようとする。

あれ? 

おかしいな? 

ミントじゃ軽いか? 

では刺激が強すぎて眠気が吹き飛ぶというミントタブ! 


ふう、何とか眠気は追い払った。

口の中が痛いほどに、刺激が強いものだけに、そうそう一日に何度も食べるものじゃない。

幸い信号で止まりまくるため一般道で爆走ということにならない。


走っていると道沿いに深夜までやってる定食屋が。

客先との食事なんて量を食べられないんで、こういう店は助かる。

俺は、その定食屋へ入る。


店員は一人しか見当たらずセキュリティ的に問題あるなと仕事モードに一瞬入るが、そこはそれ。

基本の定食に、冷奴と豚汁、そして納豆。

焼き魚に、これだけあれば満腹に……

あれ? 

食った気がしないぞ? 

店員に白飯のお代わりを頼み、大盛りにしてもらう。

食べる……

腹に入った気がしない。

不思議なこともあるもんだと、その店を出る。


カーラジオを付けて音楽かニュースを……

な、何だ? 

AM、FM、どちらにしても何の放送もやってない。


俺は国道から少し横道へ逸れたところで、カーラジオのスイッチを入れ直す。


サー……

という雑音の中、選曲ダイヤルを回していくと……

ようやく、フェージングを伴いながらも、しっかりと聞こえてくる放送を見つける。

しかし、こんな周波数あるのか? 

放送帯のギリギリだぞ? 

普通なら、こんな周波数は避けるんだがなぁ……


「……ぁあ、今入りましたニュースです。午前一時半少し前、***高速道路で単独車両による死亡事故が発生しました。幸いにも死亡者は一人だけで他の車両を巻き込むとか無かったようです。しかし、不思議なんですよね、この事故。工事中って表示が出てるにも関わらず、それも無視するかのごとくノーブレーキでロードローラーへ突っ込んだというんですよ。もちろん乗用車は形も無いほどにクラッシュ。死亡者の名は……」


ん? 

俺の名前、言ってなかったか? 

まあ、とりあえず家に帰ろう。


なんのかんので、それから一時間近くかかって、夜も明けようって時間に帰り着く。

俺は、わけも分からず家に入る……


家では俺の葬式をやってた。

俺は自分の遺影を見ながら途方にくれる。


「あいつもなぁ……疲れてるのなら無理しなきゃ良かったんだ。居眠り運転で即死状態だったらしいな……馬鹿野郎が」


親戚の叔父さんが俺の横で喋ってる。

俺を見てないようで……


あ、そうか。

俺、死んだんだ。

妙に納得しながら俺は自分の姿が見えなくなるのを感じていた。