ラジオ 予告
稲葉小僧
夜明け前に、ラジオの電源を入れると……
「今日の死者予定は3名。&&さん、$$さん、**さんとなりました。該当の方は、悔いを残すことのないように残りの数時間を生きてください……」
後は、サー……という雑音だけ。
放送停止時間になったらしい。
え?
今、俺の名前も言ってた。
**とは、俺の名前だ。
もしかして、名字の違う別のやつかも知れないが、それでも十分に気をつけて今日を過ごすことにしよう。
俺は、なんとも言えない気持ちを抱えながら今日という一日を過ごす。
仕事から帰ると、俺は真っ先にラジオの電源を入れる。
普通にニュースやら雑談やら、音楽やらの番組が聞こえる。
あの、死者予定というのは何だったのか?
あんな放送があるなんて、今まで俺は聞いたことがない。
ちなみに、俺はラジオ派である。
ろくでもない映像付きのテレビなど、ゴミ箱にでも捨ててやったほうが良いと思う。
声や音楽のみのメディアを通して、自分の想像力を存分に広げられるメディア、ラジオ。
これが大好きで、子供の頃、学生時代、社会人になってからもラジオ中心に生活をしている。
もちろん、災害報道や中継などでは助かっているが、そうでない場合、多くの人たちに無視されがちなメディアがラジオであるのも確か。
俺は小さい頃からラジオへハガキやメールを書き、少しは番組内で読まれたりもしていた。
その俺が、聞いたことがない死者予定の実名報道。
いや、報道でもないな、あれは。
ただ単に、死者の実名を読んだだけ。
さて、今日も、後数秒で終わる。
あの言葉が事実か、そうではないのか、数秒後に分かる。
数秒経過。
日にちが変わった。
俺は、まだ生きている。
ラジオが気になったので、電源を消さないまま、ベッドへ入る。
まあ、同名で性の違う奴の読み上げだったんだろう……
と、ウトウトしていたら、ラジオから突然に。
「死亡予定の**さん、あと数秒の命です。悔いはありませんか? では、良い死に際を」
え?
と眼を開けた俺の視界には、デカイ鎌をかかげた真っ黒い衣装の人間型の……
あ、しにが……
「本日、26時59分、死亡予定でした**さんが、お亡くなりになりました。それでは皆様、今日も死に怯えながら、生の喜びを満喫してください。この番組は、地獄の提供で、お送りいたしました」
それ以後、このラジオが何かの音を鳴らすことは無かったという……