うわさの検証をしにいったら
稲葉小僧
「ちょっと、この場所で良かったの?」
ここは、市内で噂になってる昔々の廃寺跡。
千年以上も前に廃寺になっているため、幽霊とかそういうものが昔はいたとしても、もう跡形も残ってはいないだろう。
俺達は、古くからの友人たちと計画を練り、様々な用意をして、今日、この「丑三つ時」と言われていた時間に、この場所、廃寺跡にある、ことさらに怪奇現象が頻発して目撃されているという本堂跡に来ていた。
「ああ、ここで良かったはずだ。最古だと思われるここいらへんの古地図に当たってみたんだが、ここには昔々、相当に立派な寺が建っていたそうだ。それが飛鳥の天皇家の跡目争いが飛び火して、土地の豪族たちを巻き込み、とうとう、このお寺まで戦火に巻き込まれてしまったんだと。昔の話だから攻めてきたのは土地神を信じる連中だろうけど、相手にしてみりゃ邪宗門だよな……徹底的に僧侶たちを惨殺して、豪奢だった寺に火を放ち、とうとう大きな寺が焼け落ちたんだそうだ。その後、何度も建て直ししようとしたんだが、その度に不幸なことや事故・事件が起きて、そのまま建て直す話も消えちゃったんだとさ」
そう言いながら、俺は用意してきた大容量の動画レコーダーを設置していく。
こいつの性能は、センサーで何か動くものを感知すると、そこから3分間、自動的に録画を開始するというもの。
大容量だけに、理論的には丸々一週間分くらいの動画が録れるようで、そのへんのナイトビジョンカメラなんて足蹴にするくらいの夜間録画性能も持ってる。
俺の知人で、霊能者だという触れ込みで仲間に入ってきた裕子が、肌寒いようで手足をさすりながら、
「ふーん……でもさ、怨霊とかお寺の関係者の霊とかじゃ無いんじゃないかしら?」
と聞いてくる。
え?
俺は、てっきり、その関係だと思ってたので、
「意外だな、そりゃ。廃寺の関係者でなきゃ、どんな奴だって言うんだ?」
「分からないわよ、そんなこと。廃寺になってから、もう1000年よ、1000年! そんなに恨みつらみが維持できるかしらね?」
「じゃあ、どんな奴だと思う? 自称でも霊能者の意見、お聞きしたいね」
「あくまで、自称・霊能者の意見としてだけど(笑)そうねぇ……土地神だとか、怨霊とかの類いじゃなさそうよ……ゴメン、そこまでしか分かんない」
すまなそうに口を濁す裕子。
こいつ、自称ではなく、それなりに霊力があるんじゃないか?
あちこちに、友人たちが持ってきた動画カメラや通常のカメラ、そして、どこから持ってきたのか、センサー対応の高速度撮影カメラまで設置される。
「さて、カメラ類の設置は完了したな。リモコン動作もテストしたし、あとは明日の朝以降、何が写ってるか楽しみだ」
ということで、俺達は現場を撤収し、セキュリティ用監視カメラを少し離れた場所に設置して、近くのコンビニへ戻る。
明日の集合時間と集合場所(このコンビニ)を打ち合わせして、俺と裕子、そして2人の女性ともども、近くのビジネスホテルへ(俺は一人部屋だよ、もちろん)
ホテルで何か遭ったわけじゃなく、気分良く起床した俺達は、予定した時間にコンビニに集合、そして現場へ行ってカメラ類の回収を行う。
少し画像や動画のチェックをしたが、動作不良もしてないのは確認済み。
俺達怪奇現象研究サークルの集合場所になってる俺の家(一軒家で独身ぐらし……さ、寂しくなんかないやい! )に皆が集まり、画像や動画の検証とチェックを行う。
ほとんどは、鳥や猪、猿の集団を撮ったものばかり……
しかし、俺がさるところから借りてきた夜間撮影用の動画カメラと、意外にもセキュリティ用動画カメラに、その動画と画像が記録されていた。
「なあ、コレなんだろうな?」
セキュリティ用動画カメラをチェックしていたやつが、素っ頓狂な声を上げる。
そいつは、怪奇現象にも懐疑主義な味方をするやつで、そいつがこんなふうに言うのは初めてだ。
なんだ? どうした?
という、チェック終了した暇なやつが、そいつのところへ集まって、
「ん? 何だ、この集団。ナイトビジョンで遠くから撮ってるから服の色や男女も分からんが、こんな奴らが夜中に集合してたら、朝、俺達が撤収する時に足跡くらい残ってるはずなんだがな?」
という説明口調。
ちなみに、他のカメラには何も写っていなくて……
あ、違った。
「おい、メインで設置してた夜間用特殊動画カメラに、その団体みたいなやつが映ってるぞ!」
俺の声で、皆が集まってくる。
俺は、それが映ってるファイルを簡単に編集し、その部分(20分ほどだろうか)をPCにコピーする。
「さて、本格編集する前に、少し全体を流してみるか……」
ぶつ切りになっているファイルを編集前に流し見るのは苦労した。
これは、編集後に、見やすい形で編集したものだ……
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「ん? これは、この世界のカメラか? 我々のところと違って、動画も大丈夫なのか……進んでいるな、こっちは……」
センサーから外れたらしく、その男? は画面から消え、数分後に画像も消える。
その次のファイル。
「センサーのようなものと同期しているのか、すごいな、こっちの世界は。欲しいが、こっちの世界の物は持っていけないのが残念だ。どういう構造になっているのか?」
またセンサーからは外れたようで、数分後に切れる。
その次のファイル。
「この位置でないと長く動作できないようだな、分かった……面白いものを見せてもらったので、こちらも返そうか。私はサン! ”#$%&’()(ガリガリと雑音ひどい)と言う。時空の旅人である。ここに、偶然だろうが扉が開き、短時間だが、久々に現実世界に戻ってきた……」
動作時間になったようで、また切れる。
次のファイル。
「時限タイマーでもあるのか? 一度、センサーの範囲を逃れて、または入り直さねばならんとはな、面倒じゃ。警告じゃ、どこかの誰かへ。今すぐではないが、この世界にも破滅が迫っておる……異界より現れるものたちが、この現実世界を蹂躙するだろう……そのものたちには通常の剣や銃、大砲も通じないぞ。用心しろ……ゆめゆめ、忘れるなかれ……お、また時空の扉が……」
突如、喋っている者と、その周りの者たちは白い霧のようなものに包まれ、数秒後には跡形もなく消える。
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これだけだ。
俺達は、これを発表すべきかどうか議論した。
とりあえず、発表したら世界がひっくり返るか、それとも無視されるか、どっちかだということになり、発表は諦める。
ファイルは、ここにいる人数分、コピーして一人づつ渡す。
発表するかどうか、各人の判断に任せることにする。
今は、あれから数年後……
世の中は荒れ放題、各国は内戦か隣国との戦争状態にある国ばかり。
異界より侵略者があっても、侵略者に同盟持ちかけるような国がありそうで、俺はそれが一番怖かったりする……