転生

稲葉小僧


「ねえ、ジュン。この廃墟物件、何か、とても嫌な気がするのよ。やっぱり、中に入るのやめない?」


あたし、たつ美。

今日はホラーが好きな、ジュン、ひろしと一緒に廃墟訪問に来ている。


「何だよ、たつ美。お前だって賛成したじゃん。な? ひろし」


「うん、僕も聞いたよ。たつ美ちゃん、思いっきりはしゃいでたじゃないか」


そう、あたしもノリノリで賛成したの。

でも、こんな時間に来るなんて聞いてない! 


「で、でもさ。こんな時間に来るのは、違うと思わない?」


今は午前二時。


「なんでだよ。丑三つ時が一番幽霊とか出る時間帯じゃんか。さあ、入ろうぜ!」


ということで、あたしは無理やり手を引っ張られて、その深夜の廃墟へと入ることとなった……


「おかしいな? 別に壁や天井が汚れてるだけで何も出る気配すら無いぞ……ひろし、そっちはどうだ?」


「うん、僕も何も感じないよ。たつ美……ちょっと?! たつ美? どうしたんだよ?! たつ美!」


あたしは二人の事など頭になかった。

その声は、あたしにだけ聞こえているようで……


「たつ美、ようやく来てくれたのね。ああ、死ぬ前のアタシと生まれ変わった、あたし。魂が2つに別れたアタシ達が今こそ一つになるの!」


その後、あたしは気を失ったようで……

気づいたら、ジュンとひろしがアタシの顔を覗き込んでた。


「ようやく気がついたか、たつ美。ひろしも心配してるぞ。大丈夫?」


そうか、ようやく、あたしは一つになれたのか……


「大丈夫よ、二人共。アタシ、私は大丈夫よ。生まれ変わったような気分だわ。あー、晴れ晴れとした気持ちよ! ファンタジーでいう転生って、こんな感じなのかしらね」


驚きすぎて呆れ返った二人の顔を見て、私(アタシ、あたし)は笑顔を向ける。

私の新しい人生、今から始まるんだ。