ヤング楠見1
稲葉小僧
今回、楠見は珍妙な仕事をする派遣先へと……
「楠見くん、早速、新しい仕事なんだがね」
所長が、にやりと笑顔になりながら、俺に言う。
ここまで、俺がやってきた派遣仕事は、
本当に今の時代の仕事内容か?!
と言いたくなるほどの激務と、
新人を派遣させるには難易度が高すぎるだろが!
と愚痴を言いたくなるほどの内容だった。
「所長、その顔半分で笑うのは、やめてくれませんか。目が笑ってないから恐怖ですよ」
帰ってきた時くらい精神的に追い詰められたくないんだよなー。
「何を言ってるのかね? 君が新人ながらも凄い評価を得て帰ってくるんだから、うちの会社は笑いが止まらんのだよ」
はいはい、俺の報酬を相手企業にはベテランランクにしておきながら俺自身には新人ランクの給与しか手渡さないのは知ってますって(派遣先から言われたんだよ。うちに乗り換えてくれたら今の報酬の3割増しだって。具体的な金額も言われたけど、この会社に入るについちゃ某政府権限の資格関係もあるので勝手に所属を変えられないんだよねー、残念ながら)
「で? 次はどこへ飛ばされるんです? どこだって行きますよ……まあ、新人ですから火星や木星は無理でしょうが」
そう言ったら意外そうに所長が、
「私は君の腕なら地球以外でも成果は挙げられると思ってるんだがね。まあ、こればっかりは実績を積み上げていくしか無い業界だから、しばらくは我慢してくれ」
一息おいて、
「次の仕事なんだが、こりゃ、ちょいと今までとは違う、かなり変わった業種でね。私は、君ができない業種とは思ってないんだが……まあ、とりあえず依頼書類を見てくれないか。受けるか受けないか、そりゃ、いつもの通り、君が判断してくれ」
おや? いつもは強引な所長が今回は下手に出てる。
……さて、どんな業種の、どんな仕事なんだろうか……
うーむ……やってできないことはないと思うんだが……
「所長、一つだけ質問が。これ、明らかに僕向きの仕事じゃないですよね。誰かに指名で来たけれど、その人の手が明かないから仕方無しに僕に回した感じがするんですけど……」
ジト目で所長を見る。
「あ、その目はやめてくれないか、楠見くん。精神的に圧迫感を感じるんだ。まぁ……しょうがないな、楠見くん、正解だ。こりゃ、君の先輩の一人に来た指名派遣なんだが、その当人の仕事が長引いてしまってね。どうしても都合がつかないんだよ。で、先方に、まことに申し訳ありませんが指名していただいた当人は、今、現場を離れられません、つきましては別の人間なら手が空いていますが……と、手の空いてる人間のリストを渡したら、先方から、それじゃ、この人にお願いします……って、君がご指名受けたってことなんだよ」
え? 指名派遣を依頼してきたのに、その人に変わって僕でも良いって?!
こんな新人、使えると思わないでしょうが、普通は。
「所長、本当の話ですか? だいたい、僕は派遣社員として登録されてますが、まだ数社しか仕事してないんですよ。それも、この依頼は専門違いに近いような職種だし。僕が行っても相手に迷惑かけそうなんですけど?」
「うーん……こっちも先方とは、そういう話をしたんだけどね。指名した本人以外なら、どうしても楠見くんが次善だと言いはるんだよ、向こうの担当者が。受ける方向で考えてくれないかなぁ……報酬は色つけるよ、今回は今までの職種とは違うから、その分、難しくなるのは確実だからさ」
うわぁ、難しいって言っちゃったよ、ついに。
本音だろうなぁ、所長の……
「分かりました……難しいとは思いますが、なにせ新人ですので、新しいことにも挑戦したいと思います。この仕事、受けさせてください」
ああ、言っちゃった。自分でも、こういう新しもの好きな性格、直さなきゃとは思ってるんだけどね……
「了解! じゃ、楠見くん、頑張ってね。そこに書いてある通り、期間は最低3ヶ月、延長有りで最大一年。内容は……」
最後の方、所長の言うことを聞いておけばなぁ……と、僕は後悔してる。
あれ、仕事内容と勤務地を話してたんだよな、確か。
僕は今、日本エリアの最南端にいる。
沖縄?
違う、さらに、その南だ。
火山活動により、日本エリアの最南端が広がったんだが、その活動が落ち着いてきたってことでの、火山島調査団が組織された。
僕は今、その調査団の一員として、空気も、島全体の土地も熱い、できたてホヤホヤの火山島にいる。
談抜きで、熱帯の端っこにいる感じ。
一日一回、スコールでずぶ濡れになり、それ以外は干からびそうな、草木も生えてない島。
ようやく、海鳥たちの休憩所になれるまで島の温度が下がってきたところだね、こりゃ。
あ、肝心なことを話してないな。
場違いに近い、派遣社員である僕が、こんな学術調査に近い無人島調査に加わってるわけを。
それは、この火山島で、思いがけない(というか、普通に考えたら発見されるべきものじゃない)発見があったからだ……
「おーい、楠見くん。ちょっと来てくれないか、ここの地点を掘りたいんだ」
「あ、はーい! わっかりましたぁ! ミニドリルセット、もっていきまーす!」
小型のバックホー取扱免許をとっていたおかげで、先輩の代わりにご指名されたんだとさ(指名された理由が分からなかったんだが、調査団リーダーの教授から聞いて納得)
この掘削機は、バラバラのパーツに分解できるんだが、こいつを分解・組み立てできる人間が調査団には一人もいないってことで、うちの会社に派遣依頼が入ったらしい。
資格ってのは、とっておくもんだね。
どこに、どんな依頼があるか分かったもんじゃないよ。
「よっと……教授、このポイントで良いですか?」
「もう少し上……もう少し右へ……良いだろう。このポイントを中心に、半径5mばかし掘ってくれないかね。深さは1mほどで良いから」
深さ1mで直径10mの穴を掘れってか……学者は指示するだけだから気楽だよね。
現場で作業する者の身になれってんだよなぁ……と、言葉に出さず愚痴を言う僕だった……
ミニドリルセットの作業効率は素晴らしいもので、半日も経たないうちに、ぽっかりとでかくて深い穴が空いていた。
「教授、作業完了です。現場にて確認願います、どうぞ」
僕は、島内で使用される無線セットで教授に作業確認をしてくれるように言う。
「了解した。すぐにそちらへ向かう、どうぞ」
数分後、教授が数人の調査員を連れてきた。
開けた穴と、掘り出した溶岩や土くれを調べていたが、なにやら見つけたようで、一帯を細かく調査するように応援を呼んだ。
「楠見くんは、考古学に興味はあるのかね?」
と、教授に声をかけられる。
「ええ、恐竜や古代生物化石など、面白そうなものが多いですよね。あとは、いわゆるオーパーツも興味ありますけど」
これを言わなきゃ、契約通り3ヶ月で帰れたのにと、後で後悔したが、もう遅かった……