ヤング楠見3

稲葉小僧

古代の棺のように見えるものの発掘は、一応完了した。

まあ、それからが、ひと悶着あったんだが……


棺と一緒に、石版のようなものも複数、発見されたわけなんだが、こいつがひと悶着の原因だったわけ。

理由? 

今まで発掘や発見された言語に、全くと言っていいほどに類似性がないものだったからだ。


「教授? これ、何時の時代の言語だと思います? まあ、それよりも、人類に属する生命体の言語なんでしょうかね?」


俺の疑問は当然のごとく、こいつが埋まってた地層の年代からの推測だ。

棺だけなら、もっと後の文明が海底に埋めたものなんだろうと推測されるんだが、一緒に埋まってた石版類……こいつらが一緒に埋められる理由や方法が分からないから(こんな小さいもの、棺と同じ地層に埋めるには手間がかかりすぎる。今まで海底だった地層に沈めて埋めて……なんて、あまりな手間と人員・時間がかかりすぎるだろ)だ。


「うーん……陸上なら、いくら手間がかかろうが人手も時間も用意できるだろうがなぁ……ここの深度が比較的浅いとは言っても、100m以上の深い海底だった事を考えると、とても初期人類(類人猿? )に可能だったとは思えんのだがなぁ……」


教授以下、発掘調査隊のメンバーの意見も様々だった。

いわく、超古代文明の遺産だったり、古代文明(黄河文明から分かれた初期の文明)の祭祀用遺物? とかいうものや、全くの異文明からの贈り物(タイムカプセルのようなもの)だって意見もあった。

個人的には、タイムカプセルに一票入れたいんだが……まあ、真実は分からずじまい……


こいつを日本エリアの科学省管轄、古代文物博物館へ運ぶこととなった。

棺だとしたら、中身は? 

とか思うだろ、普通。

現地じゃ、あまりに貴重品過ぎて中身の確認は許可されなかったんだよ。

博物館へ運び込み、ありとあらゆる方法で中身を確認することになったんだよ。


発掘作業も終了までいることになり、僕の仕事も最大限の延長となり、丸々一年間の任期となった。

棺の運送作業にまで関わることとなり、あまりに貴重な発掘品の運搬を、あまりに簡単に行おうとする運搬会社に切れる教授を宥めすかし、本土までの輸送・搬入作業にまで、つまり最終作業にまで関わることとなった。


とりあえず、謎は謎として自分の関わる仕事じゃなくなったんで、作業完了の報告を出して終了となった。


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これは、それから100年後の話……楠見が銀河宇宙へ旅立ってから数十年後の話……楠見個人は、この情報を知ることはない。


棺と石版は関係大ありだった。

この棺を残したのは、初期の晴れた宇宙を制覇していた初期の人類型生命体(俗に言う、始祖種族)だった。

石版に描かれた文字、そして棺の中に入っていた物に描かれたモノ(絵も、データらしきものも描かれていた)は意味と音が同期したもの(漢字に近い)であり、少ない文字で多数の意味を表現できる文字だったため、日本エリアでの解析はうってつけだった。


まあしかし、それもこれも、楠見が宇宙船フロンティアを駆って銀河文明に太陽系文明を、これでもかってくらいに売り出してくれたため(宇宙を平和にしただけと楠見は思っているのだろうが、太陽系人類が関わって挙げた成果が凄すぎた)、銀河文明から注目を浴びすぎた太陽系が、銀河文明各勢力からの訪問を受けるのは当然のことだった。


まあ、それはともかく。

銀河文明からの訪問者を迎えた太陽系では、様々な種族や生命体からの使者や大使を迎え入れることとなる。

この使者の中で、地球の古代文明に興味を持ったものが複数いたのが、棺の謎が解明されるキッカケとなった。


棺の中身を説明しているだろうと思われる石版だが、日本語を主とした解読をしても、どうやっても主たる説明が翻訳できない(主語と述語が解明できない。他の語彙は、ほとんど翻訳できていた)ので学芸員も説明し難かったのだが、


「これ、読めますよ」


という、機械生命体の使節の一言が解読を後押しした。

機械生命体は、言語が主人たる始祖種族の言語を数十億年の昔から全く変化せずに使用しており、その言語が石版に彫られていたのだ。


それによると、これに収められているのは転送装置の設計図。

ただし、時間転送を可能とするものではなく、同一時間内での物質転送のみ。

この情報が知れ渡るのに時間はかからず、全銀河に一大ショックをもたらすこととなる。

始祖種族が時間転送移民を行ったとき、その星に痕跡を残すことなど、ほとんど無かったからだ。


転送技術は、銀河系でも、まだまだ理論試験段階で、実用化など考えられない段階の未来技術だった……

ところが! 

地球という未開に近い星に、奇跡に近い始祖種族の遺産が残されている、それも未来技術と考えられていた転送装置の実物の設計図! 


こいつに接続するエネルギー源をどうするのか? 

という問題はあったが(宇宙船の跳躍航法に比べて、要求するエネルギー量が段違いに大きい事は容易に推測できた)完成品の転送装置に在来型のエネルギー炉を接続して転送機能のテストを行うと、小さな質量体なら問題なく転送できた。


後は、新しい大出力エネルギー炉の開発だけ。

銀河を挙げての開発が始まり、ほどなく(それでも100年単位)転送装置を星系内で試験運用することとなる。


それからは、太陽系と銀河系の歴史を読んでもらうと良いだろう。

現在は、アンドロメダを含めた銀河系周辺の数十の銀河において、転送装置の設置、運用が行われている。

宇宙船が使用されているのは、周辺銀河の縁から出発する探査船や貿易船に限った巨大船だけだ。


始祖種族にしたら、旧態依然の技術を残しただけの置土産みたいなものに大変な価値を見出す子孫たちを見たら、苦笑するのじゃないかな? 

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