第4回


(その10)

【エリーEF2263Nの口述筆記によるまとめと復習】

 「小惑星」は そこにあったんですよね。大昔から。
 それをわたしが自分だけのものにしようって考えはじめたのは、そんなに大昔のことではなかったのだけど。
 もちろん、「美々絵JE5825N」には真面目に勤めている「宇宙飛行士の彼」がいるのに、わたしにはろくなのがいないということを、少しつまらないことだとは思っていました。

 だけど、そんなことはもうどうでもいいんじゃないか。
 時にはそう思うんですけど、でもやっぱり、いまつき合っている彼は、ちっとも自分で稼がないし、わたし「エリーEF2263N」はこうやってはじめから職業を決められて生まれてきたというか作られたようなものですから、できないことはできないんです。

 できないなら、しょうがない。
 そう思ってわたしは、「20世紀カフェ」に行きました。
 いまさら20世紀カフェもないんじゃないかって気もするけど、美々絵JE5825Nって今でもああいう店が大好きなんですよ。
 だから、美々絵JE5825Nが寮から消えた時には、いつだってカフェを探せばいいんです。

 あの20世紀カフェの「マスター」って、なんていうのか、ようするに全然つまらない男です。昔、「しくしく泣いていた女性客」に斧だったか槍だったかで襲撃されたとかで、その時の斧だったか槍だったかが、今でもマスターの寝室の壁に飾ってあるというような話でした。

 そうそう、あそこのカフェって、店内がかなり暗いです。
 暗い上に、客があんまりいない。
 お昼前に行くと、「退役軍人のおじいさんたち」のたまり場になっていたりしますけど、若い人は滅多にいないですね、最近は。
 こうしてみると、美々絵JE5825Nって、かなり変わった趣味なのかな。わたしの方が、自分で言うのもなんだけど、ずっといい趣味してると思います。

【田畑耕作の定時報告によるまとめと復習】

 「第八太陽系第四惑星付近を航行中の宇宙船」から発せられたと思われるメッセージらしきものを受信。救助信号とは明らかに異なり、また当社宛の通信でもなさそうなので、応答はせず。以上

(第5回に続く)


「惑星もみの木」のTopページへ