大家の博士が実のところいかなる分野の研究でその学位を得たのか、詳しいことは店子の誰も知らない。だのに誰もが博士と呼ぶのはひとえに博士自身による教育の賜物で、初対面から決して大家さんとは呼ばせてくれない。
「そんな偉そうな呼び方は性に合わなくてな」一見柔和な笑みを浮かべ、「ま、大抵の人は博士と呼んでおるがね」そう偉そうに言うのだった。
口さがない人は冠詞のように「インチキ」をつけて博士と呼んでいる。実際、博士の発明(と称する危険物)が日の目を見たことは一度だってない。少なくとも僕がこのアパートに引っ越してきて以来は。
いつだったかタイムマシンを発明したと言い張ったときは、倫理的な問題とやらでわざとらしく悩んだ挙句、結局あっさりお蔵入りにしてしまったし、またあるときなど人類を操る知的寄生体の存在を確信し、専用の虫下しを開発して自ら服用した結果、一時的に酷い痴呆状態に陥って失踪。多くは語らないがどこか遠くの施設に収容されていたらしい。さすがに懲りたようで、以後家賃滞納者が栄光ある被験者として駆りだされることになるのだが、ああ、僕は仕送りがあってよかったとつくづく思う。
要するに何一つとしてものにならなかったのだ。博士は移り気な性格で、何にでも興味を示し、一つのことをとことんまで修めようとはしない。専門分野などお構いなしの無軌道ぶり。家賃収入で一生食うには困らない身分なので研究にも緊張感が欠け、半ば道楽だったのだろう。広く浅い智識を、本人は現代のダ・ヴィンチとうそぶいてご満悦だったが、なにやら怪しげな実験に取り組み始めたときには皆さすがに眉をひそめた。
「博士、今度はオカルトですってね」郵便受けを覗き込んでいた博士に興味本位で訊いてみた。
「オカルトを低く見るでない。錬金術は西洋科学の……」言いかけて博士は表情を強張らせた。「一体どこからその話を?」
「博士から」
博士は何を莫迦なという顔つきをした。「有り得ない。それにしても知っているのはきみだけだろうね」
「残念ながら」僕は心底そう思っているような口振りで否定した。「余計なお世話かもしれませんが、お酒は控えたほうがいいと思いますよ」
「スパイだ!」博士はわざわざ繰り返して強調した。「スパイの仕業だな!」
「まともな人間はそんな情報欲しがりませんよ。ちゃんとした大学にオカルトの講座なんてあるはずがない。博士の学位だってオカルトの研究で取得したわけじゃないでしょう。一体その成果をどこに発表するつもりなんです?」
「わたしの母校ミスカトニック大学では……」
「そんな大学、聞いたこともありませんね」
「無知を誇るような態度はいただけないな」博士はやんわりとたしなめた。「マッチョ気どりかね。ああん?」
僕は顔を赤らめた。「失礼しました」
「オカルトは見えざる力という意味だ」博士は言った。「科学とオカルトの違いはその定理が解明されているか否かという点でしかない。しかしきみが科学を信奉するのは世間の喧伝に盲目的に従っているだけで、実際に個別の定理を理解しているからではあるまい」
「オカルトが解明されればそれは科学だというわけですか」
「そう。科学とオカルトは互いに矛盾するものではない。かのニュートンもオカルト的な宇宙観に基づいて万有引力の法則に到達したのだよ。世の中はこの二つの力で成り立っているのだから、現在のように科学ばかりがもてはやされる風潮はバランスを欠いていると言わざるを得ない。オカルトは厳然と存在するのにそれを活用しないのはもったいないとは思わんかね?」
「はあ。科学者の言葉とは思えません」むしろ博士の精神が、バランスを欠いているように思われてならなかった。「ねえ博士、いくら世間から認められないからって自棄にならないでください。結果がすべてじゃありませんよ。少なくとも僕は博士の発明を楽しみにしています」
「今度の研究も期待してくれたまえ。わたしが見えざる力をこの手に握るのを」博士は右手を掲げ、目の前で宙を掴んで恍惚の表情を浮かべた。
「しかし、あんまり血腥いことはやらないでくださいよ」僕は諦め顔で言った。「その、生贄だとか」
「そのつもりだが、何と書いてあるかな。まあ、必要に応じてね」
「オカルトの教科書でも?」
「その手の権威で手に入るものは読み漁ったがね。『金枝篇』とか『光輝の書』とか。しかし具体的な方法論としてはちょっとな。もっとこう、呪文とか儀式とか実際的なものを期待しとったのだが。ときにきみ、ラテン語はできるかね?」
「まさか」と即答したが、博士の視線に弁解の必要を覚え軽口を叩いた。「はは、ラテン人じゃあるまいし」
博士は眉をひそめた。何を言っとるのだこいつはと怪訝な表情を浮かべる。あまり冗談を解さない人なのだ。
「ラテン語の智識が入用ですか?」僕は慌てて話を進めた。
「うむ。海外もちょっと当たってみたんだがね。怪しげな書物が幾つかあって一つ注文してみたよ。稀覯書らしく随分吹っかけられたが、どうも中身がラテン語らしくてな。そろそろ届く頃だが、やはり自分で勉強するしかないか」
「心当たりを探してみましょうか」
博士はちょっと考える風だったが、いやと首を振った。僕を手招きすると口を近づけ耳元で囁く。「あまり人に知られたくないんだ。わかるね。きみなら大丈夫だとは思うが、くれぐれもこの話は内密に。頼むよ」珍しく酒の臭いはしなかった。
「ええ、もちろんです」僕は落ち着き払って付け加えた。「もう手遅れだとは思いますが」
当然のことながら後の台詞は聞き流された。
それから無為に日は流れ、僕は部屋で面白くもないテレビ番組を無関心に眺めながら、この退屈な夜をやり過ごす術を模索していた。不意にけたたましく呼び鈴が鳴ったときも身じろぎもしなかった。息を潜め嵐の過ぎ去るのを待つ。チンピラまがいの新聞勧誘員との幾度かの闘争を経て得た智慧だが、その晩の相手はしつこかった。明かりがついているからだろうか、偏執的に間断なく呼び鈴をかき鳴らし、それも無視していると、
「おうい、いるんだろう。わたしだ!」
博士の声だった。
「これはこれは」僕は言いながら扉を開けた。酒の臭いが鼻をつく。「電話一本入れてくださればよかったのに」
「居留守を使うことないだろう」博士は不平たらたらそう言った。僕を押しのけるように上がり込み、勝手知った風に部屋を見渡すと、敷きっぱなしの布団の上によろよろだらしなくうずくまった。
「ははあ、また飲んでますね」僕は非難がましく見下ろした。
博士は、わかっとるとでも言いたげに何度も頷いた。「大人が飲むのにはそれなりの理由があるのだ、理由がな」言葉の端々に疲労がにじみ出ていた。しばらく放心したように押し黙り、「ほれ、どうした。理由を訊かんのか?」
「はあ、伺いましょう」僕は慌てて言った。
博士は大きく溜息をつき、改めて沈痛な面持ちを浮かべた。「うむ。わたしはつい、出来心でな、あれを呼び出してしまったのだ。まさかこんなことになるとは思いもせず……」
「なるほど、あれ……?」
「うむ」博士は心なしか蒼ざめたようだった。「その、実に言い辛いのだが……」
「ははあ、すると悪魔の召還にでも成功しましたか」冗談めかしてそう言った。
「悪魔?」博士は一瞬不思議そうな目をしたがすぐに、「ああ、そうだ。悪魔だ、あれは。わたしはなんて取り返しのつかないことを」思い出したかのようにわなわなと打ち震えるのだった。
「で、悪魔は今どこに? まだ博士の家にいるんですか?」それともこの大都会を恐怖の渦に巻き込むべく、既にどこかで破壊の翼をはためかせているのだろうか。僕はわくわくして尋ねた。酔っ払いの法螺話を真っ向から否定するのはうまいやり方ではない。
「いや。帰った」
「帰った?」僕は演技ではなく半ば本気でがっかりして見せた。「随分おとなしいんですね」
「おとなしいものかね! あれは、あれは……」顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくさせる。「わたしの青春を取り戻してやると。その申し出を、わたしは、受けた」博士は喉の奥から搾り出すようにして言った。「ああ、わたしは汚れてしまった!」
「気に病むことないですよ。別にクリスチャンでもあるまいし。違いましたっけ」
「信仰のあるなしではなくてだね、わたしの人間としての……」
「それにしてもどうやって呼び出したんです? ラテン語、解読したんですか」
博士は奇妙な顔をした。「いや、数字だったから。解読も何も」
そのとき部屋の電話が耳障りな音を立てた。
「ちょっと済みません」僕は博士に一言断って受話器を取った。「はい、もしもし」同時にテレビを消す。
「失礼したほうがよさそうだな」博士は小声で言って片膝を立てた。
電話は実家の母からだった。うん、用はないんだけどね、どうしているかと思って、ちゃんと食べてる?「すぐ終わりますから」僕は送話口に手を当て博士に視線を送った。まだ聞きたいことはたくさんあった。
博士は小さく首を振って辞意を示した。緩慢な動作で苦労して立ち上がると、意外にしっかりした足取りで帰っていった。そういうわけで電話は思ったより長く続いた。
しばらくしてまた月末がやってきた。我らが大家の博士は銀行振込を頑として受け付けず、哀れな店子一同は月に一度は現金を持って、博士の家までご機嫌伺いに訪れなければならなかった。現金が好きなのだという意見と、立場を明確に思い知らせるための儀式だという意見が大勢を占めていたが、あれで寂しがりやなんだよという比較的好意的な声もないではなかった。確かに機嫌のいいときには、あれこれ歓待してくれるのだ。発明品を見せてくれたり、お茶をご馳走してくれたり。適当なものがあればお土産を持たせてくれることもある。それを煩わしいと感じるかどうかは人それぞれだ。
「コミュニケーションの一環だよ」博士はうそぶいたものだ。「大家と店子は言わば親子、我々は家族も同然なのだから」
子が親に金を納めるなんてヤクザじゃないか、とは誰も面と向かっては言えなかった。つまり陰口を叩いた。
ところでその月ぎりぎりになって、搾取される農奴のような気持ちで領主館へ赴くと、あいにく博士は留守のようだった。むきになって呼び鈴をいじくり回したが一向に返事はない。こんなことは初めてだった。銀行振込を拒絶した手前、博士は月末二十五日以降外出を控え篭城体制に入るのだ。持ってきたけどいませんでしたなどという言い訳は通用しない。いつもなら。
そこでまず証拠を作るべく、声高に叫んでみた。「ハカセー、ハカセー、いないんですかあ?」やはり返事はないが織り込み済み。次に大きな音を立てて舌打ちしたり罵声を上げたり空き缶を蹴飛ばしたり、ひとしきり地団駄を踏んでいたところ、隣のアパートの二階から住人がひとり顔を覗かせた。
「あ、どうも。うるさかったですか」
「いやいいけど。まだいないんだ?」
「ええまあ。まだと言うと」
「昼もいなかったな」男はさも大儀そうに首をぼりぼり掻いた。「昨日もだ。みんなわざわざ俺を起こして証人に仕立て上げるんだよね。まあ、あっちの都合だから延滞利息とかないとは思うけど。何か言ってくるまでほっときゃいいんだよ」
「あー、お休みのところ大変……」
「いやいいけど」
博士が帰ってきたらよろしくと言い残し、男は自室に引っ込んでしまった。うまいこと博士の執事役を押し付けられたような気がする。僕は仕方なく、もう少しだけ待ってみることにしたのだが、ただぽつねんと立っているのも退屈だった。いつから留守にしているのだろうと純然たる好奇心で郵便受けを覗いてみたが、あいにく新聞は取っていないようで出てくるのは七本一万円とか六十分一万五千円といったくだらないビラばかり。博士はマスコミが嫌いなのだろう。真の才能の何たるかを知らない下劣な出歯亀野郎と口汚く罵っていた記憶がある。もちろんマスコミが博士のことを取り上げるはずもないから出歯亀云々は不当な主張と言う他ない。
当初の目的を達することはできなかったが、郵便受けをがさごそまさぐるうち、中で何かが指先に引っかかって落ちる音がした。不審に思って手探りで掴み上げると鍵だった。セロファンテープのくっついた鍵。博士の家の合鍵に違いない。僕はテープをくしゃくしゃのポイして鍵を玄関の鍵穴に差し込んだ。回すと素直に開錠される。さて、ここからが好奇心と良識との葛藤だった。というのは嘘で、いや実に呆気なく前者が一方的に寄り切ってしまったのだ。いやはや。
よくよく考えてみよう(言い訳も)。博士はいつも我がもの顔で僕の部屋に入ってくる。確かに彼の所有するアパートとはいえ、家賃を払っているのは僕なのに。だったら僕が勝手に入ったところで博士とて不法侵入と騒ぎ立てることはあるまい。家族も同然と言ったのは誰あろう博士自身だ。それに月末のこの時期、三棟のアパートの住人から吸い上げられる百万近い現金が博士の手元にあることは、そのやり口を知っていて小学生程度の計算ができるものなら簡単にはじき出せること。強盗に猿ぐつわ噛まされ両手両足をぐるぐるに縛られた博士の姿が目に浮かんだ。一方でもっと悪い事態、例えば博士は既に冷たくなっていて、その第一発見者である僕が有力容疑者に祭り上げられるという可能性も。
しかしそれも杞憂で、結局のところ家の中に博士の姿はなかった――捕囚も死体も。
見つかったのは一冊の本だった。書斎の床には名状し難い臭気を発する空の壜が無数に転がり、古い大きな黒檀作りの机の上は各種請求書やダイレクトメールの山。余白にはどれもこれもわけのわからぬ図式か数式かが殴り書きに記され、ほとんどには大きくバツを重ねたりぐちゃぐちゃに塗り潰したりされていた。それらのメモ類の中に埋もれるようにして、本はあった。掴むとずっしり重く、何のものともつかぬ皮の装丁に指の跡がくっきり残った。開いてみると黴臭いむっとするような空気が鼻をつく。どれくらい古いものなのか、印刷本ではなかった。活字ならもう少し読みやすいだろうに、黄ばんで朽ちかけた紙に流麗とは言いかねるアルファベットじみた横文字がくねくねと並んでいた。自分にとってはまるで意味を成さない文字の羅列。見つめるうちにもやもやした息苦しさを感じた。眺めているだけなのにいやに消耗させられる。僕はたまらず震える手で本を閉じた。
博士が注文したというラテン語の書物とはこれに違いない。直後に消息を絶った博士。確か悪魔を呼び出してしまったと言っていなかったか。無関係とは思えなかった。僕は真相に突き止めたように思った。本を元あった場所に戻し、よろよろと二三歩後ずさる。はずみで踏んづけた猫型愛玩ロボットがみゃあみゃあ鳴いて顔を洗った。
不意に甲高い電子音が鳴り響いた。
携帯電話だ。取り出してみると見知らぬ電話番号からだった。僕は逡巡し、やがて耳に当て我知らず声を潜めた。「はい、もしもし」
「どこにいるのだ!」博士の声だった。
「博士? そりゃこっちの台詞……、ええっと、家ですよ」
「家? 留守電ではないか。何度電話したと思っているのかね」
「その……、友達の家です。はい」
「まあよい。ところできみ、来月分の家賃まだだったな」
「持っていきましたよ! 博士こそどこほっつき歩いてるんですか。まさか」僕は身震いを止められなかった。「悪魔と一緒なんですね? メフィストフェレスですね。そうだったのか。ああ」
博士は唸った。「悪魔だと? うむ、まさしくな。しかし彼女はいない……。全部持っていってしまったよ。そこでだ、きみに当座の分を用立ててもらおうと思ってな」
「僕の魂は僕のものです」
「はあ? 何を言っとるのだねきみは。とにかく来月分の家賃を持ってきて欲しいのだよ。熱海の何とかいう旅館にいるから。詳しい場所なんかはまた電話する。ああ、できれば再来月分の家賃も前納してくれないかな。そっちは半額に負けとくから」
「あの、何がどうなっているのか説明してもらえませんか」
「なんとまあ! 情け知らずなことよ。みなまで言わせるとは」そう文句を言いながらも、「始まりは、あれだ、デリバリー、なんといったかな。まあ、ちょっとした気晴らしだよ。わたしの男振りもまだまだ捨てたもんじゃなくてな、その……、なんだ、懇ろになったわけよ」博士の口調にはどことなく得意そうな響きがあった。「何度か逢瀬を重ねるうちにお互い情が湧いてだな、温泉でも行こうかという話になったのだ。ちょうど月末で幾らか家賃が集まっていたしで、それを懐にぶらり東海道を下って辿りついたは伊豆半島。
「いやあ、楽しかった。素晴らしい夜だった。いやいや、それ以上詳しいことは言わせんでくれ。ふふ。研究にかまけて世の女性をほったらかしにしていたのは考えてみれば罪なことをしたと今更ながらに思われたよ。科学に捧げた生涯なれど、これからはせめてもの罪滅ぼしに研究の合間を縫って女性たちの相手もして差し上げようかと考えておる。
「ところがだ。翌朝、つまり昨日だな、目が覚めてみると女の姿が見えぬ。朝湯にでも行ったかとのんびり構えていたがいつまでたっても戻ってこない。もしやと調べてみれば財布がない。残ったのはポケットの中の小銭だけ。まったくきみの言うとおり悪魔だな、あの手の女は。反省したよ。商売女は信用できない。恥ずかしくって警察にも届けられやしない。銀行と郵便局のカードは電話して止めてもらったが、問題はここの料金を精算しようにも払う金がない。それで昨日今日と三連泊することにしたのだが、どうもあのお客踏み倒すんじゃないかと旅館側も疑いだしてね。まったく、下衆の勘繰りとはこのことだ。そうじゃないかね? よりによってこのわたしを。
「そこで面倒かけて済まんが、明日の午前中に家賃を持ってきてほしいんだよ。往復の交通費は後でちゃんと返す。再来月分も前納してくれるならその分は半額でいい。悪い話じゃないだろう。どうだね?」
「はあ」と僕は気の抜けた返事をした。「すると前に呼び出した悪魔というのは……」
「何だね、それは。比喩で言ったんじゃないのかね」
「でしょうな。するとオカルトの研究はどうなったんです?」
虚しいとは思いながらも訊かずにいられなかった。
「ふむ。取り寄せた資料がラテン語でまったく読めやしない。むしゃくしゃしてね、気晴らしにと思ってそのとき郵便受けに入っていたビラに電話しちゃったんだな。そういえばあの本どこにやったかな」
高度に発達した資本主義は魔法と区別がつかないらしい。
以上、僕が卒業単位にもならない「初級ラテン語」を履修するに至った経緯である。正当な所有権の保持者である博士の純然たる好奇心はそれからしばらく人体の神秘に釘づけで、僕が発掘しなければ古の智慧も酒精にまみれて醗酵するままであったろう。この書物の力でのちにオカルト探偵として数々の難事件を解決することになるのだが、しかしそれはまた別の物語。 |