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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『怪談倶楽部 廃墟』
> 平谷美樹著/久保田晃司カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4812439944
> 竹書房文庫
> 619円
> 2009.10.30発行
 怪談の名手、平谷美樹が書き下ろした、日常生活に潜む恐怖27話。東北にある「怪談倶楽部」という集まりで、信じられない自らが体験した怪異や知人の驚愕の心霊現象をメンバーが語る。

『怪談倶楽部 怨恨』
> 平谷美樹著/久保田晃司カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4812441411
> 竹書房文庫
> 629円
> 2010.4.5発行
 あなたの日常にも潜んでいるかもしれない恐怖がじわじわとにじり寄ってくる…。旅行先のモーテル、見知らぬ人からかかってくる携帯電話、フリマでもらった縫いぐるみ、引っ越したマンション、どこでも怪奇現象は追っかけてくる。

『怪談倶楽部 幽魂』
> 平谷美樹著/久保田晃司カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4812443163
> 竹書房文庫
> 629円
> 2010.10.7発行
 東北にある怪談倶楽部のメンバーが体験した封印されるべき怪談。

『霊は語りかける―実録怪談集』
> 平谷美樹・岡本美月著/appletat/Vetta/gettyimages写真
> ISBN-13: 978-4758436755
> ハルキ・ホラー文庫
> 571円
> 2012.7.18発行
 ある峠で起きた恐怖の出来事、船旅での怪事件、古いマンションに棲みついていた見えないモノ、どこかで聞こえる不思議足音……「百物語」を上梓してきた著者のもとに集まってきた、奇妙で恐ろしい話の数々。全三十三篇を収録した、新たなる怪談集。

『義経になった男(一) 三人の義経』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758435338
> ハルキ文庫
> 686円
> 2011.6.18発行
 嘉王二年(1170年)。朝廷が行った強制移住で近江国に生まれ育った蝦夷のシレトコロは、まだ見ぬ本当の故郷―奥州―を想っていた。十三歳の春のこと、三条の橘司信高と名乗る男があらわれ、シレトコロは奥羽に連れて行かれる・・・・・・。それは、後の源義経の影武者とするためだった。一方、鞍馬山の牛若は、「あなた様は、源氏のお血筋。平家を打倒し、天下に名をはせるお人」という言葉によって剣術の稽古を続けていた。そして〈遮那王〉と名乗ることになった十六歳の牛若は、奥州平泉に向かう決意をする。

『義経になった男(二) 壇ノ浦』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758435345
> ハルキ文庫
> 686円
> 2011.6.18発行
 寿永三年(1184年)九月。義経が検非違使五位尉に叙せられて、京の治安は落ち着き始めていたかに見えた。だが激怒する頼朝は、義経を京に飼い殺しし、雑事ばかりを与えていた。元歴二年(1185年)頼朝は平家の本拠である屋島を攻めるために、義経を追捕使として四国へ向かわせることになった。二人の影武者、沙棗と小太郎とともに戦いに挑む義経。兄・頼朝を信じようとする義経と、頼朝は怨敵であると認識する沙棗。運命が、二人を中心に大きく動き始めていた・・・・・・。

『義経になった男(三) 義経北行』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758435352
> ハルキ文庫
> 686円
>2011.6.18発行
 頼朝に利用された挙句、切り捨てられた義経。走者(逃亡者)となり、ひたすら北へと逃げていた義経たちは、文治三年(1187年)の春に平泉に到着した。病にたおれ、抜け殻となって夜具に横たわる義経。頼朝の奥羽攻め寄せに覚悟して“その日”の準備を進める藤原秀衡。やがて正気を取り戻し、自分をとり巻く全ての状況を理解した義経は腹を切る。義経の思いを知り、義経の首を切り落とした沙棗は、自分は義経として生きることを決意するのだった。

『義経になった男(四) 奥州合戦』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758435369
> ハルキ文庫
> 686円
>2011.6.18発行
 義経の遺志を守り、自らの耳を切り落とした沙棗。義経の死を確認できずに、奥州追討を進める頼朝。やがて文治五年(1189年)七月、頼朝は鎌倉から出陣した。一方、平泉藤原氏が滅びることが、陸奥国、出羽国両国の平和を引き延ばせると考える基治の決意を聞いた沙棗。己れもまた、義経として頼朝に追ってもらうために、北へ向かうことを決めた。激しい闘いの中、国衡が、泰衡が散っていく。沙棗が最後に見るものとは果たして・・・・・・。

『ユーディットXIII(ドライツェーン)』
> 平谷美樹著/鈴木康士カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4488017712
> 東京創元社
> 1700円
> 2012.5.15発行
 新進気鋭の画家として将来を嘱望されていた日本人青年・不破の画家として人生は、ふと訪れたパリの郊外の美術館に飾られた一枚の絵画によって大きく狂うことになった。その画は、「ユーディットXIII」。自分の描きたかった理想の画がすでに描かれていることを知った不破は、絶望から絵筆を折り、酒に溺れ、ヨーロッパを流浪する。
 ある出来事がきっかけとなり、スパイとしての訓練を受けた不破は、自分の運命を変えた絵画「ユーディットXIII」がナチスに略奪されたことを知らされるとともに、英国軍情報部の画策する絵画奪還作戦に加わることを決意する。だが、その作戦は、ある極秘計画を隠匿するための囮だったのだ。

『萩供養 ゴミソの鐵次 調伏覚書』
> 平谷美樹著/森美夏カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4334764555
> 光文社時代小説文庫
> 533円
> 2012.8.20発行
 “萬相談申し受け候”湯島の裏店にかかる看板。ゴミソの鐵次が住む貧乏長屋だ。ゴミソとは、津軽言葉で占い師のことを言うが、持ち込まれる相談は、亡魂の障りや憑物祓いが多かった。長身に長羽織、手には独鈷杵。人に仇なす亡魂を祓いつつ、かれらの悲しみや無念を背負ってやるのだ。江戸を舞台に、北の陰陽師・鐵次が魅せる妖かし調伏とは。

『風の王国 1 落日の渤海』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758436489
> ハルキ文庫
> 667円
> 2012.4.8発行
 延喜十八年(918年)夏、東日流国(つがるのくに)「現在の青森県」。 東日流の人間として育てられてきた宇鉄明秀(うてつのあきほつ)は自分の出生の謎を解き明かすために、海を隔てた渤海国(ぼっかいこく)へ向かう。十七年前に赤ん坊だった自分を東日流に連れて来たのは誰なのか?命がけの船旅を経て、やがて明秀は渤海の港町・麗津(らいちん)へと辿り着くのだが…。

『風の王国 2 契丹帝国の野望』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758436687
> ハルキ文庫
> 667円
> 2012.6.18発行
 渤海国王族の血筋であることが判明した明秀は、二月ぶりに東日流へ帰ってきた。契丹国との戦に備えて、渤海国王より援軍の頼みをつづった国書を届けるためだった。そして明秀は契丹の方術使に対するために、同じ力を持つ易詫を探すことに。一方、契丹国から皇太子・耶律突欲の拉致を理由に、領土を要求された渤海国では、戦を避けるために大徳信の妹・芳蘭を人質に献上しようとしていた……。

『風の王国 3 東日流の御霊使』
> 平谷美樹著/遠藤拓人装画
> ISBN-13: 978-4758436830
> ハルキ文庫
> 667円
> 2012.8.18発行
 大明秀は、東日流から千人の援軍を率いて、再び渤海へやってきた。安東兼任から、周蘭の死と耶津突欲の要求を聞いた明秀は、大徳信たちとともに敵地・契丹へ赴くことに。一方、須哩奴夷靺鞨に捕らえられた芳蘭にも、再び突欲が迫りつつあった。渤海、契丹、東日流、須哩奴夷靺鞨、それぞれの野望がぶつかるとき、運命は大きく動き始めようとしていた……。

雀部> 今月の著者インタビューは、8月18日に角川春樹事務所から『風の王国 3』を、8月20日に光文社文庫から『萩供養 ゴミソの鐵次調伏覚書』を出された平谷美樹さんです。平谷さんへのインタビューは、今回で7回目になりました。毎回言ってますが、たびたびお願いして恐縮です(笑)
平谷> いえいえ。久しくSFを書いていないのにお招きいただき、こちらこそ恐縮しております。
雀部> そう言えば、前回のインタビューの時には、まだ<河北新報>に『義経になった男』(『沙棗』改題)を毎日連載されていた時なんですね。
平谷> そうですね。連載開始までにかなり書いていましたから、執筆自体は楽でした(笑)
雀部> 『沙棗』に関しては、河北新報社の「ふらっと」内の「沙棗 義経・平泉~平谷美樹さんと語ろう」コーナーで、“小説&作者紹介”→“連載に込める思い”“奥州合戦を推理”“義経北行伝説”“後半の読みどころ”“作家生活10年”“連載を終えて”とインタビュー記事が掲載されていて、出る幕がないような気がしないでもない(笑)
平谷> そうですね(笑)
 私自身も執筆時のことをかなり忘れてしまっています(笑)
雀部> 前回のインタビューの時には「原稿よりも挿絵の方で苦労してます。」とおっしゃってましたが、昨年の6月18日に文庫本4巻が一気に刊行されて、何をお感じになりましたか。
平谷> 実は、単行本で出す予定が、多くの人に読んでもらおうと文庫本に変更になったり、そのためにゲラチェックを単行本用と文庫本用をこなしたりして、当初の刊行予定からけっこうずれ込んだんです。
 そこに東日本大震災。それでさらに刊行が遅れたんですよ。だから、「やっと出た」という感じでしたね。
雀部> え、単行本と文庫本でゲラが違うんですか。
平谷> 文字の組み方が違います。文庫には二段組みとかないでしょう(笑)
 だから、2000枚のゲラを単行本用と文庫本用と2回チェックしたのです。
雀部> そうなのか~。面倒(笑)
 震災(津波)と、それに続く原発騒動には本当に驚きました。宮城や岩手で開業している同級生も多く、一時は電話も繋がりにくく本当にやきもきしました。被害にあった同級生で跡取りが居ないところは、だいたい閉院しちゃいましたね。還暦間近の時点で、新築・改築する元気はないよなあ。
 三陸のほうはどうなんでしょうか。
平谷> 実は、被災地へはほとんど行っていないのです。
 体を壊しているからボランティアもできないのに被災地へ行くのは、申し訳なくて。
 一度、釜石を通りましたが、まだまだ大変な状況です。
 高台に移転しようにも、リアス式海岸なので土地が少ない。
 そのほかにも、色々な問題が山積です。
雀部> まだまだ終わってないんですねぇ。
 『義経になった男』を読んでいて、シレトコロ(沙棗)の考え方がわりと現代的に書かれていて、面白かったです。特に、自分の宮仕え志向に気が付くところや、敵に心理攻撃をしかけたりと。反対に頼朝は、呪いとか怨霊を恐れるちょっと心を病んだ男として対比して書かれてますね。これは沙棗が、当時の日本では、アウトサイダー的な存在だったことと関係してるのでしょうか。
平谷> 義経の戦法が、まさにアウトサイダー的でした。
 当時の感覚からすると、卑怯な戦い方で平家に勝ってしまったんです。
 頼朝が腹を立てるのも、まぁ、わかります(笑)
 日常生活でもありますよね。
 特に組織の中で働いていると、杓子定規に物を考える人と、柔軟な考え方をする人がいます。
 組織は「言うことをきく人物」をよしとして、出世するのは杓子定規の方だったりする(笑)
雀部> それは日本的なのかも(笑)>出世するのは杓子定規の方
 それにしても、平谷さんご自身が「この集団の中でぼくは異質」と感じている異邦人感覚からすると、“沙棗=平谷”ということもできるのではないでしょうか。
平谷> それはあるかもしれませんねぇ(笑)
 沙棗を書きながら溜飲を下げていた感は多々あります(爆)
雀部> いわゆる日常生活にアウトサイダー的な存在を持ってきて、日常を解体してみせるというのは、SFの得意技だったりします(『時の仮面』とか『異星の客』とか)
 歴史物ではありますが、沙棗というアウトサイダー的な存在が主人公ということは、SFファンも楽しんで読めるんじゃないかなと感じました。
平谷> そうであるとうれしいのですが。
 わたしのSFを読んでくれる人と、歴史小説を読んでくれる人は、必ずしもイコールではないようですから。
 わたしの書く歴史小説、時代小説は、基本的にSF的な発想から生まれています。
 「資料を読みながら、疑問点や“空隙”を見つける」というのがわたしの発想の基本です。
 その資料が科学書か歴史書かの違いで、スタンスはまったく変わらないんです。
 そのスタンスがよりはっきりと出た作品が、来年出る予定です(笑)
 歴史的な大事件が、実はSF的な解釈で説明できる――というものです。
 まだ話せないのがもどかしい(笑)
雀部> 光瀬龍先生や小松左京先生も時代小説を書かれていて、SFファンからも高い評価を受けてますし、SFと歴史小説の親和性は高いのではと思っているのですが。
 SF的な解釈を用いた歴史小説って、もしかして“「ドイツの考古学者ハインリッヒ・シュリーマンが、奥州藤原氏が埋蔵した財宝の発掘に挑む小説”のことでしょうか?。「ふらっと」で読みましたよ。
平谷> それは、今年中に文庫で出ます。
 まだ「発表していい」と言われていないので、出版社はナイショですけれど(笑)
 先日、初校ゲラを終わらせました。
 あの話はトレジャーハンティング物で、SF的な発想とはちょっと違います。
 別に書いていたものがあるのですよ(笑)
雀部> そうだったんですか。“トレジャーハンティング物”というと、「インディー・ジョーンズ」みたいなヤツでしょうか。
平谷> 【吾妻鏡】には、藤原氏の財宝の一部を頼朝が発見し、家臣達と山分けする記述があります。
 しかし、それは一部であって残りは「灰になった」と書かれています。
 ですが、黄金が灰になるはずはありません。
 どこかに隠しているはず――。ということで、その隠し場所を色々な手がかりから推理し、発見するのです。
雀部> “歴史的な大事件が、実はSF的な解釈で説明できる。”というSFは、いつ頃刊行するのでしょうか。最近SFが無かったから、大変楽しみなんですけど(笑)
平谷> とりあえず来年だと思うのですが、幾つか会議をくぐり抜けなければならないのだそうで。
 SFはあと二つ、企画が進行中です。どちらも現代モノ。これも来年、形になる予定です。
雀部> とすると、都合三つのSFが待機中ということですね。楽しみです。
 堀晃先生が、ホームページで、『義経になった男』を取り上げられてました。登場人物の中では“禅林房覚日という「悪僧」が抜群に面白かった。”“作者も連載中にこの悪僧に情が移ったのではないか”書かれてましたがどうだったのでしょうか?(笑)
平谷> 覚日は【義経記】にも出て来る人物で、義経の面倒をよみてくれた「いい人」に描かれることが多いのです(笑)
 わたしは情けない人物に描きましたが、小市民の代表として書いていましたね。
 強い方へなびく。自分の立場を守るために嘘をつく。
 でも、最後には自分の役割を見つけてそれに打ち込んで行く――。
 情けない人物のままでは「救い」がありませんでしたからね。
 「救い」は【義経になった男】のテーマの一つでもありましたから。
雀部> 私が好きだったのはもう一人の地味な影武者「杉妻小太郎」でした。失明してからはどうなるのかと気を揉んでましたが、義経の亡霊に扮して磯禅師と共に頼朝に一矢報いるところで溜飲を下げましたよ。
平谷> 小太郎も小市民でしたね。
 「自分は一般人よりもちょっと偉い」と勘違いしている小市民。
 彼にも「救い」が必要でした。
雀部> 両方とも小市民だったのか(汗;)
 藤原氏の“滅びの美学”というか、自身は滅んでも奥州文化と民衆は保持されるというのは、日本だから成立する戦略だと思うのですが。
 キリスト教圏だったら、皆殺しにされて何も残らなそうな気がします。
平谷> 日本には怨霊を恐れる文化がありましたからね。
 恨みを残して死んだ者は荒ぶる神となる――。平安時代よりもずっと古い時代からあった感覚だと思います。
 怨霊は、神仏への祈りもなんのそのと暴れ回るので、鎮めるには官位を与えたり、神社を作ったりしておだてなければならない。
 神様、仏様よりも怨霊が強いという例はたくさんあります(笑)
 確かに多神教の国だから成立することでしょうね。
雀部> 有名どころでは、平将門の怨霊あたりでしょうか?(笑)
平谷> そうですね。それから菅原道真とか。
 平泉藤原氏も滅亡後にあのあたりを統治した葛西氏にずいぶん恐れられました。
 金色堂に覆堂(さやどう)を作ったのは葛西氏で、それは怨霊を恐れたからだと言われています。
雀部> 覆堂には、怨霊を閉じ込める役割もあったんですね!
 そしてそれは秀衡・泰衡・沙棗の計画がうまくいった証でもありますよね(笑)
平谷> 計画はフィクションですが、【吾妻鏡】を読むと、平泉藤原氏の怨霊は100年間、平泉を守ったようです。
雀部> 100年守れたら、怨霊冥利に尽きます。
 『ユーディットⅩⅢ』は、平谷さん初の本格的冒険小説ですね。
 東京創元社でサイン本を買えるというので、申し込んだんですよ。
 地方在住者としては、こうして通販で著者のサイン本が手にはいるというのは、ありがたいですねえ。
平谷> ご購入、ありがとうございます♪
 実は、冒険小説にのめり込んでいた時期がありまして、どうしても書きたかったんです(笑)
雀部> おっと。どういった作品がお好きだったのでしょう。SFのなかでも冒険SFは高い評価の作品が多いですし。
平谷> 冒険SFも読みましたが、本格的な冒険小説も好きで、ユーディットを構想したあたりは、そっちにのめり込んでいました。
 ラドラムとかヒギンズとかライアルとか。日本物も沢山読みました。
 「エリ・エリ」にDC3が出て来たのはそういう影響だったりします(笑)
雀部> ラドラムの《ジェイソン・ボーン》シリーズは、映画で観ました。ヒギンスの『鷲は舞い降りた』は読みました。う~ん、ほとんど読んでないなぁ(汗)
 冒険シーンとしてだけなら、『銀の弦』や『約束の地』にも出てきますよね。
 不破がはめられて、スパイにならざるを得なくなった後の訓練のところが好きです。ここは教師としての経験が活きたのでしょうか(笑)
平谷> ただの画家では後半のアクションはこなせません。なので、あの訓練はどうしても書いておかなければなりませんでした。
 教師としての経験は生かしていませんよ(笑)
 ああいう鍛え方をすれば、大問題ですから。
雀部> そうですね。でも、ハインラインの『宇宙の戦士』の訓練シーンを思い出しましたよ。
 やっぱり絵画についての蘊蓄を語るところとか凄いですし、冒頭の不破が「ユーディットⅩⅢ」と驚愕の出会いをしたシーンは、門外漢ながら心が揺すぶられる思いがしました。
平谷> ぼく自身は他人の絵を見て夢を諦めたという経験をしましたが、それを読者にどのくらい伝えられるか不安でした。
 美術に興味のない方には分からないかも。
雀部> う~ん、どうなんでしょう。
 これは、『ノルンの永い夢』と同時期に構想を練られたということはないのですか、どちらも同時代のドイツが背景なような気がしますし。
平谷> 『ノルン』は、依頼を受けてから構想を練りましたが、『ユーディットⅩⅢ』を構想したのは20数年前でした。
 『日曜美術館』という番組で、アルノルト・ベックリーンという画家の絵を見て衝撃を受け、画家の夢を捨てたというのがきっかけでした。
 主人公の不破と同じですが、ぼくはすでに美術教師をしていたので、彼ほどの絶望は感じずにすみましたが、「絵は一生、趣味で描いて行こう」という決心をしました。
雀部> そうだったんですか。
 不破もグスタフ・クリムトの描いた「ユーディットⅩⅢ」を見てとても敵わないと思ったわけですが、ではそれがアルノルト・ベックリーンじゃダメだったんですか?
平谷> ベックリーンの絵も神秘的ではありますが「ユーディット」は描いていません(たぶん)。
 物語の展開でお分かりと思いますが、あの絵は「ユーディット」じゃないといけなかったんです。
雀部> それは分かります。ということは平谷さんの画家魂が、“嘘は最小限”を実践されたのかな。素人的には、アルノルト・ベックリーンが「ユーディット」を書いたことにしても良さそうな気がするので(汗;)
平谷> 画風が違いますからね。
 やはりユーディットの怪しさはクリムトですよ。
 クラナッハもなかなか怪しいですけどね(笑)
 ベックリーンではないです。
雀部> クリムトが怪しいというのはよく分かります(笑)
 ユーディットの画(模写)があしらわれたアロマキャンドルを立てるグラスを買いました。けっこう気に入ってます。
 それにしてもグスタフ・クリムトの「ユーディットⅩⅢ」って、実在するんですか?
平谷> 実在しません(笑)
 実在しない絵の方が、物語の自由度が高まりますから。
雀部> なるほど。
 平谷さんご自身は、初めての本格冒険小説を書かれてどうでしたか。
平谷> 難しかったですが、書き上げた満足感は大きいです。
 「初挑戦」は歴史小説、時代小説も大きな満足感はありましたね。
雀部> けっこう大がかりな展開で面白かったです。先が読めないので、ついページをどんどんめくってしまいましたよ。
 まあSFファンなんで、第二次世界大戦後に月の裏側に基地を作っていたナチスが地球に侵攻して来るような展開を期待しないでもなかったんですが。←これは映画『アイアン・スカイ』の話。書かれるに当たってSF的な展開は考えられなかったのでしょうか(笑)
平谷> それはまったく考えませんでした。SFの入る余地がない話でしたから。
 『ユーディット』にSFやオカルティズムなど、別の要素を持ち込んでも、面白い話にはならなかったと思います。
雀部> それはそう思うのですが、SF者の血が騒いで(汗;)
 『萩供養 ゴミソの鐵次調伏覚書』を読んで、半村良先生の歴史小説と同じにおいがするように感じたのですが……
 江戸下町の長屋が舞台の『かかし長屋』、山東京伝の従者・平吉が謎を追う『どぶどろ』、能登が舞台の恐怖と戦慄の『能登怪異譚』とか。
平谷> 半村さんの時代小説は読んでいないんです。
 時代小説じたい、あまり数は読んでいません。
 池波正太郎さんの「剣客商売」は全巻読みましたが「鬼平」は後々の楽しみにとってあります。
 時代小説を書く前に、勉強のために某作家さんのシリーズを分析的に読んで、基本パターンは学びましたが。
雀部> そうなんですか。
 しまったなぁ、《剣客商売》と《鬼平犯科帳》シリーズ、読んでしまった。ま、ほとんど忘れているから同じか(笑)
 しかし半村良先生のファンの方には、この『萩供養 ゴミソの鐵次調伏覚書』、お薦めできると思いますよ。
 平谷さんと言えば、《百物語 実録怪談集》も有名なのですが、こちらは割と淡々と怪奇現象を描いているのに対して、『萩供養』のほうは、亡霊が出てきた背景も書かれているのでなんかしんみりしてしまいました。個人的には、怪異譚というのは基本的に人情譚であるべきだと思っているので、とても楽しめました。
平谷> 現実に誰かが体験した怪異というのは、分析のしようがありません。
 脳科学で説明できるとはいっても、その人の体験そのものを再現して実証することはできない。
 だから、ぼくは《実録怪談集》では解釈をせず書いています。
 解釈したら、それは嘘になってしまいますから。
 しかし、フィクションは別。怪異の裏に潜んでいる物語を表に引き出すことが出来ます。
 時代物で怪談。であれば、人情噺を絡めた方が江戸情緒が出ますよね。
 そういうことは後から考えました(笑)
 2作、3作は書いているウチにあんなテイストになってしまったという感じでしょうか。
雀部> やはり怪異の裏をかいま見ることの出来るフィクションのほうが好きです。
 ハルキホラー文庫の最新刊の『霊は語りかける 実録怪談集』は、以前の《百物語》シリーズを受け継いだものという位置づけで良いのでしょうか?
平谷> はい。
 編集さんから「シリーズは10巻まで。でも実録怪談集は続けて欲しい」と言われて(笑)
 実際、友人など出所がはっきりした話しか載せませんでしたから、年々、100話を集めるのが大変になっていたんです。
 なので、タイトルを変えて、100話集まらなくても出せるように、と。
雀部> なるほど。
 巻末に“編集部並びに著者は、除霊相談、心霊鑑定、霊能者の紹介等々を一切行っておりません”と書いてありますが、多いんでしょうね。
平谷> どうかなぁ。わたしの所にはそういう依頼が来たという話は聞こえていません。
 あれは、そういう依頼が来ないようにということで、予防策としてつけたものでした。
 でも、今年は「ネタ提供」のお手紙が来ました(笑)
 都市伝説のような嘘くさい話ではなかったので、次の巻に入れることを検討しています。
雀部> おっと依頼はダメだけど、真摯なネタ提供はOKと(笑)
 《怪談倶楽部》シリーズはどうなんでしょうか。
平谷> 《怪談倶楽部》は3巻で終わりじゃないかな(笑)
 あれは、虚実取り混ぜた本でしたから、書きやすかったんですけど。
 体験談を小説仕立てに脚色したものもありましたし。
 《怪談倶楽部》の中から何本か選んで、電子書籍化しようという企画もあります。
雀部> ちょっと毛色が違ってましたもんね。
 さて、「honto」で小学館から出ている《九十九神曼荼羅シリーズ 百夜・百鬼夜行帖》をダウンロードして読みました。
 百夜ちゃん、『萩供養 ゴミソの鐵次調伏覚書』の終わりの方にも登場しているんですが、つんでれで可愛い(笑)
 題名通り、九十九神がらみ事件を解決する話なんですが、佐吉と百夜のコンビも面白いですね。このシリーズは、電子版専用に書かれたお話なのでしょうか。
平谷> そうです。SF系新人賞出身作家にお声がかかりまして。ぼく以外も「九十九神曼荼羅シリーズ」を書いています。
 縛りは「九十九神が出て来ること」という物でしたから、これは「九十九神を祓う話」にしようと。
 「ゴミソの鐵次」で百夜のキャラクターが結構たっていたので、独立させて話を書いてみようと考えました。
 書き出したら面白くて一気に6本書いて、担当の方に送ったら喜んでもらって。
 それで、1ヶ月に2本ずつの連載みたいにしてシリーズ化しようということになりました。
 現在18本預けています。
 今年中にあと3本の長編を書かなければならないので、18本で一時中断していますが、
これからもどんどん書いていく予定です。
 百夜の場合、1話が30枚~40枚。1本を1日か2日で書くので、ラクで楽しいです(笑)
雀部> 最近気が付いたのですが、うちのTV(65インチ)にはパソコンも繋いでいて、TVから離れて見ると、老眼鏡をかけなくても字が読めるのでうれしいです(笑)
 電子書籍にはこういう利点もあったのかと……
平谷> ああ。それは見やすそうですね(笑)
 イラストも綺麗に大きく見られそうでいいですね。
雀部> 見やすいです。TV画面の大型化に感謝してます。
 平谷さんの作品は、基本的には暗いものが多いと感じているのですが、作者の眼差しがクールでありながら温かいのが特徴だと思います。生者も死者も等しく慈愛を持って描かれていると言えるかも知れません。そこらあたりに、平谷さんの人間としての強さ(悟り?)を感じています。
平谷> 暗いですか(笑)
 あまり意識したことはなかったなぁ。
「客観的でありたい」
「物語には救いが欲しい」
ということは、最初の頃から考えて書いています。
 特に、震災以降、ぼく自身が精神的な救いを求めていたりしますから(笑)
 『ゴミソの鐵次調伏覚書』や『百夜・百鬼夜行帖』は、できるだけ救いのある話にしようと思って書いています。
雀部> 明るいと思ったのは、『スピリチュアル』くらいかも(笑)
 《風の王国》シリーズは、前回のインタビューの時におっしゃっていた、『精霊のクロニクル』と『義経になった男』の間を埋める作品ですよね。
平谷> 「人が森に棲んでいる頃、精霊は共にあった」というのが基本です。
 人が森から出で原に住むようになって、しだいに精霊との交感ができなくなったというのが『精霊のクロニクル』の世界。
 《風の王国》シリーズでは、かろうじて精霊の力を使える世界。
 『義経になった男』では、超自然現象は排除しました。
 『ゴミソの鐵次』は江戸時代の話ですが、〈森〉の力の強い津軽生まれの男が主人公で、そういう特別な人間は、まだ精霊との交感が出来る――そういう世界観です。

 ぼくの作品は主人公が重いものを背負っていたりしますから、暗くなるんでしょうね(笑)
 でも、「大明秀」や「鐵次」「百夜」あたりから、ぼくの書く主人公が変わってきたみたいです。
雀部> 「鐵次」「百夜」は、主人公はともかく、題材がちと暗いかと(笑)
 そういえば、『風の王国 落日の渤海』の帯にも“古代の津軽人が大活躍”と書いてありますね。なんの根拠もないのですが当然日本が舞台だと思っていたので、“渤海国”が舞台だったので驚きました(汗;)
平谷> 生粋の外国人を主人公にすると、感情移入がしづらくなるので、生まれてすぐに津軽人として育てられた設定にしました(笑)
 渤海を舞台にするのは、角川春樹氏からの依頼です。
 渤海は、8世紀~10世紀頃、現在の中国東北部から北朝鮮にかけて存在し滅亡した国――その程度の知識しかなく、韓国の歴史ドラマも見たことがなかったので、依頼があってから猛勉強しました(笑)
雀部> いやいやいやこのシリーズ、正に波瀾万丈で面白いですね。個人的には、契丹人の突欲が好きです。なんとか芳蘭ちゃんと上手く行かないかなぁと妄想中(笑) ← 第三巻まで読んだところでの感想です。
平谷> 4巻、5巻をお楽しみにというところでしょうか(笑)
 今までで一番苦しみながら書いています。
 すでに書いてしまった部分に、歴史的な事実との祖語を見つけることも多々あるので(笑)
 まだ本になっていない部分で見つけていますから、慌てて直すんですけどね。
 まぁ、フィクションですから細かい所は気にしないことにしているんですが。
雀部> よくは知られていない時代だから、空想を膨らませられると思ったんですが、そうでもないのですね。
 この《風の王国》シリーズを読んで、最近つとに感じているのが、“一番面白いのは、一番新しい平谷美樹(の作品)”かなと。河北新報掲載の『沙棗』を毎日読んでいた頃は、『沙棗』が一番面白くて、これこそ平谷先生の代表作だと思っていたんですが(笑)
平谷> あ、それはいつも思っていることです。
 だから、《風の王国》と《ゴミソの鐵次調伏覚書》と《百夜・百鬼夜行帖》が「一番面白い」と思います(笑)
雀部> 著者も同じ思いだったとは(笑)
 なにか色々並行して執筆されているようですが、無理のない範囲でご予定をお聞かせ下さい。
平谷> ええと――。
 《風の王国》は現在6巻の途中まで書いていますが、来年中に10巻で完結。つまりあと4巻と半分くらい。
 《ゴミソの鐵次》は、来年中に2巻出る予定です。
 《百夜》は毎月2本ずつ配信されます。
 そのほかに、12月に某社の文庫から、書き下ろしの歴史物が出ます――。

 ええと、時系列で整理すると、今年の分は12月に《風の王国⑤》と、某社の歴史物。
 それから毎月2本の《百夜》。
 来年は、2月、4月、6月、8月、10月に《風の王国》
 春に《ゴミソの鐵次》の2巻目。
 同じ頃に、某社から現代を舞台にしたSF。
 同じ頃に某社から時代物のハードカバー。
 出版時期はまだはっきりしない歴史物のハードカバーが1本か2本。
 夏か秋に《ゴミソの鐵次》の3巻目。
 もしかすると時代物の文庫も1本入るかもしれません。
 開始時期ははっきりしませんが、某出版社のウェブサイトで現代を舞台にしたSFの連載。
 そして毎月2本の《百夜》。
 今年から来年にかけては今までで一番忙しくなりそうです。
 まぁ、出版業界は予定があってないようなもので、企画が立ち消えることもままありますから、全部うまく行くとはかぎりませんが。
雀部> おおおぉ。《風の王国》は10巻で完結なのか。なんか勿体ないような(笑)
 現代を舞台にしたSFと、ウェブでの連載SFには特に期待。一番面白いSFになると信じて待ちます~。


[平谷美樹]
1960年岩手県生まれ。大阪芸術大学卒業後、岩手県内の美術教師となる。2000年6月、『エンデュミオン エンデュミオン』(ハルキ・ノベルス刊)で作家デビュー。同年、長篇SF『エリ・エリ』で第1回小松左京賞を受賞。著書に『ユーディットXIII』、〈エリ・エリ〉三部作を形成する『レスレクティオ』『黄金の門』の他、『運河の果て』、『ノルンの永い夢』、『約束の地』、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』、『君がいる風景』、聖天神社怪異縁起シリーズ『呪海』『壺空』『銀の弦』などがある。近年は『義経になった男一~四』や《風の王国》シリーズなど、時代小説作家として着々と地歩を固めている。
[雀部]
カミさんが時代小説ファンなので、歴史小説も読みます。ただ島田一男・池波正太郎・山手樹一郎のお三方に偏ってます(笑) あ、柴練さんもあったか。小松左京御大にも短編を中心に時代小説がありますし、光瀬龍先生の『寛永無名剣』は歴史SFの傑作だと思います。インタビューさせて頂いた中では、小松左京賞受賞の伊藤致雄先生は、どちらかというと時代小説がメインの方でした。



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