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                    今日、中学校から帰ってから、かよこちゃんのお家で遊びました。日本の子供は全員、小学校のあとに中学校に通うことになったのです。上の学校に行くなんて、戦時中は考えもしませんでした。女学校で勉強して先生になりたがっていた幸ちゃんが空襲で死んでしまったのに、わたしが今こうして中学校に通っているのはふしぎな気がします。 
                     かよこちゃんの二人のお兄さんは戦争で死にましたが、弟が一人います。かよこちゃんの弟のゆめは、天体望遠鏡を作って星を発見することです。いつも、物干し台に上がって星をかんさつしています。まだ小学生ですが、中学校を出たら高等学校に行って、さらには大学に行って勉強して、しんはつめいの大きな望遠鏡を作って、新しい星を見つけるのだそうです。 
                     その話をするたびに、かよこちゃんは笑います。 
                    「大勢の人が昔から星を見ているから、もう発見できる星は残っていないのではないかしら」 
                     弟はふくれ顔になって、いいます。 
                    「そんなことないよ。宇宙はとても広くて、人間が見ているのはそのほんの一部なんだから」 
                     かよこちゃんも、負けずにやり返します。 
                    「でも遠くにあって人間が見ることができない星は、やっぱり発見できないのではないの?」 
                    「もっといい望遠鏡ができれば、今まで見えなかった星が見えるようになる。だから、大きくなったら、でかい望遠鏡の設計者になって、それを山の上に建てるんだ」 
                    「まあ、それはすごいこと」 
                    「それに、彗星のように近づいてくることだってあるんだよ。それなら、いつも注意深くかんそくしていたら、子供でも発見できるかもしれない。どんな星でもいいから、もし新しい星を見つけたら、その星に自分の名前をつける」 
                    「あら、わたしの名前は?」 
                    「おねえちゃんは、六番目に見つけた星。最初はぼくの名前。二つ目が上のおにいちゃん、三つ目が下のおにいちゃん、四つ目がおとうさん、五つ目がおかあさん、六つ目がおねえちゃん」 
                    「よくばりさんね。一人で六つも見つけるつもりよ」 
                    「ぼくが作る予定のしんはつめいの望遠鏡なら、六つぐらいすぐ見つかる。もし見つからなかったら、誰かにあとをついでもらって見つけさせる。それでも見つからなかったら、そのあとつぎが、きっと見つける。人間ってすぐ死ぬけど、星はずっと寿命が長いから、見つかるまで何百年でもきっと待っているよ」 
                    「まあ、気の長い話だこと」 
                     かよこちゃんが、大きな声で笑いました。つられてわたしも笑いました。かよこちゃんの弟も、最初は不きげんな顔をしていたのですが、最後には、いっしょになって、笑い出しました。 
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