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			  すり鉢の底にある深い池の縁を渡りながらブリムは説明した。 
			  「長老たちに聞いたことがある。この盆地ははるかむかし星のかけらが落ちてできたんだそうだ。洪水の時代の後になって一部の人間たちはここを聖地としてあがめた。無熱悩池という名はこの場所が世界の中心であることを意味するらしい」 
			  「なぜあがめる? 落ちてきたのは自分たちの暮らしを破壊してしまったものの一部なんだろ?」 
			  「ぼくに聞かれても困るな。たぶんそのあたりがほかの生物とはちがう人間の独自性なんだろうね。とにかく――やがて彼らがこの星を立ち去るとき一握りのノマドたちがこの地に残り永遠の涅槃の眠りにはいった。池のまわりに見えるこれらの像たちは植物と化して内部の人間を生かしつづけている一種のサポーターだそうだ」 
			  「そういえば来る途中、あちこちの廃墟でこれに似た座像を見たよ」 
			  「時代的にはそっちのほうが先なんだけどね。どうやら人間たちは自分の身体と宇宙の深い関連をこのポーズに感じていたらしいよ」 
			  「ふん、あきれた思い上がりってやつだ。人間の身体が宇宙とつながっているなんて」 
			   絡み合う根にのぼり結跏趺坐した巨大な人型をこつこつ無遠慮に叩きながらキーフは尋ねた。 
			  「なんだか腹がたってきたぞ。中にいる連中にひとこと文句を言ってやりたいな」 
			  「無理だろうね。はるか以前に意識も身体も森の木々と同化してしまっているはずだ。これもまた人が自ら選んで行き着いた道のひとつなのだろうけれど」 
			   気がしれないという様にキーフは鋏をふった。 
			  「ぼくはごめんだ。どう考えたってこんなの生きてるとは言えない。そう思わないか? ブリム、ぼくの言ってること間違っている?」 
			  「いや……言うとおりだと思う。天空の彼方に向かって旅立つかと思えば、一方で樹木と同化して永遠に夢も見ずに眠りつづける――たしかに人間たちのやり方はぼくらの想像を絶しているよ」 
			
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