「法螺之承!」
変声期前特有の甲高い声で袴をたくしあげた高下駄の少年は声をかける。その目には人気者に対する畏怖と羨望の輝きがあった。そりゃあそうだろう。法螺之承の勇姿は陰陽道指南松花堂塾だけに留まらず、その冒険と活躍は日の本はおろか南蛮異国のよい子共同組合が推奨し、わらべ文学史上まれに見る大ベストセラーとなっているのだった。塾内では大人しく普通の少年を演じている若き師範代が外に出るとサイン攻めにあっているとなれば、取り巻きの一人であっても羨ましくなるものだ。
「半左衛門か」法螺之承と呼ばれた少年がふてぶてしくうなずく。瞳は煌々、父親ゆずりの神通力を持ち、母親が命をかけて彼を守ったとき妖魔 玻璃魔灘 将軍に受けたという天下ごめんの向こう傷、ハート型の額のキズを前髪から少し見えるようにして取り巻き半左衛門をふりかえる。吹上法螺之承はこの傷を見せることが、半左衛門に限らず彼のそばにいるものにぼくだけが特別なんだ。ぼくだけが玻璃魔灘将軍に打ち勝つ力を持っているのだとわからせる最大の方法だと十分すぎるぐらい知っているのだった。
「法螺之承、番長と取り巻きが君を狙っていると噂に聞いたよ。君ぐらいの実力のものがそう容易く餌食になるとは思えないが注意した方がいい」
半左衛門は、法螺之承の怒りに触れないように注意深く言った。
「ふんっ、番長が何だというのだ? 半左衛門、ぼくの実力を知らないわけじゃないだろう?」
法螺之承は軽く呪のかかった竹刀を振り、馬鹿にしたように鼻で軽く笑う。そのとたん半左衛門の顔が赤くなる。びんびんと法螺之承のぎあまんビーズで作られた股間の戒めを感じる。法螺之承が座興に今流行りのぎあまんビーズで作ってあげたものを半左衛門が喜んでつけているのである。
「はい、ごめんなさい、ご主人様。わんわんわん私は犬です。惨めな奴隷犬です。ご主人様の力をわからず恐れ多いことを言いました。貴方様のお力ならばあんな番長でさえいちころであるのを忘れていました」半左衛門はぶるぶると快感に震えながら法螺之承の顔を見ていった。
「こんなところで変なことを言うな。まわりにどんな人が見ているのかわからぬのだぞ。とんかちめ場所を考えろ」法螺之承は自分でわざといましめの呪術を使ったというのに、さも嫌そうに舌打ちをして半左衛門を見る。そしてまた竹刀を軽く振り半左衛門にかけた戒めをといた。奴隷犬半左衛門の顔から普通の友人半左衛門の顔に戻る。
「すまなかった。法螺之承。君のことはもう心配しないよ」半左衛門は法螺之承と部屋が同じというだけでなく、夜の奴隷犬であることが他の者にばれていないかと注意深くまわりを見た。同室の友人と変な遊びで夜な夜な楽しんでいるとまわりのものにばれては今絶頂の法螺之承人気に差し障りがあるので日ごろから注意しているのだった。もしこれで一般大衆に法螺之承の変な趣味がばれて人気が落ちたら、法螺之承にどんなお仕置きをされるかと考えると恍惚を通りすぎて怖すぎて夜眠ることもできないのである。
「もういい。講議が始まる」法螺之承は半左衛門の思いも知らぬのか何事もなかったように次の教科を受けに陰陽料理術の教室に行った。
陰陽料理術の教室では嫌味な教師、 子知良 子知介 がいた。この男の教師は昔、玻璃魔灘将軍の奴隷であったのに、何を考えてか裏切りをし、正義の味方に仲間入りしたのである。それでも昔のことを思い出すのかそれとも法螺之承の美形に欲情しているのかときどきねちねちと嫌味な質問をするのである。今日も料理材料の一つである 馬 尻 好 蜥蜴について法螺之承に質問攻めをした。
それに対し法螺之承は、「馬尻好蜥蜴は人間を石にしてしまうので捕まえるにも注意が必要です。まず馬尻好蜥蜴を取る方法を説明します。馬尻好蜥蜴は下品な蛇なのでよく交尾しています。そもそも蛇の生殖器はへみぺにすというのが左右に二対あるのですが、馬尻好蜥蜴の場合雌雄同体で生殖器もオスメス二つあるので、二匹はたがいにはめあいます。なぜか上方では雄が左側、江戸では右側なので、関西ものは関西もの、関東ものは関東もの同士でないとうまくはまりあいません。それは長い長い交尾です。何時間もしているときもあります。馬尻好蜥蜴たちは交尾があまりに心地いいものだからついうっとりして目を開けておりません。だから人間はその間馬尻好蜥蜴に見られて石化することはありません。交尾の最中に気をつけて人間の気配がわからないようにそっと二匹の鎌首を手で掴みます。そうすることで二匹一度にとれ、比較的簡単に、陰陽料理の素材となるのです」と言って子知良子知介に回答した。
うむと子知良子知介はうなずいた。誠に蛇を知り尽くしている言葉である。もしかしたら法螺之承は蛇語がわかり世界中のすべての蛇に精通しているのではないかと思ったほどである。
こうして、あっけなく授業が終わると、法螺之承は、乱取り合戦をする。乱取り合戦とは呪術使いの男の子だけに許された競技である。それぞれの持つ金的を相手に握られて液体を出して果てたら、その男の子の負けである。誰もかれも法螺之承の金的を握りたくて、竹刀にまたがってやってくる。
「逃げろ! 法螺之承、ぼくらの法螺之承、君は人気者なんだよ。誰も君の金的なんて握らせてはいけないぞ」法螺之承を慕う少年たちが黄色い声援を送る。
法螺之承のような一流の陰陽師の金的を握り、液体を出したのなら、ただちに徳利に入れて、微細複製人間の材料にするのにとみんなが思う。そして天下の法螺之承の複製人間と夜な夜ないけないことをしてみんな遊びたいのである。しかし、法螺之承は運動神経抜群なので今までいろいろな男の子の金的は握ったことはあったが、一度も彼自身のものを握らせたことはなかった。もし、法螺之承の微細複製人間ができて、それをうまく活用したら、赤、青、黄色、桃色に緑の法螺之承微細複製軍団を造り世界征服も目じゃないのである。今までいろいろな悪の神通力使い結社が法螺之承の金的を目当てに昼夜を問わず刺客を差し向けたが刺客たちはことごとく法螺之承の強力な手でぐしゃと潰されて、おかま居酒屋に職種を転向するしかなかったのである。当然悪の呪術使い結社から法螺之承の金的を狙ったものは一人と帰ってくるものはなかった。
乱取り合戦の競技が終わると手ぬぐいを持った半左衛門が脱衣所で待っていた。その脱衣所の横には大きな五右衛門風呂があった。
「のぞくんじゃないぞ」法螺之承はだれにも裸を見せないのだ。競技が終わった後、ひとり風呂に入っているのである。法螺之承がくるくると下帯を解くと健康玉がふたつでできた。じつは法螺之承は玉なしだった。これでは乱取り合戦にまけるはずはない。法螺之承の気分のいい時にでる「オレは世界で一番の美男子」という主題歌が鼻歌で聞こえてくる。そして法螺之承の好きな薔薇の石鹸(美男子は薔薇が好きという理由から)と薔薇の頭髪洗剤&頭髪柔軟剤の薫りがほのかに漂っている。法螺之承が入浴するのはいつも一番である。それは何故かというと同じ乱取り合戦仲間の提案で、法螺之承の金的が握られないのなら、せめて法螺之承の汗がしみ出たお風呂で欲情を感じたいということなのである。
乱取り合戦仲間といっても、一人としてブサイクなのはいなかった。電気紙芝居の恋愛ドラマでも視聴者はより顔のいいものを見るのが好きだ。面食いといわれてもいい、イケメンの男とブサイクの男とならイケメンの方が視聴率があがる。げんに高級風呂敷を夫婦で買いにいって、その日のうちに歯をへし折ったと瓦版に書かれた歌舞伎役者がいたが、番組がつまらなくても看板役者がイケメンなので最初から最後まで高視聴率を稼いだという伝説がある。法螺之承も例外でない。もし万が一金的を掴まれることがあるのなら、ブサイクなのよりも顔のいいものに掴まれたいと法螺之承が松花堂塾長に言い、乱取り合戦に出ないとだだをこねたのである。塾長も法螺之承のおかげで、この松花堂塾がなりたっているようなものだから(法螺之承のことを書いた童書の印税だけで世界で二十の指に入る高所得になるのだから待遇も特別である)法螺之承の機嫌をとって、美男子ばかり集めたのだった。
「あ〜いい風呂だった」法螺之承は半左衛門から桜色の手ぬぐいをもらい浴衣に着替えた。法螺之承といれかわりに乱取り合戦の参加者が我先にと欲情をしに浴場にとびこんで行く。
ななつどき、天候が悪くなった。ひゅーひゅーと風が吹き、ごろごろと雷がなって、大粒の雨が降り始める。校庭には鈴蘭、大麻、朝鮮あさがお、はしりどころなど毒草がわんさかと咲く中、番長が法螺之承に戦いを挑んでいるのだった。番長のそばにはブサイクなザコが数十人、うっきーうっきーといってはしゃいでいる。番長は、先祖の体毛を練り込んだ学ランをきて、攻撃力が高まる下駄をはき、たばこかわりの葉っぱを咥えている。そして法螺之承の決闘に間違いがないように一か月も前から青天幕をはって待っているのだった。
一か月も風呂の入っていない姿は壮観であった。ひげはぼうぼうにのび、頭からはしらみがぽたぽた落ち、身体からはもう想像も絶するようなニオイがする。そして血走ったいいようのない目を法螺之承に向けている。
「どこかの粗品の皿を配るときのようにいじましく二度も三度も並ぶものはいないから、遅くからきても決闘はできるのに」法螺之承は少し気持ち悪そうに言った。そりゃあそうだろう。綺麗好きで人気者の法螺之承はしらみ飼いの男にいいよられるなんて、今まで一度も考えたことがなかったからである。気持ちが悪い。吐気がしそうなのを我慢して法螺之承は番長を見る。
「法螺之承、わいは貴方のことがずっと好きだった。ものにしたい」
口に加えた葉っぱはぴくぴく動く。番長が法螺之承の前で緊張しているのであった。
「馬鹿なことを……」法螺之承はますます気分が悪くなったが、それでも美男子らしくふっと冷たい笑いを浮かべる。
「お前をわいのものにしたいっ!!」番長は、下駄を法螺之承に向けて投げた。ストーン、下駄が法螺之承の元に行く。あわや法螺之承の股間に当たるかと思うと、法螺之承の鋭い目を受けただけで下駄は勢いを失いとぼとぼと落ちていく。
「無駄な攻撃だ」法螺之承はまだ冷たく笑っている。
「ええい子分ども法螺之承に挑みかかれっ」番長は全員玉砕覚悟で叫んだ。
ざこがきゃきゃきゃと叫びながら、法螺之承の近くに寄っていく。だが、法螺之承が超絶神通力を発揮する前に、その美しいまなざしを受けただけで、じゃーと小便を垂らしてなえていく。
「ううむ、これならどうだ」番長はきていた学ランを脱ぎ、じゅばんを脱ぎ、ふんどしを外して、すっぽんぽんになった。
「これがわいのすべてだ。裸になるほどお前を愛しているのに、どうしてお前は愛してくれないのだ」番長は、力の限り股間のものを高くして法螺之承に向かっていく。
「うーん、むかつく!」法螺之承は、軽く竹刀を振るった。
「ひえええええ」番長のいちもつがぽきんと折れ、溜りに溜った金的がぱちんとはじけとび、中身がにゅるっと流れだす。哀れ番長は去勢されてしまった。
「もう、さいてー」なぜか女学生言葉でそうつぶやくと法螺之承はころがってきた番長のダイコンぐらいあるいちもつを気色悪るげに高下駄でぐっちゃぐっちゃと踏みつぶした。
ひゅるるるるる、風が吹き、ざあざあざあ、雨が降り、番長のいちもつはダイコンおろしとなり雨と共に下水道に流れていく。
夜食後、法螺之承と彼の友人であり奴隷犬である半左衛門と部屋で濃密な時間を過ごすのであった。
「法螺之承さま、締めつけられて千切れそうですう」半左衛門は自分ものがびんびんになってぎあまんビーズが食い込んでいるのを椅子の中から苦しい姿勢で法螺之承に報告する。
法螺之承に自分の誕生日に何が欲しいかと聞かれて、法螺之承にいつも締めつけられているようなものが欲しいと言ったのである。そうすると法螺之承は苦笑し、とりまきをつけずに半左衛門のために、陰陽手芸店で行って120Reaの透明ビーズを2つと100Reaの青いビースを買ってきて、神通力テグスで編んだのである。男の子にしては珍しい趣味である。そして股間にキラキラと光る海と空の輝きのような呪術ビーズを作ったのであった。呪術ビーズには呪がかけられていて半左衛門が法螺之承のことを考えて大きくなるたびに、ビーズはきりきりと締めつけ、半左衛門に屈辱と快楽を与えるのである。半左衛門は快楽と苦痛とともに法螺之承の帰りを待っているのである。
だが今日はどうしたわけか、法螺之承は半左衛門をさいなむつもりになったようである。上流武家社会の子弟にだけ許される上品な趣味である人間座椅子遊びをしようと半左衛門を無理矢理座椅子のなかに押し込んだのだ。半左衛門の緊張を感じながら薄笑いを浮かべる法螺之承。そして半左衛門の顔に背中をおしつけて自分のかぐわしい体臭を思う存分嗅がすのだった。半左衛門は法螺之承に命じられここ三月あまり出すのを禁じられているのだった。
「ああ、ご主人様。お許しを…」
「何をだね」法螺之承は優しく聞いた。半左衛門が何を言いたいのかよくわかっているのだった。じらせばじらすほど奴隷犬は恭順になるのを知っているのである。わざと深く腰掛け体重をぎゅうぎゅうかけて半左衛門を興奮させている。
法螺之承は綺麗好きで自分の身体や部屋が汚れることを嫌う。だから半左衛門は座椅子の中で奴隷犬として、ご主人法螺之承が座る快楽に酔っているにも関わらず、もらすことを許されていないのだった。
半左衛門は座椅子の外に出て瓦版紙の上ではじめて出すことが許されているのだった。
法螺之承は、半左衛門の欲情を知りつつ、じらしている。法螺之承はわざとくるくるっと形のいいお尻を揺らした。半左衛門の熱い息が布地の中から背中にあたるのを感じる。
限界まできたとき、法螺之承は座椅子から立ちあがった。中から半左衛門がころころと出てきた。そしてそそくさと床に瓦版紙を敷き、二・三度自分のものをこする。ねばぁ〜と白い液体がでて、あらかじめ置いていたちり紙でそれを拭く。拭いたら法螺之承に見つからないように捨てに行く。法螺之承はねばねばが嫌いだった。
法螺之承は哺乳瓶を持って厠に入った。そして哺乳瓶に黄色い液体をいれたものを「ごほうびだ」と言って渡した。
半左衛門の瞳がうるうる潤む。「ご主人様、奴隷犬にこのようなものを与えてくださりまことにおありがとうございます」昔は法螺之承の一物を直接受けとめることを半左衛門は願ったのだが法螺之承に却下され、それでも涙を浮かべてねだる半左衛門の熱意に打たれて、法螺之承の代案で、一滴残すことなく飲むことを条件に、哺乳瓶に入れてごほうびとしたのである。
「大事にしろよ。半左衛門。それがなくなるともう哺乳瓶買ってやらないぞ」と法螺之承は一心不乱に飲む半左衛門に言った。
ごくごくごく半左衛門を涙を浮かべながら飲みつづけている。こうして二人だけの時間は過ぎていくのである。
真夜中、法螺之承が寝ていると、耳元で何かが囁く音が聞こえてくる。何かと思ったら、妖魔玻璃魔灘将軍が復活しようとしているのだった。玻璃魔灘将軍こそ、法螺之承の天敵である。法螺之承の陰陽竹刀と同じ品物を使い、法螺之承と同じ神通力を持っていると言われている。法螺之承は緊張で厠にいった。玻璃魔灘将軍との大事な戦いに、おもらしでもしてしまったら末代までの恥だと思ったのである。法螺之承は念には念を入れて、装束を点検し、竹刀が折れていないか確めた。横でぐっすり寝ている半左衛門を見て、準備万端なのを確めて、玻璃魔灘将軍との戦いに出かけていった。
かあかあかあ、闇夜にカラスが飛ぶ。後ろにはさまざまな死人を入れた棺桶が立っている。しかし棺桶の中で眠る死者たちはいない。妖魔玻璃魔灘将軍の妖力で、 存媚 となった死者たちが見ているのだった。
「今度の見物客は存媚か」玻璃魔灘将軍の漆黒の目をじっと見る法螺之承。今までいろいろな男の子をからかってきたが、さすがに同等の神通力を持つ玻璃魔灘将軍には法螺之承も余裕がないみたいだった。
法螺之承は竹刀を振る。同時に玻璃魔灘将軍も竹刀を振る。ばちばちばち、両方の竹刀の効果で、あたりは磁場を持ち、空間が歪む、次元がおかしくなっているのであった。
「法螺之承、もっと神通力を使え、そうすればいろいろなことがわかるぞ」玻璃魔灘将軍は声を高々と張り上げ、呪術を使うように促す。
法螺之承は玻璃魔灘将軍を倒そうといろいろな呪術を使う。玻璃魔灘将軍も負けじと同じ呪術を使う。更に磁場が乱れ次元の歪みが激しくなる。もうどこかの空間が口を開けそうな感じである。
「法螺之承、それ以上呪をかけてはいけない」草原から飛び出してきたものがいた。法螺之承の友人兼奴隷犬半左衛門である。法螺之承は少し驚いた顔をする。哺乳瓶の小便に睡眠の呪をかけたというのにその効果がなかったのか。あるいは半左衛門が昼間陰陽料理術で食べた馬尻好蜥蜴の毒で中和されたのだろうかと法螺之承は思った。
「それ以上神通力を使うと次元の扉が開かれてしまうよ」半左衛門は法螺之承の竹刀を力強く押さえた。
「うるさいっ」妖魔玻璃魔灘将軍が半左衛門に呪術を使う。半左衛門の大脳を破壊して鶏頭にしようとしたのだった。それでも半左衛門は馬尻好蜥蜴の毒に守られてか、法螺之承に断固神通力を使わさないように身を挺しているように見える。しかしやがて半左衛門の動きがとまった。足が石になっているのである。昼間食べた馬尻好蜥蜴に当たったのであった。塩焼きにして完全に焼けば、すべての呪いをはねかえす薬になるが、もし生焼きの部分を食べたのなら、馬尻好蜥蜴の毒が当たって石となるのである。
「ご主人様さようなら、愛していました」あわれ石の彫像となる前にしゃべった奴隷犬半左衛門の最後の言葉であった。
どれぐらい時間がすぎただろうか。法螺之承は肩でぜいぜい息をしている。神通力が同等のものの戦いでは経験が物を言う。法螺之承がいくら人気者とは言え、妖魔玻璃魔灘将軍の敵ではなかった。
「法螺之承、わが息子よ」妖魔玻璃魔灘将軍は、低く地の底から響くような声で法螺之承に向け言った。
「嘘もたいがいにしろ」法螺之承は少し動揺した。そりゃあそうだ。今まで死んだと思っていた父親がこともあろうに、世界で一番悪い奴である妖魔玻璃魔灘将軍なのだから、こんな噂が世間に広まったら今までの超然絶後の人気は消えてしまい、嫌われ者の烙印を受けてしまうではないか。そんな噂が広まらないうちに妖魔玻璃魔灘将軍を滅ぼすに限る。法螺之承は、最後の力を振り絞って竹刀を高くあげて雷を呼んだ。
ばりばりばり、雷は近くの大木に落ち、めらめらと炎を出して燃え上がる。中から暗い穴が開く。次元の空間がついに開いたのだった。
「やるな。法螺之承、それでこそ息子だ」妖魔玻璃魔灘将軍はにやりと笑った。
そして亀甲縛りの呪術を使う。ぎりぎりと禁断の神通力を使われ法螺之承は身動きできない。そして妖魔玻璃魔灘将軍はおもむろに服を脱ぎ、法螺之承に近づく。法螺之承は身動きがとれないので美しい顔を醜くゆがめて妖魔玻璃魔灘将軍をにらみつけている。
「ほら、やっぱり思ったとおりだったわ」法螺之承をすっぽんぽんにしてから妖魔玻璃魔灘将軍がなぜか女の声でしゃべった。驚く法螺之承を妖魔玻璃魔灘将軍は、慎重にことがはじまるようにまず乳首からきゅっきゅっと愛撫する。
「妖魔玻璃魔灘将軍とは、父親にして母親、私たちはあなたの両親であったの。そしてあなたを生み出すために力を使い果たしてこうしてしばらくの間黄泉の国の住民として暮らさなければならなかったの」
「あはん、くすぐったい」
法螺之承が女言葉で言い快感を感じて腰をひねるとにょきっといちもつが伸びた。しかしその形は人間のそれではなく馬尻好蜥蜴のように雌雄同体であった。
「じっとしていろ。おとうさん、おかあさんが悪いようにはしない」妖魔玻璃魔灘将軍は法螺之承の先をやっぱり同じような形の自分の女陰にいれ、法螺之承の女陰に自分の男根を入れる。ふたりは関東もの同士で相性ばっちりであった。そしてゆっくり腰をゆらす。
「今まで、あなたが何者にも満足しなかったのは蛇と同じように、二つのものを誰も持っていなかったからなの。そして二つのものを持っているおとうさん、おかあさんこそ、あなたを本当に幸せにし、そして頂点まで高めることができるわ」ゆっくりゆっくり、雛鳥を守るように、法螺之承の両親たちは子供を最大まで高めようとしている。
「ああああ……」法螺之承は両親の巧みなリードで今までにない物凄い快感を感じていた。そして快楽が頂点まで達した時、妖魔玻璃魔灘将軍の中に大量の体液を放出した。
「これで生まれることができる」妖魔玻璃魔灘将軍は笑った。
そして妖魔玻璃魔灘将軍は、法螺之承との戦いでできた次元の穴にはいり過去の世界に旅だった。
童貞と処女を同時に失った法螺之承が自分のものを見ながらぼうぜんと座り込んでいた。
どれぐらいたっただろうか。法螺之承は考える。妖魔玻璃魔灘将軍とつながっている間、妖魔玻璃魔灘将軍の額にハート型の傷の薄い跡を見たことを思い出した。それで法螺之承はすべてを悟った。妖魔玻璃魔灘将軍こそが自分で、自分自身だけを愛しているために、果てしなく現在と過去を循環して自分ひとりだけで生殖していたのだ。そしていつか自分が妖魔玻璃魔灘将軍となり、過去にもどってふたたび自分自身である法螺之承とまじわって子供を生むときがくるのだ。自分こそ時間が続く限り自分だけを愛するすべてなのだ。
太陽が東から昇っていく。太陽の光をあび、法螺之承の顔が神々しく輝き、笑みが漏れる。法螺之承にとって最愛の対象を見つけたすばらしい一日のはじまりだった。 |