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BookReview


星虫

『星虫』
ISBN:4-257-76907-6

岩本隆雄著/鈴木雅久画

レビュー:[雀部]&[増田]

朝日ソノラマ 571円 2000/6
 宇宙飛行士を夢みる友美は高校生。模範的な優等生を演じるその裏で、体を鍛え飛行士になるのに必要と思われる勉学に励む女子高生だった。ある日友美は公園で流れ星に遭遇する。しかしその輝く小さな星は、友美の顔に突進し額の中央に居座ってしまう。この現象は世界中で報告され、ほとんどの人がその<星虫>を額に付けることになった。それはホストの感覚を増大させ、神の贈り物とまで呼ばれるが、やがて巨大化するにつれ、人々に拒絶されるようになる。ホストに拒絶されると<星虫>は、あっけなく額から転げ落ちその生命を終えるのだった。



[増田]  今回は岩本隆雄著『星虫』です。
 十年前に文庫が発売ということは、ちょうど『日本人初の宇宙飛行士!』と騒 がれていた頃なんですね。
 1985年に NASDA のスペースシャトル搭乗員(ペイロード・スペシャリスト)と して毛利さん、向井さん、土井さんの三人が選抜され、1990年には日本人初とし て TBS の秋山さんがロシアのソユーズで宇宙へ。考えてみると、日本人にとって 宇宙が『夢物語』ではなくなった時代の転換点なんですよね。スペースシャトル のパイロットに初めて女性が選ばれたのもこの頃ではなかったでしたっけ。
 舞台は21世紀初頭で、その十年前に『日本人女性がミッション・スペシャリ ストとして宇宙へ行った』と書かれてますから、これは向井さんのことなんで しょうけど、向井さんってミッション・スペシャリストでしたっけ? ペイロー ド・スペシャリストだったような記憶が……(^^;)。
[雀部]  '94/4月にコロンビアで、宇宙へ初飛行ですね。ということは、設定は2004年なのかな。
[増田]  宇宙へ行ってみたいという人は結構大勢いるんですよね。こういうタイプの SFが読まれる理由のひとつでもあるでしょうし、宇宙開発の情報がニュースに なる理由でもあると思うのです。でも、考えてみると、ほとんどの人は物見遊山 と同じレベルで宇宙へ行くということを夢見ているのではないでしょうか。 ちょっと遠めの外国、という感じで。私だってそうです。
[雀部]  あ〜、確かに私も(^_^ゞポリポリ  というか、SF&宇宙少年でしたからねぇ。宇宙への憧れは、もはや刷り込み 状態とでもいうべきか。ブラウンの『天の光はすべて星』を読んだときは、狂喜 乱舞しましたとも。
[増田]  実は先日、宇宙開発事業団が主宰した、若田宇宙飛行士帰国報告会に行ってき たのです。ご存じのように若田さんはスペースシャトルのミッション・スペシャ リストで、国際宇宙ステーションの建設ミッションに参加し、2000年末に地球へ 帰還したばかりです。
 その報告会の中のトークショーで、「宇宙へ行くにはどうすればいいか」という質問が出たのですが、若田さんは「身体さえ健康なら誰でも宇宙へ行ける時代 がすぐに来る。でも、何のために宇宙へ行くのか、宇宙へ行って何をするのか、それを考えてほしい」と答えておられました。
 若田さん自身は、自分が宇宙へ行く事で世界のために働けると感じて、宇宙飛行士を志願したのだそうです。
 ただ「行きたい」という信念も大事なのでしょうけど、宇宙へ行って自分に何 ができるのか、それも大事ですよね。
[雀部]  基本的に岩本さんは、愛と信頼を描く作家だと思いますが、増田さんは どう思われますか。設定は、SF風なんですけどね。

 『鵺姫』の場合はそれがちょっと裏目に出て、ラストあたりは無理矢理 こじつけたような感じも受けました。
[増田]  SF風ではありますけど、厳密にはSFじゃないような気がします。いや、どこが どうとか訊かれても困りますが、科学技術とか、独自の理論体系とか、いわゆる 「SF法螺」(^^;)は見当たらないですよね。むしろこの感覚はファンタジーだよな とか思いながら読んでました。それとも、ライトノベルを意識したんでしょう か? 私は新潮社版は読んでないのですが。
[雀部]  厳密じゃなくてもSFじゃないかも知れません(笑)科学常識を無視しているとこ ろと、こだわりを見せているところと両方ありますが、それが一貫しているので落 ち着いて読めます。SFやミステリで一番重要なのは、内部整合性だと思うので。 (その本の中で、話の内容に矛盾がないこと。自分で持ち出した設定をあっさり覆し ちゃうライトノベルもあるからなぁ)
[増田]  愛と信頼については、もちろん重要なテーマではあるのですが、それだけで終 わってたらお粗末です。筆致が露骨過ぎて鼻につく事もあるかもしれません。 「星虫」だけについて言えば、もっと極限状態でのそれを突き詰めてほしい気も しました。まあ、これは極めて主観的で個人的な好みの問題なんですけど……。
[雀部]  あ、もう一つありますね。それは、運命(定めと言ってもよいかな)
 この三部作を読むと、もう主人公たちの行動は、最初から決定づけられている印 象をうけますよね。
[増田]  何だか決定論的ですよね。好き嫌いはあると思いますが、私は嫌いではありま せん。ただ、読んでいて少しばかりペース配分が狂っている気がしました。ス タート部分をもう少し長くして、中盤をもう少し短めにすれば読みやすいのに な、と。
[雀部]  あ、私も好きです、決定論者(^_^ゞポリポリ
 赤い糸で結ばれた二人とかね。
[増田]  『鵺姫真話』は逆で、スタート部分をもう少し短めにして、中盤をもう少し長くしたらよかったかも(^^;)。
[雀部]  あ、それは同じです。戦国時代での活躍というか謎解きをもう少し精緻にやってくれると嬉しい。またそれが『星虫』のラストにも通じるし。

 で『星虫』が受け入れられるかどうかは、流星が額に張り付いて、しかもそれを 多くの人がそのままにしているという出だし。私は特に気にしなかったんですが、 ふつーそんなもんがおでこに張り付いたら速攻で取っちゃいませんか(苦笑)
 ここをクリアしないと、読むのが辛いでしょうね。
 増田さんはどうでしたか?
[増田]  額に張りついたゴマみたいなもんじゃないでしょうか(^^;)。特に害がなく、他 の人も付けていて、自分の身体能力を向上させてくれるとなれば、無理矢理取ろ うとする人は少ないかもしれません。こういう事は案外、『他の人がどうか』で 決まっちゃうと思います。他の人が付けているなら自分も付けている、他の人が 取ったら自分も取る、と。
 ただ、私が読んでいて、雀部さんがおっしゃるような部分に『ジュブナイル 的』な都合の良さを感じてしまったのも事実(^^;)。良きにつけ悪しきにつけ、と いう意味でですが。
[雀部]  いや、身体能力の向上ってのは、一晩つけた翌朝に判明したことだから、ついた 当初はそりゃ気になったに違いないと思いますがヽ(^o^;)丿
 こういうのは、以外に映画とかドラマの影響が無視できないと思います。『ET』 が大ヒットしたすぐ後だと、ついたまま放置する人が多くて、『マーズアタック』と か『インデペンデンス・ディ』の後だと速攻で取る人が多かったりして(笑)

 『星虫』が感動を呼び覚ます一つは、やはり自己犠牲というか、主人公の二人の健気さですよね。なんたった日本人の弱いところを知っていて書いている(笑)
 「宇宙戦艦ヤマト」がヒットしたのも、人類のために死んでいく主人公たちの姿があったからでしょう。時々復活したけどね(爆)
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[増田]
本紙主任編集員。本業はフリーライター。どちらかというとファンタジー派。

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