『〈骨牌使い〉の鏡』 五代ゆう著 レビュー:[雀部]&[おおむら]& |
富士見書房 | 2300円 | 2000/2 |
商業都市ハイ・キセレスの骨牌使いアトリは時折、奇妙な夢を見る。それはいつも暗い夜にアトリの上に訪れ、涙を流す。その夢は、これから始まることの予兆に過ぎないのだった。花の祭の日、アトリは〈斥候館〉でロナーと名乗る流れ者の剣士と出会う。彼を占ったアトリが見たのは、死と破滅を意味する骨牌〈月の鎌〉だった。果たして、ロナーと名乗るこの男は何物なのだろうか? ロナーの言う「お前は十三番目なんだ」という言葉の意味とは? アトリの長い長い旅が始まろうとしていた。 |
[おおむら] | 最初、タロットをモチーフにした話だよということを聞いていましたので、それが結構念頭から離れませんでした。でも、話を読み進んでいくうちに、あまり考えなくても楽しめることに気付きました。 |
[雀部] | いやぁ、五代さんてかなり達者な方ですよね。始めの方の<斥候館>に招かれて<骨牌>占いをやるシーンくらいから、ぐいぐい引き込まれていきませんか? それに続くアトリが拉致され、ロナーに再会して<異言>たちに襲われるところもストーリー展開の妙を見る感じです。 |
[おおむら] | 話の導入部分ですからねぇ。その通りだと思います。 ただ最初の思いこみが強いといけないという悪い読者の例ですねぇ ^^;;; それにしても、タロットを元にしたという<骨牌>はよくできてるなと思いました。実際にあれで占おうとしたら大変でしょうけどね。タロットも78枚全部じゃなくて大アルカナだけだとあいまいになりますよね。 |
[増田] | 私は何でも連想しながら読み進めていくのですが(興醒めな奴だ(^^;))、今回読んでいて思ったのは、タロットのカードをそれぞれの登場人物に対応させるという手法はまるで『ジョジョの奇妙な冒険だな』ということなのでした(^^;)。 |
[おおむら] | そうですね。『ジョジョ…』と似てはいますね。ただあちらはあまりカードの意味に忠実でなかったのに対して、『骨牌』はかなりカードの意味が立っていました。 |
[増田] | で、本来のタロットと『骨牌』の対応などというものも考えながら読んでいたのですが、 『石の魚』→ The Fool / The Magician? 『十三』→ The Fool / Judgement 『塔の女王』→ The Empress / The Tower 『青の王女』→ The High Priestess 『鷹の王子』→ The Hierophant 『円環』→ Wheel of Fortune 『樹木』→ The Magician / The Hermit 『月の鎌』→ Death / The Devil 『傾く天秤』→ Justice 『王冠の天使』→ The Emperor / The Sun 『火の獣』→ The Chariot というところまではわかったのですが、『はばたく光』と『翼ある剣』が印象も薄いせいかわかりませんでした(^^;)。 『塔の女王』は名前からすると The Tower なんですが、司る力は幻覚であって破壊じゃないんですね。The Empress の逆位置が『気まぐれ』を表わす事もあるそうですし、それに The Moon の逆位置を加えると『塔の女王』になるのかもしれません。 『鷹の王子』は初めは The Emperor かと思ってましたが、むしろそれは『王冠の天使』にふさわしいでしょう。 |
[おおむら] | 私は最初増田さんに『円環』は Wheel of Fortune だと聞いていたのでそのつもりで読みはじめたのですが、むしろ
The Empress ですね。『樹木』とふたつして世界を生み出すところから、母性を象徴するカードだなと。 それに、『月の鎌』の The Devil もちょっといただけないかなと。生命に最後の審判を下す Judgement の方がふさわしいのでは?The Devil は非常にクリエイティブなカードなんですよ。 『塔の女王』は The Moon でしょうね。眩惑的なところとか。 『青の王女』は守りのイメージですよね。そういう意味では The Star かなとも思ったんですが。 『十三』→ The Fool、『樹木』→ The Magician はそのとおりじゃないかなと思います。 それにしても、用語でもタロット使いにとってニヤリとするようなものがありますね。 逆位は逆位置だし、パス(小径)は大アルカナを生命の木に対応させたとき、パスがそれに相当することなどありますね。 主要な登場人物たちがそろいもそろって秘密を持っているというのも、またカードの秘儀的なところを連想させてくれて、うまく使っているなぁという感じがします。 作中、異言(バルバロイ)という言葉がでてきますが、どうやらこれもある種の専門用語みたいです。(タロットではないですが) 冥想などを続けているうちに、ある時期に突然なんでもわかったような気分になってきて、しかも口が勝手にわけのわからない言葉をしゃべりはじめるという現象があるらしいです。そのことを異言と呼ぶそうです。 |
[雀部] | またまた分からな〜い(泣) Somaさんあたり、解説してくれないかしら(お頼りモード^^;) |
[Soma] | え〜っと、タロット・カードは一般に、メジャー(大)・アルカナと呼ばれる22枚の絵札と、マイナー(小)・アルカナと呼ばれる56枚のカード、合わせて78枚1セットで構成されています。 (特殊なもので65枚1セットとか、90枚以上のセットなども存在します。) |
[雀部] | なるほど。そうすると<骨牌>に出てくるカードは、この大アルカナに相当するわけですね。アトリが「お前は<十三番目>なんだ」と告げられて愕然とする場面がありますが、となると厳密な対応は元々無理なわけですよね。 |
[Soma] | その辺りは、読まれた方でないと分からない部分ですね。 いわゆるタロットの枠にはまらない「占いカード」っぽいものも、実際には、けっこうありますからね。ただ遊びっぽくなくて、秘教的と言うか神秘的と言うか、深くまで入りやすいのはタロット色の強いものでしょうから、とりあえずは、そんなものを想像してしまいました。 その78枚の中に、『0』という番号を与えられた『Fool』という1枚があります。 夢見る旅人、あるいは道化といった姿で描かれてきたこの『Fool(愚者)』は、純粋で無垢な、私たちの魂のシンボル。メジャー・アルカナには、この『Fool』の魂の旅が、美しい寓意画で描かれています。旅の途中で彼は、『魔術師』や『女司祭』に出会い、『愛』を知り『運命』の変転や『死』を体験し、変容の旅はやがて、天空の世界へ宇宙にと続いていくのです・・・、と、まぁこんな感じかな? |
[雀部] | ふむふむ。この『0』番目のカードが、タロットでは主人公であると・・・ |
[おおむら] | 十三は見えないとかなんとかという別名がありますが、おもしろいことに、愚者のカードは古くは番号がふられていませんでした。で、大アルカナの最初に持ってくる人もいれば、22枚目のカードとして扱うひともいます。中には21番目という中途半端なところに置く説もあります。 |
[Soma] | ついでですが、『Fool』はトランプのジョーカーに当たります。実際、『Fool』というタイトルが『Joker』になっているカードも存在します。まぁ、カワイイだけの主人公ではないってことです。(だって、ババなんだもん。) マイナー・アルカナは、現在のトランプの元となったとも言われ(これには異説もあります)、トランプのクラブにあたる、ワンド(棒・火の象徴)、ハートにあたるカップ(聖杯・水の象徴)、スペードにあたるソード(剣・空気の象徴)、ダイヤにあたるペンタクル(五芒星・大地の象徴)、それぞれ14枚×4で56枚の構成が、一般的です。(これも色々あるんですよ・・・。) メジャー・アルカナが『Fool』の辿る魂の大きな旅(道)ならば、マイナー・アルカナは、小さな旅(道)とも言えます。 |
[雀部] | こっちは、人生における個々の事件にでも対応すると考えて良いんですね。 |
[Soma] | おおむらさんの書いてらした「径」は、カバラの「生命の樹」との対応を言ってらっしゃるのですが、この辺りのことは、魔術とかカバラの本を読んでくれ〜〜〜と、投げ出してしまいたい。 m(_
_)m |
[おおむら] | 生命の木は10個の球体(セフィロト)とそれをつなぐ22本の小径からなっています。セフィロトは小アルカナの数札にそれぞれ対応していて、22本の小径は大アルカナに対応しています。タロットにおける心の旅というのはこの生命の木を上から下に流れていく状態の事をいいます。魂の進化という意味ではこの経路を逆にたどっていくんですけどね。 |
[Soma] | ちなみにアルカナは、私の理解する限りでは、「秘儀」とか「秘密」とかって意味らしいけど、詳しいことは??? |
[おおむら] | arcana はラテン語で秘儀の意味です。ちなみに、メジャー、マイナーも本来は major, minor
というラテン語です。 |
[Soma] | 当たり前すぎて書き忘れましたが、タロットカードの1枚1枚は、それぞれの意味を持ち、私たちのハートに、神秘的とも言えるメッセージを語りかけてきます。 タロットを単なる未来予測の道具として使う人、メディテーションのツールと考える人など、つき合方は人それぞれです。でも、そこには神話やファンタジーの世界に通じる、潜在意識を揺さぶり感動させる何かがある、と感じています。 |
[雀部] | Somaさんも占いをするときには、カードが示唆するものを一つの流れに構成して語られるのでしょうか?この本の中では、語ることは、原初の創造を小さな規模で真似ることとされ、占う相手の未来という世界を一つ創造することになるとされています。 それが善き未来であれ悪しき未来であれ、骨牌使いは自分の語った物語に責任を負わねばならないし、行く手に悪しき未来が待ち受けてるにしても、語ることによってそれを変えることが出来るし、また変えられるように努力するのが、真によき骨牌使いなのだと教育されるとか。 Somaさんも悪いカードが出たら、それをなんとか善い方向に向けられるような語りをされるんでしょうね。なんか素敵だな。 |
[おおむら] | タロットってそういうものじゃないかなと思いますよ。カードが指し示す状況は占う寸前までの状況をそのまま続けたこうなる、というもので、占った瞬間から状況は変化していくことになります。だから、質問者にははまりやすいとろ、改善すべきところを教えることで、状況を良い方向に変化させてあげることはできると考えますね。 # 時々どうしようもない展開が出ることもあります。 # 遊びでやると、大抵、カードにおこられます ^^;;; |
[雀部] 48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。 ホームページは、http://www.sasabe.com/ [おおむら] 同人作家。ホームページは http://www.t3.rim.or.jp/~yutopia/ [Soma] タロット・リーダー タロットとの出会いは14才の時。 偶然手にとったタロットを好きになり、ずっと触れていたいとプロに。 いつの間にか、20年近い月日が過ぎていました。 タロットの色々な魅力、カードに触れる瞬間の、シンプルな喜びを感じてもらいたいと、今回のレッスンをイメージしました。 心斎橋アメリカ村『占い空間イマジン』にて、もちろんリーディングもしています。 [増田] 本紙主任編集員。本業はフリーライター。どちらかというとファンタジー派。 |
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