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BookReview


鵺姫真話

『鵺姫真話』
ISBN4-257-76912-2

岩本隆雄著

レビュー:[雀部]&[増田]

朝日ソノラマ 571円 2000/8
 星々の世界に生き残る術を見いだそうと始められたプロジェクトシティ。近視というハンデのため、そのプロジェクト・スタッフ養成学校試験に落ちた川崎純は、故郷の高牧市の高校に帰ってきた。純の祖父が神主をつとめる姫森神社のご神木は、樹齢四百年の楠で、地元では二十五年の寿命と引き替えに願を掛ければ願いが叶うと信じられていた。
 ある日、境内で少年が巨大な女の生首に追いかけられているのを目撃した純は驚いた。まさにその様子は、代々伝わる絵巻物に描かれた鵺姫伝説の一シーンのままだったのだ。その少年もろとも、戦国時代にタイムスリップしてしまった純の運命や如何。



『イーシャの舟』
ISBN4-257-76919-X
C0193

岩本隆雄著
草なぎ琢仁イラスト

朝日ソノラマ 619円 2000/11/30
'91年に新潮文庫から出たものの大幅改訂版
粗筋:
 銀色に輝く宇宙島。直径1km、長さ3km、三万人の移民を受け入れる予定のコロニーにある立入禁止の植物保育地区。その深い森のなかに設えられたガラクタで一杯の四角い空き地にぽつねんと建つ倒壊寸前のほったて小屋、その謎解きの物語がいま始まる。
 天の邪鬼伝説が色濃く残る<入らずの山>。産業廃棄物処理場が作られることになったその場所で、工事責任者の加賀山和美は、途方に暮れていた。
 側溝に脱輪した彼女の傍らを通り過ぎようとした車に乗っていた大男宮脇年輝に助けられた和美は、彼に工事現場の落としたノートパソコンを拾ってきてくれるように頼んだ。まさかそれが原因で天の邪鬼に取りつかれようとは、神ならぬ年輝に知る由もなかった。

[増田]  今回は前回に続き、『鵺姫真話』を取り上げたいと思います。

 まず読んで思ったのは、地域伝承とか、そういう伏線の張り方、あるいはストーリーへの取り込み方がうまいな、ということです。
 初めに説明される『鵺姫』という存在はいわゆる祟り神であり、奉らないと祟るから奉っているという設定なわけですが、そういう神社っていっぱいあるんですよね。太宰府天満宮とか。そういうところに着目してストーリーを作っていくというのは、『日常』の中に『非日常』を引き込む手段として、とても良くできていると思います。
 それに、時間差の使い方もうまいですね。まさるのタイムトラベル前の場合なんか、書いていない事が逆に伏線になってます。ラストが近くなって遅まきながらようやくそのことに気がつき、しばらく考えてから納得しました。本当に「やられた!」という感じです。これはよくできたミステリーを読んだ時に感じる感想と同じものです。作者にしてやられた、と(^^;)。
[雀部]  プロなんだからこれくらいは当然 :-)
 読んでいて一番心配したのは、首だけで飛び回る鵺姫さま。この怪奇現象をいかにSFの枠内で処理できるかどうか^^;
 で、まあまあ無難に辻褄をあわせていると思うけど、SFとしてはやはり変よねぇ。でもそのSFとファンタジーの境界線あたりを、独特のストーリー展開で読ませるのが岩本さんの持ち味だと理解しているので、深く追求はしません(笑)
[増田]  一つ疑問を感じたとすれば、それは、あえて『星虫』の続編とする必要はなかったのではないか、ということです。三部作とすれば体裁はいいでしょうし、また主人公の挫折が冒頭に必要だったのかもしれませんが、そうしなければならないほどの必然性は感じませんでした。この辺は雀部さんも同じですよね?
[雀部]  そもそもタイムパラドックスを持ち出してきてまでSFにする必然性を感じませんよね(^o^;)/
 この『鵺姫真話』だけが、改作ではなくて全くの新作なわけで、二つの作品を無理なく繋ぐ役割を担っていると思います。そのせいか「あ、実はあの登場人物はこういうことになっていたのか〜」と驚く(もしくはニヤリとする)ような設定があちこちに見受けられて面白いんですが、読んでいる間中、なんか無理しているなぁという感じを受けました。
[増田]  まあ、タイムパラドックスの話はSFとしてではなく読み物として見れば面白いしよくできているとは思いますが、こじつけてるよな、というのは感じました。

 鵺姫さまの設定は、最終的には失敗だったんじゃないかとか思ってます(^^;)。あれ以外にいい設定を考えろとかいわれたらできませんけど、何だか、鵺姫さまの正体とか、あの辺だけ浮いているような……。
 他の部分がよくまとまっているだけに、余計に目立っちゃいますね。
[雀部]  やはり増田さんもそう思いましたか(笑)
 女子高生版『闇よ落ちるなかれ』にしたほうが、主人公の魅力がもっと出せたと思います。戦国時代で、疫病を防ぐために死者の始末をするところなんか、もっと書き込んでも良いくらいですし(私が医学関係者だからかも知れませんが)
 ここらあたりのストーリー展開はどう感じられました?
[増田]  実際に存在する有名な伝説なんかをモチーフにしたら、面白かったかもしれません。佐々木高綱の羅生門での鬼退治、平将門など。時代が古すぎか(^^;)。
 とにかく、着想は良かったのに、いかにも軽〜くオチてしまったのが残念です。
[雀部]  そうですね。軽いのはあながち欠点とは言えないのですが、書き込み不足の感は否めませんでした。う〜ん、やはり宇宙人を出してきて無理矢理SFにしたのが・・・でも、SFにしなきゃ『星虫』と『イーシャの舟』をリンクできないしなぁ。難しいところです。
[増田]  タイムパラドックスというのは良かったんですけどね(^^;)。
 インターネットを見て周っていても、『星虫』と『イーシャの舟』に比べて……、という評価が多かったように思います。
[雀部]  そうなんですか。先日出た「2001年版SFが読みたい!」(早川書房)では、ベストSF2000国内篇の19位に入っていましたから立派なものだと思います。
[増田]  やはり十年のブランクは長かったか。
[雀部]  前後の二作を繋ぐために作品の展開に無理が生じたためだと思っています。

 タイムパラドックスというか、時間旅行の使い方はとても上手いですよね。
 やはり時間旅行と恋愛ものは相性が良いです(^o^)/
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[増田]
本紙主任編集員。本業はフリーライター。どちらかというとファンタジー派。

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