| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

BookReview

天空の劫罰 『天空の劫罰(上・下)』
ビル・ネイピア著('98)
原題:"NEMESIS" by Bill Napier
土屋晃訳
Shigemi Numazawa装填
新潮文庫 上巻552円、下巻629円 2001/02/01
粗筋:
 山登りをしていたイギリスの天文学者オリヴァー・ウェッブは、突然現れたヘリコプターに驚く。拉致同然に連れてこられた彼を待っていたのは、ロシアの陰謀により、軌道を変えられた小惑星が北米大陸を直撃するという情報だった。衝突による犠牲者が二億との見積もられるなか、ホワイトハウスの要請で世界各国の権威がアリゾナの天文台に集められ、小惑星の発見と軌道修正に立ち上がった。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆1/2
 この小惑星の同定に、17世紀当時、異端とされていた地動説を支持し、審問に付された神父の「新現象」という本がからむんだけど、なかなか読ませました。スコットランド生まれの作者は、アーマー天文台で研究に勤しむ現役天文学者とあって、彗星の衝突のシュミレーション等は、リアルそのものです。


[雀部]  私はとても面白く読んだのですが、彼方さんはいかがでしたか?
 とても処女長編とは思えませんね。
[彼方]  ええ、とても処女作とは思えない出来で、通勤電車の中で読んでいたのですが、下車する時に読むのを中断するのが難しかったです。そして、近ごろには珍しく、ちょうど読みやすいサイズの本でした。最近は、読み続けるのが辛いか、読み終わっても読み足りないかっての多かったので。
[雀部]  最近、無闇に長い本が多いですからネェ。
[彼方]  これ、上巻読み終わって、文庫カバー外すまで早川青背だと信じて疑ってませんでした(^^;。文庫カバーつけてから読み始めたけど、その時は気がついてなかった。最近のハヤカワSFで、上下に分かれてるのに薄い本だとは思ってたけど(^^;。 これが、ハヤカワSFにならなかったのは何故なんでしょう?
[雀部]  分からないっす^^;
[彼方]  これがハヤカワSFにならなかったのって、舞台が地表に留まってるのと、主人公がジェットコースタームービばりのアクションシーンを演じたので、アクションサスペンスものに分類されてしまったのでしょうか(^^;?(オビにはパニックものとは書いてあるけど(^^;)
[雀部]  単に、新潮社が版権を押さえたのが早かったからのような気もしますが(笑)
[彼方]  最初、17世紀のパートが出てきたときは、なに?とか思ってしまいましたが、読み進むにつれストーリとうまく絡んで、良かったです。
[雀部]  ですね。私もこの話をどう絡ませるんかいなと思っていました。
[彼方]  で思ったのが、「ナインスゲート」でも思ったのですが、行方不明になった古本(とゆーか、古文書とゆーか)を探し、世界中を巡るわけですが、日本にいるとせいぜい神田の古本街を巡るくらいしか思いつかないけど、お話の中ではそれなりのネットワークがあるみたいですが、やっぱし欧米では普通のことなんでしょうか?
 司書制度が整ってるかどうかなんですかね、やっぱり(^^;。
[雀部]  というか古本屋のネットワークが発達しているというか。
 '95年に出た『魔女の鉄槌』(SFじゃないっす)も、稀覯本「魔法の書」と魔女裁判実践書とされる「魔女の鉄槌」を巡るお話でしたが、曰くありげな古書商が出入りしている蒐集家の外科医が殺されるのが発端でした。珍しい本があると、持ってきてくれるんですねぇ。それだけ稀覯本などの蒐集が趣味として確立してるんですね。
[彼方]  17世紀の聖職者の物語と、本編との繋げ方はなかなか良いと思います。
 ちょっと間違えるとご都合主義になってしまうかもしれませんが(^^;。
[雀部]  宇宙船とか宇宙空間の描写はほとんど出てこず、地球上だけで(プラス17世紀の史実?)話が進行するのですが、その割に宇宙の広大さを感じさせると思います。このあたりは彼方さんは、どう感じられましたでしょうか?
[彼方]  主人公の天文学者たちの涙ぐましい努力のお蔭ではないでしょうか(^^;。
 宇宙空間の描写が出てきたとしても、このお話の場合、たかだか太陽系内:)の事でしかないんですが。
 けど、その狭い空間に較べても目標物の小ささ・暗さの為に、どれだけ観測が難しいかを、様々な仮定とその問題点を、実際の観測手法を元にリアルに描写してる事。また、もし衝突した場合に予測される被害をリアルに描写する事によって、宇宙空間を渡ってくる物体が持つエネルギーの凄さを感じさせる事。
 それと、最初はなんで出てくるのか不思議に思った、17世紀の聖職者の物語によって、空間のみならず、時間的にも拡がりを持たせる事。
 これによって、主人公たちは地表を右往左往するだけにも関わらず(せいぜいジャンボ機の巡航高度か:-)、人の営みに対しての宇宙空間の広大さを感じられるのではないかと。
[雀部]  彗星と衝突軌道にというと、最近ではクラーク氏の『神の鉄槌』があるのですが、比べられてどうでしたか?
[彼方]  『神の鉄槌』では近未来の、『天空の劫罰』では現在の技術力で、出来る(であろう)ことを書いていると思うのですが、それぞれの立場で様々なアクシデントが起って、緊迫感のあるストーリになっていますね。
 それと『神の鉄槌』で、最後の方で慌てて作った爆弾が不発だったのは、クラーク氏らしい作りではないかと。
[雀部]  ほんとに、あちらの天文学者たちは、あんなに行動的なんでしょうかね〜。
[彼方]  アクションシーンは、007かM:I-2かと思いながら読んでました(^^;。あ、最後に些細な疑問なんですけど、1.電話で主人公に古本の在り処を知らせた女性は、結局何者?。2.下巻で金相場についてちょっと書かれていたけど、あれは結局なんだったのか?
 気持良く読了しただけに、ちょっと引っ掛ってしまって。
[雀部]  あの女性は、主人公がなかなか『新現象』を追求しないのに業を煮やした国防長官の配下の女性かな?
 金相場は、よく分からないっす。単なる著者の蘊蓄だったりして(笑)
 ともあれ、なかなか楽しめる本で、普通のSFファンにも安心してお薦めできます。
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員
ホームページは、http://www.sasabe.com
[彼方]
コンピュータシステムのお守となんでも屋さん。アニメとSFが趣味。  最近、ハードなSFが少なくて寂しい。また、たれぱんだとともにたれて、こげ ぱんとともにやさぐれてるらしいヽ(^^;)ぉぃぉぃ  ペンネームの彼方は、@niftyで使用しているハンドルです。

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ