[雀部] |
椎名優さんの表紙画が可愛い『猫の地球儀』なんですが、三上さんは読まれてどんな感想を持たれました? |
[三上] |
むか〜し、天才少年というものに萌えてた時期があったなあ、などと懐旧の情にかられてみたり。
しかし、表紙から予想もつかない痛い話でした。
(しょうもないという意味でなくて、苦しくて涙が止まらない……) |
[雀部] |
私的には、猫のシーフォートと呼んでおります :-)
どうして、そんなに頑迷なの? (これは主人公に)
どうして、そんなに苛めるの? (これは作者に)
シーフォートが気になる三上さんが、この本が気になるのは、と〜っても良く分かる(笑) |
[三上] |
そ、そんな……。
それじゃあ私が、まるで○○な人みたいじゃないですか。
舞台となった場所が昔どんな人たちに利用されてたらしいか、みたいなネタを含むところの著者のセンスとかも、きらいじゃないけど……。
でもね〜、実はね〜、タイトルと表紙を見て、なごもうとして買ったんですよ、私は!その結果があれだったので、しばらくの間、「読まない方が良かったとは思わないけど、今じゃない方が良かった」などとぶつぶつ言ってくらしました。 |
[彼方] |
作者の秋山瑞人さんの作品って、イタイ作品が多いですよね。この『猫の地球儀』シリーズはそれほどでも無いですけど、別の作品だとボロボロ泣いちゃいます。でも、好きな作品なので、精神的に余裕のあるときに読み直してるんですけど、ここ「泣くところ」って判っていても泣いてしまうんですよね(^^;。 |
[雀部] |
だって、「暖かくて おかしくて 涙が止まらない」って帯に書いてあったから、私はアンハッピーエンドであろうとは予測してましたが。
まあ、落ち込んでいるときに読む話じゃないですよね(汗)
それはそうと、三上さんは、この本を読んでちょっと分かり難いところがあったそうですが?
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[三上] |
実は、これに出てくる天文・物理学関係の計算やらの妥当性というか、そういうのを誰かに解説して欲しいな〜とか思ってみたり。
誰の発見した○○の法則みたいなもの?で、とか教えてくれると、なおありがたいのです。
私は、そういうのがなんか楽しいような気がするわりには、知識とかが全然伴わないもので。
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[雀部] |
具体的には、どういうところのイメージが掴めなかったのでしょうか?
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[三上] |
まず、位置とか軌道速度とかについて。
まず、どうも、舞台である「トルク」なるものの位置が、よくわからないんですよ。(というか、どうも、私は、どこからが宇宙かというのをあまり理解していなかったようです)
高度6000キロ・軌道速度秒速5600メートルということですが、スペースシャトルの軌道の場合、300〜400キロと手元にあった本に書いてあります。静止衛星の軌道だと3万6000キロ。ということは、「トルク」って本来どういうもんなんでしょう?
もともとその位置にあることに意味があるんでしょうか?
それとも、どうでもいいの?
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[白田] |
多分、それほど必然的な意味はないと思います。どちらかというと、物語上減速度が丁度よくなるぐらいのところに置いたのでしょう。
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[三上] |
それから、軌道速度ですが、これはこの時点の太陽系の状況が、現代のものと変わっていないと過程して、妥当な数字なんでしょうか。
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[白田] |
はい。計算ではほぼ秒速5600メートルになります。
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[三上] |
読み直してみたところ、地球から遠ければ速度が遅くても落ちない、ということは説明されていたのですが、では、軌道速度って、いわゆる第1宇宙速度とかいうやつから、打ち上がる分を引いたものなんですか?
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[白田] |
軌道速度というのは、その軌道上における遠心力と重力がつりあう速度ということで計算できます。
ひもの先におもりをつけてぐるぐるまわすと、おもりに引っぱられるような感じがありますよね。その引っぱる力が遠心力で、おもりが飛んでいかないように引っぱる力が重力に相当します。
で、重力というのは距離がはなれると弱くなるという性質があるんです。そうでなかったら、今ごろ太陽にみんな引きよせられて大変ですよね。太陽の方が重力は強いのですが、距離が遠いので、太陽に落ちなくてすむのです。距離がはなれるほど重力が弱くなるということは、そういうところでの遠心力も弱くてすみます。
これは試してみるとわかるのですが、上のおもりの実験でおもりをもっと早くまわすと遠心力が強くなるのがわかります。逆もまたしかりで、遠心力が小さいときはおもりをまわる速さは遅くてかまいません。そのため、軌道速度は一般に第1宇宙速度より小さくなるのです。
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[三上] |
次は、ドラゴンフレア・トレイルについてなんですけど・・・
そういえば、大気圏突入の時、入射角度がどうのこうのという話を、これまでのSF作品などで目にしてきましたが、これって、今回の場合も関係あったのですか?
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[白田] |
物語の中で直接言及はされてませんでしたが、幽は物体を地上に落下させることで、燃え出す高度などを調べていました。そういう意味で、大気との摩擦は考えていましたが、入射角度が妥当かどうかの検討がされたかどうかは謎です。入射角度が浅いと大気にはねかえされてしまいすし、深いと摩擦が大きくなって燃えつきてしまいます。
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[三上] |
あと、空気の摩擦が問題になるのって、どのくらいの高度からなんでしょうか。
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[白田] |
一般に、100ノーティカルマイル、つまり約180キロメートル以上の高度がないと、大気の影響があると言われています。
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[三上] |
楕円軌道についてになんですけど・・・
で、一応、速度と軌道の関係は、速度を速くするか遅くするかで、円軌道でなくなってしまうということみたいなんですが、それで理解が間違ってませんか?
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[白田] |
あっています。
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[三上] |
スカイウォーカーが繰り返してきた実験というのが、地表に近づくための楕円軌道に入るための減速を実現する、角度や推進力を調べるためのもの、と考えればよいのでしょうか。
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[白田] |
おそらく角度もそうでしょうが、幽の時代にはもう軌道の進行方向に水平に逆噴射すればよいことがわかっていたようですね。
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[三上] |
それでですが、あの高度だと、どのくらい減速すれば地表に到達できる軌道に入れるのでしょうか?
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[白田] |
計算では秒速1000メートル以上必要なようです。
100秒で減速しようとすると、大体1Gぐらいの加速度を与える必要があるようです。
多分、それでこの高度が選ばれたのでしょう。
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[三上] |
白田さん、ご説明ありがとうございました。
あと、小ネタ的に知りたいこともいくつかあるのですが・・・
「トルク」の外殻と中心柱って、どうやってつながってるの?
行き来はできるのに、外殻は回転していて、中心柱は回転してないみたいですが
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[白田] |
トルク内部では回転によって生じる遠心力を重力のかわりにしているようです。ということは、中心にむかうに従って重力は弱くなり、中心ではほぼ無重力に近い状態になります。
中心が回転していないという記述は特になかったので、おそらくこの理由によって重力がほとんどない状態になっているのでしょう。
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[三上] |
無重力でロウソクをつけた場合、炎ってどうなるんでしょう?
『猫』では、球形の燭台(シャンデリア)に、ファンを上下に2つつけて、酸素を補給しつつ燭台が回転しないようにしてるみたいだけど、ちゃんと燃えられるんでしょうか。
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[白田] |
どこかで実験したと聞いていますが、炎は球形になってしまって、その外側から燃えるので、すぐに酸素が足りなくなってしまうそうです。作中では、その酸欠を補うために外から酸素をあたえていたのでしょう。
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[彼方] |
この説明だと球形であるが故に酸素不足になるように読めてしまうので。
無重力環境下で、ロウソクがすぐに消えるのも、炎の形が球形になるのも、「対流」が起きないからですよね。で、対流の代わりにファンを回すことで酸素を供給してあげると。
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[白田] |
どこかで見たことがあるような気がするのですが、金属のパイプを球形になった炎の中央に送り込むという方式もあったような。
燃料は中央にあるので、中央に酸素を送り込まないとまずいですよね。
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[彼方] |
これまた、言われてみればその通りかも。でも、中央に酸素を送り込むのって、重力下の地球上でも同じことですから、対流させて絶えず周りに酸素を供給できれば良い様な気もします(^^;。
遠い昔に、雑学系の本で読んだ、うっすらした記憶しかないからなぁ(^^;。
そういえば、トルクって黴だらけですけど、人間が死に絶えてメンテナンスされなくなったからなのか、黴の大量発生で人間が死に絶えたのか、どっちなんでしょうね?
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[白田] |
まっとうに考えたらメンテナスされてないからでしょうねぇ。
黴で人間が死に絶えたのなら、地球上の人間は残ってると思いますから、トルクがずっと放っておいてある理由が解せません。
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[彼方] |
言われてみれば、その通りですね(^^;。
既に地球儀の住人は、電波猫の魂だけだと思い込んでました(^^;。
# 電波猫いいなぁ、一匹欲しいかも。
黴だらけの描写を読んでると、腐海を思い出す。「まぁ、酸素黴が午後の胞子を飛ばしてる」とか(^^;。
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[白田] |
あのイメージは強烈でしたからねぇ。
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[雀部] |
さて、このシリーズ全体の感想はいかがでしょうか?
私は、ジュブナイルSFの王道を行っていると思うのですが。ただし、ジュブナイルSF悲劇ですが。
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[白田] |
一見癒し系みたいな感じのあるストーリーなんですよね。
私も2冊目の途中までだまされたようなところがありました。
でも、最後の方になってくるにしたがって、これはつらいところがある、かなり悲しい物語なんだな、というのがひしひしと伝わってきました。本当に、これでもか、これでもか、という感じでした。
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[彼方] |
うーん、トルクの状況とゆーか猫の街がどうなっているとか、周期的に突風が吹く訳とか、酸素黴の進化状況とか、猫がなんで電波猫になってロボットを操れるようになったかとか、ロストテクノロジーの利用状況とか、いろいろと言いたいことは有るんだけど、考えがまとまらない(^^;。
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[雀部] |
表紙から受ける印象とは違ってなんともやるせない話だったんですが、その他の点については三上さんは、どういう印象を持たれましたか。
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[三上] |
テーマ的には、ソウヤーの恐竜のアレとかに似ているわけなんですが、猫たちもこのままでは将来的にまずいわけで、粛正を指示している大元の正体とか、いろいろ続編に期待してしまいます。もちろん地上がどうなっているのかも知りたいところですが、そちらはちょっと望み薄かも知れません。
地表に降立ったスカイウォーカーの誰かと、たとえば技術レベルが退行しているかも知れない人間たちが、どんな風に意志疎通を成功させるのかとか、興味はつきないのですが。
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[雀部] |
確かに、続編が読みたいですね。そうでないと、**とか**とかが、まるっきりの無駄ということになってしまいますから。
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[三上] |
それにしても、孤独とか憧れとか友情とか、そういうヤングアダルト系にふさわしいネタを使っておきながら、ああいうところにまで持っていくとは、作者にはすっかりやられたという感じです。
今回のために読み返したところ、また泣かされちゃうし〜〜〜。
とにかく、旅立つ孤独と残される孤独、さまざまな孤独を思い胸が痛む作品でした。
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[雀部] |
白田さん、彼方さん、三上さん、今回はどうもありがとうございました。続編が出たら、また集まりましょう(笑)
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