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Bookreview


レビュー:[雀部]&[彼方]&[増田]

攻殻機動隊
〜 the Ghost in the Shell

ISBN4-06-313248-X

士郎正宗著


講談社 971円 '98/5
 企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても、国家や民族が消えてなくなる程、情報化されていない近未来。2029年の日本を舞台に、首相直属の特殊部隊・公安第九課、通称“攻殻機動隊”の活動を連作形式で描く、傑作サイバーパンク。

攻殻機動隊2
〜 Manmachine Interface

ISBN 4-06-334441-X

士郎正宗著

講談社 1500円 '01/6
 前作から四年。巨大企業ポセイドン・インダストリアル社に所属する荒巻素子はある日、面白半分に“相手をした”海賊から奇妙な設計図を入手する。それはいつしか忙しさに紛れてしまったものの、東モナビア共和国で発生したポセイドン・インダストリアルへのテロを追ううち、やがて素子自身の“樹”にも関ることに……。
[雀部]  さて『攻殻機動隊』なんですけど、私はなんだかとっちらかった印象を受けたんですが皆さんはどうでした?
[増田]  攻殻機動隊は1と2でだいぶ印象が違いますよね。1は「アップルシード」(あるいは「ブラック・マジック」)から続く「いかにも」って感じの士郎節(^^;)だし、2は見た目の派手さもあってか新しい印象を受けます。でも私は1が好き。
[彼方]  二巻になってCGを導入したせいか、一巻でも濃かった情報密度に、輪をかけて濃くなってしまいましたね(^^;。さらに、周りを飛び交っているチビキャラが、拍車をかけちゃってます。
[雀部]  あ〜、私も1の方がまとまっているので好きです。
 チビキャラは、なんで必要なのかよく分かりません(笑)
[増田]  チビキャラはエージェントなんでしょうけど、何だかちょっと前の未来図によく出てきたような「コンピュータの執事」のパロディみたいですね(^^;)。Appleが提示してみせた「Knowledge Navigator」みたい。でも、人間はコマンドを発するだけで後は全部エージェントが処理してくれるとなったらそれはそれで楽でいいかも。
[彼方]  楽は楽だけど、そこまで自分に合うようにエージェントを鍛えるのは大変かも(^^;。特にマイクロソフト製だったりすると、途中で固まったり、仕事を終えたエージェントがいつまでも、そこいらをうろついてたりして、使うのがイヤになるかも(^^;。
 それに、あのチビキャラみたいにワラワラ居られるとうるさいなぁ。執事頭が表に出てくるだけでいいです(^^;。
[雀部]  固まると、復帰した後、その時手がけていたデータをMSに送付する機能もついていたりして(大笑)
 ワラワラ居るのは、フチコマの代わりのような気もしました。
[彼方]  んー、一巻と二巻で結構間が空いたこともあって、二巻を読んだときに、直接的な続編じゃないと判っていても、なんとなく一巻とは違うなって印象を受けたので、そのあたりで『攻殻機動隊』ワールドとして見たときに、一巻、二巻がどういう位置づけになるのかが判らなくて、それが読んでて気持悪かったなと思いました(^^;。とっちらかったってのは、すんごく多岐にわたって、コマの外にまで溢れて(^^;、情報が書込まれてますから、それを一つ一つ追っていくと、そんな感じになるかもしれません(^^;。
 チビキャラは、情報処理関係で一時期流行した(今はどうなっているのかな(^^;?)ネットワークエージェントなんでしょうけど、ついでに読者へのヘルパーも兼ねてるのでしょう。このチビキャラのお蔭で、説明的な台詞でうんざりさせられることなく、状況を理解できるようになってます。って、最初読んだとき理解できたっけな(^^;。で、あんなキャラなのは、やっぱり素子の趣味なんでしょうね(^^;。
[雀部]  2の方も、部分部分を見るとすげー面白いし、よく調べられているのもわかるんですが一番書きたいのは何かというのが、ちと不明かな。情報量は圧倒的に多いんですけどね。わたし、これ読むときは老眼鏡かけますから(爆)
[彼方]  『攻殻機動隊』の世界って、ネットワーク化が非常に進んでいて、意識すらもネットワーク上に載せられ、義体にコピーすら出来るようになっています。そうすると、生命と情報の境界が曖昧になって来ますから、情報って側面から見た生命って何?。生命が肉体を離れたときに何が起るか。というあたりを書きたいのかなと漠然と思ってました。
[増田]  1のサブタイトルが「Ghost in the Shell」ですから、正にそういうことなんでしょうね。“肉体という殻に閉じこめられた精神”が主要テーマなんじゃないかと思います。映画版の素子のセリフにも「他人を隔てるための顔、それと意識しない声、目覚める時に見つめる手……(中略)……それらすべてが私の一部であり、私という意識そのものを生み出し、そして同時に私をある限界に制約し続ける」とあります。
 2のサブタイトルは「Manmachine Interface」ですから、自分自身と外の世界とのコミュニケーション・インターフェースを工学的な概念で捉えてみたかったのかな? とか思ってます。チビキャラ=エージェントたちはただのプログラムあるいはロボットに過ぎないのに素子からは人間扱いされていることからも、対象物の本質よりもインターフェース=関係性にこそ人間性の立証があるのかな、とか。すると、「外面がいいだけの人間」が「良い人」と評価されてしまうようなコミュニケーションの欠陥を、図らずも皮肉っていることになる、とか邪推は進みます(^^;)。
[彼方]  あ、「Ghost in the Shell」って、一巻目のサブタイトルだったんだ。映画オリジナルのタイトルだとばっかり(^^;。
[雀部]  すると、1のラストで素子は、意識を保ったまま、限界から逃れて拡大し続ける可能性を見いだしたわけですね。とすると、肉体の制約に縛られないとしたら、人類にはどれだけの可能性が開けるかということを描きたかったのかなぁ。
[彼方]  で、このネタとゆーか、ネットワーク上の自我を題材にした海外SFだと『順列都市』とか『仮想空間計画』になっちゃう(^^;。
[雀部]  そういうのは、いっぱいありますね。
 嚆矢と言えるのは『ヴァレンティーナ』あたりかな。
[増田]  肉体に限らず、自分自身を構成するすべてのものからの解放、でしょうね、きっと。純粋な精神体としての人類はどこまで進化できるのか? とか。
 何をいちばん書きたかったのかといえば、そりゃやっぱり、「人類の精神的な意味における次なる進化」じゃないでしょうか。怪しいチャネラー(^^;)が垣間見る現世のさらに上にある上位世界、宇宙的意思への進化というか、融合というか、「大いなるユニゾン」というか。
 2より1の方が「人形使い」の存在もあってかそのへんのメッセージ性は大きいのでは? 「人形使い」はなんか「色即是空」的なことを言ってましたが(^^;)。
 そういった「進化」的なメッセージは「仙術超攻殻オリオン」にもありましたよね。
[雀部]  ま、そういう所は見えているんだけども、普通SFなんかだと、色々な糸がラストに向かって絡み合い、集束してフィナーレ(いわゆる歌い上げる結末)を迎えるというのが、感動的なラストなんですが、攻殻は枝葉の部分が活かされていないような気がするんですよ。
[増田]  そういうカタルシス的な要素はないですよね。ただ、そういう要素はあえて捨ててかかったのではないかと。「感動的なフィナーレ」とか、そういうのは最初から考えてなかったんだと思うんです。枝葉の部分にしても、よくよく考えて邪推してみれば、ちゃんと活かされていると思いますよ。ただ、すごくわかりにくくなってますけど(^^;)。
 結局のところ、いくつか解決されないまま残ってるような部分は、作者が解決するのではなく、読者が解決すべき問題として残されているのでは?
[彼方]  そもそも、この後どの様に展開していくか判らないし(^^;。
 二巻が出るまで、一巻目でお仕舞いだと思ってたぐらいだし。
 これから続くとして、きっとまだストーリの導入部で、これからいろいろ起こっていくのかなと期待してるところかな。ひょっとしてエヴァみたいに、発散してしまうのかもしれないけど(ぉぃぉぃ)。
[雀部]  エヴァというと、「通過できない青春もあるんだよ」という方向性をこの作品で確立したわけで、同時に現代では「人間とはそもそも空虚なものである」という認識がありますよね。その意味では“素子”が、年齢を超越した人間と機械のハイブリッドであるサイボーグなのは、何か象徴的ですよね。
[増田]  素子は全身サイボーグ化することで自分自身の肉体さえも不確定であるということを立証してしまったわけで(生身の部分は脳ミソと脊髄だけだったと思う)、正に仏教的な意味あいでの現世の空虚さを象徴しているのだと思います。映画版にもそれっぽいシーンはあったし。
 物質的に極まった文明への精神的な側面からのアンチテーゼ、と書くと陳腐ですが。
[彼方]  現代でもクローン技術で、論理的に問題はありつつも自分の複製を作ることが視野に入りそうだし、想像の産物をかならず現実のものとしてきた人類としては、『順列都市』みたいに、意識・人格をコンピュータ・ネットワーク上に展開できる様になるだろうし、そうした世界において、素子の「あり方」というのは一つのモデルになるのかなと思います。
[雀部]  士郎さんとしては、主人公の名前が“素子”ということに象徴されるように、脳=生体素子(バイオ・チップ)として、マシンの一部としてとらえているようなところがありますよね。そもそも人間の本質が、脳=人間というソフトがダウンロードされた場所にあるとするなら、それが肉体とは関係なく存在するようになるのは必然とも思えますが。
[彼方]  素子の名前が生体素子とかけてあるのには気付きませんでしたが(^^;、人間というソフトが肉体というハードウェアを必要としないのではないか。ってのはその通りだと思います。
[雀部]  ラッカー氏によると、肉体は“ウェットウェア”ですけどね(笑)
 オリジナルvsコピーの関係は、肉体に依存しない“人間”が出現するようになると大問題を提起するでしょうね。しかし一番怖いのは、恩田さんの『月の裏側』でも描かれたように、自分がオリジナルかコピーか判断しようが無い場合でしょうか。死んだとき、初めてわかったりして(汗)
[増田]  怖いなあ。人間がハードウェアとして定義されるものなのか、ソフトウェアとして定義されるものなのか、考えちゃいますね。理論的にはもちろんソフトウェアなんだろうけど、コンピュータ・メモリの上の数値にすぎないソフトウェアが、果たして“人間”と呼べるのか? とか。それ言い出すと、脳ミソの中にあるものだって神経シナプスの結合だけじゃないかってことになっちゃいますけど。
 原作の中にも、「どこからどこまでが人間なのか」という問いがちらっと出てきますね。生身は脳細胞2〜3個だけで後は全部電脳だったら、それは人間であると言えるのか? って。
 結局のところ、いろいろ考えあわせてみるに、人間であるという立証はデータではなく精神活動そのものにあるのではないかと。「データさえあればいいってものじゃない」と言われると、少し安心できます(^^;)。記憶、感情、様々な想い、そういったものが「人間であるために必要」だということなのでは?
[雀部]  一人の人間の全人格がダウンロード可能だとしたら、記憶とか感情とか想いなんかも、どうにでもなるような気がするなぁ。いま現在、自分が考えているこの思考自体も、誰かに押しつけられたものでは無いという証拠は、誰にも出せないし。
[彼方]  この辺を突っ込んだのが、先月ブックレビューしたイーガン氏の、『祈りの海』にあった「ぼくになること」ですね。これの場合は、脳細胞2, 3個どころかまるごと捨てちゃいますからね。もともとの脳から、「宝石」に切替えたときに、それは本当に人間といえるのか、捨てられてしまった脳にあった人間であると言えるモノはどこへ行ってしまうのか、考えるほど判らなくなっていっちゃいます。
[雀部]  結局唯我論になっちゃうような(笑)その考えている実体である思考体が、自分は人間であると思えば、人間でしょうね。
 あと掲載紙の問題はあるんでしょうか?
 明らかに本筋とは関係ない読者サービスであるようなシーンも出てきますが(笑)
[彼方]  連載では読んでないので、掲載誌との相性(^^;は判りませんが、最初、サービス・サービス(^^;な所は、欄外を読むのに気を取られてしまいました。
 で、緊急招集の強制割込みが入った時、大概のSFだと失見当に陥ったりするのが常ですけど、素子はすぐさま常態に復帰したので、性能が良いなとか関係ないところで感心したりして(^^;。
[雀部]  まあ割り込みのレベルにもよるでしょうけどね。五感全てに割り込みをかけられると、やはり「ここはどこ?」状態に陥るような気がします。慣れの問題もあるだろうけど。
[増田]  掲載紙はヤングマガジンでしたっけ……。やっぱりあるでしょう(^^;)。でも1の読者サービスはサイバーセックスの可能性が見えて面白かったです。皮膚の痛覚端末の性能がサイバーセックスの感度(^^;)に影響するってのは「?」でしたけど。
 脳ミソに直接信号を流せるなら、現実にはあり得ないほどの快楽も可能なわけで、それができるなら電脳化する人間も増えそうですねえ。で、あまりの快楽に人格を破壊されて廃人になる人間が増えて、電脳化によるサイバーセックスと電脳化の際のA10神経への介入が規制される……と。
[雀部]  内容を無理矢理分類するとすれば、やはりサイバーパンクなんでしょうね。
 快楽中枢を直接刺激するっていう表現は、よく使われるんですが、私はちょっと疑問なんですよ。まずその刺激となる電流が、快感であると言うことを脳が学習しなくちゃいけないと思います。ひょっとしたら、最初は苦痛に感じるかも知れないですよ(笑)
 この作品は、サイバーパンクにおける“ジャックイン”を極めて視覚的に表現した先駆的かつ優れたマンガでもあるということは明らかであると思うのですが、サイバーパンクファン以外だと、どういう読者層にお薦めでしょうか?
 広く、一般SFファン御用達と言う気もしますが(爆)
[増田]  「サイレントメビウス」をサイバーパンクだと言われて怒ってしまった人(俺だ)、そしてSFファンと言わずもっと広い層に読んでほしいです。これだけ考えさせてくれるマンガって貴重だと思うんですよ。
[彼方]  そうですね。とりあえずSFファンであれば一般教養ということで(^^;。
 後はとにかく、密度の濃い書込みと文字の多さにめげない人かな(^^;。
[雀部]  ギブスンの『ニューロマンサー』を読んで「なんだこいつ、コンピュータのこと全然分かってないじゃん」とブチ切れた方も、それなりに満足いただけるのではないかと思いますがいかがでしょう?(ギブスン氏がサイバーパンクの最初の長編『ニューロマンサー』を書いたときは、コンピュータのことをほとんど知らなかったというのは有名な話です)
 そういう意味ではSFファンばかりではなく、広くパソコン愛好者にも読んでもらいたいマンガでもありますね。「アニマ・ソラリス」を読みに来るような人たちは、たぶん全員読んでいると思うけど(汗)
[雀部]
 48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
 ホームページは、http://www.sasabe.com/
[彼方]
 コンピュータシステムのお守となんでも屋さん。アニメとSFが趣味。 最近、ハードなSFが少なくて寂しい。また、たれぱんだとともにたれて、こげ ぱんとともにやさぐれてるらしいヽ(^^;)ぉぃぉぃ  ペンネームの彼方は、@niftyで使用しているハンドルです。
[増田]
 本紙主任編集員。本業はしがないフリーライター。SFとファンタジーをこよなく愛する社会的廃人。


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