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BookReview

レビューア:[雀部]&[彼方]

『大赤班追撃』
> 林譲治著
> ISBN 4-19-905083-3
> 徳間書店
> 476円
> 2001.10.31発行
 宇宙軍を辞めた父親と共に民間宇宙探査艇フェニックスに乗り込む美鈴は、この度大赤班調査を依頼してきた太田のおばちゃんを訝しんでいた。なんだってウチみたいな弱小調査会社に依頼してきたんだろ? それにどうも美鈴の両親とも知り合いのようだし。
 一方宇宙軍の最新鋭艦ネルソンには、親が有名提督だというだけで艦長になった感もあるへっぽこ艦長が乗船していた。この艦長が、大赤班に突入した際のアクシデントで無線機が故障してしまったフェニックスを、宇宙海賊と誤認し、しかも攻撃をしかけたところから話がややこしくなってきてしまう……

 いわゆるノヴェラサイズのハードSFです。さくっと読めてそれはそれで好ましいんだけど、林先生には、もっと長い話で勝負して欲しいなぁ。(^o^)/

安心して読める作家

雀部 >  林譲治さんなんですけど、最近絶好調ですね。<侵略者の平和 三部作>や『暗黒太陽の目覚め(上・下)』とか。野尻抱介さんと並んで、ハードSF系の記述が安心して読める作家だと思われませんか?
彼方 >  本当にそうですね。普段忘れられがちな兵站部門や、一見不合理とも思える設定に関しても歴史的経緯を踏まえて、しっかり考察されているので、物語のリアリティさが他の小説と比べて全然違います。で、林譲治さんというと、林[艦政本部開発部長]譲治として活躍していた印象が強いので、作風もあって野尻抱介さんというより、谷甲州さんを思い浮べます。
雀部 >   確かに谷さんも科学的な記述はしっかりしていて安心して読めるんですが、私は谷さんというと、土木系SFの印象が強くて〜(笑)
 さて林譲治さんの最新刊『大赤班追撃』なんですけど、私は真っ先にグラント・キャリンの『サターン・デッドヒート』を思い出しちゃいました。木星と土星という舞台の違いはありますが、宇宙船同士の競争、最後は相手を助けるところなんか。
彼方 >  そう言われるとそうかも。何せ、『サターン・デッドヒート』読んだのが、かなり昔なので思い出せませんでした。宝探ししてくれれば思いついたかも(^^;。
確かに、宇宙船同士の競争の描写は、両作品ともさすがと思わせる所がありました。
 どちらかというと、人物描写の方に気がいってました。林譲治さんの作品に出てくる登場人物って、一見天然ボケだけど、実はすごいキレ者とか、妙にシニカルな人とかが必ず居て、その人たちの会話で笑わせてくれるなと。で、さっき言った様に、谷甲州さんを思い浮べながらも、そこが林譲治さんの作品の魅力かなと思います。
雀部 >  あのお父さんですか。いつも娘にやり込められているという(笑)
 で、あの艦長なんですが、私はちよっとやりすぎのような気もしました。いくらなんでもあそこまで無能な艦長というのはちよっと(笑)
 《シーフォート》とか《オナー・ハリントン》シリーズを読むと、まあどっこいどっこいの艦長も出てきますから、そういうもんなのかも知れませんが(爆)
彼方 >  城崎宇宙軍大将とか綾ちゃんが、頭に有ったのですが、父さんもそうですね。
でも、特に綾ちゃんは底が知れません。木星環境料理を作ってみるあたり(^^;。
木星環境下でドリップしたコーヒーは、本当に美味しいのか試してみたいですが。
 ハメル艦長はねぇ(^^;。艦長を出世のためのワンステップとしてしか考えてないのであれば、さもありなんとか思いますが、さて宇宙軍というところが、無能者を艦長として任命するほど甘い組織なのか、コネが効きまくる腐敗している組織なのか、というところが問題の焦点になるかと思います。

その巨大さってのが良く出ていたと思います

雀部 >  あ、あのコーヒーはほんとに飲んでみたいですね。林さんは、そういういれかたでドリップしたことがあったりして(笑)
 木星を舞台としたSFというと、私はアーサー・C・クラークの「メデューサとの出合い」(『太陽からの風』所載)がいまだにベスト短編なんですけど、この『大赤班追撃』も、なかなか臨場感溢れていて良かったと思います。特に大赤班に接近するところなんか。まあ、あまりの巨大さにこちらの想像力がついていけなくて、そのぶん林さんは損をしているかも知れませんね(泣)
彼方 >  残念ながら「メディーサとの出会い」は読んでないのですが、木星の描写では何故か『クライシス・2050』・・・ぢゃなくて(^^;、『さよならジュピター』が出てきてました。
 大赤斑のスケール感は良く描写できてましたね。テレビなんかじゃ、巨大なんだと思っていても、やっぱり、ボールに出来たちょっと大きな痣ぐらいにしか思えないですから。フェニックス号との対比で、その巨大さってのが良く出ていたと思います。
雀部 >  あと、大赤班の内部の描写は、最新の知見を取り入れてあり、リアルですね。林さんご自身も後書きで書かれているように、最近はInternetやWWWで、最新情報が手に入りますから。 ということは、そういう努力を怠っているSF作家は、益々時代から取り残されるということですね。
彼方 >  最新情報を追っかけていれば面白い小説が書けるものでもないでしょうが、やはり書きたいものに対しての造詣が深くないと、物語の奥行がでないでしょうね。
 さらにいうと情報の真偽の見極めとか、情報の整理とか、ともすれば情報量に溺れそうになりますから、そこらへんのさばき方も大事ですね。大本営みたいに、都合の良い情報を、都合よく解釈していくだけでは、トンデモになってしまいますし(^^;。

林譲治風航空宇宙軍史って言ったら嫌がるかな

雀部 >  トンデモ本には、トンデモ本なりの魅力もありますけどね(爆)
 イラストはどうでした?あの表紙の宇宙船、なんかぬめっとしたフォルムで、いかにも空気抵抗を考慮した感じですよね。個人的には、生頼範義さんのゴテゴテしたヤツも好きなんですけど。
 ヴォルコシガン・シリーズに出てくる宇宙船と似てるかなと思ったら、違ってるなぁ。こっちの船もわりと好きなデザインかも。
彼方 >  なかなか良いデザインですね。リフティングボディだとあんな感じでしょう。スケール感が掴みにくいけど、居住スペースとかカーゴルームとか取れるのか、ふと疑問に思ったりして。
雀部 >  最後に。林先生には、これからどんな本を書いて欲しいですか。
 もっと長くて、本格的なハードSFは、当然とすると、他には?(笑)
彼方 >  林譲治風航空宇宙軍史って言ったら嫌がるかな。いや、オリジナルはひたすら堅い文章なので、林さんのボケと突っ込みの軽妙な文章で読みたいなと思うことがしばしばあるもので。
 それと、本文の中での解説するくだりとか、Web pageでの活躍とかを見ていると解説の文章が判りやすいので、『侵略者の平和』のキャラクタで科学エッセイみたいのを書くと面白いかもしれません。
雀部 >  お〜、そう言えばノンフィクションのライターは合うかも知れませんね。
 ファンとしては、そういう道から外れた行為は願い下げにして欲しいけど(笑)

 

[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[彼方]
コンピュータシステムのお守となんでも屋さん。アニメとSFが趣味。最近、ハードなSFが少なくて寂しい。また、たれぱんだとともにたれて、こげぱんとともにやさぐれてるらしいヽ(^^;)ぉぃぉぃ ペンネームの彼方は、@niftyで使用しているハンドルです。

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