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BookReview

レビューア:[雀部]&[伊藤]

『オルガスマシン』
> イアン・ワトスン著/大島豊訳/荒木元太郎ドール制作&イラスト
> ISBN 4-87734-458-6 C0076
> コアマガジン
> 2800円
> 2001.7.10 発行

 市街地の沖合に浮かぶ直径一キロのコンクリートの島。そこの新生児ブロックでは、女性胎児の一群が羊水タンクの中で育てられていた。特定の奇形を引き起こすように育てられ、後で形成外科医たちが細かい仕上げを施し、発育を終えた娘たちはコンピュータに繋がれ、疑似人格が刻み込まれるのだ。
 普通の二倍の大きさの青い眼を持つカスタムメイド・ガールのジェイドは、同じ日に生まれ六つの乳房を持ち口のきけないハナが大好きだったが、島を去る日がやってきた。毛皮と爪を持った猫娘マリ、煙草入れと電熱式のライターになっている人工乳房を持った重役用娘キャシー、彼女たちには各々過酷な運命が待っていた。

 内容の過激さゆえに、英語圏では発刊が未定の著者の処女長編。
 ジェイドが記憶を抑制され、セックスの自動販売機に入れられセックス処理機として扱われるくだりはそれなりにショッキングですが、著者が淡々と筆を進めているため、あまり悲壮感がありません。まあ、見る人が見れば噴飯モノの描写には違いありませんが。

そんな内容かな〜、と脳内暴走したですよ。

雀部 >  さて、英国SF界の鬼才イアン・ワトスンの、あまりに過激だったために出版社が出版を見合わせたという処女作『オルガスマシン』なんですが、伊藤さんの読まれた感想はどうでしたか。
伊藤 >  いやー、ウィルヘルム・ライヒ博士があれほど苦労のうえ、オルゴン・エネルギー実用化の研究をなされていたとは思いもよりませんでしたねぇ。特に後半のアインシュタイン博士との論争や、少年少女達のオルガスム・エネルギーによって、雲ばかりかUFOまで退治してしまうくだりはまさに手に汗握り……
雀部 >  んなアホな。何処を押したらそんな妄想が湧き出てくるんですか(笑)
 しかし、リビドーをエネルギー化できたら、ちょっとしたもんかもしれませんね。
伊藤 >  てへ。最初、まずタイトルだけ見て、そんな内容かな〜、と脳内暴走したですよ。
 んで、手に取り表紙と扉絵を見たら“アレ”でございましょ。
 うおおっ! と後書きを開くと、これまた「過激」とか「発禁」って言葉のオンパレードぢゃあ〜りませんか。

    ちいぃ! オリはよぅ、オリはすごぅく期待したのによぅ! (:_;

 え〜、書店の本棚の前で迷える青少年のためにまず一言。
 コレ「平成」の「日本」に住む「平均的な一ヲタク」の目からすると、

    てーんでヌルくてウスくて、
    パンチと実用性(??)に欠けるぢゃん!

 てのが正直なトコロなのですなぁ。
 ソッチ方面は期待しちゃ、ノン!ノン!
雀部 >  伊藤さんが「平均的な一ヲタク」かどうかは、別として(笑)確かに、中身はそれほどたいしたことないですけどねヽ(^o^;)丿
伊藤 >  でしたねぇ。
 時代を感じますなぁ。
雀部 >  時代ねぇ。オリジナルが書かれたのが1970年ですから(改稿が'80年、最終的なリライトがなされたのが2001年かな)
 1970年といえば、丁度『家畜人ヤプー 正編』が出た時ですね。過激さでは、ちょっと『オルガスマシン』が負けているかも知れません(笑)
伊藤 >  1970年かぁ……SFとしては“やや古典”の領域に入っちゃうんですねぇ。
 それにしても、インパクト強いなぁ、この表紙。青少年の部屋の本棚に置いてあったら、そ〜れはそれは親ごさんが心配しそうな本を紹介してホントにええんですかね?

 ま、それを乗り越えられるかどうかで、真のS○ファンかどうかがハッキリするのでせうが。
雀部 >  いまは、小学6年生にS○の漫画とか載る時代ですから、子供さんは平気なのでは(笑)
伊藤 >  え? し、「小学6年生」に? どどど、どんな作品がっ?

    はっ! ま、まさか『ドレエもん』?!

「クラウン・タウンの死婦人」とか連想しますね。

雀部 >  ピンクカードゲーム『桃色遊戯王』だったりして。いかん毒されている(笑)
 同趣向のもっと後の作品では、'90年にリチャード・コールダーの「アルーア」とか'95年には、ポール・J・マコーリイの『フェアリイ・ランド』があります。ここらになってくると、身体改造にナノテクを使っているのが、やはり時代性を感じますね。
伊藤 >  む〜ん。書かれた時代が時代だったため、胡乱な目で見られ不遇の境地に追いやられちゃったけど、実は「過激さ」とか「エロス」とかそーゆー方向性でコレを語るのは、ちと間違いなのではないか、と思ったりもします。
 男尊女卑な家長制度が色濃く残る時代の日本文化に影響を受けた『ワリと真面目なSF作家』が、ふと思い付いたネタを活かすべく、一所懸命頭を捻り、男性超優越な未来社会を描いてみたらこんなんなりました〜、てトコだったんじゃないかなぁ?
 ミョーな日本かぶれといい、ダークなんだけど一面でミョーにコミカルな社会描写といい、人造人間てゆーか“れぷり○○○”ってゆーかの扱いといい、ワタクシ密かにコレを『美隷奴ランナー』と名付けています。
雀部 >  『美隷奴ランナー』とは実に良いネーミングですなぁ(爆)
 私は、造られた知性体、叛乱、生きることよりも大きい目的のための死、というキーワードからすると、コードウェイナー・スミスの「クラウン・タウンの死婦人」とか連想しますね。「帰らぬク・メルのバラッド」は、猫が祖先の遊び女が主人公やし。
 まあ、比べる相手が悪いですけど(笑)
伊藤 >  おお、「クラウン・タウンの死婦人」! 確かに。
 そういや、こないだ読んだニール・スティーヴンスンの「ダイヤモンド・エイジ」も 少女 + 苦難 = 民の導き手に成長 ってぇ「ジャンヌ・ダルク」図式でビミョ〜に肌合いが似てましたな。
雀部 >  殉教というか、ジャンヌ・ダルクというか。キリスト教圏の方々は、うら若き乙女をいたぶるのがお好きなのではと勘ぐってしまいますね。『エンディミオン』の大団円でも、あの通りジャンヌ・ダルクしてますし。ま、それを言い出せば、日本SFファンのオールタイムベスト1の常連、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア女史の『たったひとつの冴えたやり方』も似たようなもんだから余所のことは言えないか(爆)
伊藤 >  男性でやったら単なる聖書のパロディになっちゃうから、発想にブレーキがかかるのかな?
 そ〜れにしても、これのどこが「発禁」なんでしょうねぇ?
 実は、

 “装丁&挿絵やってる荒木元太郎のアレやソレやの方が遥かにヤバいやん……”

 とか思ったけど、細かく突っ込まれるとヤブ蛇だからボク知ーらないっと。
雀部 >  う〜ん、あの表紙とか口絵の女の子のドール。実に可愛いですよね(爆)
 伊藤さんも、実はお好きなんじゃあないんですか(笑)
 知り合いには、ああいう1/1があったら、直ぐに買っちゃうような人が何人か居ますけど……
伊藤 >  はっはっは。誘導尋問ですね。
 ひっかかりませんよ〜。ええ。ひっかかりませんとも。
 NEO' GENTLE なんてペンネーム、ボクは見た事も聞いた事もありません。
 ……あ、良い子はGoogleで検索しちゃダメ〜!
雀部 >  <NEO' GENTLE>って、まさか伊藤さんのペンネームってことはないでしょうね(^o^;)/

“何ゆえ、我はこの作品にヌルさを感ずるや?”

伊藤 >  な、何をおっしゃいます! 3D造型どころか、2Dにも挫折し、結局、テキストに特化したワタクシに出来る事と言えば、せいぜいエロ小――は! しし、しまった!
 これも誘導尋問かっ!?
 ゴホゴホ、ごほん! え〜、チト脱線しますとですね、胸に手を当てて、

    “何ゆえ、我はこの作品にヌルさを感ずるや?”

 と問いかけた時に、「西洋文化圏における妄想パワーの限界」とゆーか、「日本の特異性」がチラリ垣間見えたんですわ。
雀部 >  へぇ〜。具体的にはどういうことでしょう?
伊藤 >  日本にはですね、他の国がまだ到達していない、あるいは、永遠に到達出来ないかもしれない特殊な“文化的パワー”が存在するのです。

 ソレすなわち、“萌え”です。
雀部 >  “萌え”ですか?
 確かに日本はInternetにおいて、児童ポルノの発信国として悪名が高いですし、世界に名だたる漫画・アニメの分野でも、美少女モノとかロリータものとか(当然エロマンガとかも)が渾然一体となっていて、全体としてものすごいパワーを感じますが。
伊藤 > 『日本のおおぉ! ヲタク力はああぁ! 世界いちいいいいぃっ!』

 え〜、“萌え”という概念を語ろうとすると、必ず「偉大なる手塚治虫センセ」の存在に行き当たってしまうんですが、そのへんの詳細はワタクシなどが語るより、『しろはた』というホームページで、Dr.モーさんが書かれた“特殊な方向に偏向してるけど、目からウロコが落ちるほど分かりやすい手塚治虫論”である「大和玉物語」や本田透さんの「〜萌えよドラゴン・死亡的電脳遊戯〜」といったあたりを読んでいただくとして、とりあえず、ここで言う“萌え”とは、

 “2次元、3次元を問わず、人の手により創造された記号的存在”に愛を感じる事。
 そして、意識的無意識的に拘らず、そうした自分の行動を“是”とする事。

 だと思って下さい。
雀部 >  ……………………(2時間ほど上記サイトで読書中)
 うっひゃ〜。そ、そういうことでしたか。最近、“萌え萌え”とかの書き込みを見ることが良くあったので、何のことかと思っていました。そうすると、Internetのエロ写真なんかに反応しちゃうことも“萌え”なんですね。
 しかし、実にリキの入ったサイトですね。感服しました(笑)
伊藤 >  ね〜、スゴいですよね。
 誰もが手塚漫画に感じるモヤモヤとしたものがスパッと言い表されている。
 我々、日本人は「セーラームーン」に“萌え”、「ピカチュウ」に“萌え”、「カードキャプターさくら」に“萌え”、デフォルメされ、誇張され、単純化された2次元キャラクターに対し、ごくごく簡単に「愛」を感じる事が出来ます。
 ちょっと絵心のある人間なら、それらを模倣し、己にツボとなる部分を抽出し、新たに“オリジナル”を生み出す事も出来ます。
 それらは全て源を辿れば偉大な漫画の神であらせられる「手塚治虫センセ」が膨大かつ極めて上質な物語群を通し、

    ヒトを自分自身の創造物に“萌え”ていいんだっ!
    いや、他人がどう言おうとヲレは“萌え”るぞ!
    みんなも萌えろっ! 萌え萌えぇ〜っ!

という無意識の刷込みを行った結果なのです。
 我ら「アトムの子」らは皆、簡素化されていながら官能的なライン、というモノを小さい頃から知っており、『記号的エロス存在』の刺激を浴びるほど受けて育つ結果、架空の存在や、己の創造物に“萌えあがる”事を無意識のうちに“是”として受け止めておるのです。

 日本人は誰もが潜在的に“萌え”うる脳構造に進化しているのです!

 余談だけど、「ドクター秩父山」で一部に有名な田中圭一センセなんか、たった2年だか練習しただけで、今じゃどっから見ても手塚治虫御大が描いたとしか思えない作風なんですもの。 スゲェぜ! (by ゴロタン)
雀部 >  なるほど、なるほど。それ故アメコミのエロシーンは、日本人が見たら全然色っぽくないんですね。“萌え”ねぇわけだ。
伊藤 >  解剖学的に正確なデッサン、すなわち「具象」と、記号的エロスの「抽象」とは、わりと対立しがちな事象なんですな。もちろん、デッサン力あるのに“萌え”る絵が描ける人も一杯いるけど。(陳淑芬とか、皇なつきとか)
 いずれにせよ、被創造物が絵であれフィギュアであれ、文章で記述されたキャラクターであれ、そこに“愛”があるか、“萌え”が込められているか、を我々は無意識のうちに感じとっているのです。
 たぶん、中身が全然“そーゆー内容”じゃないにも関わらず「不思議の国のアリス」がロリコンのバイブルとしてリスペクトされ続けているのは作品に込められたルイス・キャロルおぢさんの“萌え萌え毒電波”がそれだけ強力だったという事なのでせう。

 んで、話戻って、そーゆー視点から「オルガスマシン」を見るとですねぇ。

    ……だーめなんスよ。
    自分のキャラにちーとも“萌え”てねぇんでゲスよ、作者。

 惜しいなぁ。猫娘とか書きようによっては幾らでも『萌え萌え〜!!』なのになぁ。
雀部 >  たぶん、キリスト教圏の人たちは「男と女の間に生まれたもの」しか人間ではないとの教えが刷り込まれているんで、“萌え”ないんでしょうね。フランス人作家の書いた『禁断のクローン人間』とかアメリカ作家の書いた『スペアーズ』なんかでも、クローンというだけで、端から人間扱いされてないですからね。絶対そういう設定のほうがおかしいですって。
伊藤 >  んでもって、最初から「対立」すなわち「支配と従属」という概念からしか発想が展開せず、たとえ状況がひっくりかえったところで“ヤツの不幸はヲレの幸福”というゼロサムのサムい結論しか導き出せないのですなぁ。あ〜あ。
 ワトソン君も、せっかくニホンにいたんだから、横尾忠則なんかにハマッてないで、「鉄椀アトム」読んでたら、「A・I」もあんなトホホな作品にならなかっただろうになぁ。
雀部 >  「A・I」は、そもそもの原作がトホホですから(泣)
 「アトム」の洗礼は、やはり子供のうちに受けておかないと“萌え”にくいような気もしますね。
伊藤 >  確かに。
 そういった意味では今“ピカチュウ”の洗礼を受けてるアメリカのお子様達が思春期を迎えたあたりが狙い目ですね〜。(何のだ? (e_e;) )
 ただの静止画だとあまり感じないけど、声優さんがしゃべり、動いている時のピカチュウの“萌え萌えパワー”には空恐ろしいモノを感じます。
 もはや<<洗脳兵器>>と言ってもいいくらい。
雀部 >  TVのCMでも、あの綿引さんが「か・わ・い・い」って萌えていましたもんね(笑) 
伊藤 >  まさに脳と腰にくる可愛らしさ。
 んでもって、このへんの“精神に与える影響”で比較すると、「過激」な内容で「発禁」扱いされているにも関わらず、実はこの作品のインパクトって、かなりウスいんですよね。
 これを読んで“うおぉ! ヲレもこんな世界に住みてぇ!”と思うヤツは(たぶん)いないでしょう。(……あ、アメリカとかならいるのかな? そこはチト分からない)

 “女性にとってのディストピア”として、男性の行動を類型的にしか描けないのは、作者自身は決してこのカスタムメイドガールという存在を認めていないからなのだと思うのです。
 想像力の限界といいますか、自由なキャンバスを与えられた分、作者本人のマジメさとか妄想のバンド幅とかがモロに出ちゃったんだなぁ、と。

 ひょっとして、この作品の正しい読み方は

 “そぉじゃないだろ! ちくしょう分かってねぇなぁ! ヲレだったら……”

 とキャラ萌え妄想を広げる事なのかも知れません。

pi―――(ただいま暴走中です)―――!

雀部 >  まあカスタムメイド・ガールたちを、客観的に、なるたけ感情移入をせずに描写することによって、魅力的な主人公を描きながらも実はその気を失せさせるアンチ・ポルノとして作品の価値が生じてるといるとも言えますが。
伊藤 >  ふむむむ。果して、作者はそこまで狙ってたのかなぁ?
 でも確かに「アンチ・ポルノ」ってゆーか、「アンチ・バイオレンス」とか「アンチ・男性至上主義」な気持ちにはさせられますね。
 エロスを感じる要素はことごとく排除され、それゆえ“萌え”の入り込む余地なんか、最初からありゃしない。やっぱこの人、マジメにマジメに“あの時代に想像しうる限界の過激さ”を目指したっぽいですねぇ。

 そういや、アメコミに限らず一般に海外SFのキャラは“萌え”にくくないですか?

 「あいどる」なんか、
 “ホントにアンタ、ソレにホの字になれんの? マヂで?”
 とギブスンを問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい。

 雀部さんはどのへんのキャラクターに初めて“萌え”ました?
 デジャー・ソリスあたりですか?
雀部 >  私は、海外SFのキャラに限らず、外人の女性そのものにも“萌え”にくいんです(泣)
 実は、最初に気に入った絵というのが、小学生の時に新聞に連載されていたアトムの四コマ漫画なんですよ。これに登場したテレビ電話に映る優しげな科学者の顔(男です^^;)に魅入られて、しばらく切り抜きを机の引き出しに入れてました。“萌え”たかどうだかは定かではないですが(爆)
伊藤 >  うおぉっ! 同志よっ!
 白状いたしますと、ワタクシの<<初恋>>は小学3年生の時に教室の本棚にあった、学研の「科学と学習」のお便り欄に載っていた『読者からの投稿イラスト』に対してでありました!
 もうどんな絵か全然覚えてないんですけど、最初にソレを見た時のシビれるような感覚だけは未だに鮮明に覚えています。授業の合間にこっそり見たりしたっけなぁ。
 アレこそ我が初恋にして初萌え〜。
雀部 >  そ、それは奇遇ですなぁ!(驚)
 デジャー・ソリスはもちろん色っぽかったんですが、やはり最初の“萌え”は、中学2年の時に読んだ、日本SFシリーズの一冊『エスパイ』でしょう!あのマリア嬢が、陵辱されるシーンときたら、田舎の中学生には刺激がきつかったで〜す。
伊藤 >  うおお! 『エスパイ』! これまた激しく同意であります!!
 小松センセも“萌え萌え”だったのかなぁ。アパッチ族とか、日本列島とか、イルカとか……。
 あ、そうそう!
 中高生への「刺激」と言えば、ヤハリ、ウルフガイの青鹿先生を忘れるわけには参りますまい!
雀部 >  平井先生の、ウルフガイは萌え萌えでしたねぇ。セクサロイドとかも〜。
 今でこそ、それ系のお話は、掃いて捨てるほどありますが。
伊藤 >  SF作家で意図的かつ全面的に“萌え”を活用し始めたのって平井センセが最初じゃないですか? 光瀬龍センセも猫柳ヨウレシリーズとか書いてたけど、あんま萌えなかったし。「百億の昼と千億の夜」は萩尾望都が描いた阿修羅王あってこそだしな〜。

 こうしてみると文字のみでの“萌え”って難しいですね。
 あ! 「オイディプスの恋人」の七瀬はイラスト無しでも“萌え”たっけな。

 イアン・ワトスンは惜しいとこでタイミングを逸しましたねぇ。
 あの時代に独力でこのレベルの“ヤバさ”に到達してたんだから、もうちょっと注意深くニホン文化の潜在力に目をやっていれば“萌え”の発見と活用という、SF界に類のない先駆者になったかもしれないのに。
 この際、彼には「オルガスマシン」発売を記念して来日してもらい、「To Heart」やったり、「ちょびっツ」読んだりして“人類の進化”ってぇヤツを目のあたりにしてほしいですね。
(なお、個人的おススメは陽気婢センセの「えっちーず」2巻の「YOU're MINE」)

 そしたら今度こそ「オルガスマシン」の“萌え萌え”改定版として、カスタムメイドガールファクトリーによって生み出されたアイドルグループが世界中を熱狂させる

    「モーフィング娘。」

 なんかを書いてくれる事でせう。(イラストはうるし原智志あたりを激しく希望)
雀部 >  おお、trashパワー全開!
 それはそうと、日本人は手塚先生の偉大なる影響下で、人間をシンボライズしたものにも「愛」を感じることができるようになったのですが、その反対に、デフォルメされ誇張され、単純化された2次元キャラクターのエッセンスを実際の女の子たちに適用して、商品として売りまくっているのが、yellow cabだと思うのですがどうでしょう?(笑)古くは、ふーみんとか、かとうれいこちゃんとか。最近では、小池栄子ちゃんとか。
伊藤 >  おお。萌え萌えシンボライズの逆流!
 うんうん。確かにみなさん、マンガ的なくらいにウリが分かりやすいっすね〜。
 さらに付け加えますと“萌え”には<<肉感的>>方向性以外にも<<はかなげ>>ってぇ路線もあり、原田知世なんかは、まさに“萌え”だけ(……とか書いたら怒るヒトいっぱいいるんだろーなー)でワタクシの世代の多くのヤロウどもの魂をわし掴みにしちまいました。お父んお母んにはどこがいいのかサッパリ分からなかったみたいですが、彼女もまたキャラクターのエッセンスを抽出した“萌え”の巫女と呼ぶに相応しい存在と言えるでしょう。
雀部 >  知世ちゃんは、いいっす。うちのカミさんなんかは、どこが良いのかわからんと言いますが、儚げというかまもってあげたい気持ちにさせてくれるキャラでしたねぇ。
 イアン・ワトスンというと、最近では少女の成長記のかたちをとった哲学的ファンタジーの大作《黒き流れ》三部作がありますが、読みやすさという点では、『オルガスマシン』のほうが読みやすいですよね。あまり観念的な議論とか出てこなくて(笑)
 最後に。この本はどういった人たちにお薦めできるでしょうか?
 人生に草臥れたお父さんには、なんのことか分からないかな(爆)
伊藤 >  う。実は難しい質問ですね。
 「読んではいけない」人は、

 ◎ 残酷描写にヨワいヒト
 ◎ “性”と“男性至上社会”がネタだと真面目に怒るヒト
 ◎ 少女を2階で9年(ぴーーーーーっ!)なヤツ

 といった感じで割と明瞭なんですが、う〜〜〜ん――

 ☆ すでに大抵の刺激には慣れっこで
 ☆ 描写の表面的な過激さに惑わされず
 ☆ “全てのものはネタである”というSFマインドに理解があるヒト

 ってぇと、実は「すれっからしのSFファン」以外にゃ向かないのかな?
 日本くらいでしか出版出来ないんだけど日本人にはヌルい、という皮肉な状況に対し、「現実が空想を追い越しちゃった国」に住んでいる事をしみじみ実感するのです。

 「オルガスマシン」読み、秋葉原の中古ソフト屋で「綾波育成計画」買い、海洋堂でウェディングドレス仕様の着せ替えドール購入――コレ最強。
 でもシロウトにはおすすめ出来ない。(笑)
雀部 >  そっか、お薦めできない人を選定するほうが楽っすね〜。これ、頂きます(笑)

 

[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[伊藤@trashメール]
行住座臥、いかなる時もスキあらばオチをつけようと、虎視眈々と機会をうかがうチョッピリお茶目なSF中年。
でも、元ネタが古いのでお若い方に通じにくいのが悩みのタネ。
コードネームは「老いたる霊長類のオチへの参加」(嘘)
http://www.sf-fantasy.com/magazine/cgi-bin/joke/index.cgi

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