雀部 |
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「スロー・チューズデー・ナイト」は、初訳はSFマガジンの'72/8月号ですね。
SFマガジンでも、ラファティ氏の作品としては初期のころに紹介されたものですね。初めて読んだ時は、ほんとクラクラきました(笑)(ちなみに最初の短編は、'67/7月号の「レインバード氏の三つの生涯」) |
松崎 |
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二位の「他人の目」(4票)もちょっと意外でした。三位は3票入ったのが7作品。
定番と思われる「みにくい海」や「その町の名は?」、わりととっつきやすいけどラファティ色がよく出ている「うちの町内」や「寿限無、寿限無」、「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」、「世界の蝶番はうめく」、そして訳わからないけどラファティの独自性が強烈な「草の日々、藁の日々」。結局、票を得た作品は総数40篇以上で、皆さん見事にバラバラなベスト3を選んでいただけたな、と思います。募集時に翻訳されていた作品が80篇と少しですから、翻訳された作品の二篇に一篇はどなたかのベスト3に選ばれているわけです。 |
雀部 |
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「世界の蝶番はうめく」は私も投票したんです。わりと普通な選択であった(笑) |
松崎 |
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また、ベスト3と同時に、ピンとこない作品も募集したのですが、「ダマスカスの川」を筆頭に「草の日々、藁の日々」、「つぎの岩につづく」、「町かどの穴」などなど、ほとんどの作品が別な方のベスト3に入っていました。いやもう、本当に皆さんマイ・フェイヴァリット・ラファティをお持ちなんだなあ、と。
<ラファティ氏のベスト3アンケートの結果はこちら> |
雀部 |
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一位の「スロー・チューズデー・ナイト」と二位の「他人の目」はどちらも『九百人のお祖母さん』所載の短編なんですが、ラファティ氏にしては、ごく真っ当なSFとして読めるとおもうのですが、いかがでしょうか? |
松崎 |
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『九百人のお祖母さん』は本国でも第一短編集でして、ラファティとしてはかなり気合いの入った「SF」作品集と思います。Galaxy誌やIf誌に載った作品を中心に収録されており、初期作品でもSF色の薄い「秘密の鰐について」や「断崖が笑った」などは次回回しにされているようです。 |
雀部 |
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あ、そうなんですか。それで初心者にも取っつきやすい短編集になっているんですね。 |
松崎 |
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「スロー・チューズデー・ナイト」は、人間の思考能力が外科手術により飛躍的にスピードアップされた時代の話。アベバイオアス阻害やら、マヌス・モジュール、可変アウトラインと観念インデックスなどなど、散りばめられた豊富なSF風ガジェットだけみれば、あたかもディックもしくはサイバーパンク風(笑)。まあ、真面目に考えればいくら思考能力が速くなったって、八時間に何年間分ものイベントを詰め込むには、身体能力が追いつかないんじゃないかってツッコミが入りそうなものですが。ラファティを愉しめるひとはそんな些細な(笑)ことは気にしません。「一晩に人生をぎゅっと詰め込む」という奇想をSF的にそれらしく構築したステージ上で、お祭り騒ぎを繰り広げる登場人物たちのやりとりを愉しむっていうのが正しいあり方なんじゃないかと。 |
雀部 |
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この短編では、新興成金と結婚するのが趣味の市一番の美女インデフォンサと、一番手の早い女ジュディーのキャラが好きなんです。この二人も人生を楽しんでますよね〜(爆) |
松崎 |
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「他人の目」のシチュエーションは、まさに真っ当なSFですね。でも、この作品も本質はコミュニケーションギャップを扱ったコントであり、「他人の世界観を自分のものとする」という奇想を、おなじみ「研究所」のマッドサイエンティストたちが発明した大脳走査機というガジェットでそれらしく実現させています。個人の内的世界を体感するってアイデアはディックの「宇宙の眼」をはじめ、SFとしてはよくあるものですよね。ラファティも後年の「クレプシス年代記」に応用してますし。むしろ、この作品はラファティが好んで扱うテーマのひとつ、コミュニケーションの問題をめぐる可笑しくもちょっと哀しい人間についての考察であって、必ずしもSFとして書かれなくても成立するんじゃないでしょうか。逆に言えば、単なるワン・アイデアSFにもなりかねない作品が、かくも魅力的な作品として現代でも評価されるというのは、その本質が普遍的なものだからと思うのです。 |
雀部 |
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「他人の目」は、他の人間と意識を共有(他人の目で見るようになる)すると、それは自分の知っている世界とは同じ世界ではないはずだという、今で言うと認識論がらみの作品としても読めますね。これなんかは、最近では、瀬名秀明さんをはじめとして、先月の著者インタビューのお相手、平谷美樹さんなども取り上げていらっしゃるナウい(古っ^^;)テーマなので、当然かも知れません。その料理の仕方と手際の良さは、ラファティ氏ならではのものなんですが。 |
松崎 |
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しかし、後年になるにつれ、ラファティはどんどん説明(いくら怪しげとはいえ)を省き、あるいは理解不能な説明をむしろ饒舌に語り、読者に置いてけぼりをくわすようになってゆきます。その微妙な境界域で生み出された、難解かつ魅力的といわれる作品群は、浅倉久志さんの編訳になる『どろぼう熊の惑星』収録の「草の日々、藁の日々」とかですね。さらにイってしまった未訳作品もけっこうあるんですが。
また、「他人の目」ではストレートに表現されていたコミュニケーションギャップは、長編「イースターワインに到着」では水面下のテーマとしてより解りにくい形で扱われ、狂騒する登場人物たちの動向がエピクトというクティステック・マシンすなわち非人間の主観を通して語られる(って言うか、文字通り「騙られる」)ために大多数の読者は混乱し、頭をかかえる羽目になるみたいですね。もちろん、僕も愉しめはしましたが、本当のところさっぱり訳がわからない作品でした。 |
雀部 |
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あ、『イースターワインに到着』は、わたしも、わけわかなんです(汗)
松崎さんのおっしゃられるところは、私も感じていました。
ラファティ氏の魅力は、誰にも似ていないその独自性だと思います。そしてまたその独自性が、一般のSFファンには読みにくさでもありますよね。
SFというのは、作家と読者が共通の基盤に立って、その約束事の中でストーリーが進んでいくようなところがありますね。例えば、<ワープ>と言えば、いちいち説明しなくても、空間をねじ曲げて超光速を得る航法だなとか分かるわけです。そこがファンにとっては心地よいんですけど、ラファティ氏の疑似科学は、独自な、とんでもないもので(笑)一見するとSFの衣をまとっているために、心地よさに浸ろうとするファンが読むと“あれっ?”ってことになると思うのですが。 |
松崎 |
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そうですね。まっとうなSFファンが、真面目に読もうとすると足下をすくわれる(笑)。作品のバックグラウンドを支える科学的論理は無いのに、散りばめられた雑多な科学用語と理論らしきものが、一見まともなSFなんじゃないかと錯覚させるんです。特に地質学や古生物学などの領域では結構深いものがあるような。さらに言語学的な衒学性が目眩ましとなって、どこか別の世界の論理があるような気がしてくる。
そこのところに上手い具合に浸れる読者にとっては、ワン・アンド・オンリーの作家となるんでしょうね。 |
雀部 |
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ワン・アンド・オンリーってことで言うと、SFに対するスタンスは、コードウェイナー・スミス氏と似てませんか?もちろん作風は全然違うのですが、SFが好きで、でも書いているものはコアなSFじゃなくて独自な、他の人には真似の出来ない点がです。ラファティ氏のほうが、そのぶれ具合が大きいのは言うまでもありませんが(笑) |
松崎 |
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おおっ、コードウェイナー・スミス! 大好きな作家です。おっしゃる通り、ワン・アンド・オンリーの作家ですね。ラファティとスミスは、どちらも本質的にはプロフェッショナルな作家というよりは語り部的な要素が強い作家と思います。ストーリーとしての一貫性や洗練されたプロットではなく、特異な世界の一部分を切り取ってきたようなエピソードを、ぽんと読者の前に投げ出したような感じ。その世界観があまりにも特異であるがために、広く受け入れられることは難しい反面、波長の合う読者にとってはたまらないものがあるんでしょうね。SFセミナーで牧眞司さんが冗談めかして「俺はラファティを万人に読んでもらいたいとは思わない。極端に言えば、ラファティを読むのは俺だけでいい」といったニュアンスのことをおっしゃったんですが、まさにこの作家の本質をついた発言じゃないかと思いました。
ただ、スミスは自ら構築した別世界の物語をこちら側に汲み取ってくるのに対し、ラファティはどうも自らが住む世界の物語をそのまま語っているんじゃないかって、これはSFセミナーでの柳下毅一郎さんの説なんですが。だから、ガルシア・マルケスみたいに計算せずとも、素で物語るだけで自動的にマジック・リアリズムになってしまうという(笑)。 |
雀部 |
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素のマジックリアリズム作家か。いい言葉だなぁ。((C)柳下毅一郎)と断りを入れてどこかで使ってみよう(笑)
松崎さんが最初に読まれたラファティ氏の作品はなんでしょう?またその時の感想はどうだったのでしょうか。
私が最初に読んだのは、たぶん前述の「レインバード氏の三つの生涯」だと思うのですが全然印象に残ってません。むしろ次の年(68/1)に出た『年間SF傑作選3』(メリル女史編)収録の「恐怖の7日間」ですね。最後のクラリッサ嬢ちゃんのセリフにはぎゃふんとしました(爆) |
松崎 |
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僕もメリルの年間SF傑作選です。読んだ順番は不確かですが、「せまい谷」「カミロイ人の初等教育」「火曜日の夜」「恐怖の7日間」。それに、ハヤカワ文庫SFで出ていたウォルハイム&カー編のワールズ・ベスト収録の「うちの町内」「九百人のお祖母さん」「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」「いなかった男」。このあたりがラファティとの出会いです。僕もクラリッサのセリフにやられたクチですね(笑)。あと、当時中学生だった僕の琴線に触れたのは「うちの町内」。「してくれるのことよ、マイフレンド」などと怪しげな言葉遣いの女性キャラがなんとも...
なんか女の子の話ばっかりですね(笑)。今にして思えば、浅倉久志さんの訳文にはめられたような気もしますが。
まあ、当時は何となく感覚的に他のSFとは違う、なんとも奇天烈な話を書く作家なんだなあ、と思っていました。 |
雀部 |
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それが、未訳の作品を御自分で翻訳するようになるほどお好きになられたのはどういうきっかけからなのでしょうか? |
松崎 |
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最初はマイ・ベストに「夏への扉」を挙げるようなごく普通のSFファン(笑)だったのですが、だんだんとスレてきて、まずディックにはまり、スタージョンにコードウェイナー・スミスと順調に歪んできて(笑)、いまやラファティとアヴラム・デイヴィッドスンをイチ押しに挙げる始末です。なかでもラファティにここまではまったのは、一読して頭上にはてなマークが飛び交うような、わけわからないんだけど強烈な作品群、例えば『つぎの岩につづく』や『どろぼう熊の惑星』に収録されている「草の日々、藁の日々」「とどろき平」「つぎの岩につづく」「完全無欠な貴橄欖石」などなどにあてられたんだと思います。それと、エピクトや研究所の面々へのキャラ萌え(笑)。原書を読もうって思った一番の動機は、シリーズものの未訳作を探して彼らにもう一度会いたいっていう、実にまっとうな(笑)ファン心理なんです。 |
雀部 |
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いや、コードウェイナー・スミス氏あたりまでは、本道のような(爆)
アヴラム・デイヴィッドスン氏は、ヒューゴー賞取ったけど、邦訳はほとんどありませんね。そこらあたりも、原書を読まれるもととなっているんでしょうね。
いままで、ラファティ氏は取っつきにくい、読んでも面白くないと思っている方に松崎さんがお薦めの作品というと、どれなんでしょう? |
松崎 |
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やっぱり、比較的初期の作品で、奇想と文体やキャラがバランスよく描かれているものですね。「せまい谷」「うちの町内」「その町の名は?」「恐怖の7日間」あたりでしょうか。また、ファンタジー寄りな作品では、「みにくい海」「昔には帰れない」は是非とも読んでいただきたい。ラファティが単なる「ホラ吹きおじさん」じゃなくって、なんとも心に残る作品を書く作家だってことが解ると思います。 |
雀部 |
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「せまい谷」は、松崎さんが、「らっぱ亭とおる・ているの漫才風作品紹介」で紹介されてますね。「うちの町内」は、前述の「してくれるのことよ、マンフレンド」などと怪しげな言葉遣いのおネェちゃんが出てくる作品。「その町の名は?」は、お馴染みのAI(違うかも^^;)エピクトが“その存在が知られていないあるものを、証拠の不在を綿密に検討することによって、発見する”という命題に挑戦したあっぱれな短編ですね。哲学的というか、SF的と言えるかもしれません。「恐怖の7日間」は、とんでもない悪ガキが、町内のモノを消し始めてというユーモアファンタジーかなあ。これらは全部『九百人のお祖母さん』に収録されてます。
「みにくい海」(『つぎの岩につづく』所載)は、若者の恋の物語ですが、当然一筋縄ではいかない(笑)これは私も大好きだなぁ。
「昔には帰れない」は、SFマガジン'86/6月号所載なんですが、文庫に収録されてないようなんですけど、何故かなぁ。ラファティ氏のファンタジー世界に対する考え方がうかがえるちょっとほろ苦い短編ですね。
これらの短編に、「スロー・チューズデー・ナイト」と「他人の目」を加えて、それをSFファン向け、ファンタジーファン向けに強引に分類するとどうなりますでしょうか?(笑) |
松崎 |
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難しい質問ですね。単に「ユーモアSF」とするには螺子が外れすぎてるし、最近よく使われる「バカSF」ってのもちょっと違う。SFマガジンで前に特集があった「奇想SF」ってのが割と近いんでしょうが、ちょっと表現がおとなしいかなあ。本国じゃよくマッドなんて形容されてるんですが、僕としては「キテレツ(奇天烈)SF」くらいが妥当じゃないかと。でもキテレツなんてもう死語でしょうかねえ。
あと、疑似科学趣味から「トンデモ・ハードSF」って煽っておくと、騙されて新たなファン層がつくかも。(笑) |
雀部 |
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そうですね「奇天烈SF」も良さげですけど、「トンデモ・ハードSF」当たってるかも(爆)
今回はラファティ氏について色々教えていただきありがとうございました。
最後に、松崎さんにとってラファティ氏とは? |
松崎 |
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不滅の「もうろく魔法使い」(笑)これからも、僕たちにアルコール度5%のキテレツな魔法をかけ続けて欲しいものですね。
(SFマガジンの特集号の表紙を見るとその雰囲気がわかります!) |