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BookReview

レビューア:[雀部]&[彼方]

『最果ての銀河船団(上)』
> ヴァーナー・ヴィンジ著/中原尚哉訳/鶴田謙二表紙画
> ISBN 4-488-70503-0
> 創元SF文庫
> 1260円
> 2002.6.14発行

2000年度ヒューゴー賞、ジョン・キャンベル記念賞、プロメテウス賞受賞

 チェンホー船団長のサミーは、ある男の情報を探しその範囲を徐々に狭めつつあった。その男の助けを借りて謎のオンオフ星系へ探索に向かう予定なのだ。
 オンオフ星は、250年のうち35年間だけ光を放ち、それ以外は真っ暗になるという奇妙な恒星で、その星系から火花ギャップを使ったと見られる無線通信をキャッチしたのだ。それは手動のモールス信号に近いものだったが、人間の手と反射神経では考えられないリズムを示していた。この人類が出会う三番目の知性を持った異星生命体との交流が一攫千金のチャンスとばかりに、チェンホーだけでなく、ここ数世紀の間に伸してきた独裁制をひくエマージェント文明の船団も、オンオフ星系を目指していた。

...下へ続く


『最果ての銀河船団(下)』
> ヴァーナー・ヴィンジ著/中原尚哉訳/鶴田謙二表紙画
> ISBN 4-488-70504-9
> 創元SF文庫
> 1260円
> 2002.6.14発行
 異星人+金儲けというとニーヴン&パーネルの《神の目》二部作あたりを思い出しますが、あっちはどちらかというと軍隊がらみだったのですが、この作品では、チェンホーという多数の商船隊によって構成された<文明>の争いを描いています。つまり惑星上の文明は滅びることがあっても大宇宙に散らばった船団が保有する科学や技術は、生き残れるという論理ですね。
 ポリティカル・フィクションは、詰まらなくなりやすいのですが、そこに商売人の論理を持ち込むことによって話が分かりやすくなっています(笑)

2000年度SF各賞総ナメ作品

雀部 >  この長編は、2000年度ヒューゴー賞、ジョン・キャンベル記念賞、プロメテウス賞などの各賞を受賞したみたいなんですけど、読まれた感想はいかがでしたか?
彼方 >  すっごい読応えのある、面白い作品でした。いや、もう、ひたすら長いのなんの、下巻の半分位まで読み進めるのが大変で。そこまでいけば、ぐいぐい引っ張られて、あっと言う間に読み終わってしまうんですが。あまりに、あっと言う間に読み終わってしまうので、最後には、「そんな事で良いのか、エズル君」と叫びそうになってしまいました(^^;。
 それと、作品のなかで、千年単位で話が行ったり来たりするは、時間の数え方がとことん秒単位で、キロ秒とかメガ秒とか出てくるので、戸惑ってしまうのですが、世界観を確立するのには良いのかも。
 ただ、単行本二冊で2,400円てのはいかがなものかと(^^;。分量的には、そこらの文庫本三・四冊分はあるので、決して高いわけではないんですけどね。文庫本に1,200円てのは抵抗あります。やっぱり(^^;。
雀部 >  確かに長いですけど、軽〜いので比較的すいすい読めますよね(笑)
 キロ秒とかギガ秒は、それほど気にならなかったんだけど。というか時間的なものはあまり気にしてなかったので(爆)
 それより、やはり蜘蛛族なんだから、八進法を採用してもらいたかったなあと思ったのは、私だけ?
 (八進法でしたっけ?読みおとしているかもしれないなあ)
彼方 >  確かに、さくさく読んではいたんですけど、長い長いプロローグというか、結構退屈でした(^^;。
 時間については、普段は、そういう設定なんだと読み飛ばす方なんですが、この作品に関してはなぜか、何分、何時間と換算しないと気が済まなくて。
 進数については、気になったのでザクッと眺め直したら、蜘蛛族は十本足てな記述があったので、十進数でも良いのかなと。人間だって、十二進数とか、六十進数とか、使ってますし、十進数使っていながら、一週間は七日間とか中途半端だし、その辺は良いのではないかと。
 それに、基本的に何故か蜘蛛族は、アメリカの度量衡を使っているみたいですし(^^;、八進数で一時間とか、マイルとか、ポンドとか、使いづらいのではないかと。
 メガ秒、ギガ秒に気を取られていて、進数にまで気が回りませんでしたヽ(^^;)ぉぃぉぃ
雀部 >  ありゃ、十本足でしたか(爆死)
 それは度量衡的には好都合ですね(笑)
 気に入られた設定とか、キャラはありましたでしょうか?
彼方 >  設定だと、どうしたらそんな恒星になってしまうのか納得いかないオンオフ星とか、あまりにご都合主義すぎるようなローカライザですかね。
 キャラだと、トリクシア・ボンソルと、蜘蛛そっくりって事はおいておいて、シャケナー・アンダーヒルですかね。もし、シャケナーがいなければ、蜘蛛族の宇宙進出は何暗期後になったことやら。

世の中、蜘蛛嫌い派と蛇嫌い派に分けられる

雀部 >  オンオフ星の謎は続編で明かされるような気もしますね。
 (ほんとうにあるのか?>続編)
 そういや、シャケナー・アンダーヒルという名前もあまりに人間的過ぎる気もします。
 まあ、蜘蛛族の名前は、人間の言語に移し替えるのが不可能だと言われればそうかも知れないんですが(爆)
彼方 >  あるんでしょうか(^^;? >続編
 名前は、丘の下とか、町の下とか、かなりベタですよね(^^;。きっと、人間の可聴域やら発声可能域には収まらないのでしょう。可視域も人間に較べて広いようですから、蜘蛛族語の英語訳だと思いましょう(^^;。
雀部 >  蜘蛛族は、誕生した所に因んだ名前を付けるのだろうか(笑)
 女性たちには圧倒的に気持ち悪がられているクモなんですが、今回登場する蜘蛛族のキャラはいかがでした?
彼方 >  田中芳樹さんだったか、「世の中、蜘蛛嫌い派と蛇嫌い派に分けられる」と書いていましたが、私は蜘蛛嫌い派なんです(^^;。蛇が好きなわけでもないですが。
 とは言え、容姿を除けば、面白いキャラクタだと思います。
雀部 >  私はどちらも特に好きでも嫌いでもないなぁ。どっちを触るのが嫌かというと、やはり咬まれる可能性のある蛇かなぁ(除く→タランチュラ)
 一応、蜘蛛族の描き方は(人類向け放送分は)通訳する人間というフィルターがかかっているという逃げがうってあるのですが、どうでしょう。あまりに人間そっくりの考え方をするとは感じられませんでしたか? まあ、欠点とは言えないんですがねぇ。ハードSFの名作の誉れ高いクレメントの『重力の使命(使節)』に出てくるメスクリン人も、精神的にはまんま人間(アメリカ人)そのものでしたからねぇ(笑)
彼方 >  そうですね。実は、最初の蜘蛛族のパートが、蜘蛛族の話とは気がつかず、チェンホーだか、エマージェントだかの話だと思って、あまりに唐突な場面転換だと思って読んでました。
 まぁ、あまりに異質な思考形態でも、取っ付きにくくなっちゃいますし、ところどころ蜘蛛族ならではのことわざだか格言とか、生活様式の描写もありましたし、それほど気になりませんでした。
雀部 >  え、やはりそうですか。私も数頁読むまで気が付かなかった(爆)
 まあ蜘蛛族というだけで、異星人なんだから、そこらのクモと同じじゃないんですよね。
 どうしても、多量の卵を生んで、孵化すると小さいクモがうじゃうじゃと居るのを想像して、親蜘蛛の愛情なんてあるとは考えられないから。
 そういう意味では、蜘蛛族というネーミングそのものに問題があるかも知れませんね(笑)
彼方 >  ちっちゃい蜘蛛がわらわら出てきたら、その場で放り投げてたかも(^^;。
 でも、見た目はやっぱり蜘蛛ですからねぇ。他に適当な名前が・・・、あ、素直にアラクナ星人と呼べば良かったのかも。

素粒子レベルで制御する核融合とか

雀部 >  この作品みたいに“新異星人とのコンタクト=金儲け”というのをストレートに描いた作品は珍しいですよね。またそれが、新鮮に感じられて、お話に深みを与えているように思いましたが、彼方さんはどう感じられましたか?
彼方 >  チェンホーとエマージェントがなんであんなに、躍起になるのか判りますよね。
また、チェンホーが、高価値なものを売るために、それを必要とする技術を星間放送で広めるなんて、商売上手です(^^;。
雀部 >  マイクロソフトとインテルの関係みたいだとか(爆)
 さて、今回は前作『遠き神々の炎』の“銀河系の周辺部に行くにしたがって知性が高度化する”という設定がまだ出てきてないのですが、ちょっと残念ですよね。
彼方 >  これが、解説読むまで『遠き神々の炎』の続編というか、同じ世界だとは気がつかなかったんですよ。一度読んでるはずなんですが(^^;。作中でも、思っていたんですけど、解説読んで、ますます思ったのが、ファム・トリンリって何者なんでしょうか。あの活躍の仕方は、反則じゃなかろーか(^^;。
 とゆー訳で、『遠き神々の炎』の設定については、思いもせずに楽しんで読んでました。
雀部 >  あまりにご都合主義すぎるローカライザという話が出たのですが、どのようなところがそう感じられましたか。
彼方 >  マイクロマシンが空気中を漂って、分散コンピューティングをしているのは良いとしても、どうやって自分や他のローカライザの位置情報を取得しているのかとか、非常用バッテリまで持っているとか、視覚神経とのインターフェイスを持っているとか、いくら技術が進歩しているとはいえ、詰め込みすぎです(^^;。
 それに、電源供給がマイクロウェーブって、いくら微弱とはいえ大丈夫なんでしょうか。そういえば、体内に入ったローカライザが受電しても問題ないんでしょうか(^^;?
雀部 >  バッテリは、性質上どうしても大きくなっちゃいますよね。
 素粒子レベルで制御する核融合とか(爆)
 飲み込んで体内を撮すカプセル型のカメラあります。動力はマイクロウェーブなんです。名前がNorika(あ〜、藤原紀香さんから名前をとったそうです^^;)って言うんですが。で、この会社、無線方式のレントゲンフィルム(CCDですけど)も作っていて、これも電源はマイクロウェーブで。歯科用は、当然のことながら、顔面に向けてマイクロウェーブが放射されます。日本では薬事に通ってません。つ〜か、使うのが怖いぞ。
彼方 >  カプセル型のカメラは聞いたことがあります。確か、姿勢制御も出来たんですよね。名前までは知りませんでしたが。しかし、何故に藤原紀香(^^;?イスラエルのメーカーでしたよね(^^;。
 マイクロウェーブも微弱なら大丈夫みたいなのかな。胃カメラ飲むか、マイクロウェーブ浴びるかとか、放射線浴びるか、なんかどっちもやな選択ですね(^^;。人間、健康が第一です(^^;。
雀部 >  もちろん姿勢制御はできます。製造元は、長野県のメーカーです。元々は盗聴盗撮装置で有名な会社(笑)
 あと面白いガジェットとしては、エマージェントの集中化技術というのはどうでしたか?エズル君が最後までご執心だったトリクシア・ボンソルが、エマージェント側の手によってこれに罹ってその後遺症(?)があるかどうかというのも展開の妙だったように思います。
彼方 >  究極の洗脳装置というか、人間版分散コンピューティングというか(^^;。集中化された人同士で、高速言語によるメッセージが飛び交うあたり、分散コンピューティングをかなり意識しているし、分散コンピューティングだと全体を調停するものが必要になりますけど、そこにエマージェントの支配者層を持ってくるあたりおもしろいなと。
雀部 >  なるほど人間分散型コンピューティングですか。流行りかも(笑)
彼方 >  ところで、一つ、未だに気になってるのがあるんです。
 冒頭、著者の註解がありますが、ここの括弧書き、(トリクシア・ボンソルなら理解してくれるはずだ!)とありますが、ここってどういう意味なんでしょう(^^;?
雀部 >  トリクシア・ボンソルが言語学者だから、そういう発音の変遷については詳しいからなんだろうと単純に考えていましたが(笑)
彼方 >  なるほど。そんなに難しく考えることはなかったのね(^^;。

ヤングアダルトものがお好きな読者層にはどうなんでしょうね?

雀部 >  ということで、広くSFファンだけでなく、冒険モノがお好きな読者にもお薦めの本書ですが、彼方さんの全体的な評価はいかがですか?
 私は前作『遠き神々の炎』を☆五つとするなら、☆四つくらいかなという感じなんですが。異星生命体の設定が、『遠き神々の炎』の鉄爪族ほど魅力的では無いのと、クライマックスがやや尻すぼみなのとで。あ、「夜来る」を思わせるアラクナ星の設定は凄く魅力的でしたが。
彼方 >  ★★★☆(3.5)かなぁ。ご都合過ぎるローカライザとか、最後のエズル君の行動とかが減点対象(^^;。あ、あと、価格と前半の退屈さ。これに我慢できる人なら★四つでもよいかも。
 とりあえず、出ると言われる続編では、アラクナ星の設定と、ファム・トリンリが何者か、はっきりさせてくれると嬉しいな。
雀部 >  お、意外にきびしいですね(笑)
 あとは、『遠き神々の炎』には出てくる超光速(FTL)をまだ出さなかったのはどうですか? これが意外に、宇宙空間というかこの作戦自体の遠大さを出すのに役立っていたような気がしました。まあ『遠き神々の炎』におけるFTLというのは単に銀河辺縁部において光の速度自体が大幅にアップすることから来ているからFTLとは呼ばないでしょうけど。
彼方 >  解説を読むと、ふーん、そうなんだ。と納得してしまいましたが、読んでる間は、随分未来の話で、技術も科学もだいぶ進歩しているのに、光速を超えられないとは随分難儀な設定だな。と思ってました(^^;。確かに、宇宙空間は、いやになるぐらい広大な空間であることは実感できましたが。良くも悪くも、星間宇宙が舞台に出てくる、それなりに未来の設定であれば、超光速技術はデファクトスタンダードでしたから、そこを縛ってしまうのは書く方も大変でしょう。相対論に沿って時間の遅れを考えないといけないんだから(^^;。
雀部 >  オンオフ星のことも、後書きになんか書いてあったけど、あれは違うんじゃないかな。いくらなんでも、恒星の一生と人間の一生の長さを比べて考えても、ちょっと遅すぎる。まあ、まだディファレンス・エンジンの段階だというなら納得できるけど(爆)
彼方 >  『遠き神々の炎』との関連も思いつかなかったぐらいなので、オンオフ星についてはさっぱり見当もつかないので、解説にあった推測もそんなものかと読み流していました(^^;。別の場所でも、解説については否定的な意見でしたね。
雀部 >  ありがとうございました。そうだ、最後にひとつお聞きしたいんですが、この本は、ヤングアダルトものがお好きな読者層にはどうなんでしょうね?
 前半の退屈さを乗り切れる読者向けにならお薦めかなぁ。それとも、あまりキャラが立っているとは言い難いから、ダメでしょうか?みんな屈折しているし(爆)
彼方 >  SFと同じで、ヤングアダルトも間口が広いので、一概には言えませんけど、ちょっと難しいのではないかと。最後の方まで、淡々とストーリが進むし、雀部さんが言われるように、キャラが屈折していて物事を裏で裏で進めようとするので、表だってはストーリが進んでないように見えるし、エズル君の行動にやきもきしたりと、読んでいてもどかしいですから。あ、屈折しまくってるので、ある意味キャラは立ってると思います(^^;。
 な訳で、良くも悪くも、<長編>SFファン向けです(^^;。
 しかし、悪口ばかり出て来るな(^^;、この作品。そんなに悪い作品じゃないのに。
雀部 >  そりゃ、悪い作品じゃヒューゴー賞獲れないっすよ(爆笑)

[雀部]
50歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[彼方]
コンピュータシステムのお守となんでも屋さん。アニメとSFが趣味。最近、ハードなSFが少なくて寂しい。また、たれぱんだとともにたれて、こげぱんとともにやさぐれてるらしいヽ(^^;)ぉぃぉぃ ペンネームの彼方は、@niftyで使用しているハンドルです。

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