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BookReview

レビューア:[雀部]&[伊藤]

『魔術探偵スラクサス』
> マーティン・スコット著/内田昌之訳/大本海図カバー
> ISBN 4-15-020306-7
> ハヤカワ文庫FT
> 680円
> 2002.2.15発行

2000年世界幻想文学大賞受賞

 四十三で太りすぎ気味のスラクサスは、元宮廷保安隊の上級捜査官だったが、酒が元で職を失い、今は魔法都市トゥライでしがない探偵家業に明け暮れている。
 ねぐらは、波止場の側の元傭兵のグルドがやっている<復習の斧>という居酒屋の二階だ。決まった助手は居ないが、下で女給をやっている女だてらに剣の達人のマクリの助けを借りることもある。
 ある日、場違いな上流の美女の訪問を受けたスラクサス。彼女はトゥライのデュ=アカイ王女でその依頼とは、昔から友好的とは言えない隣国ニオジの若い外交官に出した恋文を取り返して欲しいというものだった。こいつはボロい仕事になると直感したスラクサスは、早速王女の頼みを引き受けたのだが……

 のんべの大喰いで最低レベルの魔法しか使えないけど、腕っぷしと頭の回転と悪運で難事件に挑む中年魔法探偵ということで、中年過ぎのお父さん方に大推薦できるユーモアファンタジーです(笑)元々は、宮仕えで身の程はわきまえていますが、いざとなればそれなりに活躍する憎めないキャラクターです。読んでいてちょっと山田正紀さんの『火神を盗め』の工藤を思い起こしました。「サラリーマンを甘く見るんじゃない」ぜよ(笑)

コレはスタパ斎藤さんだっ!

雀部 >  2000年度の幻想文学大賞受賞の『魔術探偵 スラクサス』なんですけど、伊藤さんはどう読まれましたか?
伊藤 >  のんべの大喰いでヘタレ魔法しか使えないけど、腕っぷしと頭脳と悪運で難事件に挑む中年魔法探偵――いやぁ、コレはいいですねぇ。設定だけでグッと来ちゃう。
雀部 >  ま、中年の私には非常に近しいキャラ設定なんですけど、若い人たちにはどうなんでしょうね。伊藤さん的にはどうでした?
伊藤 >  ワタクシ的にはもぉ、表紙イラストを見た段階で“コレはスタパ斎藤さんだっ!”と、心の中での配役が決まってたので読んでる最中、イメージしやすかったです。
(注:スタパ斎藤氏はインプレスのケータイwatchで「スタパトロニクス」を連載しているライターさん)
雀部 >  ぎゃ、あまりにイメージぴったり〜(大受)
伊藤 >  でせう? ワタクシの知る限りでこれ以上はないほどのハマリ具合。
 ただ、あらすじから連想されるよりは全然「スラクサス」カッコいいんですよね。
 (あ……て事はスタパ斎藤さんは「カッコよくない」んかい!? この正直者)
 ぶつくさこぼし、大酒くらいつつも、常にきっちりと仕事に向き合ってる。
 魂はハードボイルドなんですね。
雀部 >  お金はもちろん大好きみたいなんですけど、一旦仕事として引き受けたらちゃんと依頼人の立場まで考えてるし、全力で仕事にあたるしで。まさにハードボイルド・ファンタジーですな(笑)
 三種族混血の美人剣士マクリちゃんとの絶妙のコンビぶりも良い味だしてますよね。
 勉強好きで、しかも腕っ節もスラクサスより強いみたいだし。
伊藤 >  マクリちゃん――うーむ。“ちゃん”ってなんか似合わないなぁ。
 よし、オイラ的には『マクリはん』!……のこれまたキュートな事。

さて恋愛沙汰になるかというと……

雀部 >  そ、それではマクルーハンと間違えてしまうのでは(爆)
 お話作りの黄金律に乗っ取っているとはいえ、うまいですね。お互いに憎からずとは思っているようですが、さて恋愛沙汰になるかというと……
伊藤 >  男女の愛情――では決して/全く/絶対ない。
 ……んだけど、ぶっきらぼうな中に男同士の友情とはまたちょっと違ったほのかな気遣いが見え隠れする。
 この“ビミョーさ加減”がいいですねぇ。
雀部 >  娘を見守る父親の心情がダブっていたりしてね。マクリちゃんは、ひょっとしたらその出生からして、ファザコンのところがあるやもしれず(爆)
伊藤 >  ファザコン……むぅ、どうでしょ? ただ、このコは普通の相手にはヒジョーにタンパクだけど、血族とゆーか、身内に対してはムッチャ情の濃そうな気がしますな。
 いや、別にそんな記述があるわけじゃないけど、そんな風に思わせるとゆーのも、作者の人物描写がうまい証拠ですな。
 あ、そだ。読み終るまで、マクリはんに関してはどうもうまくあてはまる女性が思い浮かばなかったんですよ。ナイスバディの美女でビキニで給仕してるけど、口調はぞんざいで剣を持たせたら大暴れ。そのくせ真面目にお勉強。
 現実の女性でイメージあてはめるのって難しいっスよね。
雀部 >  SF・ファンタジーファンの好きなキャラではありますね。ビジンダーの志保美悦子さんとか。それほどビューティじゃないけど強かったビューティペアとか。年が分かるか(笑)
 SFだったらモリイ(『ニューロマンサー』)やダーティペアは?
伊藤 >  うんうん。
 凛として、芯の強さを感じさせ、それでいて男にはない色気――ほんわか“萌え”路線とはまた別に、古き良き時代から綿々と受け継がれる『ツボ』ですよね〜。
 マクリはんには「ジャンヌ・ダルク」のミラ・ジョボヴィッチあたりいいセンかな〜、とも思ったんですけど、せっかく脳の中で“スタパ斎藤さん”が頑張ってるのであくまで日本人女性の路線でキメたかった。んで、結局最後までイメージ決まらないままだったんですが、読み終えた直後に『神』がワタクシに啓示を下さいました。
雀部 >  日本の女優さんねぇ。う〜ん、誰だろう。
伊藤 >  グラビアを飾るナイスバディにして、剣をとれば嶋田久作とワイアーアクションで切り結び、この冬には自衛隊服に身を包んで和製ドラゴン――てゆーか、ズバリ、怪獣とガチンコバトルを繰り広げる女。
 そうです。<<釈由美子>>ほどの適役は他にありませぬ!

 ……といっても「修羅雪姫」とか観てないヒトには、
 “なぜ、『ふんにゃか』が座右の銘の天然系アイドルをここで推す?”
 と意味不明だろーなー。
雀部 >  スカパーで見ました(^o^)/
 彼女、剣道初段だそうですね。まあ、女性の初段は全然たいしたことないと、うちの長男は言いますが(剣道三段)それでも経験者ですから、殺陣は初心者ではなかったと思います。ちなみにうちのカミさんもむか〜し初段持ってました(爆)
伊藤 >  ま、そんなこんなで(ってナニがどんなだ!)「修羅雪姫」を見てて、物欲番長@スタパ斎藤さんを知ってるヒトには、ゼヒゼヒこの脳内キャスティングをばお薦めしたい今日この頃。
 ついでに王女は加藤夏希タン、暗殺師ギルドのNO.3=女暗殺師のハナマは江角マキコ@「ピストルオペラ」あたりでお願いするっす〜。
 あ、江角女史は石弓使いの殺し屋サリンの方でもええな。“無慈悲”に強そう。
雀部 >  江角姉御は、体育会系で、はまり役ですね。ただし色気はないぞヽ(^o^;)丿
 そういえば、若くて綺麗で腕っ節もたつというと、スペリオールで連載中の『あずみ』役に決まったような上戸彩ちゃんは、どうなんでしょうね。話が飛ぶけど。
伊藤 >  『あずみ』――かわしま……い、いや、そのゴホン!
 アレはお話がお話だから、あんまり可愛くて可憐な娘さんに演じられちゃうと、色んな意味で“いたたまれなく”なりそーですね。どこの誰が選出したのか知らないけど、さーてーはーおーまーえーはーサードーだーな〜!
 彩ちゃんをいじめたら……いじめたら――見ちゃうかも。テヘ。
雀部 >  彼女、『あずみ』の撮影で頑張っているみたいですね。マンガの方にはある裸のシーンはあるのかしら(中年のオジサン丸出しやなぁ^^;)
伊藤 >  あ! こここ、このシトはまたワタクシが思っても書かなかった事をサラリと!
 彩ちゃ〜ん、オヂサン達とってもとっても期待してるのよ〜ぅ。
 脱いで脱いで脱――もとい――斬って斬って斬りまくってね〜ん!

ミステリとSFのほうが親和性はありますよね

雀部 >  あまりの嬉しさに、伊藤さんが壊れた〜(笑)
 ミステリ的にはどうでした。SFとミステリというのは割と相性が良いのですが、ファンタジーとはどうなんでしょう?海外もので有名なのは、ランドルー・ギャレットとか、最近の日本では上遠野浩平さんとかがありますね。
伊藤 >  ファンタジーとミステリの融合ってむちゃくちゃ作者の力量が問われるなぁ、と再確認しまスた。
雀部 >  まあ、ミステリとSFのほうが親和性はありますよね。どちらも作中の整合性が問われるところなんか。ファンタジーとなると、なんせ魔法が使える舞台であることが多いので、本来のファンタジー作品はそこらあたりはかなりいい加減な構成になっているのも多いと思いますね。
伊藤 >  ヒーローもので重要なのがヒーロー自体より「敵の存在感」であったりするように、ミステリではキャラクターの魅力やトリックの中身もさる事ながら“条件の限定のしかた”が非常に重要だと思うのです。「作者から読者への情報提示のさじ加減」と言ってもいいのかな?
 現実の社会で起こる事件を扱うフツーのミステリならば、既成の「社会の枠組み」というフレームワークを無条件で使用出来るけど、「魔法」の概念が入り込むファンタジーでは“そもそも、その世界はどんなとこか”を描写した上で、さらに“何故、主人公はチャッチャと魔法でカタがつけられないのか?”という『条件の限定』を提示しないといけない。
雀部 >  ですね。その魔法でカタがつけられないという条件設定の匙加減(ファンタジーという枠組みを活かしつつ、読者をなるほどと思わせる縛りを入れられるか)が作者の腕の見せ所ということですね。
伊藤 >  その世界にリアリティを与えるだけの描写をしつつ、説明過多に陥らないよう気を配り、なおかつ、「読者に情報を提示する装置」である「探偵」のキャラを立たせ、一枚一枚薄皮を剥ぐように事件の謎に迫りつつ、同時に読者が“ピーンときちゃう”のを防ぐために「迷彩」を張り続ける。
 いやはや、そーゆー目で改めて眺めてみるとこの「スラクサス」は実に実に絶妙のサジ加減で成り立ってる作品だな〜、と思うわけなのであります。
雀部 >  いやぁ、伊藤さんもけっこう入れ込んでますね(笑)
 あと、スラクサスの魔法のレベルもなかなか考えられていますよね。一度に呪文を一つだけしか覚えられないとか。まあ、自在に魔法を操る主人公という設定だったらなにも中年の太り気味のむさい男を主人公にする必然性がないわけですが(笑)
伊藤 >  理由が「めんどうくさくて真面目に魔法の勉強をしなかったから」とか、トランス状態で覗くと洞察力を得られる神秘的液体クリヤも一応持ってるんだけど値段が高いし失敗する可能性が大きいのでケチってなかなか使おうとしない、とか「魔法の制限」がそのまま主人公のキャラクターに結び付いてるのもお見事。
 なんか「魔法」という言葉から連想されるより、みみっちくて全然使えないんですよね。だけど、逆にそれが「日常的に使われている感じ」を醸し出してる。
 こういう“ツボを押さえたさりげなさ”がこの作品の持ち味ですね。
 登場人物も誰一人として大義とか正義のために動くやつはおらず、各人が己の『小市民的野望』に従って割と小ズルく行動してるんだけど、それがほのかな可笑さと親しみを感じさせる。
 うーん。ウマいなぁ。けど大ブレイクはしないよな〜コレ。(苦笑)
雀部 >  イギリスでは、第5作まで出ているようですけど、日本ではダメですかねぇ。
 イギリスのオジサン方が、いかにも好きそうな設定ではあるんですが。
 BBCあたりがTVドラマ化して、最終的には『バンデッドQ』みたいな映画になると嬉しいかも(笑)
伊藤 >  ぜひぜひ最後まで訳して欲しいですよね〜。(多分ペイしないけど)
 ぜひぜひドラマ化もして欲しいな〜。(マニアしか見ないけど)
雀部 >  本書を薦めるとしたら、やはり人生に草臥れたお父さん方ですねぇ?
 余計に草臥れる可能性もなきにしもあらずですが(笑)、読んでいる間は、楽しめること間違いなしでは。
伊藤 >  御意。
 “「カッコ良くない事」は実は時々カッコ良かったりもするんだよ”などといった強がりを「ハイハイ」と優しくスルーしてくれる世代でないと読めないかも的。
 多分、ファンタジー読みで、かつ、「フロスト警部」シリーズや「ドーヴァー刑事」ものなぞを喜ぶヒトにはストライクでしょうね。
 ま〜、アレだ。未来あるお若いヒトは電○文庫とか冨○見ファンタジア文庫などをじゃんじゃん読みませう。
 これは“夢破れて、なおもあくせく日々を生きるオヂサン達”に残しといてちょ。


[雀部]
50歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[伊藤@trashメール]
行住座臥、いかなる時もスキあらばオチをつけようと、虎視眈々と機会をうかがうチョッピリお茶目なSF中年。
でも、元ネタが古いのでお若い方に通じにくいのが悩みのタネ。
コードネームは「老いたる霊長類のオチへの参加」(嘘)
http://www.sf-fantasy.com/magazine/cgi-bin/joke/index.cgi

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