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BookReview

 
『時間的無限大』
> スティーヴン%バクスター著/小野田和子訳/加藤直之画
> ISBN 4-15-011097-2
> ハヤカワ文庫SF
> 583円
> 1995.3.15発行
粗筋:
 木星軌道上に設置した1500年未来に繋がるワームホール。その未来ではクワックスなる宇宙種族に地球は占領されていた。地球の対クワックス外交官であるバーツは、クワックスの地球総督に呼び出される。というのはクワックスの総督は、その時ワームホールの一端が再び地球に帰還してきたことを知らされ、しかも地球人の反乱者がそのワームホールに向かっていることが判明したのだ。そうなるとクワックスがまだ現れていない時代の地球人と反乱を起こした地球人とが結びつく恐れがあるというのだ%%%
 このワームホールによるタイムマシンというのは、"Morris-Thorne Field-Supported Wormhole"とかいうものらしいですね。

 特にハードSFファンには大推薦の久々のハードSF一直線であります。
 まあ『天の筏』の方が、少年の成長と冒険というハードSFに似つかわしい一般受けする設定に対して、今回は性格描写、人間関係の機微はなしで、SFガジェット&最新物理理論がてんこもりですからねえ。


『天の筏』
> スティーブン・バクスター著/古沢嘉通訳/末弥純画
> ISBN 4-15-011043-3
> ハヤカワ文庫SF
> 620円
> 1993.12.31発行
粗筋:
 重力定数が我々の宇宙の10億倍の宇宙に迷い込んだ宇宙船乗組員の末裔たち。そこは恒星が直径1kmしかなく1年ほどで燃え尽きてしまう。これらの恒星で形成される星雲も直径8000kmしかなくその中は呼吸可能な空気がある。燃え尽きていくと中心の核(直径80km)に落ち込んで行くのだ。彼らは、核<ベルト>で鉄を掘る鉱夫たちと、宇宙船の残骸で円盤状の筏<ラフト>に住む者たちにわかれて生活してきたが、星雲そのものの寿命が尽きようとしていた。滅亡の危機を迎える人類。鉱夫の少年リースの冒険の旅が始まる……

 まず重力定数が10億倍という異世界の描写がうまいですね。恒星の一生より人間の生涯の方が長いんだから。昔は青かった空が今はすっかり赤くなってしまっていたり、また、万有引力という言葉が、他の人間に近づくだけで実感出来る世界でもあります。
 ここらへんは、ちと大向こう受けを狙いすぎたかという感もあるけどうまいです。
 設定としては、ニーヴンの『スモーク・リング』によく似ていますね。特に木を操って宇宙空間を航行するとこなんか。あちらは我々の宇宙の話(だと思う)ですが、こっちはパラレル・ワールドの異次元の宇宙という違いはありますけど。
 でも、どうしてそんな異世界の食べ物を食べて生存していけるんでしょうね。当然蛋白質なんか異質なはずですが(そもそも蛋白質とは限らない)そこらあたりも突っ込んで書いて欲しかったなあ(笑)


『フラックス』
> スティーブン・バクスター著/内田昌之訳/Chris Moore画
> ISBN 4-15-011129-4
> ハヤカワ文庫SF
> 699円
> 1996.1.31発行
粗筋:
 人類とクワックスの闘いが終わって10万年後。強力な磁場を持つ直系20kmの中性子星内部には身長10ミクロンの人類が存在していた。彼らは、文明を保ち都市で生活する人々と、遊牧民のような生活を選んだアップフラックス人とに別れて生活していた。
 ちなみに題名の「フラックス」とは磁束のこと。
 中性子星内部のグリッチという星震現象(かつてなく巨大な)によって親と住む場所を失ったアップフラックス人の娘デュラは、辛うじて生き残った弟ファー、古老アーダとともに生存のための旅に出発した……

<中性子星に住む人類>
 身体を構成する主成分は錫の原子核。身体の中をエア(中性子ガス)が循環しエネルギー代謝を行っている。また人類はこの超流体エアによってものを見ることができる。そして光子は中性子星内部では自由に動けないので、人類は光子を匂いとして感じるように設計されている。人間がフラックスに沿ってウェーヴでき、またフラックスを横切って運動しにくいのは、単に身体が電気を帯びた磁性体だからなのだ。

 著者得意の、ハードSFの設定の中で繰り広げられる若者の成長談の一編。新人類の行動や規範、また中性子星内部の都市の経済体制などがありきたりなのはご愛敬。まあこの設定で、『ソラリス』の生命体のようなのが主人公だったら、まるでわけわからないですよね(苦笑)
 とにもかくにも、中性子星内部に住む生物を矛盾することなく書き上げた力量にはただただ脱帽。それを読むだけでも価値ありです。


『虚空のリング(上・下)』
> スティーヴン%バクスター著/小木曽絢子訳/Chris Moore画
> ISBN 4-15-011143-X(上巻) 4-15-011144-8(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 上下巻各602円
> 1996.5.31発行
粗筋:
 エキゾチック物質によるワームホール・テクノロジーによって、遥かな星々にまでその版図を広げた人類だが、我らが太陽<ソル>をはじめとする主系列恒星に不思議な異常が発見された。普通ならまだ数十億年以上の寿命があるはずの太陽は、このままでは数百万年を経ずして赤色巨星化し、銀河全体の恒星が死滅してしまうというのだ。
 太陽の異常を監視し、その原因を突き止めるために太陽内部に設置された女性の人格を持つAIリーゼル。
 500万年後へと繋がる道を作るために、ワームホール・インターフェイスを運んで、主観時間で千年にも及ぶ亜光速宙行に旅だった宇宙船グレート・ノーザン。
 この二つが出会い、恒星の老化の原因が明らかになった時、彼らに残された道は、ジーリーの拠点である謎の<リング>へと続く……

 いやはや、これはすごい。これぞハードSFの醍醐味!!
 バリオン物質 vs 暗黒物質という、そもそもの設定も素晴らしいですし、スケールのでかさも特筆もの。リングが何で建造されているかに到っては・・・
 よくもまあこんなことを考えつくものです。


『タイム・シップ(上・下)』
> スティーヴン%バクスター著/中原尚哉訳/加藤直之画
> ISBN 4-15-011221-5(上巻) 4-15-011222-3(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 上下巻各680円
> 1998.2.28発行
英国SF協会賞、ジョン・W・キャンベル記念賞、フィリップ・K・ディック賞受賞!
粗筋:
 1891年、未来に残してきたエロイ族の少女ウィーナの安否が気になる時間旅行家は、再びタイム・マシンで未来へと旅だった。その旅で彼は最初の時間旅行では経験しなかった光景を目にする。なんと地球の自転が操作され、四季の移り変わりや昼夜の変化までも失われ、驚くべきことには太陽をすっぽり覆ってしまうドームも建造されたのだった。
 そこで彼は知性が高く希望力的なモーロック族であるネボジプフェルと出会う。
 どうやら彼は今回最初訪れた未来とは異なった時間線にやってきてしまったようなのだ……

 『タイム・マシン』の続編という設定を借りて描く、スティーブン・バクスター氏お得意の壮大な宇宙絵巻。めくるめく華麗なビジョンに虜にされてしまいそうです。
 ハードSFファンなら、読むっきゃありません!普通のSFファンにも大推薦。
 作中に出てくる<建設者>の**は、ひょっとしてジーリーの**なのかなぁという疑問もあるけど(笑)


『過ぎ去りし日々の光(上・下)』
> アーサー・C・クラーク&スティーヴン%バクスター著/冬川亘訳/浅田隆画
> ISBN 4-15-011338-6(上巻) 4-15-011339-4(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 上下巻各660円
> 2000.12.31発行
粗筋:
 21世紀中盤、先端企業アワワールド社は、時空の虫食い穴<ワームホール>を使った通信技術の実用化に成功する。社長のハイラム・パターソンは、独善の塊で息子のボビーを自分の思い通りの人間に育てようとしていた。また異母兄で、有能な物理学者のダヴィッドもその研究に参加を要請されていた。
 一方、この世界では、500年後に巨大な小惑星が地球と激突することが判明していて、社会には一種の閉塞した空気が醸し出されていた。その事実をスクープしたジャーナリストのケートは、ボビーと恋仲になり事件の渦中に巻き込まれていく。

 メインアイデアは、ワーカムという時空を超えて対象物を観察できるカメラなんですが、常に幾多もの観察者の視線に晒されることによってその世界が次第に変貌していく様がビビッドかつ精緻に描かれていきます。まあこれだけの話(キリストの一生を追うとかのエピソードはあるにせよ)だったら地味なSFなんですが、事態は思いもよらない方向へと進展を見せますのでお楽しみに。クラーク氏の共作というと、某宇宙のランデブーを思い出しますが、さすがバクスターは、並の力量ではないということを証明してくれます。ハードSFファンも普通のSFファンも必読ではないでしょうか。

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