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BookReview

レビュアー:[雀部]&[ttani]&[野村]&[Emura]他

変革への序章上 変革への序章下
『変革への序章(上)(下)
―知性化の嵐〈1〉―』
> デイヴィッド・ブリン著/酒井昭伸訳/加藤直之カバー
> ISBN 4-15-011371-8(上巻)
ISBN 4-15-011372-6(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 900円
> 2001.9.30発行
 はるか太古のかなたに"休閑地"として、知性種属の立ち入りが禁じられた惑星ジージョ。しかしここにも何らかの理由によって故郷を追われた難民が逃げ込み、いまや七種類もの住民が銀河協会の目を逃れて隠れ住んでいた。彼らの目的とする崇高な<贖罪の道>とは、知性を獲得した種属が、知性を持たない種属へと退行することなのだ。フーンの若者、アルヴィンと仲間たちは、冒険しようと手作りの潜航艇を建造していた。 ある日、宇宙から記憶を失った一人の"人類"を載せた宇宙船がジージョに不時着し、それに呼応するかのように巨大な宇宙船がやってくる……
 知性を捨てることを目的として暮らしている種属! この設定でゾクゾクしない人は、SFファンではない?!(笑) 《知性化の嵐》シリーズの序章という位置づけなので、今までのような大スペクタクルでは無いですが、これからの展開が楽しみな設定ですね。

 酒井昭伸さんによると、この『変革への序章』を〈人の巻〉とすると、『戦乱の大地』は、〈地の巻〉。三巻目の『星海の楽園』は、文字通り〈天の巻〉。確かに(^o^)/
 で、三部作中、この一巻目が一番読みでがあると思うと書かれてます。

『戦乱の大地(上)(下)
―知性化の嵐〈2〉―』
> デイヴィッド・ブリン著/酒井昭伸訳/加藤直之カバー
> ISBN 4-15-011414-5(上巻)
ISBN 4-15-011415-3(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 940円
> 2002.9.30発行
戦乱の大地上 戦乱の大地下
 異星種属ローセンによる侵略を、かろうじてしのいだ惑星ジージョに潜伏する六種属たち。だが、安堵したのも束の間、ローセンの船をはるかにしのぐ巨大な宇宙戦闘艦がジージョの空に現われた。そして、その艦から降り立ったのは、冷酷かつ非情なことでその名を知られる列強種属ジョファーであった!ついに銀河列強に存在を知られたジージョの住民たちは、かつての平和な暮らしを取り戻すべく、必死に策を練るのだが……!?

 ジージョ住民代表からの交渉の申し入れをはねつけ、ジョファーは六種属の恭順を要求してきた。だが、そのいっぽうで、ジョファーは明らかに六種属以外の何者かを必死に捜索していた。自分たち以外にもジージョに潜伏した者がいるのか? 疑念を抱きながらも、ひそかにジョファーへの反撃の準備を進める六種属たち……やがてジージョは、かつてない戦乱の嵐に巻きこまれていく!

星海の楽園上 星海の楽園下
『星海の楽園(上)(下)
―知性化の嵐〈3〉―』
> デイヴィッド・ブリン著/酒井昭伸訳/加藤直之カバー
> ISBN 4-15-011460-9(上巻)
ISBN 4-15-011461-7(下巻)
> ハヤカワ文庫SF
> 920円
> 2003.10.31発行
 休閑宣言により知性種属の立ち入りを禁じられていた第四銀河系の惑星ジージョに逃げこんだ地球船〈ストリーカー〉。だが〈始祖〉の秘密を入手しようと、列強種属ジョファーの巨大戦艦〈ポルクジイ〉が執拗に追いかけてきた。ジージョに不法居住する六種属の協力をうけた“ストリーカー”の乗組員は、ジージョの深海に沈められていた多数の遺棄船を囮として宇宙へ飛びたたせ、遺棄船群にまぎれて銀河をめざし逃げだすが!?

 宇宙へと飛びだした〈ストリーカー〉は、惑星ジージョの神秘的な岩塊〈聖なる卵〉から発せられたビームにより復活した遷移点をめざしていた。〈ストリーカー〉はジョファーの戦艦〈ポルクジイ〉を道連れに自殺的な遷移をしようとしていたのだ。だが、恒星イズムヌティを利用してスイングバイをしようとした 〈ストリーカー〉の前に思いもよらぬものが出現した……

《SFマガジン、'01/10月号所載の年表》

西暦500年頃 惑星ジージョへのグケックによる第一の植民開始
2080年頃 官僚機構による地球統一政府の設立
2100年頃 技術完了集団指導の革命で、官僚機構の崩壊(〈大変革〉)
人類による、ネオ・チンパンジー、ネオ・ドルフィンの知性化開始
221X年 人類の恒星間宇宙船〈ヴェルサリス〉号、白鳥座でティンブリーミーの船団と遭遇(〈コンタクト〉)
22XX年 地球の一勢力、惑星ジージョに植民開始
2246年 サンダイバー計画発動
2400年頃 人類とその類属ネオ・チンプ、惑星ガースに入植開始
2470年頃 〈ストリーカー〉号、ある辺境宙域で〈漂流船団〉を発見。
この事件をきっかけに五銀河系は大混乱に。
グーブルーによる惑星ガース侵攻。


ttani >  こうやって梗概だけを見るとE.E.スミス等の40年代SFと変わらないように見えてしまいます。
 『知性化』シリーズが80年代のSFだということを一言で説明するとすると、どのような説明になりますでしょうか。
雀部 >  一言では〜(笑)
 ttaniさんとブックレビューした〈スコーリア戦史〉が、新しい時代の戦争SFであるように、〈知性化〉シリーズもまた新しい時代のスペオペであると(笑)
野村 >  『知性化』シリーズを当時読んだ印象で言うと、人類と協力する知的存在の違いでしょうか。40年代SFなら、地球を背負って立つ知的存在は人間だけ、人類と協力する知的存在は異星の来訪者だったように思います。
 知性化されたイルカやチンパンジーが人類と行動している(〈ストリーカー〉号に至っては、人間よりイルカの居住優先で建造された宇宙船)というところで、新鮮に感じました。
雀部 >  そうそう(御意!)
 操縦室とか通路を水で満たした宇宙船なんてとんでもないですよね(笑)
ttani >  みごとな着眼点ですね。
 ところで、いにしえのスペースオペラでは、その姿がとうてい科学技術を持ったり工業技術を発展することができない(と思われる)手足相当の器官を持った異星人が多く登場して、これら異星人が人類では及びもつかない宇宙船や武器を持ったりしていましたが、このあたりは『知性化』シリーズではどのように扱われているのでしょうか。
(USAの独立記念日に映画『インデペンデンス・デイ』を思い出したりしています)
雀部 >  〈知性化〉シリーズでは、なんせ〈銀河ライブラリー〉という切り札がありますから(笑) フィン用に改造された宇宙船ストリーカーも、再中古宇宙船ディーラーから購入したという設定だから、他の種属も何百万年も前の宇宙船を、自分たちが使えるように改造して使ってるのでしょう。
野村 >  銀河ライブラリーもそうですし、シリーズの一大設定である知性化、主属と類属という構図が、このためのエクスキューズになってますよね。
 ttani さんの言われる科学技術を発展させられそうにない器官構造の種属でも、主属に知性化されて奉仕することで、主属の科学技術を引き継げます。ライブラリーへのアクセス権も引き継げるのでしたっけ?
雀部 >  アクセス権の引き継ぎは無理だったような気がしますが。まあ、作中でも人類がやっているように、うまく騙せれば可能ですね(笑)
ttani >  読んでいて気がついたのですが、この作品ではたくさんのSFガジェットが出てきますが、そのSFガジェットそのものについての説明が一つもありません。
 それぞれが動作する様子、状況、結果等は描かれているのですが。
 たいていはなんとなく判るのですが、中には意味がいまだに判らないものが残っています。
雀部 >  まあ、ガジェットの科学的説明がどうしても必要なシリーズでもないので。
 まだ、例の五万隻の宇宙船団の詳しい説明もまだだし(笑)
ttani >  これが、このシリーズの文章のスタイルなのか、ブリンの文章スタイルなのかはまだ見えていませんが。
雀部 >  このシリーズのスタイルだと思いますよ。『ガイア』は科学的解説がけっこうありましたし。
Emura >  話題が小説世界のガジェットやツールなど、ヴィジュアル面にかかってきたので、イメージが掴みやすいイラスト画やロール・プレイング・ゲームのフィギュア(!)を紹介しておきます。イルカが使っているガジェットは、お世辞にも洗練されたデザインとはいいがたいですけれど……(^^;)

原書で描かれたイラスト
http://www.sloan3d.com/covers/

CGギャラリー
http://www.slawcio.com/uplift/uplift3.html

http://www.davidbrin.com/contacting.html

Gubru Talon Soldier
http://www.sectorcity.net/alex/Images/Personal/Gubru/Gubru.html

RPGゲームのキャラクターフィギュア
http://www.sjgames.com/miniatures/uplift/index.html
野村 >  世間でイルカを知的存在として意識するようになったのは、1960年代のジョン・C・リリーの研究以後でしたか。
 リリーの影響が見られるSFは、マーガレット・セント・クレア『アルタイルから来たイルカ』 (原書1967)やラリイ・ニーヴンの「ノウンスペース」シリーズ (1960年代〜) がありますね。
 チンパンジーなどの猿類は昔から活躍していたと思いますが、人間を助けても、ペット的な存在にとどまっていたのではないでしょうか。または、パルプ雑誌の秘境ホラーに登場するように、人間に計り知れない原理に従って行動する怪奇な存在でした。
雀部 >  TVの『わんぱくフリッパー』の影響はないだろうか(爆)
野村 >  『わんぱくフリッパー』、忘れてました、懐かしい。子供の時、再放送か何かで見た記憶があります。
 調べると、TVドラマ (1964-1968) の前に映画版 (1963) がありますが、映画版にはジョン・C・リリーへの感謝の言葉があるそうです。
直接は『わんぱくフリッパー』でも、間接的にジョン・C・リリーの影響下にあると言えるかもしれません。(強弁かも)
ご参考:IMDb の John C(unningham) Lilly の情報
http://www.imdb.com/name/nm1052322/
雀部 >  TV版を見て育った世代です(爆)
 ふ〜む、フリッパーもリリー氏の研究に啓発されて出来上がったのか。
野村 >  余談になりますが、E・E・スミスと言えば、クジラのレンズマンが登場する古橋秀之『サムライ・レンズマン』も、今だからこそ書ける作品で、スミスの時代にはありえなかっただろうと思います。
雀部 >  わはは(爆笑)
 ドク・スミスを読んで育った世代が、SFを書いているということですよね。
ttani >  『変革への序章』では知性化されたイルカは登場するのでしょうか。
雀部 >  登場はするのだけど、そうとはわからない形で(笑)
 面白いですよぉ。後書きで酒井昭伸さんも書かれてますが、ジージョの住民達は<贖罪の道>を辿ることを目的としているため、銀河世界とは逆に、贖罪の道を目指す気がない人類が指導的な立場にあります。
 他の五種属たち――特に若い世代たちは多分に人類文化の影響を受けていて、人類の書物(数学・哲学。小説とか)に熱中する者も多く、本来は異星人である彼等が、人間くさい言動をしても不思議ではないということになります。
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雀部 >  ところで、日本最大のSNSである〈mixi〉に、デイヴィッド・ブリン氏のファンの集まり〈コミュニティ〉があって、面白いスレッドがあったので、許可を得たものを掲載します。
ミミクリン >  皆様はじめまして。
 銀河ガチ体育会系な知性化の連鎖に人類が加わってなくてホッとしています。
 人類がもし、どこかの類属に組み込まれるならカンテン、リンテン辺りが良いのです。
 でも、きっとソロ辺りのたちの悪い系統に組み入れられそうで恐ろしいです。
 なにかに特化した形態に遺伝子レベルで弄りまわされてしまうんだろうなあ。
 ああ、怖い、怖い。
 何を言いたいのか自分でもよく分からなくなりつつありますが、
 要するに、知性化シリーズは面白いってことです。
雀部 > 〈知性化の嵐〉三部作でもまだ解決が付いてませんよね。
ミミクリン >  人類のニセ主属ローセンはいったい何者なんでしょうか。
 ローセンのイメージは009のミュートスサイボーグの超能力使う奴です。
 知性化シリーズは本当に続きが気になって仕方が無いですね。
雀部 >  どうしても種属を選ばなきゃいけないなら、個人的には、ティンブリーミーかな(笑)
tneko >  どの本かは忘れましたが(知性化戦争?)、原生の小動物に対して「順調に進化するんだぞ」と語りかけていたテナニンの姿がやたらと印象に残っているので、彼らの類族に組み入れられるのはありかなーと思ったりもします。
 しつけが、ものすごく厳しそうですが。
#ああ、でも、アースリング嫌いなんだっけ
#いやあれは、しつけの悪い子供が嫌いという感じなのか
ミミクリン >  テナニンはいいかもしれないですね。
 類族への愛はたっぷりありそうで。でも、ゴミの分別とか間違えるとボコられそう。
Qoomako >  ミミクリンさん。大笑いしました。
 確かに!
ミミクリン >  デイヴィット・ブリン氏には、『もしもライブラリーにアクセスできたら何を調べるか?』聞いてみたいですね。
tneko >  チョコボールのパッケージは、かつての主属に対する記憶の現われとか、しょーもないことを呟いて帰ります。くえっ。
雀部 >  ということは、人類の主属は、「グーブルー」だと(笑)


[雀部]
ハードSF大好きのSFファン。ブリン氏の作品も大好きですが、「Nippon2007」の日本側のゲストオヴオナーである小松左京先生を研究するファングループ〈コマケン〉にも所属してます。
[ttani]
一生かかっても今まで出た良質のSFと、これから出てくる良質のSFを全部を読むことは出来ないだろうということが判りだしたSFファンです。
[野村]
SFファン。「ハードSF研究所」所員。『SF書誌の書誌』(SF資料研究会)を編んだりと書誌研究が好きです。最近興味を持っているのは宇宙開発関連。
[Emura]
「コマケン」会員。今回はプレスさんと一緒にレビューの英訳を担当しています。
[ミミクリン][tneko][Qoomako]
mixiの[デイヴィッド・ブリンのコミュニティ]参加者の皆さん

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