雀部 | | 今月はブックレビューというか、単なる本の紹介です(笑) といっても、もはや一ジャンルと言える〈グイン・サーガ〉シリーズ、オリジナル〈グイン・サーガ〉シリーズの最終巻(130巻目)の『見知らぬ明日』が出てから一年半。本当の最後の新刊が出ました。それがこの『ヒプノスの回廊』です。 簡単な感想と、ちょっと気になったところを天狼プロダクションの今岡清氏にお聞きしてみました。 今岡さんお久しぶりです。 |
今岡 | | ごぶさたしています。 |
雀部 | | こちらこそご無沙汰してます。遠くなので、なにかことある度に参加できなくて残念がっております。 この『ヒプノスの回廊』に収録されている表題作は、前からその構想があったんでしょうか、それとも百巻達成時期頃に、新たな着想を得て書かれた話なのでしょうか? |
今岡 | | たしかなところについては、わかりません。作品の構想については、はっきり言うときと言わないときがあって、私を読者の1人として驚かせたりするのを楽しんだり、反応をチェックしたりという面もあったみたいに思います。これはあくまでも推測ですが、執筆開始時点ではアウラについては何も考えていないです。ただ、アウラに関する方向性はわりと早い時期に出来ていたようにも思えるのですが、ディテールはおそらく書きながら作っていたんだと思います。 |
雀部 | | 最初からああいう構想があって、ず〜っとそれを表に出さなかったとしたら、凄いなと妄想してました(笑) 〈グイン・サーガ〉という一つのジャンルを興した故栗本薫女史。いわゆるシェアワールドものなんですが、クトゥルフ神話のように多くの読者と作家さんに愛されて長く続いて欲しいものです。そういう意味では、『グイン・サーガ・ワールド』の試みは素敵ですね。 トップバッターが久美沙織さんと牧野修さんなのですが、このお二人を選ばれたのは? 宵野ゆめさんは、直系のお弟子さんだから当然という気はするんですが。 |
今岡 | | 久美さん、牧野さんを選んだ理由ですが、編集部に候補をあげてもらい、その中から打ち合わせながら絞り込んでいきました。 久美さんについては、文句なしというか、順当なところではないかと思いました。 牧野さんについては、編集部に候補としてあげてもらうまでは思いつきもしなかったのですが、どういう風にグイン・サーガが料理されるか、ある意味いちばん楽しみにしていた人でもあります。そして、結果としては、まだ完結はしていないものの思っていた以上でした。宵野さんのように、栗本薫の作風を継いでいこうとする方にはもちろんぜひとも頑張っていただきたいと思いますが、一方で牧野さんのように、グインの世界を思いがけない形で広げていくというやり方は、グインの世界をさらに豊かにしてくれるように思います。 |
雀部 | | 久美さんも牧野さんもすぐれたファンタジーの書き手ですから…… 栗本薫/中島梓の通販サイトの梓薫堂(しくんどう)で、最新刊の『キャラバン』という作品も購入して読んでみたんですが、著者が栗本先生になっていますが…… |
今岡 | | 「CARAVAN」は「キャバレー」の主人公だった矢代俊一のその後をずっと描いたシリーズですが、本人が出版することを考えずに趣味として書きためていたシリーズなのです。ですから、栗本薫・著ということになるわけなのですが。 |
雀部 | | なるほど、それで個人同人誌として出されているんですね。 ということは、まだ続きが出るということなのでしょうか? |
今岡 | | はい、現在までにシリーズ10巻の「CARAVAN」までが出ていますが、この後に原稿用紙でほぼ1万5千枚分くらいの原稿が残されています。いちおう、コミケやJガーデンにあわせて出版して、あと1年半から2年ほど続編が出版される予定です。 |
雀部 | | 1万5千枚分もあるんですか。ファンの方は待ち遠しいでしょうね。 同じく梓薫堂で、『The Last Live』(CD)も購入して聞かせて頂きました。本当に多彩な才能をお持ちな方だったんですねぇ。 ところで、『誕生日の夜に』は、MP3ダウンロードの形での販売ですが、こちらも後に続く楽曲はあるのでしょうか? |
今岡 | | 音楽関係の今後の企画に関しては、「誕生日の夜に」がどの程度の実績をあげるかにかかっています。これまで、CDを出してきましたが、営業的にはまったく成立はしていません。ただ、「誕生日の夜に」という曲はなんとしても残しておきたかったので、いろいろと検討した結果、配信ならば可能かということではじめたようなわけです。 |
雀部 | | 最近CDはあまり売れなくなってるそうですから、ダウンロード配信は妥当なところでしょうね。私もダウンロードさせて頂きました。 最後に『グイン・サーガ・ワールド1』に収録されている「エッセイ いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女――中島梓という奥さんとの日々――」を読ませて頂いて、不覚にも涙してしまいました。今岡さんもお身体ご自愛下さって、エッセイ書き続けて下さいませ。 |
今岡 | | エッセイに関しては、故人のプライベートな情報をどこまで出してよいものかとても悩んでいます。ほんとうは、そっとしておきたい気持ちも強いのですが、ただ栗本薫という稀有な存在がどのようなものであったか、それを知ってもらいたいという気持ちも強くあるので、思い切ってあのように書いてしまったというわけです。たぶん、そういうぶぶんのあることがわからなくては、栗本薫がなぜあのようであったか、理解することが出来ないと思うのです。書くことが自分自身が生きることに直結してしまっているために、あれだけの膨大な作品と遺稿を残すことが出来たわけですが、一方で読者サービスという点では、初期をのぞいてほとんど考慮することがなかったというわけなのです。 ちなみに、「ぼくらの時代」という作品は賞をとるという目的をはっきり意識して、設定からキャラクターまで立てたと言っていました。ときどき、そうした職人芸を試したいという気持ちが起こることもあったようですが、後期になってくるとそういう気持ちはほとんどなくなっていったようです。 |
雀部 | | 私は読ませて頂いて本当に良かったと思っています。 将来、栗本薫・中島梓を研究する方にとっても代え難い資料であると思います。 |