Book Review
レビュアー:[雀部]&[岡本]&[石坪]&[大熊]
『眉村卓の異世界通信』
  • 「眉村卓の異世界通信」刊行委員会編集
  • オンデマンド版1980円
  • 2021.6.30発行

異世界通信とは、長年眉村さんが続けた異世界との交信記録であり、異世界にいる眉村さんへのファンからの送信でもあります。多くの方に賛同いただき本書が刊行できました。

●第一章 父のこと

眉村先生(藤野恵美)/そして。眉村さん追悼(谷甲州)/ 眉村さんのこと(円城塔)/ その果てを知らずについて(小林龍之)/父のこと(村上知子)

●第二章 眉村さんのこと(追悼の言葉)

眉村卓にちなんで寄せられた文集、著者名五〇音順に掲載

●第三章 SF作家・眉村卓の六十年

●第四章 夢まかせ

夢まかせ(単行本未収録短編全文掲載)/卓通信 全10回全文掲載

●第五章 眉村卓著作リスト

眉村卓著作リスト・眉村卓著作リスト解題(岡本俊弥)/眉村卓映像化・ラジオ化作品リスト(石坪光司)

『チャチャヤング・ショートショート・マガジン10 眉村卓先生一周忌追善号』
  • 野波恒夫・岡本俊弥・和田宜久・深田亨・雫石鉄也・柊たんぽぽ・大熊宏俊 著
  • チャチャヤング・ショートショートの会
  • Kindle版99円
  • 2020.10.5発行

眉村先生が亡くなられて早一年。一周忌にあわせて、先生が病床で死の直前に完成された最後の長篇小説が、10月20日(先生のお誕生日ですね)刊行されますが、当会もその驥尾に付し、当号を「眉村卓先生 一周忌追善号」と銘打ち、70年代後半に開催していた先生を囲んでの勉強会「銀座会」の記録を収録の上、こちらはご命日の11月3日付にて発行します。

『チャチャヤング・ショートショート・マガジン9 追悼・眉村卓先生』
  • 小野霧宥・和田宜久・柊たんぽぽ・雫石鉄也・岡本俊弥・野波恒夫・
    深田亨・大熊宏俊・南山鳥27・ミラディス・ジョアン 著
  • チャチャヤング・ショートショートの会
  • Kindle版99円
  • 2020.2.10発行

70年代初頭、関西地区で放送された深夜ラジオ番組「MBSチャチャヤング」、その木曜日担当パーソナリティが、当時36歳新進気鋭のSF作家であった眉村卓さんでした。

パーソナリティがそんな方でしたから、自然発生的に「ショートショートコーナー」が生まれ、 リスナーが競ってショートショートを投稿し始めます。

毎週優秀作が発表され、眉村さんが朗読して下さいます。番組が終了しても、メンバーは眉村邸に集い、爾来幾星霜、断続的に同人誌が発行されます。そして今世紀になって創刊されたのが、当誌《チャチャヤング・ショートショート・マガジン》ということになるのですね。

その眉村先生が昨年(2019年11月3日)、85歳で亡くなられました(合掌)。 よって本号に会員の追悼文(ほぼ思い出話)を掲載し、追悼特集号とします。

『その果てを知らず』
  • 眉村卓著
  • 講談社
  • 1500円
  • 2020.10.20発行
  • 一年前(2019年11月)に逝去された故眉村先生の遺作

今から60年以上前、大学を卒業して会社員となった浦上映生は文芸の道を志し、SF同人誌「原始惑星」や創刊されたばかりの「月刊SF」に作品を投稿し始めた。サラリーマン生活を続け、大阪と東京を行き来しての執筆生活はどのように続いていったのか。晩年の彼が闘病しつつ創作に向き合う日常や、病床で見る幻想や作中作を縦横無尽に交えながら、最期に至った“この世界の真実”とは。

スマホ等で書影・粗筋が表示されない方は、こちらを見て下さい。

雀部 >

最近『眉村卓の異世界通信』を手にする機会に恵まれたので、今回はこの本と他の眉村先生追悼本を取り上げたいと思います。

最初に、著者インタビューでもお世話になった岡本俊弥先生にお話をうかがえることになりました。

岡本先生、こちらでもよろしくお願いいたします。

故眉村先生関連の本が、私の知っているだけでも『チャチャヤング・ショートショート・マガジン9 眉村卓先生 追悼号』『チャチャヤング・ショートショート・マガジン10 眉村卓先生一周忌追善号』と『眉村卓の異世界通信』と三冊も出て、しかも内容にかぶりがないという。故眉村先生の人望とお人柄の賜物でしょうね。

岡本 >

前二者はチャチャヤング・ショートショートの会が出したもの、今回出た『眉村卓の異世界通信』は、芦辺拓さんや堀晃さん「星群の会」などプロを含むバーチャルなグループによるものです。編集の関係で執筆者は関西中心に絞られていますが、眉村さんには幅広い人脈がありますから、本格的に作ればこの倍の本になったと思いますよ。

雀部 >

関東の関係者にも執筆をお願いしたら、確かにそうなりますよね。

岡本 >

ファン系ということでは、他に「北西航路」というグループも追悼号を出しています。

雀部 >

「創作研究会=北西航路」が、2021年05月に出した『風の翼 特別号(眉村卓先生追悼)』のことですね。

アニマ・ソラリスの企画「SFファンクラブ探訪」で「チャチャヤング・ショートショートの会」について大熊さんにインタビューさせていただいた際に少しお話をうかがいました。

『眉村卓の異世界通信』の巻末の「著作リスト」と「著作リスト解題」、拝見しました。もの凄い労作ですね。特に解題は興味深く読ませて頂き、大変参考になりました。

岡本 >

解題と書かれた部分は、もともとは2008年の京都SFフェスティバルで行われたインタビューのレジュメをベースにしています。経緯は解題の冒頭にも書かれていますが、当時の録画・録音テープなどが残っていないので、新たに書き直したものですね。

雀部 >

録音が残っていても、テープ起こし自体も大変ですから、新たに書き直されたとなるとご苦労がしのばれますね。

岡本 >

著作リストについては、既に大熊宏俊さん(HP掲載)や日下三蔵さん(「SFマガジン眉村卓追悼特集号」や、出版芸術社《眉村卓コレクション》掲載)が作った詳細なものがありますので、それらを参考に新規に制作させていただきました。

雀部 >

そうなんですね。今回は色々と解説頂き大変ありがとうございました。

さてもうお一方、巻末の「映像化・ラジオ化作品リスト(1962-2019)」を作成された石坪光司さんです。石坪さん、初めましてよろしくお願いいたします。眉村先生とは、1968年の「第七回日本SF大会TOKON-Ⅳ」から不思議なご縁が続いているそうですね。

石坪 >

はい。こちらこそよろしくお願いいたします。

眉村先生との不思議な縁については、私がそう思っているだけかもしれませんが、「眉村卓の異世界通信」に書かなかった事でもいくつかあります。

例えば、堀先生の「日生を訪ねて」で発見された眉村先生の初期短編「霧に沈んだ人々」が、星群29号に掲載されていた、と言うこともそうです。

当時、実は私は「創作集団 星群の会」の代表をやっていたのです。それが、私が刊行委員会に名を連ねていなければ、編集段階で判明したか、どうか。

さらに言えば、そもそもKCCの講座に入会していなければ……。と言う事とか、かつてSFA(徳間書店 SFアドベンチャー)の同人誌紹介で荒巻義雄先生と眉村先生の対談で取り上げて頂いた、とかです。

雀部 >

「映像化・ラジオ化作品リスト(1962-2019)」拝見して、SF関係の作家の中では非常に多いのではないかと感じましたがどうでしょうか。

石坪 >

全部を調べた訳ではないので、多いかどうかは、よく分かりません。ざーっとチェックした感じでは、例えば、筒井康隆先生は映画だけでも21本。

TVドラマも主なものだけでも20本はありますし、スーパージェッタ―も、眉村先生は6本ですが、筒井先生も5本。ですから。

なので、格別多いとは思えません。

雀部 >

笑犬楼さま(筒井康隆先生)と比較対象になるレベルなら、十分多いかと(笑)

ラジオドラマは全然知らなかったので興味深かったです。

あと、「妻に捧げた1778話」の関連CD「笑うは薬」が出てたんですね。堀内孝雄さんのファンなので買っちゃいました。

石坪 >

そうですね。いい歌ですね。心に沁み込んで来ますし、眉村先生の当時の状況が眼に見える様に 表現されていると感じました。

このCDの存在は、映像化・ラジオドラマ化リストの調査中にネットで見つけたもので、この様なものが出ているとは 私も、その時まで知りませんでした。

まだ、他にも埋もれたものがあるのかも知れませんね。

雀部 >

もしこの記事を読まれた方で、眉村先生に関連した事案をご存じの方は、ご連絡下さいませ。(ヘリコニア談話室等)

ご苦労されたところはおありでしょうか。

石坪 >

これは一言。まとまった資料がないので、あちこちに分散している断片を繋ぎあわせる作業ですね。それも、一つの資料だけでは正しいのかどうか分からないので、幾つか合わせて整理する必要があったので、それが苦労と言えば苦労です。

ただ、ネットには、その気になれば部分的とは言えかなりアップされているので、集中してやれば、そう時間はかからないと言うのが実感です。

ネットがなければ図書館に詰めて関連図書を調べまくり転記する必要がありますから。もっとも、仮に作家別にそのようなデータベースが整備されていたとしたら、今回のようなリストを作成する意味はないので、ファンとしては苦労と言うより、それなりの楽しい時間でしたが。

雀部 >

楽しい時間だったということは、データベース整理はファン冥利につきるといったところですね。石坪さんありがとうございました。

石坪さんには、後日「星群の会」についても「SFファンクラブ探訪」で色々おうかがいする予定です。

ということで、大熊さんおひさしぶりです。『眉村卓の異世界通信』の編集後記を書かれていますが、編集でご苦労されたところはおありですか?(編集委員としては他に、芦辺拓、石坪光司、岡本俊弥、雫石鉄也、芝崎美世子、堀晃の各氏)

大熊 >

私の担当は、形式と内容に分ければ内容に当たる部分で、プロの作家さんから送られてくる文章は、当然ながら何の心配もしていなかったのですが、各教室の生徒さんたちのそれは、若干心配していました。

ところが、届いたものは、読んでいただきましたらお分かりと思いますが、どなたもしっかりした文章で、毫も文意のおかしなところはなく、追悼本という舞台をしっかり意識されたものでした。あえて言わせてもらえば「うまい」。

素晴らしい生徒さんたちを眉村さんはお持ちになったものだと賛嘆するとともに、眉村さんのご指導がどれだけ適確で優れたものであったか、あらためて認識させられました。

雀部 >

「眉村さんのこと」に寄せられた、各教室の生徒だった方たちの追悼文を読ませてもらい、私も同じことを感じました。紋切り型の文は全くなくて、皆さん上手いし独自色を出されていて『眉村卓の異世界通信』の目玉企画になったと思います。

大熊さんの一番ご苦労されたところはどこでしょうか。

大熊 >

生徒さんたち、本当に上手いですよね。それぞれ工夫をこらした、読まれるための文章に出来上がっていました。

文章面で確認するようなことはほぼなかったです。一番苦労したのは、むしろOCRでテキスト化したものの校正でした。じつに微妙な、編集を験すような誤認識をしていたりするんですよね。

雀部 >

そうなんですね。校正はうちでも苦労してます。インタビュー記事も一人でやるとどうしてもチェック漏れがあるので、第三者に校正をお願いしてます。まあ、私の脳の働きが落ちているというのが一番大きいのですが(汗;)

さて、『チャチャヤング・ショートショート・マガジン9 眉村卓先生 追悼号』と『チャチャヤング・ショートショート・マガジン10 眉村卓先生一周忌追善号』について編集方針等についてお聞かせ下さい。

大熊 >

脳の働きは、私もホント落ちてしまいました。澁澤龍彦が、評論やエッセイから小説に転身したのは、加齢で研ぎ澄まされた剃刀のような文章が書けなくなったから、というのは、同人で、乱歩研究家の中相作さんの言ですが、その中相作さんも、「つい最近も」ご自身のブログで「記憶力が引き潮のように減退していってもうやんなっちゃう」とおっしゃっていて、ほんまにもう誰も彼もムチャクチャでごじゃりまするわ(>おい)(^^ゞ

雀部 >

ホンマですなあ~(汗;;)

大熊 >

『チャチャヤング・ショートショート・マガジン』が、そんな私でも一人で編集できているのは、同人がみな良くも(そしてある意味)悪くも完成された作家だからなんです。校正なんてほぼしなくて大丈夫。私は届いた原稿を一列に並べるだけ。編集方針なんてないに等しいです。ただ、その並べ方で、全体でひとつの長篇みたいに出来たらなあ、とは、漠然と思っています。満足に出来たためしはないのですけれど(汗)

当該の二冊も、そういう次第で、ほとんど苦労したという記憶はありません。ただ『チャチャヤング・ショートショート・マガジン9 眉村卓先生 追悼号』の方は、追悼号ということで、南山鳥27さんが参加してくださいましたので、往年の『北西航路/風の翼』に似(贋)せた構成にしてみたんですが、誌面が一気に昔に戻ったとの感想を頂戴し、してやったり!でした(笑)

雀部 >

原点回帰ですね。

最後にそれぞれの本について、これはぜひという目玉を教えて下さいませ。

大熊 >

どの作者作品もそれぞれ攻めるところが違っていて個性的で、且つ(先程も述べましたように)完成されていますので、選ぶのは難しいです。全作品「ぜひ」です。

ということで視点を変えまして――。ゲスト的に参加してくださった二作家の二作品は、目玉といえるかもしれません。

9号では、やはり一篇の短篇で誌の雰囲気を一気に変えてしまった南山鳥27「星のシャングリ・レー」、10号では、野波(NOVA)恒夫「銀座会記録」を挙げたいと思います。

前者は、こういう傾向の謎めいた濃密小説が好きな方はノックアウトされるのではないか。後者は、70年代末から80年代前半にかけ眉村さんがご自宅を開放して下さって開催していた勉強会「銀座会」における眉村さん語録で、大変貴重なものといえるでしょう。

雀部 >

なるほど、読んでいて確かにそう感じました。

岡本さん、石坪さん、大熊さん、今回はご面倒なお願いに応じて頂きありがとうございました。そして編集作業、色々とご苦労様でした。

このインタビューも、眉村先生の著作や功績を長く記憶にとどめる事が出来る一助となれば幸いです。

[岡本俊弥]
SF宝石、SFアドベンチャーで創刊から終刊まで続いた「SFチェックリスト」欄や、週刊読書人で書評欄を担当。『最新版SFガイドマップ』の監訳、サンリオSF文庫、創元推理文庫、ハヤカワ文庫の解説や、最近でもSFマガジンや、オンライン読書サイトのシミルボンで記事を執筆。『海外SFハンドブック』『ハヤカワ文庫SF総解説2000』、星雲賞受賞の『サンリオSF文庫総解説』に寄稿している。
2015年以降THATTA ONLINE、チャチャヤング・ショートショート・マガジンなどの媒体に小説を執筆。短編集『機械の精神分析医』を2019年に、『二〇三八年から来た兵士』『猫の王』を2020年に、『千の夢』を2021年にそれぞれアマゾンPOD、キンドルで出版。また、海外オンラインのFudoki Magazine、Lockdown Sci-Fiなどでも英語翻訳版の紹介がある。
[石坪光司]
創作集団「星群の会」創設以来の同人。1980年第六回ハヤカワSFコンテスト最終候補作に残るも落選。ちなみにこの時は佳作 大原まり子、参考作 大河司、火浦功、水見稜で、亡くなった「星群の会」同人でもあった石飛卓美も最終候補作。同年のSFアドベンチャー12月号に「星群ノベルズ」寄稿作が同人誌推薦作として掲載。以降、「星群」本誌及び「星群ノベルズ」に寄稿。1993年8月第32回SF大会(DAICON6)にてSFファンジン大賞創作部門受賞。
その後、1995年1月の阪神・淡路大震災の直撃を受け、思う所があって創作およびファン活動から距離を置く。その後、故眉村卓先生の神戸新聞文化センターの講座に参加。今に至り「星群」への寄稿再開。なお最近は日本酒とワインに嵌り、それぞれの勉強会(半分は飲み会)に参加し研鑽を図っている。
[大熊宏俊]
1955年生。大阪府出身。中学生のとき深夜放送MBSチャチャヤングを聴き、その後の人生が決定する。大学入学と同時に入会したSF研究会で(のちの)西秋生と出会い、チャチャヤング・ショートショートコーナーの後継創作誌「創作研究会」に誘われ入会。創作研究会分裂に際しては西秋生・宇井亜綺夫(中相作)の「風の翼」に所属するも、「創作研究会」にも寄稿するというヌエ的行動をとっていた。
2003年より「眉村卓さんを囲む会」主催。2013年、眉村卓さんデビュー50周年を期してチャチャヤング・ショートショートの会を発足し「チャチャヤング・ショートショート・マガジン」創刊、編集担当となり現在にいたる。

[雀部]
 大学生の時にSF研に入れなかった落ちこぼれ(汗;)
 大熊さんに誘っていただき、故眉村先生にインタビューさせて頂く機会(たぶん定例の懇親会)があったのですが、どうしても都合が付かず断念したのは痛恨の極みでした。