Book Review
レビュアー:[雀部]&[糸井]
シナリオのためのSF事典
『終わらない高校最後の日々』
  • 糸井翼著
  • いるかネットブックス
  • 2021.6.16発行、Kindle版
  • 330円(税込)
 高校3年生、高校生として最後の年。その4月から8月までの揺れる気持ち。大人ではなく、さりとて子供でもない、お互いにもどかしくも尊い関係性を描いた胸きゅんな作品です。
作者談:子どもでも大人でもない、高校生たちの「きゅん」が詰まったお話です。 Amazonでサンプル読めます。

雀部 >
今回のブックレビューは「アニマ・ソラリス」に投稿頂いている作家の方をお招きして、自作やお好きな作品について語ってもらおうという久しぶり(笑)の企画「自作を語る」です。
 糸井さん、初めまして、よろしくお願いいたします。
糸井 >

初めまして。
 あまり面白い話は語れないと思うのですが、ぜひよろしくお願いいたします。

雀部 >

最初に投稿していただいたのは、第213号の「この国の空を飛ぶことは」だったと思いますが、そもそもなぜ「アニマ・ソラリス」に投稿してみようと思われたのでしょうか?

糸井 >

どのようにたどり着いたかは忘れてしまいました。自分の書いたものを何かの形で残したいと思っていて、できれば見られる形で、誰かが見てくださるならなおありがたいと思っていました。そういう場を探していました。
 一般の小説投稿サイトで無名の私の小説を投稿してもほとんど誰も見ないですし、そういう場で人気の作風だったり分量にはできなくて。「アニマ・ソラリス」なら、短くて少し闇があってSFっぽい、そういう私のお話も受け止めていただけないかなと感じて投稿しました。

雀部 >
なるほど、そういう需要もあるんですね。
 「にほんブログ村」の糸井翼さんはご自身でしょうか?
糸井 >

あ…、そうです。物書きとしての活動履歴とかをまとめておけるページがあれば便利かと思ってずいぶん前にブログを作ったのですが、更新が面倒くさくなり、そもそもそんなに頻繁に更新するようなこともないし、という感じで放置状態です。今見るとなんだか恥ずかしいです。

雀部 >

まあ、想い出というか記念にもなりますしで……
 X(Twitter)のプロフィールからリンクのある「私という存在はフィクション。カクヨム」はリンク切れなんでしょうか。

糸井 >

気付いていませんでした!確認して直したいと思います!前は問題なく見えていたと思うのですが…

雀部 >
かまわない範囲で、略歴や今までの投稿履歴とかお教え下さい。
糸井 >
旧Twitterのプロフィール欄に、私という存在はフィクション、と記載しているのですが、物書きとしての私は、中の人とは別の架空の存在、というつもりにしています。
 投稿履歴は、カクヨムで2020年から投稿していますが、その前に1000字の小説を掲載する短編サイトとか、その前にはもうなくなってしまったのですが、時空モノガタリという2000字の小説の投稿サイトに出したこともありました。小説自体は結構前から、10年以上書いています。
雀部 >

電子書籍の『終わらない高校最後の日々』(2021年、いるかネットブックス)は、どういう経緯で出されることになったのでしょうか。

糸井 >
投稿サイトは見てもらえない、というのはさっきも申し上げたのですが、そういう意識もあり、でも、せっかく書きたいことは書けたし、分量もそこそこいったので、電子出版という形ならどこかで出版いただけるのではないか、と根拠のない自信を持ったまま、ネットで検索していたときに、こちらの出版社を見つけました。本当にそれだけなのですが、原稿をお見せしたら出していただけるということになり、嬉しかったです。でも分量を書くのはエネルギーも時間もかかるので、あれっきりですね。
雀部 >
なるほど、そうだったのですね。
 お好きな、又は影響を受けた、漫画・小説・映像作品はどうでしょう?
糸井 >
小さいころ読んだ星新一さんのショートショートに影響を受けていますかね。小さいころは童心社の怪談レストランシリーズとかもよく読んでいました。
 あとは北村薫さんの空飛ぶ馬のシリーズとか坂木司さんとか好きです。
 あと小説以外では、有名どころだと、ムーミンと聖闘士星矢、鬼滅の刃が好きです。雑ぱくですみません。
雀部 >
その中で特にお好きな(影響を受けた)のは?
糸井 >

自分の小説のカラー的には、星新一さんの影響はあるでしょうか。切れのあるオチに憧れます。あとは先ほど言った北村薫さんと坂木司さんの小説は日常×ミステリー×丁寧な心情表現って感じでこれも憧れますし、大好きです。

雀部 >
星先生は私も連想しましたし、最近の坂木司先生の作品は、「紙魚の手帖」誌掲載の先日まで連載されていた「きみのかたち」しか読んでないのですが、まんま糸井さんの世界と通ずるものがありますね。
糸井 >
坂木司さんの「きみのかたち」は読めていないのですが、私は「和菓子のアン」シリーズで好きになりました。感情移入して読むので、すっと主人公と同じ気持ちに入りやすい小説はすごく好きで、こういう小説が書けたらな、なんて図々しく思っていました。そういう作家さんに通ずる感じが少しでも出せていたなら、書いてきた甲斐があったかなと思います。
雀部 >
「きみのかたち」は、小学生の青春(?)物語という感じでしょうか。
 糸井さんの『終わらない高校最後の日々』は、題名どおり高校生の物語なんですが、どこか通じるものを感じました。
 X(Twitter)のプロフィールからリンクのある「飛べない つばさ」のショートショート、特に「彼女いない同盟の君と(短編)」なんかも同じ匂いがしましたよ。
糸井 >
ありがとうございます!挙げてくださった二つについては、変わってしまうことへの不安感みたいなものが私自身にあって、それが色濃い作品です。
雀部 >
変わるというのは、ご自身のことでしょうか。それとも回りの環境が変わってしまうことの不安感でしょうか。
 私も大学卒業時に、7年間一緒に学んだ同級生達と別れ別れになる戸惑いみたいなものがありました。あ、7年というのは、大学紛争の影響で教養部を3年やったからなんですけど(汗;)
糸井 >

7年は長いですね…それは卒業のとき感じるものがあるでしょうね。私の言う、変わる、とは、自分も含めた全てです。気付かないだけで自分も大きく変わるのでしょうけど、それで失うものも多いだろうし。環境も同じで、例えば友達と卒業で離れたときに、全く同じ関係性でいられたら良いですけど、そうもいかないわけですよね、仮に7年一緒で、変わらない気がしていてもそうじゃないですか。それが悲しいなあっていう、そんな不安です。

雀部 >

なるほど、確かに
 北村薫さん、本棚見ると何冊かバラバラに置いてありました。最初に読んだ『盤上の敵』が一番好きかも。SFぽいのだと《時と人シリーズ》の『スキップ』(1995年)『ターン』(1997)『リセット』(2001)も面白かったし印象に残ってます。
 糸井さんのお好きなのはどの本(どういったところ)でしょうか。

糸井 >
「空飛ぶ馬」を中学の頃に読む機会があって、主人公の心理描写が繊細で、日常に潜むミステリーを読むのも初めてで、人の闇みたいなエグさもあって、こんなに面白いジャンルがあるのか、と自分としては衝撃でした。シリーズの中では、3作品目の「秋の花」が一番好きです。
雀部 >
糸井さんの、ご専門は何なのでしょうか。
糸井 >
糸井翼の書くものが全てなので私の素性については基本内緒です!(笑)
雀部 >
それは、覆面作家ということですね(笑)
 というのも、糸井さんのお好きな《和菓子のアン》シリーズを読んでみて、仕事系・蘊蓄系ミステリでとても面白かったので、糸井さんはこういう系統の作品はお書きにならないのかと思ったのですよ。映画もそっち系のものはよく見ます。
 あ、私は内面がおっさん(笑)だけど、仕事は凄く出来る椿店長が好きです。
糸井 >
お仕事系小説は学生ものやSFなどと違って知識や調査が必要なので、なかなか踏み込めません。自分の知っている世界を超えるものを書けていないな、とは思っていて、弱点です。
 椿店長、素敵ですよね。おっさんぽさも、そのギャップがより魅力的にしていますよね。そういうキャラを書けるのもすごいです。
雀部 >
糸井さんの作品は、SFというよりはファンタジー寄りだと思うのですが、書くときに気をつけられていることはあるでしょうか?
糸井 >
正直、SFとは何か、ファンタジーとは何か、明確にわかっている訳ではないので、たまたまそうなっているだけですね。
 書きたい、と思ったメッセージだったりシチュエーションだったりがあって、それを書くためには舞台設定がSFやファンタジーの世界だとちょうどいい、という感じです。非現実的でもできるだけ矛盾がなく、その世界の中で説明がつくように、とは思っています。
雀部 >
「この国の空を飛ぶことは」で、“魔法の空飛ぶ絨毯”じゃなくて“A博士の発明した空飛ぶプレート”だとSFになるとか(笑)
 SFだけにかぎったことはないのですが、確かに作品内の整合性は大事ですね。
 星先生のショートショートでは、どんな作品がお好きなのでしょうか。
糸井 >
読んだのは結構前なので、具体的にこの作品が好き、というのはありませんが、何となく覚えているお話はありますね。死ぬまで使えるお金をくれる悪魔が出て来る話とか、ボッコちゃんとか。たぶん読んだら、これこれ!ってなると思うんですけど。
雀部 >
糸井さんのこれまでの投稿作と、星先生の好きな作品から想像するに、ほっこり系の話がお好きなのかな。『機械仕掛けの愛』(業田良家作)というマンガがあって、ちょっとあざとい展開が多いのですが、なんかホッとするストーリーで好きなんです。
 今号に投稿していただいた「寿命を教えてもらったら」が、同じ雰囲気がして好きな作品なのですよ。
糸井 >
ほっこり系は確かに好きです。『機械仕掛けの愛』もチャンスがあれば読んでみたいと思います。私は書くものがダークにやや寄りがちなのですが、今回投稿した作品はほっとするそういう雰囲気が出せていたのであれば嬉しいです。
雀部 >
ホッとするというかホッコリするというか、この路線も続けて欲しいですね。
 ところで、小説の賞に応募とかの経験はおありでしょうか。
糸井 >
短編小説が対象で、ネットやメールで応募できるようなものがあると、送るときはありますね。全然引っかかりもしないですが。
雀部 >
ゲンロンの受講者の方々の投稿作などを読ませていただいていると、レベルが高いことに驚かされます。小説の講座も色々ありますが、そういうところを受講される予定はありますか?
糸井 >
今はないですね…確かにレベルの高い小説を読むと刺激になるのですが、そういうところで頑張るというよりは、縛られずに書きたいものを書きたいときに書いていきたい、と思っています。
雀部 >
そうなのですね。
 では、これから挑戦してみたい小説の分野はありますか?
糸井 >
分野ではないですが、時間と元気があれば、長編が書いてみたいとは思います。
 ただ、今はあまり余裕がないので、細々とでも書きたいと思ったものを書いていければ、とは思っています。
雀部 >
長編ともなるとショートショート以上に、資料に当たるとか取材とかの必要性が増してくるので中々大変でしょうが、期待してお待ちします。
糸井 >
そう言っていただけるのは嬉しいです。色々アンテナを立てて、いけそうなら頑張りたいです。
雀部 >
「アニマ・ソラリス」への投稿の方もお待ちしておりますよ。(笑)
[糸井翼]
[雀部]
 堀晃先生主宰の「ソリトン」元同人。なお、投稿歴は無い(汗;)
「糸井翼、自作を語る」