相変わらずSF映画は少ないので、4月に読んだ四つの小説をご紹介させて頂きます。
◎『パズル・パレス 上・下』ダン・ブラウン 角川文庫
どんな暗号でも十数分で解読可能なNSA(米国国家安全保障局)のスーパーコンピューターに叛意、退局した天才が、解読不能な暗号(Digital Fortress:この本の原題)をネット上で公開。 その解読キーを巡って連続殺人が発生。 果たして、NSAは天才の挑戦に勝てるのか。
ベストセラーとなった『ダ・ヴィンチ・コード』の著者、ダン・ブラウンの処女作。 コンピューターを全く知らない人には取っ付きにくいし、また、詳しすぎる人は、こんなことはありえないと白けるだろうしで、丁度、私ぐらいのレベルの人間が夢中になれる小説です。
ハードカバーを敬遠、文庫本が出たので、即、購入した次第。 発売日、本屋さんの店頭になく、段ボール箱から出して貰い、店頭に並ぶ前に買いました!
◎『明烏』小松左京 集英社文庫(2009年1月25日 第1刷)
サブタイトルは「落語小説傑作集」。 内容は、『明烏』、『天神山縁糸苧環』、『乗合船夢幻通路』、『反魂鏡』。 東西の落語をモチーフとし、時代を現代に移して、洒落た物語にした、いずれも、過去、何かの雑誌に掲載された短編集です。
・『明烏』(初出:小説新潮 1975年9月号) 「弁慶と小町は馬鹿だなあ、かかあ」で始まる、江戸落語『明烏』。 先代(八代目)桂文楽の十八番でした。 この噺をモチーフとし、舞台を現代の京都に移しての物語。 堅物の甥を軟化させようと努力する叔父の画策を中心に、しっぽりとした感じの物語に仕上がっています。 物語もさることながら、この小説の中に出てくる実に多くの単語やフレーズは、著者の広範囲に亘る知識と体験(?)に基づいたもののようで、各所にばらまかれたこれら蘊蓄を、ひとつひとつ吟味しながら読んでいくと楽しめます。
・『天神山縁糸苧環』(初出:問題小説 1975年11月号) この小説を読んで、殆ど記憶にない『天神山』をもう一度聞いてみなければと思い立ち、早速、お店で『枝雀 落語大全 第九集 ○天神山 ○日和ちがい(東芝EMI)』を購入、聞いてみました。 前半は、江戸落語の『野ざらし』、後半は『葛の葉』、この両方をつなげたような噺です(実際には、上方のこの『天神山』を、江戸の噺家が二つに分けた由)。 そして、これを聞いてから、もう一度この小説を読み直してみたのですが、前に読んだときより、この小説の奥が深いことが分かり驚きました。 舞台は現代の大阪。 落語と同じように一心寺、天神山、安居の天神様、そして、小糸が出てきますし、更にこれに、劇中劇のように語られる落語『立ち切り』が絡み合い、ひとつの因縁話のように纏まっていて、最後はホロリとさせられました。 著者が芸能界の裏の裏までよく熟知され、いろいろな噺家さんと交流があることが伺われます。
・『乗合船夢幻通路』(初出:小説新潮 1976年3月号) これも典型的な上方落語でしょうか? 昔、聞いたことがあるような気がしますが、最近は全く聞きません。 舞台は、現代、祇園のお茶屋さん。 そのお茶屋さんを、三十石船と宝船に見立てた物語。 この小説も、この著者ならではの京都(祇園)体験が、十分に生かされているものと思われます。
・『反魂鏡』(初出:小説新潮 1978年12月号) これは江戸落語の『反魂香』がモチーフ。 先代(七代目)三笑亭可楽のこの噺が好きでしたが、随分昔に日本橋の三越ホールで聞いたのが最後になりました。 時は現代、場所は今度は原宿表参道。 “突如、ぼくの彼女が路上で消滅する・・・”ところから物語はスタート。 更に、話は江戸時代にまで逆行。 反魂香で呼び戻され、仏壇の中から現われる高尾は、実は・・・、というところまで物語は発展して行きます。 この本の四つの小説中では、この『反魂鏡』が一番本格的SFでしたが、矢張り落語、最後は楽屋落ちとなりました。
最後に、「特別付録」として桂米朝と小松左京の対談が載っており、これも楽しく読めました。
◎『黄金の流星』ジュール・ヴェルヌ 偕成社
今まで探していたのに見つからなかったジュール・ヴェルヌのこのSFを、やっと図書館で発見、借りてきました。発行は昭和43年、本邦初訳。 原題は、「La Chasse Au Meteore」。直訳すると、“流星の追跡”。なかな見付からなかった筈です。
よきライバルの二人のアマチュア天文学者が同時に流星を発見。 その最初の発見者を巡って二人は仲違いに。 その二人のそれぞれの甥と娘は婚約中であったが、それもこの事件で険悪な状態に。 しかも、やがて、その流星は黄金でできていることが分かり・・・。 一方、一人の天才発明家が、その流星を地上から機械でコントロールし、自分の領地に落とそうとしていることが判明するに及んで・・・。
この小説は、1905年、ジュール・ヴェルヌが亡くなった年に書かれたものとか。 お子様向けのハードカバーでしたが、挿絵も沢山入っており楽しめました。
この他、彼の小説には『彗星飛行』(原題は「Hector Sevadac」で、これは人名)という紛らわしいタイトルの作品もあります。
◎『北海の越冬/緑の光線』ジュール・ヴェルヌ パシフィカ
ジュール・ヴェルヌのこの本も未読で、探していたのですが『黄金の流星』と同時に発見でき、図書館から借りてきました。 発行は、1979年。図書館から借りると、返却日が指定されるので、能率よく本が読めます。
・『緑の光線』 先ずこちらから読み始めました。 舞台は、スコットランド。登場人物は、仲良し兄弟の叔父と姪、そして、そのフィアンセ。 彼女は、「日没寸前に水平線で希に生ずる“緑の光線”を観ると、幸せになる」ということを新聞で知り、結婚前に是非“緑の光線”を観たいと、叔父や召使いを連れてスコットランド西岸へと旅に出る。 しかし、旅の途中で、一人の青年と知り合い・・・。 果たして彼女は、どちらの男性と結婚するのか? そして、最後、彼女は、“緑の光線”を観ることができるのだろうか?
この小説は、過去、映画化されているようなのですが、残念ながら、観る機会に恵まれていません。
・『北海の越冬』 舞台はフランス、ダンケルクの港町。 北海から船が帰ってくる。その船長の帰りを待ちわびる父親と、そのフィアンセ。 だが、その船には黒旗が。 他の船を救助するために遭難した船長、ルイ・コルンビュットを探しに、父親はフィアンセ、それに、今帰国したばかりの船員を連れて、再び北海を目指して出港する。 しかし、北海はこれから厳寒に向う。それに、船員たちの陰謀が絡み合い、果たして彼らは無事、ルイ・コルンビュットを探しだし、ダンケルクに連れ帰ることができるのであろうか。
この本の最後には、「巻末エッセイ」として、当時の現役、マリー・A・ベロックの「ジュール・ヴェルヌ・インタヴュー」が載っており、これも楽しめました。 彼が78歳の時のインタヴューのようで、良き“おじいさん”の面影が伺われます。
閑話休題 今月紹介するのは、以下の3作品です。 『バビロン A.D.』『天使と悪魔』『スター・トレック』
■『バビロン A.D.』
5月9日に公開されたこの映画は、当初から観に行く予定でいましたが、公開近くになってから上映館が絞られ、横浜地区では辺鄙なショッピングセンターのシネコンでのナイトショーのみ。 また、川崎、渋谷、新宿には上映館はなし。 やっと、お台場の“シネマメディアージュ”で上映されていることが分かり、5月11日に出掛け、13:10からを観てきました。 上映は“スクリーン6”、座席数:241に対して月曜日とはいえ、上映3日目なのに入りは十数人。 矢張り、上映館が少ない筈です。
物語: 度重なる戦争で放射能まみれになった近未来の地球。 前科の指名手配でアメリカに帰れず、ニュー・セルビアで非合法な運び屋をして暮らしている男、トーロップのところに、ボスから仕事が舞い込んでくる。 が、今度の仕事は「物」ではなく、若い女性をモンゴルの新興宗教団体の拠点からニューヨークまで送り届けることであった。 トーロップはモンゴルで初めて会った若い女性、オーロラとその保護者を車に乗せ、長い危険な旅に出るが、その途中、彼はオーロラが百科事典並の記憶力と、予知能力があることを知る。 果たして彼女は何者なのか。 そして、ニューヨークで彼らを待ち受けていたものはなにか。
主演のトーロップ役は『トリプルX(1902)』などでお馴染みのヴィン・ディーゼル。 シュワちゃんの跡を継いだ感じでしたが、彼よりかはずっとクール。 モンゴルからはリムジンで、その後、列車に乗り換え、更に運び屋の潜水艦でアラスカに着き、スノーモービルでカナダへ、そして、最後は飛行機でニューヨークへ到着します。 この間、各所で事件が発生、その都度、ヴィン・ディーゼルが威力を発揮。 最後、ニューヨークに着いてから、オーロラ出生の秘密が明らかになりますが、その後、もう1シーンあり、映画はちょっと淋しいハッピーエンドで終わります。 最近は、科学と宗教といったテーマの映画が多いような気がします。 近未来の新ニューヨークの描写は、『ブレードランナー』的で結構楽しめました。 これは、MAURICE G. DANTEC著の小説『BABYLON BABIES』の映画化とのことですが、未だ邦訳は無さそうです。
(原題)BABYLON A.D. 2008/アメリカ、フランス/20世紀フォックス映画配給 監督:マチュー・カソヴィッツ 脚本:マチュー・カソヴィッツ、エリック・ベナール 出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ヨー、メラニー・ティエリー 2009/05/09公開 1時間30分
◇ 今回、初めて映画館で観た予告編。
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『ウルヴァリン X−MEN:ZERO』(米) |
2009年 夏 |
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『X-MEN』の一人、ウルヴァリン誕生秘話。 主演は、お馴染みヒュー・ジャックマン。かなり過激な映画? もし、原作の通りで、続編ができるとすると、舞台は日本とか・・・。
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■『天使と悪魔』
5月20日は、12:20からの映画『天使と悪魔』を、マスクも着けずに決死の覚悟で、「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで観に出掛けました。上映は、一番大きい“スクリーン1”。 出掛けてみて、このシネコンは、毎月20日が誰でも1000円ということに気が付き、「しまった」と思いましたが、上映6日目だというのに座席数:534に対して入りは僅か10%程度。この映画館は、「ヴィールス・シャワー機能搭載」を売り物にしているせいか、マスクをしている人は皆無。
映画: 先ず、最初は、バチカンの教皇の葬儀。 続いて、スイス、CERNの巨大加速器で「反物質」が作られるシーン。 そして、新教皇選挙のコンクラーベのシーンが流れる。 ここで突然、シーンはCERNで反物質の製造に携わっているヴィットリアと、その義父に変わり、更に、義父は何者かに殺害され、製造された反物質が盗まれる。 続いて、バチカンでは次期教皇選任有力候補枢機卿4人が何者にか拉致され、且つ、「午後8時から1時間ごとに、この4人を一人ずつ、四大元素“土”、“空”、“火”、“水”に関連した場所で殺害し、5時間目の真夜中、12時には、盗んだ反物質でバチカンを吹き飛ばす」という犯行通知が届くに及んで、バチカンは、ハーヴァード大学の宗教象徴学教授ラングドンに、犯人の解明と事件解決のための援助を要請する。 彼は、ヴィットリアと共にバチカンに赴き、問題解決に乗り出すが、段々とその背後にイルミナティの存在を察知し始める。 果たして拉致された4人の枢機卿たちは助かるのか。 そして、地下に潜り、その後、消滅したと思われていた、400年前、キリスト教によって迫害されたガリレオなどを中心とした科学者たちによって結成された秘密結社“イルミナティ”は、未だ存在していたのであろうか……
ダン・ブラウンの小説『天使と悪魔』の映画化。 映画はかなり忠実に小説に沿って作られていますが、正直言って、最後のくだりでは、あまりにものめり込んで観ている自分自身に気が付いて、一人でニヤニヤしてしまいました。 ぶっつけで、映画を観ても、それはそれなりに楽しめると思いますが、ローマの地図や、秘密結社“イルミナティ”、“CERNと反物質”、“アンビグラム”、“ピラミッドと目”などについて、それなりの予備知識を持ってから観に行けば、更に何倍も楽しめると思います。 最後、バチカンへの気遣いでしょうか、小説とはちょっと違い、「科学と宗教」について、双方に若干の歩み寄りが見られます。
(原題)ANGELS & DEMONS 2009/アメリカ/コロンビア映画、イマジン・エンタテインメント提供 監督:ロン・ハワード 脚本:デヴィド・コープ、アキヴァ・ゴールズマン 原案:ダン・ブラウン 出演:トム・ハンクス、ユアン・マクレガー、アイェレット・ゾラー 字幕:戸田奈津子 2009/05/15公開 2時間18分
蛇足(1):映画では『ダ・ヴィンチ・コード』に続く第2弾として『天使と悪魔』が、ということになっていますが、ダン・ブラウンの小説では『パズル・パレス(1998)』、『天使と悪魔(2000)』、『デセプション・ポイント(2001)』、『ダ・ヴィンチ・コード(2003)』の順になっています。 この二つの映画のヒットに続いて、ダン・ブラウンはハリウッドの要請(?)に応え、ラングドン教授シリーズの第3弾『ザ・ソロモン・キー』を、現在、執筆中の由。 これの映画化に、トム・ハンクスは、まだまだやる気満々だそうです。 こちらの期待も、満々です。
蛇足(2):4月13日、朝日新聞夕刊の「人脈記 素粒子の狩人」に「反物質 空想大爆発」として、東大理学部教授 早野龍五氏の話が載っており、その中で、この映画の虚実性について、「02年、ほぼ1日かけて5万個以上の水素原子の反物質、すなわち反水素原子を作ることに成功した。 (中略) 現在の技術で、映画に出てくる4分の1グラムの反水素原子を作ろうとしたら、150億年掛ります」と語っています。
蛇足(3):昔、一人でニースに出張中、土・日をローマで過ごしたことがあります。 一日目は、ソレントからカプリ島の青の洞窟などの観光、そして、2日目のローマ市内観光では、もっぱら当時話題の『ローマの休日』の名所のトレースに終始。 バチカンは、丁度、日曜日でしたので、教皇がバルコニーで手を広げているのを見ただけで終わってしまいました。 今だったらば、きっとラングドンの足跡を辿ったことでしょう。
蛇足(4):先日、本屋で「日経サイエンス 7月号」のページをパラパラと捲っていましたらば、「TREND」の欄に、4ページを割いて「『天使と悪魔』と素粒子物理学」という一文を見付けました。 その中で、東京大学教授 早野 龍五氏(CERN研究所における反物質研究グループのリーダー)のホームページに「物理学者とともに読む『天使と悪魔』の虚と実 50のポイント」という記事があるということが紹介されていました。 帰宅後、探してみましたらば、下記URLにその記事があることを発見。 この記事は、映画ではなく小説が元になっているようですが、面白く読めました。 http://nucl.phys.s.u-tokyo.ac.jp/hayano/angles_and_demons_fact_vs_fiction/FACT.html
■『スター・トレック』
5月29日は雨の中、元気を出して、公開初日、朝から二回目(12:45)の『スター・トレック』を観に、「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。 上映は、“スクリーン5”。客席174に対して入りは、20人ほど。
物語: クリゴン帝国の宇宙空間で、USSケルヴィン号が惑星連邦壊滅を目論むロミュラン人ネロが率いる宇宙船に襲撃される。カーク船長は全員を救命艇で待避させた後、自ら敵の宇宙船に体当たり自爆、800名の乗組員を助ける。その救命艇の中で、カーク船長の妻が男児を出産、ジェームズと名付ける。我々が知っている、カーク船長誕生の瞬間である。 ジェームズ・カークは、アイオワ州で育てられ、無鉄砲で生意気な若者に成長する。 バーで喧嘩をしているところを、彼の父親を知る、建造中のエンタープライズ号のパイク船長に見出され、隊員に勧誘される。その処女飛行の時、またもやエンタープライズ号はネロの宇宙船に襲われ、パイク船長は敵に捕らえられる。 続いて、敵の手は、遂に地球にまでおよび、地球のコアにブラックホールを落とし込み、壊滅させようと、地殻に穴を穿ち始める。 それを阻止しようとする、若き日のカークとスポックたち。 果たして彼らは地球を救い、ネロが率いる敵宇宙船を壊滅することができるのであろうか。
上述しましたように、我々が知っているカーク船長が生まれる瞬間から、少年期を経て惑星連邦の隊員になり、スポックやマッコイとも知り合い、お互いの確執を経て成長、最後は、ともに協力して地球と連邦の危機を救い、名実ともに立派な船長に任命されるまでの物語です。 各所に交戦シーンもあり、更に、物質転送や空間のワープ移動、ブラック・ホールによるタイム・パラドックス的な話なども織り込まれて、久し振りにスケールの大きいSF映画を観たような気がします。 教訓がちょっぴり含まれているところも、スター・トレックらしいところです。
今回の映画のタイトルは只の『スター・トレック』で、その他のサブ・タイトルは何も付いていません。 映画『スター・トレック』シリーズは、1980年にスタート、2003年4月に上映された『ネメシス S.T.X』で一応完結を見たわけですが、この10回のシリーズの後、再び、原点に戻った時点で、タイトルもスッキリと決めた感じです。 私は別にトレッキーでもないのですが、何故か、このシリーズは全部見てしまいました。 メイキャップもあるのでしょうが、我々が熟知している、成長したメンバーに似た若いキャラクターが、体当たりで演じているこの『スター・トレック』は好感が持てます。
(原題)STAR TREK 2009/アメリカ/パラマウント ピクチャーズ And スパイグラス・エンターテインメント提供 監督:J.J.エイブラムス 脚本:ロベルト・オーチー & アレックス・カーツマン 出演:クリス・パイン、ザッカリー・クイント、レナード・ニモイ、エリック・バナ、ブルース・グリーンウッド 2009/05/29公開 2時間06分
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