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AKIのキネマまんぽ

今月は珍しくSF映画が豊作

『NINE』
『第9地区』
『月に囚われた男』
『クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁』

AKI

 3月の東京電力館科学ゼミナール『巨大望遠鏡で見る宇宙の一番星』の講演に刺激され、『ロバート・フック ニュートンに消された男』(中島秀人著 朝日選書565:1996年11月25日第1刷発行/第24回大佛次郎賞受賞)を読んでみました。この本は既に絶版。古書でも綺麗なものはかなり高い値が付いていたので、先ずは図書館に依頼。誰も借り手がいないのか、即借りられました。
 著者は東京大学大学院修士課程(科学技術史専攻)の学生時代に、ロバート・フック(1635-1703)という人物に関心を持ち、今まで、フックはニュートン(1642-1727)をいじめた悪者とされていたのを、敢えて、フックの側に立って約5年間に渡り研究、纏め上げたのがこの本とのこと。この5年の間、彼はフックの生まれ故郷、イギリスのワイト島を訪問したり、1年間ロンドン大学に籍を置いたりして研究を進めたそうです。

 先ずこの本の前半は、フックの生い立ち、フックの業績、その当時のロンドンの状況が述べられており、フックが20歳の時、やっとニュートンは13歳であったというあたりからニュートンの名前が出てきます。
 フックは「フックの法則」(バネに加える力とバネの伸びは比例する)でその名をよく知られていますが、その外にも、「真空ポンプの改善」、「毛細管現象の解明」、「高倍率顕微鏡と観察記録(『ミクログラフィア』出版)」、「植物の細胞構造を発見し“cell”と命名」、「鉱物の結晶とその構造の推定」、「化石の解明」、「ボイルの法則とその実験装置の製作」、「燃焼理論の解明と動物の呼吸との関係」、「バネ振子の等時性と精密時計への応用」、「長焦点レンズを使った“長大望遠鏡”の研究と天体観測」、「鏡を使って望遠鏡を短縮する工夫」、「地球の運動を証明するための年収視差測定装置の作成と観測」などなどと、その業績は非常に多岐に渡っています。
 そんな中、1672年に20歳代のニュートンが反射式望遠鏡を引っさげてロンドンに現われ、その業績によって王立協会の会員に選ばれます。
 斯くして、フックとニュートンの大論争が展開される訳です。
 先ず、「屈折望遠鏡と反射望遠鏡の優劣」から始まり、「光と色」について、そして、「光の粒子説と波動説」、更に、「太陽系惑星の円運動の本性」、「落体運動の説明」、「ケプラー運動の解析」、「引力逆二乗の法則提起の優先権」などと論争は続いていきます。
 ニュートンは、始めは争いを避けようと控えめだったようですが、だんだんと取り巻きにあおられ強気になっていきます。
 そんな中、1686年に『プリンキピア』の出版が決定するにおよんで、二人の間は決定的な決裂を迎えます。しかしその頃、フックは病を得て、体力、気力とも萎えはじめていたようです。
 その後、1703年、王立協会の会長に選ばれたニュートンは、1710年に王立協会の移転を決定、その際、彼は既に故人となったロバート・フックの肖像画や実験装置などをことごとく廃棄してしまったようで、現在、彼の肖像画や実験器具は何ひとつ残されていないそうです。

 著者は、「この対立のひとつに、工学系(フック)と理学系(ニュートン)との対立があり、これは、現代でも何となく理学系が上位という考え方が続いている。その証拠に『ノーベル工学賞』というのは存在しない」とも述べています。

余談:
 3月19日の朝日新聞に「太陽まもなく『冬眠』 国立天文台 複数の兆候を観測」というタイトルで、「太陽黒点活動は、短い11年周期の他に、大きな100年周期があり、大きな100年周期の谷の前になると、11年周期が延びることが分っている。そして、現在の様子からして、今回の11年周期は、12.7年に伸びそうなので、黒点活動は大きい周期の谷に近づいているようだ」というようなことが書かれていました。
 また、グラフによると、1650〜1700年の間は、殆ど黒点が無い時代(マウンダー極小期)でした(100年周期も、更にもっと長い周期の上に乗っており、このマウンダー極小期はその最低の時代)。
 丁度この時期は、正に、フックやニュートンが生きていた時代と重なります。
 上述の本の中にも、「ロンドンでは、前年(1964年)からこの年にかけての冬は異常に寒く、テームズ河が氷結するほどだった。ところが、夏は一転して猛暑となった。この異常気象下を、ペストが襲ったのである。ロンドンの人口約50万のうち7万人ほどがこの流行で死んだといわれる」と書かれています(この時期、ヨーロッパの全人口は、ペストのために三分の二に減少したとか)。
 昔からいわれているように、太陽活動は、矢張り、気候変動や疫病にも関係があるのでしょうか。
 フックは、長大望遠鏡で天体を観測していながら、太陽黒点については触れておらず、ひょっとすると、観測していても、黒点が見られなかったのかも知れません。

 今月は珍しくSF映画が豊作だったので、いろいろと収穫が有りました。
 ご紹介するのは、以下の4本です。
『NINE』『第9地区』『月に囚われた男』『クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁』

■『NINE』

 4月1日は、11:35分からのミュージカル『NINE』を観に、「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。劇場は座席数:99の一番小さいスクリーン10。観客は40人程度で、結構ファンがいるようで安心しました。

物語:
 場所はローマ。女性遍歴の後始末もできず、また、スランプで脚本も書けなくなった著名監督、グイド。奥さんにも愛想を尽かされ出て行かれる。全てを投げ出し孤独になって2年、突然、「妻を取り戻す映画を作ろう」と思い立ちスタジオに戻る。セットの前でカメラを覗き「スタート」の声をかけたところで映画は終了!

 映画の開始から最後まで、ミュージカルの舞台と現実がフラッシュバックのようにシャッフルされて映し出されて行きます(少年時代の想い出はモノクロで)。
 映画終了間際に発せられる、この「スタート」の声の後で作られたであろうミュージカルのシーンが、実は過去の現実のシーンと交互にシャッフルされて映像化されていたのだ、ということが観終わってからはっきり分るといった洒落た趣向になっています。
 出演の女優陣も素晴らしく、先ず、監督、グイドのお母さん役としてソフィア・ローレン、そして、グイドの作品でいつも衣裳を担当してきたベテラン女性にジュディ・デンチ(彼女の顔を見ると、直ぐ007を思い出してしまいます!そして、なんと彼女も歌うのです!!)。更に、グイドを巡る女性たちとして、ニコール・キッドマン、ペネロペ・クルス、マリオン・コティヤールなど錚々たるメンバーが出演しています。
 また、オリジナルに混ざって、知っている曲が幾つか出てくるのも魅力です。
 久し振りに、心から楽しめる映画に出会えました。

原題:NINE
2009/アメリカ/角川映画・松竹配給
監督:ロブ・マーシャル
脚本:マイケル・トルキン、アンソニー・ミンゲラ
作詞・作曲:モーリー・イェストン
原案舞台:ブロードウェイ・ミュージカル“NINE”
出演:ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ、ファーギー、ケイト・ハドソン、ニコール・キッドマン、ソフィア・ローレン
2010/03/17/公開 1時間58分

◇ 今回、初めて映画館で観た予告編。

『ザ・ウォーカー』(米)2010年 6月19日
  荒廃した地球を舞台に、世界でたった1冊残った本を運んで旅をする男の戦い。
 主演は、デンゼル・ワシントン。
 http://www.thewalker.jp/
『レギオン』(米)2010年 5月下旬
  信仰心が薄れた現代人に怒った神が、天使軍団を差し向ける。
 http://legion.jp/

■『第9地区』

 4月10日は、公開初日、第2回目(11:50)からの『第9地区』を観に、「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。
 劇場は、座席数:180のスクリーン12。公開初日で土曜日、しかも、アカデミー賞にノミネートされた作品なので、もう少し混んでいるかと思いましたが、お客さんの入りは50人程度でした。

物語:
 1982年、巨大な円盤が、突然、南アのヨハネスブルグ上空に現われ、全く動く気配もなく時間だけが過ぎていく。エイリアン側からは全く行動がない。このエイリアン対策を受けて立ったのが世界最大規模の企業“マルチ・ナショナル・ユナイテッド社(MNU)”。
 業を煮やしたMNUは、ヘリコプターで円盤に向い、壁を破り中に入ってみると、そこには、海老のような格好をした無数のエイリアンが蠢いていた。
 取り敢えず、18万体に及ぶ彼らを“第9地区”と呼ばれる難民キャンプに収容するが、無知な彼らは不潔で、だんだんキャンプはスラム化し、犯罪も起き、周辺住民との間に軋轢が生じる。そこでMNUは、彼らを更に遠く離れた“第10地区”移動させることに決め、その仕事をエイリアン課のヴィカスに任せる。追い立て屋になったヴィカスは、エイリアンのバラックを一軒一軒回って説得させていくが、ある一軒の家で、得体の知れない黒い液体を顔に被ってしまい、体調を崩す。やがて、その液体はヴィカスのDNAに作用し、彼の手がだんだんとエイリアンの手に変わりはじめる。また彼は、その家の地下で、ハイテクな機械が詰まっている空間を発見する。
 果たして、巨大な円盤は再び動き出すのか。エイリアンに変身しつつあるヴィカスはどうなるのか。

 アカデミー賞にノミネートされていながら、受賞を逸した作品。前宣伝では、南アのアパルトヘイトをSF仕立にした映画といわれており、何故でこんな社会的SF映画がアカデミー賞の候補になるのかと疑問視していましたが、そんな感じは映画の前半で終り、後半はアクションあり、生物愛(?)ありの、目の離せないSF映画になっています。
 映画は、円盤が来てから現時点までの28年間に、第9地区で起きた諸々の事件を中心に、いろいろな人物のインタービューを含めたドキュメンタリータッチの映像で、徐々に核心に迫って行きます。
 監督、出演者などが無名なのも話題となっており、矢張り、今後、SF映画を語る上で観ておく必要がある映画だと思います。これだけSF映画が多くなってくると過去の映画『エイリアン』や『ザ・フライ』、『E.T.』、『トランスフォーマー』などを思い起こすようなシーンも各所に出てきます。
 最後、幾つか未解決な部分を残して映画は終了しますが、どうも続編『第10地区』が計画されているようです(映画の内容からすると、3年後!?)。

(原題)DISTRICT 9
2009/アメリカ/ワーナー・ブラザース映画・GAGA共同配給
監督:ニール・ブロムカンプ
脚本:ニール・ブロムカンプ、テリー・タッチェル
製作:ピーター・ジャクソン、キャロリン・カニンガム
出演者:シャルト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ、ヴァネッサ・ハイウッド
2010/04/10公開 1時間51分

■『月に囚われた男』

 4月13日は、11:15からの『月に囚われた男』を観に、恵比寿ガーデンシネマまで出掛けました。ここは先月末に『ウディ・アレンの夢と犯罪』を観に行ったところ。その映画はもう既に小さい方の“シネマ2”に替わっていて、『月に囚われた男』が大きい“シネマ1”、客席:232で上映されていました。お客さんは、三十数名と予想以上。

物語:
 月面の“ヘリウム3”採掘で莫大な利益を上げている核燃料生産会社「ルナ産業」との契約で、サム・ベルは3年間、月の裏側の基地で単身採掘業務に従事している。雑音のため、地球との直接交信はできず、一旦、録画された映像で地球の妻や娘の顔を見るのが唯一の楽しみ。
 後2週間で地球に帰還できるというとき、彼は採掘現場に放棄されている月面車の中で気を失っている一人の男を発見する。宇宙服のヘルメットを外してみると、そこにいたのは自分と全く瓜二つの男であった。

 チラシや新聞広告に書かれている上述のような物語の部分は、全体のプロローグであり、二人の“サム”が顔を合わせてからが本題となります。
 3日前にアカデミー賞候補作品『第9地区』を観たばかりですが、どちらかといえば、今回の『月に囚われた男』の方がサスペンスたっぷりで、知的好奇心を満足させてくれる、私好みの映画でした。
 重力制御が可能になるほど遠い未来の話でもないのに、月面から基地内に入ると、突然、地球と同じ重力設定になってしまうのが、最初、ちょっと気になりましたが、すぐに慣れました(基地内でランニングマシンを使ってトレーニングをしていたり、また、二人のサムが、ピンポンをするシーンなどもあります)。
 基地内でサムをサポートする“ガーディ”は、小さなニコニコマークのディスプレイでしか感情表現ができないシンプルな箱形のロボットですが、なかなか好感が持てます。
 低予算といわれた『第9地区』よりもなお低予算(製作費:500万ドル、撮影期間:33日、出演者は主役のサム・ロックウェルただ一人、で3役!)でも、アイデア次第でこんなに面白い映画が作れるものだと感心しました。
 監督は新人のダンカン・ジョーンズ。彼は、デヴィッド・ボウイの息子だそうで、これも話題となっています。
 それにしても、今年、特筆されるべき二つの本格的SF映画が、同じ4月10日に公開されたのは意外でした(勿体ない!)。多分、興行者は両方ともマイナーな映画だと思ったのかも知れません。

(原題)MOON
2009/イギリス/ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント配給
監督/脚本:ダンカン・ジョーンズ
脚本:ネイサン・パーカー
製作:スチュアート・フェネガン、トルーディ・スタイラー
出演:サム・ロックウェル、ケヴィン・スペイシー(ガーディの声)
2010/04/10公開 1時間37分

◇ 今回、初めて映画館で観たチラシ。

『宇宙ショーへようこそ』(日)2010年 6月
  5人組の子どもたちが裏山で助けた犬は、なんと宇宙人!お礼に月まで修学旅行。
 しかし、帰れない・・・。 舛成孝二監督のSFアドベンチャー・アニメ。
 http://www.uchushow.net/

■『クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁』

 4月21日は、お天気もよく、暖かかったので、12:40からの『クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁』を観に、「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。
 スクリーンは7、座席数は116。上映5日目なのに、入りは僅か6人。

物語:
 しんのすけと、お馴染みの仲間4人が、春日部の公園で“自分たちの未来ごっこ”をして遊んでいると、目の前の空間から一人の若い女性が抜け出てくる。彼女は「未来のしんのすけの婚約者、タミコで、未来のしんのすけから頼まれ、未来の彼を救うためにタイムマシンで、しんのすけを呼びに来た」と告げ、慌てて、しんのすけを未来に連れ去る。
 が、そばにいた仲間4人も、そのフィールドに入っていたため、一緒に未来(推定、20年後?)に連れて来られてしまう。
 未来の地球は、嘗て、幾つもの大型隕石が落下、その粉塵のため、暗黒の世界と化していた。春日部に本拠を構える「金有電機」社長、金有増蔵(実はタミコの父親)は、この暗闇の中に、電化で光り輝く巨大な未来都市“ネオトキオ”を建設、そこに自分の利益になる者だけを集めて街を支配、大儲けをし、裕福に暮らしている。
 未来のしんのすけは、金有の意に反したため、そこで金有の虜になっていたのであった。
 しんのすけたちは、未来のしんのすけを探している中に、未来の自分たちにも出会い、彼らが自分の理想とは掛け離れた人生を歩んでいるので失望する。
 が、艱難辛苦の挙句、未来のしんのすけを発見した彼らは、未来のしんのすけを助け出し、共に、この暗黒世界に青空を取り戻す。更に、無事、タミコと未来のしんのすけとの結婚も成功させた彼ら5人は、自信を持ち始める。
 一件落着の後、しんのすけと仲間たちは、再びタイムマシンで、連れ去られた日の夕方の公園に戻ってくるが、我が家に帰ってみると、テレビが「幾つもの巨大隕石が地球に向って落下しつつある」というニュースを報じていた。
 果たして、地球の未来は・・・。

 確かに、いつもの「クレヨンしんちゃん」のお話で、勿論、それなりのところが多々有りますが、それはそれ、立派なSFになっています。
 それに、自分たちの未来を見て失望した彼らに、未来はひとつではない、といった勇気を与える筋書きにもなっており、単なる、「クレヨンしんちゃん」+「SF」以上(+「愛と希望」?)に楽しめる映画でした。
 高齢期に差し掛かった、しんのすけの両親、“みさえ”と“ひろし”や、立派に成人した、しんのすけの妹、“ひまわり”なども未来で頑張っています。
 後に実写版にもなった、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002)に継ぐ、名画とも思えます(少し褒めすぎかな?)。
 最後、昨年9月に亡くなられた作者に対し、「臼井儀人先生に感謝をこめて」のテロップが出て映画は終わります。

2010/日本/東宝配給
監督:しぎのあきら
脚本:横手美智子
原作:臼井儀人
声の出演:矢島晶子、釘宮理恵、ならはしみき、藤原啓治
2010/04/17公開 1時間40分

蛇足:5人組(カスカベ防衛隊:全員5歳)の将来の夢。
  野原しんのすけ:子どものままでいたい。
  風間くん:一流企業の社長。
  ネネちゃん:有名美人女優。
  ボーちゃん:大発明家。
  マサオくん:超売れっ子漫画家。

◇ 今回、初めて映画館で観た予告編。

『借りぐらしのアリエッティ』2010年 7月17日
  原作:メアリー・ノートン著『床下の小人たち』(岩波)
 スタジオジブリ最新作アニメ
 http://www.karigurashi.jp/index.html

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