トマス・ピンチョンは代表的な米国人小説家の一人という説もあるので、一度は読んでみたいと何度か本屋へ足を運んだのですが、棚に並んでいる『逆光』(2006)や『V』(1963)を見ると、そのボリューム(とお値段)に圧倒され、その都度、挑戦の意欲を失っています。 そんなとき、彼の短編集『スロー・ラーナー』(1984)(志村正夫訳/筑摩書房:1988年6月1日 刊行/1994年12月5日 文庫版刊行/2008年7月10日 新装版発行:900円)の存在を知り、先ずは小手調べにと新装版を購入、読んでみました。 ・『スロー・ラーナー(のろまな子) 序』 昔々の自分の短編を纏めて発行するに当たっての長い言い分けと逡巡。これは本編を読んでからでないとピンとこなそうなので、即、中断し、先へ進みました。 全部読み終えてから、最後にまた、読んで見ましたらば多少は分かりました。 ・『小雨』(1959) ピンチョンが学生時代に書いた処女作。彼が海軍にいた頃、陸軍の友人からハリケーンに襲われた街の後片付けに従事した話を聞き小説にしたもの。今回の東日本大震災で活躍された自衛隊を連想しながら読みました。 ・『低地』(1960) 奥さんに追い出された亭主が、町外れの低地のゴミ捨て場に住む女と出会い、そこに安住の地を見出すお話。安部公房の『砂の女』を思い出しました。 ・『エントロピー』(1960) 段々とエントロピーが増大し、全ての生活がグダグダの“熱死”状態(平衡点は華氏37度)になっていくという、けだるいお話。それにしても、よく50時間も飲み続けていられるものと感心しました。 ・『秘密裏に』(1961) 時は1898年頃。舞台はエジプト。ドイツvs英国のスパイ駆け引き合戦。 ・『秘密のインテグレーション』(1964) 悪童連が、スリルを求めて大人たちに悪戯を仕掛けるお話。 彼の評価が高まった『V』以降の小説で、この短編集の中では一番読みやすく、面白かったのですが、文学的には評価の低い作品だとか。 因みに“インテグレーション”には“積分”の他に、“人種差別を撤廃し統合すること”という意味もある由。
前半のいくつかは、彼の蘊蓄を極限まで盛り込んだ不思議な文章で、果たして小説と言えるのかと疑問に思いながらも、どうにか、やっと一冊全部読み終えることができました。 最後の『訳者解説』を読むと、難しいのも道理で、いろいろな文学作品のパロディが沢山盛り込まれていて、かなりその方面に詳しい人でないとその真価(面白さ)が分からないようです。 ひょっとしてSFかと思うようなタイトルの小説もありますが、全く関係ありませんでした。 また彼は、人前に出たがらず、従って写真も殆ど無い(若い頃の写真が2枚あるだけ?)とか。 と言うわけで、『逆光』と『V』は、未だ当分、尻込み状態が続きそうです。 『スロー・ラーナー』読了後、次は何を読もうかと迷ったあげく、再び、『SFが読みたい!2011年版』を眺め、未だ読んだことのない、昨年度第6位にランクされたチャイナ・ミエヴィルの短編集『ジェイクをさがして』(ハヤカワ文庫:SF1762、2010年6月25日発行)を本屋でさがして読んでみました(昨年は第6位が二つありました)。 彼は余り短編は書かないとのことですが、この本には、これが発行される前に書かれた14の短編が収録されています(この内、一つはコミック作品)。 共通して感じたことは、主人公が一人称で、舞台はロンドン、そして、最後の結末は読者の判断に任せるという文体が多いということです(SFといっても、S分は殆どありません)。 始めのいくつかを読み終えたとき、物語に結末が無いのがちょっと不自然でしたが、だんだんと慣れてくるに従って、それが特長に思えてきました。 また、描かれている対象が始めは一体何なのか不明なものもありますが、それも、読み進めている中に段々と明確になっていく手法が採られています。 従って、彼のこの手法を会得した後は、たとえ主人公や対象物が当初不明でも、心配せず読んでいけば良いのだということが分かり、気楽に読めるようになりました。 因みに、この短編集は“ローカス賞”を受賞しており、また、彼は他の作品で“アーサー・C・クラーク賞”を3回も受賞しているとのことです。 一番最後のやや長めの小説のタイトルは『鏡』。 長い間、鏡の向こうの世界で人間の物まねをしていた生物(?)たちが、あるとき、鏡を割ってこちらの世界へ攻め込んでくるというお話で、これも、かなり凝った作品になっています。 こちらの世界の人間が、鏡の世界に入っていくというお話はいろいろありますが、逆のお話は珍しいのではないでしょうか。 そのうち、彼の長編も読んでみたいと思っています。 今月ご紹介する映画は以下の3本です。 『プリンセス トヨトミ』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』『スカイライン −征服−』 ■『プリンセス トヨトミ』 6月4日は、上映1週間目の『プリンセス トヨトミ』を観に「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。同じ日に公開された『手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく』と、どちらにしようかと迷いました が、『ブッダ』の方は、たった1週間で、もう既に劇場は小さいほうに移され、更に、上映も1日5回から2回に減らされていましたので、観客が、また、私一人になるのを恐れ、『プリンセス・トヨトミ』を観ることにしました。 上映は客席:174のスクリーン05。観客は40人ばかりと、まあまあの入りでした。
物語: 2011年7月8日、金曜日、午後4時。大阪が全停止する。 そして、物語は4日前の月曜日から、日を追って進行していく。 会計検査院の一行3人が新幹線で大阪へ向かう。 財団法人「OJO(大阪城址整備機構)」を最後に、一通り、調査は終了したが、携帯電話をそこに置き忘れてきたことを思い出した調査官の一人が、再び「OJO」に戻ってみると、今まで人がいたオフィスはもぬけの殻。
何か不正を感じた彼は、持ち前の勘と実行力で次々と調査を進めている中に、やがて大阪全市民を巻き込んだ、400年前の“大坂夏の陣”を原点とする壮大な秘密にたどり着く。
今、本屋の店頭に平積みにされている万城目学の小説『プリンセス トヨトミ』の映画化。奇想天外な仮説を、巧みに物語に仕上げてあります。 大阪下町の住民が、豊臣家の末裔である一人の少女を暖かい気持ちで見守っていく姿がほほえましく描かれています。 映画は面白くできていますが、最後の方は、もう終わりかと思うとまだ続きがといった感じが繰り返され、矢張り2時間の映画はちょっと長い感じがしました。当然ですが、全編、これ大阪弁が満載で、早口のところは、聞き取れず、残念でした。 この映画も、父と息子の物語で、最後はほろっとさせられます。 調査員の中の一人、鳥居忠子役には、ちょっと三枚目の素質がある綾瀬はるかが好演しています。彼女の映画はそれほどは観てはいませんが、SF映画『僕の彼女はサイボーグ』(2008)以来、注目しています。 また、中井貴一がお好み焼き屋の主人と、大阪国総理大臣役として出演しています。 2011/日本/製作:フジテレビジョン、関西テレビ放送、東宝 監督:鈴木雅之 脚本:相沢友子 原作:万城目学『プリンセス トヨトミ』(文藝春秋) 出演:堤真一、綾瀬はるか、岡田将生、中井貴一 2011/05/28公開 1時間59分 ◇ 今回、初めて映画館で観た予告編。 ■『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』 6月14日は、上映4日目、朝一(10:00)の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』を観に、「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。劇場は座席数:180のスクリーン12。観客は、朝、早かったせいか上映間際に急に増え、二十数名。 物語: 第2次世界大戦中のポーランド。ナチの収容所に囚われていたエリックは、そこでナチのミュータント、ショーに母親を殺された怒りで、強力な磁界を発する超能力に目覚める。 一方、大富豪のチャールズは、テレパシー能力を持ち、世界各地のミュータントの集結を計っていた。 時は1962年、世界征服を企てるショーは、人類を自滅させんがため、一触即発状態の米ソ間を煽り、キューバ沖に米ソ艦隊を集結、第3次世界大戦を引き起こそうとする。それを阻止しようとするチャールズは、ミュータント集団を率いて、キューバ沖に向かう。 ショーを倒し、何とか米ソ間の宣戦布告は免れたものの、今度はミュータントの強大なパワーに恐れをなした両艦隊は彼らに矛先を向ける。 ここに至って、ミュータントは人類と共存していくべきと主張するチャールズと、ミュータントを憎む人類を支配し、自分たちの世界を築くべきだと主張する人間不信のエリックとが対立する。 かくて、エリックは名前を“マグニートー”と変え、自分と意見を同じくする仲間を引き連れ、後に、“プロフェッサーX”となるチャールズと決別する。
2009年に『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』があったものの、2000年に公開された『X-メン』シリーズは、2006年の『X-MEN:ファイナル ディシジョン』で、一応、完結した筈でしたが、ここへ来て、そのプリクエール版の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』が上映されたというわけです。 この映画は“プロフェッサーX”が、何故、車椅子に座っているのかも含めて、X-MENシリーズの最初に上手くマッチするようにできています。 従って、これは、“プロフェッサーX”と、宿敵、“マグニートー”との長い物語の始まりであって、めでたしめでたしのエンドではありません。 今まで、何故か全部このシリーズを観てしまった惰性で、今回も映画館へ出掛けたのですが、期待以上に面白く、2時間11分とかなり長目の映画なのに、時間の経つのを忘れて観てしまいました。それもそのはず、この映画の監督・共同脚本は、あの大ヒットした『キック・アス』(2010)のマシュー・ヴォーンなのでした。 最近は、映画のネタ切れのせいか、プリクエール物が出始め、後述の「今回、初めて映画館で観た予告編」にもありますように、1968年に公開された『猿の惑星』以前の物語も、この秋に上映されることになっています(『エイリアン』(1979)のプリクエール版も噂されています)。
(原題)X-Men: First Class 2011/アメリカ/20世紀フォックス映画提供 監督:マシュー・ヴォーン 製作:ローレン・シュラー・ドナー、サイモン・キンバーグ、グレゴリー・グッドマン、ブライアン・シンガー 脚本:マシュー・ヴォーン、ジェーン・ゴールドマン 出演:ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ケヴィン・ベーコン 2011/06/11公開 2時間11分 ◇ 今回、初めて映画館で観た予告編。 ■『スカイライン −征服−』 6月21日は上映4日目の『スカイライン −征服−』(12:00〜)を観に梅雨空の中「ワーナー・マイカル・シネマズ 港北ニュータウン」まで出掛けました。何故か、朝一が9:25からで、2回目は12:00からとなっています(調べたらば、そのスクリーンでは、その間に、『ブラック・スワン』が1回上映されていることが分かりました)。劇場07,座席数:116に対して入りは十数名。 物語: ビジネスに成功した友人の誕生祝いにLAの超高級マンションに招かれた若いカップル、ジャロッドと妊娠中のエレインは、翌朝4時半頃、マンションのブラインドから差し込むまぶしい光で目を覚ます。 その光は、街の上空に浮かぶ幾つもの巨大な飛行生物から発せられた物で、その光を見詰めた人間は、全て、その中に吸い上げられてしまう。やがて、その飛行生物からは、小型の飛行生物や、怪獣までが地表に襲来、人間は隈無く探し出され、捕らえられてしまう。 軍隊が出動、対抗するが、飛行生物も怪獣も自己修復能力があり歯が立たない。 ジャロッドとエレインは最後まで逃れるために戦うが、遂に宇宙船の中に吸い上げられて仕舞う。 果たして、この二人に活路はあるのか・・・?
一口で言うと、とても変なB級怪奇映画といった感じです。 たとえ宇宙人に捕らえられても、夫婦の愛の絆の方が強い、というお話なのかも知れませんが、これから、人類がもうひと暴れしてハッピーエンドを期待していた私には、ちょっと物足りない最後になってしまいました。もし、続編がなければ、この映画は中途半端なB級のままになってしまいそうです。 しかし、後半の戦いは、あれよあれよと手に汗を握って観ていました。 それにしても、キリスト教国は“黙示録”と称して、このような映画を作るのがお好きなようです(来年には、スピルバーグが『ロボ・アポカリプス』という映画を製作予定だとか)。 出演者にも、特撮にもお金が掛かっておらず(製作費は僅か100万ドルとの推定もあります?)、朝日新聞に載っていたグレッグ・ストラウス監督の談話では、「製作費を抑えるために、ロケは自宅で、また、登場する車はすべてスタッフの自家用車だ」とのこと! 宇宙人に蹂躙され、人間が一人もいなくなっても、LAの街には煌々と電気が点いていて、流石、アメリカは凄いと思いました。(笑) 各所に、『宇宙戦争』(1953)や、『エイリアン』(1979)を彷彿させるようなシーンが出てきます。 この映画を走りとして、今年は秋までに幾つかの地球侵略映画が続きます。 余談ですが、この映画のVFXを担当したハイドラックスと、同じくLAを舞台とした同じような映画『世界侵略:ロサンゼルス決戦』(今年の4月1日に公開を予定していたが、東日本大震災の関係で上映を9月17日まで延期した)を製作したソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントとの間に、もめ事が起こっているとか。 (原題)SKYLINE 2010/アメリカ/カルチュア・パブリッシャーズ提供 監督:グレッグ・ストラウス&コリン・ストラウス 脚本:ジョシュア・コルデス、リアム・オドネル 製作:クリスチャン・ジェイムズ・アンダーセン、リアム・オドネル 出演: エリック・バルフォー、スコッティ・トンプソン、ブリタニー・ダニエル、デヴィッド・ザヤス、ドナルド・フェイソン 2011/06/18公開 1時間34分 ■Coming Soooon! 3ヶ月が経ちましたので、例によって、“Coming Soooon!”をお送りします。独断と偏見で、純粋ホラーは割愛、個人的に興味のある映画はSFでなくとも上げてあります。 ☆印は今回新しく登場、もしくは変更がなされた情報です。 アメコミ・ヒーローものに加えて、何故か宇宙人(ナチも含む)による地球侵略映画が目立ちます。 「今回の東日本大震災のため、上映中止、または上映延期となったものがありますので、お出掛けの際はお気を付けください。」
|