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3. 膨張する宇宙 Expanding universe

白田英雄

星が巡りくることは良く知られていましたが、星や銀河は今も昔も、そして将来もずっと同じところを巡っているものだと古来信じられていました。
これは実のところかなり最近までそう考えられていて、かのアインシュタイン Albert Einstein (1879 - 1955)も、相対論を発表した当初はそう信じていました。
アインシュタインの発表した一般相対性理論は宇宙そのものに対しても記述することができるのですが、宇宙そのものに対するアインシュタイン方程式を解いてみると、宇宙はあっというまにつぶれてしまうことになりました。

つぶれる宇宙

アインシュタインは無限に同じ姿をしつづける宇宙を信じていたので、方程式に宇宙項という項を付け加えることで、宇宙が静止しつづけるようにしました。宇宙項は斥力、つまり万有引力と反対に物と物が反発しあう力として働きます。
後に宇宙が膨張する解がみつかり、実際に宇宙が膨張している証拠がみつかったときに、アインシュタインは宇宙項は人生最大の誤ちであったと述べたということです。
なお、現在ではさらにまた宇宙項が復活してきて、それが精密に測定されて現状の宇宙に適合させられています。

閑話休題。

さて、スライファー Vesto Melvin Slipher (1875 - 1969)は1912年ごろに銀河に関する重要な観測を行っています。彼は銀河の赤方偏移を発見していたのです。
星は核融合で光っていますが、その星を形成している物質によって、光のスペクトルに切れ目が生じます。(吸収線) これはその物質がその波長の光を吸収する性質を持っているからです。どの波長の光を吸収するかということは物質によって決まっていて、それは量子力学的に説明されます。(ここでは自分で光輝く恒星だけを星と呼びます。)
スライファーは遠い銀河の星のスペクトルを調べ、吸収線が波長の長い方にシフトしていることを発見しました。

赤方偏移

これはどういうことを意味してるのでしょうか。
ドップラー効果という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 救急車やパトカーのサイレンの音が、車が近づいてくるときは音が高く、遠ざかるときは音が低く聞こえる現象のことです。

ドップラー効果

光もドップラー効果を起こします。近づいてきてるときは波長が短くなり、遠ざかるときは波長が長くなります。
ということはスライファーの観測結果は、遠くの銀河が遠ざかっているのだという結論になります。
光の波長が長い方は赤の色なので、この現象は赤方偏移と呼ばれています。赤方偏移は記号zで表されて、zが0のときは赤方偏移なしで、値が大きくなるほど、赤方偏移が大きくなることを意味しています。
理論的にも膨張する宇宙は確認されました。1922年にフリードマン Aleksandr Aleksandrovich Friedmann (1888 - 1925)はアインシュタイン方程式の解として、宇宙項が0であってもある有限の大きさを保持できる解を求めたのです。
フリードマンの宇宙は膨張する宇宙を支持していましたが、宇宙の将来の姿としては3つのパターンを与えていました。ひとつはある時点で膨張が収縮に転じる解、ひとつは単調に膨張していく解、そして最後は膨張速度が加速していく解でした。

フリードマンの解

実際には宇宙に存在する物質の密度の条件や宇宙項の状態によって解はもっと複雑に分かれるのですが、この3つの解が後に有名となりました。
しかし、当初この膨張する宇宙という考えは必ずしも一般に浸透してはいなかったのでした。

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