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プログレカフェ夜話―SFと音楽のスパイラル―

マスターマインド:US
◇ マスターマインドIII トラジック・シンフォニー:1994
(前編)

KONDOK


プログレカフェ夜話への招待

何時しか海からの風が冷ややかさをおび、秋の夜長が黄昏銀河通りにも訪れる頃、時空を漂流していたプログレカフェ《ミラーズ》もその静かな一角に忽然とあらわれ、豊かな明かりをたたえて店を開きます。結構派手目の入り口ですが、大きな呼び込みの看板を出すでもなく、ひっそりと風景に溶け込んで、行き交う人々がふと立ち止まり『何だろうこれは?』と考えるのを待っているかのようです。その一人が私だったと言うわけです。
ええ、私は何度目かの常連です。一度やめていた旅を再びはじめましたので……そのまあ出発口ですね。ひとたび入ればいろいろな宇宙が広がること請け合いですよ。どうです、まあ入ってみましょう。それと、小一時間ほど音楽と私の話に耳を傾けて頂けますか。

 まずは、マスターマインドIII トラジック・シンフォニー。私が再びプログレッシブ・ロックを巡る旅を始めたころに出会った1枚です。1994年のアメリカ製。
 マスターマインドは、ギター、ビル・ベレンズとドラム、リッチ・ベレンズの兄弟を核にベーシストのフィル・アントリーノを加えた3人構成で、フィラデルフィアから出発しました。マスターマインドは純粋なプログレというより、プログレからの1派生形態に良く似たヘビーメタルの色濃い、ヘビメタ・プログレの1グループですが、ELP オタクのギターリストであるビル・ベレンズは、エマーソンのキーボードによる感触までギターで出すといわれています。 
 使用するのは MIDI というギターで、音楽に詳しいならば良くご存知かも知れませんが、キーボードの音色だけならば MIDI コントローラーで比較的簡単に出せるそうです。しかし、かれの場合、キーボード奏者の微妙なタッチまでギターで表すことができ、当然ながらこのバンドの最大の売りものになっています。 

 彼らのスタジオ録音1作目は Volume One (ディスコグラフィー参照;以下同じ)というアルバムです。いきなり、ハイテンションの明るい器楽構成ではじまり、エマーソン様のファンファーレ音がガンガン響き渡ります。ほんとに若さとテクニックにまかせてガンガンに弾きまくるのですが、どこか思弁的な音色が潜んでおり、単純なハード・ヘビメタ系バンドではないことが容易に察せられます。

 2作目は Volume Two "Brainstorm"。ここで、作風はガラリと変わります。一見、ガンガンに弾きまくるのは1作目の延長で変わらないのですが、組曲を2つも盛り込んでいること、“ワルキューレの騎行”と“ウイリアムテル序曲”というクラシックを演奏していること、そして哀愁溢れた泣きのメロディが顔を出すこと。ELP の影響がベレンズ兄弟の音楽的構成にまで及んだ瞬間と考えます。
 これは余談ですが、この2作目にベレンズ兄弟のポートレイトが載っています。2人とも額の大きな哲学者的風貌で、ウィリアム・ブレイクやクラシックにも詳しい知性の持ち主であることが察知されます。Brainstorm の表紙で大きな額に稲妻を受けて涙している人物が描かれていますが、彼らの一人でしょうか。

 この後、およそ2年の間隔を空けて今夜の1枚、彼らのスタジオ録音3枚目である、“Mastermind III Tragic Symphony”を完成させます。
 強弱のメリハリが良くつき、壮大なドラマ性が曲に溢れている、彼らの中では一番プログレッシブ・ロックの要素が強いレコードといえます。
 評論や解説を見ると、前2作に比べ、ややおとなしくなったとの印象があり、評価も2つに分かれますが、2作目から芽生えた哀愁の調べをギターに乗せて、しかも、ヘビメタの味付けで弾きまくる離れ業は円熟さが増し、バランスの取れたものとして評価できます。
 ELP から始まって、ELP にはないもの、いわば Mastermind 独自の音楽観の完成です。
 一方歌詞は、英詩のように韻を踏んだ文学性は少ないのですが、内容は思索的でやや難解です。全般的に孤独の悲しみに満ち溢れています。裏切られて、不条理に切り裂かれる愛。それは、たとえ神からのものであってさえもと言わんばかりに……
 調べは、全体的に哀調を帯びたエレジーやバラード風なのですが、牧歌的な力強さと明るさを併せ持ちます。初めて聞いた時、今までに無い新鮮さを感じました。確かに ELP の派生体と言えば一旦は納得するのですが、何か違和感が棘のように残ります。ELP よりまとまりすぎているとか HM 色が強いからという訳では有りません。
 今では、それは彼らの本質、即ちアメリカ育ちによるものではないかと考えています。妙に無垢な明るさが同居しているのです。これは、私の知っている2,3のアメリカ発プログレバンドにも共通する特性です。
 しかし、今は元祖の UK や北欧のプログレとの差を考える場ではないですね。本日の一枚 “Mastermind III Tragic Symphony”に戻りましょう。
 次は、このアルバムから受けた私の印象を、あるいはどんなイメージが浮かんできたかをお話ししたいと思います。

マスターマインド ディスコグラフィー
Mastermind ( US )  Since 1986
Original-members
 ● Bill Berends ; guiters, MIDIguiter, vocal, bass
 ● Rich Berends ; drams, percussion
 ● Phill Antolino; live bass
Studio Albums
 ○Volume One 1990
 ○Vol.2 Brainstorm 1992
 ○Tragic Symphony 1994 (今夜の一枚)
 ○Until Eternity 1996
 ○Excelsior! 1998 +Jens Johansson
 ○Angels of the Apocalypse 2000 +Lisa Bouchelle

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