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プログレカフェ夜話―SFと音楽のスパイラル―

マスターマインド:US
◇ マスターマインドIII トラジック・シンフォニー:1994
(後編)

KONDOK


プログレカフェ夜話への招待

何時しか海からの風が冷ややかさをおび、秋の夜長が黄昏銀河通りにも訪れる頃、時空を漂流していたプログレカフェ《ミラーズ》もその静かな一角に忽然とあらわれ、豊かな明かりをたたえて店を開きます。結構派手目の入り口ですが、大きな呼び込みの看板を出すでもなく、ひっそりと風景に溶け込んで、行き交う人々がふと立ち止まり『何だろうこれは?』と考えるのを待っているかのようです。その一人が私だったと言うわけです。
ええ、私は何度目かの常連です。一度やめていた旅を再びはじめましたので……そのまあ出発口ですね。ひとたび入ればいろいろな宇宙が広がること請け合いですよ。どうです、まあ入ってみましょう。それと、小一時間ほど音楽と私の話に耳を傾けて頂けますか。

 このアルバムは、3つの歌曲「Tiger! Tiger!」、「The Power & The Passion」、「All The King's Horses」と1つの組曲「Tragic Symphony」から構成されています。
 私は、まずウィリアム・ブレークの詩「虎よ!虎よ!」からとられた曲「Tiger! Tiger!」から始まることに注目しました。これは、偶然かどうか分かりませんが、ベスターの名高い小説「虎よ!虎よ!」とモチーフが一致します。ひょっとすると、彼らもまたSFファンかもしれませんね。
 強いリズム感があって、如何にも大きな虎が森の中を疾走する様子が目に浮かびます。しかし、なぜか孤独の影も付きまといます。孤高の王者がふと歩みを止め、一体これからどこで何を求めるのか途方にくれたかのように。
 その思いを吹っ切って虎が走り去ると、次の「The Power & The Passion」につづきます。こちらも、ハードなリズム感に溢れていますが、12分に及ぶ大作です。けたたましいシンセサイザーの音色が鳴り響き、タイトなリズムとはるか遠くを見つめるような旋律が交差し、私は、いわば宇宙船がはじめて宇宙(そら)に飛び立つ前の情熱のようなものを感じました。
 3曲目は「All The King's Horses」。前の曲と次に続く組曲にはさまれた、4分ほどの小品ですが、どこか陽気で踊るようなリズムが、アルバム全体にアクセントを与えています。途中で、たまらず喜びを表現するかのような馬のいななきが印象に残る金属音で響き渡り、次の組曲「悲劇」へ余韻を残して消えます……と思っていました。しかし、歌詞や解説を読むと、私のイメージは全く間違っていたことに思い至ります。自ら死に臨み、永遠に失われていく絆を嘆き悲しむ歌曲だったのです。ということは、馬のいななきも、痛恨の哀愁を込めたアメリカ人的な表現なのかも知れません。
 さて最後が、アルバムのタイトルにもなっている組曲「Tragic Symphony」です。
 「Sea of Tears」、「Nothing Left to Say」、「Into the Void」の3部構成で、計26分55秒を一気に聴かせます。と言っても、リズムと旋律の強弱は良く計算されており、クラシック音楽のような構成感覚が奥の深さを感じさせます。ただ、この辺りが、リスナーに媚を売らない純粋なプログレのファンからみるとチョッと物足りないのかもしれません。
 しかし、彼らの演奏技術は高く、つぼを得た弾き語り口はエンタテーメントとしても充分楽しめるものです。まったく私には、「Sea of Tears」のギターが奏でる第一旋律でオルガスムに達しそうな勢いでした。ビルが、マーラーに影響を受けたとの話もありますが、そうすると第一旋律は�大地の歌�の初めのホルンの響きに対応しているのではと考えてしまいます。
 ギターが一通り泣いたあと、歌詞がゆっくりと滑り出します。アルバムのジャケットには、ローマ人風の青年が嘆いている下を彼方に去る帆船の絵が描かれていますが、強烈な電子音や空を突き抜けるような音響から、容易に宇宙への旅立ちをイメージすることができます。そこから、ある惑星の宇宙戦士を巡る冒険と愛の物語などが紡ぎだせたらカフェの目的は成功でしょう。
 「Nothing Left to Say」は、失われた愛を嘆く痛恨の歌曲。でも、一体何に対する愛なの一切明らかにされません。韻を踏んだ切れの良い歌詞ですが、勝者のいない世界はただ暗黒を彷彿とさせます。
 そして、その暗黒は13分に及ぶ終曲「Into the Void」へとなだれ込みます。しかし、ここで彼らは一番躍動するのです。ギターは唸り、ドラムとベースはまさにロックンロールそのものの正確なリズムと音階を刻んでいきます。まさに、このアルバムのクライマックスでしょう。
 また、この壮大な組曲は、最後に喜劇も悲劇も全てを飲み込む"無"、いわば巨大なブラックホールに飲み込まれて終末を迎えるかの様で、どこかにバラードメロディを含ませた先輩プログレバンドの意匠をしっかり継承していると言えましょう。
 総じてアルバムは力強さと哀愁の調べに彩られ、それはまるで青春の旅立ちと挫折の悲しみを歌うかのようです。先ほど、宇宙への旅立ちをイメージしたと言いましたが、歌詞からみて、彼らが同じイメージを描いたかどうかは分かりません。
 ただ、"青春の旅立ちと挫折"、それがこのアルバムの大きなテーマだったのではと思うところです。
 旅立ちはあくまで雄雄しく、先に待ち構える冒険に夢はせ誇らしげですが、やがて戦いに敗れ、年老いて失われ行くものへの悲しみが宿ります。しかし、それは常に堂々としているのです。ここら辺がマスターマインドの武骨頂でしょう。過去の思い出にしがみつくことなく、全ての無に潔く飛び込んでいくかのように……

 マスターマインドは ELP に触発されたと初めにお話ししましたが、マーチ様のリズムとファンファーレのようなギタープレイから、5作目の "Excelsior!" では HM 系のキーボード奏者 Jens Johansson を加え、即興の応酬による Jazzy な演奏へと進化していきます。更に、Lana Lane の影響か、女性ボーカリスト Lisa Bouchelle を加えて HM 色の濃いアルバム "Angels of the Apocalypse" を完成させました。更なる展開が楽しみなグループなのですが、その後の活動が聞こえてこないのはチョッと寂しい気がしています。

―第1話完―

マスターマインド ディスコグラフィー
Mastermind ( US )  Since 1986
Original-members
 ● Bill Berends ; guiters, MIDIguiter, vocal, bass
 ● Rich Berends ; drams, percussion
 ● Phill Antolino; live bass
Studio Albums
 ○Volume One 1990
 ○Vol.2 Brainstorm 1992
 ○Tragic Symphony 1994 (今夜の一枚)
 ○Until Eternity 1996
 ○Excelsior! 1998 +Jens Johansson
 ○Angels of the Apocalypse 2000 +Lisa Bouchelle

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