―やあ、またお目にかかれましたね。だいぶプログレにはまってきましたか? ああ、雰囲気がお気に入りですか。如何でした、マスターマインドは。なるほど、少し軽めの印象……彼らの進化系も聴いてみられたらいいと思いますよ。
おや、そろそろ聴こえてきましたね。キーボードの物憂い音色。まるで、混沌とした意識で眺める都市の夜明けのような……
演奏しているのはクォーターマス。1970年のいわゆるプログレ創世記に属するバンドですが、グループ名は当時英国で放映されていたSF―TV番組からとったとの話があります。高層ビルのあいだをグライダーのように滑空しているテラノドンが描かれたジャケットは、大いに当時の恐竜オタクをしびれさせました……少なくとも私は完全に行ってしまってましたね。
といっても、演奏はタイトで、スリリング。芸術的な完成度も高く、特に3曲目の9分に及ぶ、「ポストウオ―・サタディ・エコー」はロック史上畢竟の名曲だと思います。ただ、彼らはこの1枚だけで解散(?)してしまいます。その後の展開が無いのでクオーターマスはBig4(ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエス、ELP)ほど有名になりませんでしたが、たった1枚のこのアルバムは、しっかりとプログレ史に名を刻みました。
バンドの構成はELPと同じ、ベースプレイヤーでヴォーカルのJohn Gustafson、キーボードのPeter Robinson、ドラムのMick
Underwoodのトリオで、更にアルバムでは17名のヴァイオリン、6名づつのビオラとチェロ、そして、3名のダブルベース奏者が加わり、8曲目のラッフィン・タックルでは弦楽器によって刻まれる重厚な味わいが、ロックのビートと相まっていやが上にも全体の緊張感を高めています。
多くのプログレッシブ・ロックがそうであるように、こだわる者にとって、これは、簡単には聞き流せないアルバムなのです。秋の夜長、誰もいない部屋でヘッドホンを着けて大音響で聞き込んで見ることをお勧めします。始めはロックンロールに酔い、魂を振り絞るようなボーカルに涙し、ジャジーな演奏とストリングスのリズムにトリップ感を味わえます。しかし、それだけでは終わらないのがクォーターマスです。何かに引っかかり、再び針を落とします。LPアルバムの初代の日本語解説には奇しくもこう書かれています。
「クォーターマスは何を訴えたいのだろう。みんなで考えて欲しい」と。
クォータマスはリスナーに挑戦したバンドといえるでしょう。LPを開くと、3人の挑むような瞳が見るものを捉えます。『一体、お前達は何時までヌクヌクと時を過ごしているんだ? 歌い、叫び、世界を変えてみろ!』とでもいいたげに。また、当時は、大手レーベルでさえも、このような感覚に共鳴している時代でした。きっと、彼らも誇りをもってこのアルバムを世に問うたことでしょう。
なぜ、彼らが解散(或いは消滅)したのかは分かりません。ライブやツアーを行った事実はあるのでBootlegのアルバムが有っても良いと思うのですが、見つけたことはないです。
とにかく多くの謎を残したまま、彼らはプログレの創世記を駆け抜けました。足跡はしっかりと残っており、独自の世界を築いているのですが、時代が未だ追いついていなかったと思うのは、私の惚れ過ぎでしょうかね。
余談:先日、な、なんと、「クォーターマスII」なるバンド名を見つけてしまいました。
ドキドキして内容を見ると、ドラムのMick Underwoodが確かに参加しています。しかし、他は、Undertwoodが在籍していたRichie
Blackmore's RainbowやDeep Purpleからのメンバー等で、70年のアルバムとはかなり違う出来のようです。なお、クォータマスの2曲目「Black
Sheep of the Family$B$ORainbowがきっちりカヴァーしています。
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