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SF読者のための量子力学入門

前期量子論 Old Quantum Theory
1. コンプトン散乱 the Compton Scattering

白田英雄

以前の相対論の連載から、相対論では光が重要な役割を担っていたことをおぼえてらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、古来から光の正体はなになのか、ということは疑問になってきました。
17世紀、力学の祖であるニュートンは光は粒子だと考えました。その一方でホイヘンスなどは光は波であると考えました。光が波の性質である屈折や干渉などを起こすことから、19世紀までに光の波動説が有力になってきていました。

電磁気学において、マックスウェルの方程式から導かれる電磁波という波が、光と同じ性質を持っていることから、光は電磁波の一種、つまり波であるという結論がなされていたのです。(ちなみに、電波やマイクロ波なども、電磁波の一種だったりします。)

19世紀までに既知の光の性質はほとんどこのマックスウェルの方程式によって説明することができました。
ところが、中には光を波としたときに説明しづらい現象もありました。結晶に対してX線を放射したときに光が散乱されるのですが、そのとき光の周波数が変わってしまいます。これは光が粒子であるとして結晶のなかにある電子と衝突していると考えた方が説明しやすかったのです。(この散乱をコンプトン散乱と呼んでます。)

ニュートン力学では、衝突という現象を計算するときに運動量というものを使います。運動量とは、簡単に言えば質量と速度を掛けあわせたもののことです。当然、波は質量を持っていませんから、光が波だと考えるとこの運動量が定義できなくなって、衝突を記述することができなくなってしまいます。(実際には、光子の質量は0だとされているので、質量と速度の積としての運動量は定義できません。)
コンプトンは光の運動量を光のエネルギーを光の速さで割ったもので定義しました。光のエネルギーについてはまた稿を改めたいと思いますが、光の周波数に比例します。光の周波数の違いは色の違いだと思ってもらっていいでしょう。虹に色々な色が見えるのは周波数の違いからです。

さて、光が電子に衝突する前と後で周波数(=エネルギー=運動量)を調べておいて、また散乱された後の電子の運動量も計測しておきます。すると、衝突の前後で運動量の総和が等しくなったのです。これはニュートン力学における運動量保存則の結果そのものです。
このことから、光がある種の粒子性を持っていることが実験的に確認されたのです。

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