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SF読者のための量子力学入門

前期量子論 Old Quantum Theory
4. 黒体輻射 Black Body Radiation

白田英雄

さて、時代はさかのぼって19世紀末。
溶鉱炉の中の鉄がどれぐらいの温度になっているかを知るのは、マイスター(職人)たちの名人芸によるところのものでした。
19世紀末というと、力学、電磁気学、熱力学などの主要な理論は出そろってしまっていて、あとは応用の分野のみが残っていると考えられていました。その応用のひとつとして、この名人芸による鉄の温度を理論的に予言しようと当時の物理学者は考えたのでした。
当時、ある温度の熱源から出るエネルギーはその温度の4乗に比例することが知られていました。これをシュテファン=ボルツマンの法則といいます。このボルツマンは熱力学でよくでてくるボルツマン定数で知られているボルツマンです。実験的に4乗に比例することはわかったのですが、なぜそうなのかはわかっていませんでした。
さて、理論的に物事をあつかうためには、理想的な条件というものをそろえないといけません。そうしないと、計算を正確に行うことができなくなってしまうからなのです。今回も当初それが問題となりました。
なにが問題となるのか。
金属などを炎に入れると炎色反応といってその金属固有の色の炎が見られます。これは金属に限ったはなしでなく、物質一般に対して存在する現象です。その物質が特定の波長の光を吸収してしまうのがその原因だったりします。ということは、普通の物質でできてる物体を加熱したときの光のエネルギーの分布は理論構築に都合が悪いことになります。
そこで物理学者は考えました。特定の波長でなく、全ての波長に対して光を吸収するような物体を考えれば、理想的な状況を再現できるのではないかと。そのような物体からの放射を黒体輻射といいます。
実は、内面が鏡面となっている空洞を小さい穴からのぞくと、そのような理想的な状況になります。小さい穴から入った光は内部で反射をくりかえすうちに減衰してしまい、穴からふたたび出てくることはないからなのです。

空洞の中のエネルギーを熱力学的に計算した式がレイリー=ジーンズ Rayleigh = Jeans の式といいます。

ところが、図からもわかるように、この式による結果は光の波長が長い場合はよく実験結果とあうのですが、波長が短い場合には発散してしまって実験との整合が取れてませんでした。
理論と実験結果が合わない。
これはゆゆしき事態でした。
一方、実験結果をもとに外挿されたのがウィーン Wien の式でした。

これは大体実験結果とあってましたが、波長が長い場合についての精度が悪いことと、理論的に式を導出できないという欠点がありました。
この黒体輻射の問題は19世紀において物理学最後の問題とまで言われました。
あるとき、マックス・プランク Max Planck の助手のひとりが、ウィーンの式の分母から1を引くと実験結果と非常によくあうことに気付きました。

プランクはその成果を発表しましたが、当初はその成果に気付く人はそれほどいなかったようです。
普通に考えると、なにかに比例していたり反比例していたりするならわかりますが、分母から1を引くなんて式は考えられなかったからです。
とまれ、発想を転換してみましょう。数学における等比級数を考えると、分母に1が出てきます。それとプランクの式はなにか関連があるのではないのか?
研究の結果、エネルギーの式を積分しないで、足し合わせる(級数を計算する)ことで、プランクの式が得られることがわかったのです。積分がきくということはエネルギーが連続だということですが、これを級数で計算するということは、エネルギーが不連続となっていて、エネルギーの最小単位が存在するということを意味していたのです。
エネルギーが不連続である。
この事実が物理学におけるひとつの転機、量子力学のはじまりなのでした。
最初のシュテファン=ボルツマンの法則がプランクの式から求めることができることから、この式が正しいことがわかりました。

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