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SF読者のための量子力学入門

古典量子力学 Classic Quantum Mechanics
13. コペンハーゲン解釈と実存解釈 the Copenhagen Interpretation

白田英雄

古典量子力学の最後の話題として、新しくて古い問題、量子の観測についての解釈の問題について話しましょう。
今まで量子の本質とはなにか、という話題にはあまり深く立ち入らないでいました。波と粒子の性質を持つということと、確率的にしか存在しないということを述べただけでした。
ボーアらが量子力学を確立させようとしていた時期、アインシュタインやシュレーディンガーなどは、ボーアらの確率解釈に疑問を呈していました。アインシュタインの有名な格言「神はサイコロをふらない」という言葉が如実に示しているように、アインシュタインは量子論の世界で確率論的にものごとが決まるのは、まだ知られていないかくされたパラメータが現実世界に現れるときに確率的なふるまいをしてるだけであり、かくされたパラメータそのものは決定論的に論じることができるものと考えていました。
一方、ボーアやハイゼンベルクなどは、量子の確率的なふるまいは、量子の本質的な性質であり、確率と存在を切り離して論じることはできないと考えました。そして、観測することによって、はじめて確率的な事象が確実な事象となると考えたのです。
アインシュタインらの立場を実存主義といい、ボーアらの解釈をコペンハーゲン解釈といいます。ボーアらの本拠がコペンハーゲンだったことからコペンハーゲン派ともいいます。
アインシュタインとボーアはことあるごとに自分達の考えを戦わせてきました。アインシュタインが確率解釈のパラドックスを考案して攻撃すると、それに対してボーアがその合理的な回答を以って(場合によってはアインシュタインの相対論すら武器にして)反撃するというものでした。
有名なシュレーディンガーの猫もまたそういったパラドックスのひとつです。箱の中に毒の入った箱と猫をいっしょにしておき、毒の箱は放射性物質の崩壊を検出したときに開いて猫を殺します。ところで、コペンハーゲン派の主張に従えば、ふたを開けるまで猫が生きてるのか死んでいるのかわからない状態にありますので、猫は生きてる状態と死んでる状態の重ね合わせの状態でいることになります。半分生きていて半分死んでるなどという状況は現実的にはありえませんので、コペンハーゲン解釈は成り立たないというのです。

これに対するコペンハーゲン解釈はこうです。観測というのは人間が目で見る以前に放射性物質が検出された瞬間に確定することになります。観測装置が反応したかどうかは確定しているので、その先にある猫の生死は確定したものとなるということです。もっともこの考えは結構ややこしいし、今だにパラドックスとして取り上げられます。
アインシュタインの反撃はまだ続きました。アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス(EPRパラドックス)とよばれるものの提起でした。ふたつの光子が正反対の方向へ飛び出していったとします。光は偏光を持っていますが、これは観測にかかるまでどの方向に偏光してるかは確定してません。さて、飛んでいった片方の光子の偏光を観測したとすると、その瞬間にもうひとつの光子の偏光も確定してしまうのです。これはふたつの光子の組がひとつの状態として記述されてるためなのですが、もうひとつの光子も観測された方の光子が観測されるまでは偏光は確定していなかったことに注意してください。これはまるで観測にかかった方の光子の情報が超高速でもう片方の光子にも伝えられたようなものです。超高速で情報を伝えることは特殊相対性理論が禁じていますので、これはおかしい、というものです。

EPRパラドックスの解はジョン・スチュアート・ベルのベルの実験とよばれるものによるまで解かれない問題として残りました。結果はコペンハーゲン派に有利なものとなりました。量子の実在というものは否定されたのです。
それでも量子の実在に関する考察は哲学的なものも含めてさまざま議論を呼びましたし、今だに量子の確率的解釈には懐疑的な人もいます。その中のひとりエヴェレットは、確率的に解釈されるものはそれぞれひとつの宇宙と連結してると考えました。確率的な事象が発生するたびに、世界は分裂するのです。観測する我々はその世界のうちのひとつを選択することになるので、あいまいな状態というのは生じないということになります。この説の難点は、世界は指数関数的に数が増大していってしまうということと、どうして我々はそのうちのひとつの世界を選べるのかということです。分裂していった世界はどんどん発散していって、ついにはなんの秩序も見い出せない世界へとなってしまうかもしれないからです。
この問題に対して本当に解決されることがあるのかどうかというのはなんともわからないところです。

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