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SF読者のための相対論入門

相対論ってなに?

白田英雄

相対性理論をとなえたのはドイツ系ユダヤ人であるアルバート・アインシュタインでした。アインシュタインがノーベル賞を受賞していることは知ってるでしょうが、実はアインシュタインは相対性理論で受賞したわけではなかったりします。

それでは、相対性理論はたいしたものではないのか?

いえ、それどころか現代物理学のいたるところで顔を出す基本原理なのです。ノーベル賞は理論に対してはなかなかもらえないものだったりするのです。きっと、それをまげても選考者はアインシュタインにノーベル賞をあげたい気持だったのでしょうね。

相対性理論。これを読んでる読者の方で、この理論のことを聞いたことがないような人は結構めずらしいのではないでしょうか。特にSFに関心がある人にはなじみのあることばでしょう。アインシュタインの名前を聞いたことない人でも、ウラシマ効果とか双子のパラドックスのことを聞いたことがある人は多いでしょう。

もしくは、最近はやりの相対論は間違っていた、という類の話でその名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。

テレビの特集や雑誌の特集で読んだという人もいるのではないでしょうか。

では、ひるがえってみて、相対論とはなに?と聞かれたときにちゃんと答えられる人はどれだけいるのでしょうか。

実は特殊相対性理論に関しては、高校で習う程度の数学の知識でも理解できるようなものなのです。ただ、その背景にある思想がわかりにくいことと、そこから導き出される結果があまりにも常識とかけはなれているために理解するのにちょっとコツがいるわけなのです。

特殊があるわけですから一般もあるわけなのですが、こちらの方はかなり難しい数学を用いないと理解できない物となっています。理論を発表したアインシュタイン自体もその数学を理解するのに10年もの期間を必要としたくらいです。

実際のところ、特殊にしろ一般にしろ相対性理論をちゃんと理解するには数学の助けを借りなくてはいけません。でも、本稿の目的は理論を正確に知ってもらおうというものではなくて、SF読者にSFを読む時の手助けになるような知識を得てもらおうということなので安心して下さい。数式はできるだけ使わない方針で行こうと思いますのでよろしく。

さて、それではその相対性理論(とりあえずは特殊の方)はどういったものなのでしょうか?

ひとことで言ってしまうと、観測者が等速運動している限り光の速度はどの観測者から見ても同じになるよ、ということなのです。

ちょっとわかりにくいですね。

こういうことです。光の速さは秒速30万キロメートルです。これは止まってる人から見ても、飛行機の乗客から見ても、ロケットに乗ってる人が見ても同じなのです。まあ、秒速30万キロメートルという速さに比べてロケットの速さなぞ、たかだか秒速7キロメートルかそこらですから5万分の1ですよね。それでは計測誤差かな?と思ってしまうかもしれません。ところが相対性理論によると、たとえ動いているのが光速の半分だろうが、光速の99.9999……パーセントの宇宙船だろうが、そこから見える光の速さは常に30万キロメートルなのだ、ということなのです。

ここで何気なく、光速の半分とか99.何パーセントとか書いてしまいましたが、ここにも相対性理論を理解する際の落し穴があります。上の例では誰から見てどれくらいの速さなのか、ということが書いてありません。普通に考えると止まってるものから見て、という風に思いますよね。じゃあ、止まっているものって?

地球も太陽のまわりをまわってるし、太陽も銀河の中を動いています。銀河も止まってるかどうかわかりませんよね。

相対性理論が発表される直前の科学界ではエーテルというものを考えて、それが絶対的に静止しているものと考えました。

ちょっと古いSFファンのみなさんはおや、っと思ったかもしれませんね。そう、あのエーテル ether です。(神秘主義に出てくるエーテル体 Aether とは別物ですけど ^^;;;)

波は普通それを伝える媒体があります。よく例えに出されるのは水の上の波ですが、これは水を伝っているわけです。音は空気を伝いますね。昔の人はそれと同じく光にもそれを伝えるものがあると考え、それをエーテルと呼んだのです。すると、光速はそのエーテルに対して計れるし、その他のものもエーテルを基準として速度が決められることになります。光の速さはエーテル基準にあるわけですから、エーテルに対して異なった速さを持った観測者から見れば当然光の速度は変わることになってしまって、先程の仮定とは矛盾します。

地球はエーテルの中を移動してるわけですから、光の進行方向によっては速さが微妙に違うはずです。光の場合波長が短い波ですから、干渉縞を見ることでそれを簡単に調べることができます。地球はエーテルの海の中を動いてるのですから、地球の進行方向とそれに垂直な方向で光を進ませてそれを干渉させてやるのです。それがマイケルソン=モーレーの実験というやつで、その結果はエーテルの存在を否定するようなものでした。つまり、光の速度は方向によらなかったのです。

物理学者は困惑しました。

ローレンツはエーテルの圧力で進行方向に物体が圧縮されるので、その効果で光の速さの差が見られなかったのではないかと考え、その縮む量まで計算してみました。

この式は後にアインシュタインが計算した式と同じ結果となっていたので、一般に相対論での長さの縮みのことをローレンツ収縮と言ったりしますが、元になった考えは全く違います。そもそも、観測されるものさしが変化してしまったといってもそのものさしの長さを計ることはできないのです。(ものさしを計るためのものさしも縮んでしまって、しかもその向きによって長さが違うのですから、そもそもものさしの役を果してませんよね。)

このマイケルソン=モーレーの実験は今日ももっと精度を上げて追試されていますが、今までエーテルの存在を実証するような結果は出ていません。

光の速さが一定だということを認めていればこういう矛盾は生じなかったのですけどね。

(ちなみに、光の速さが一定だという根拠はマイケルソン=モーレーの実験によるものより本質的なものがありますが、それは次回に譲ります。)

かなりややこしいですね。ここらへんのことがよく啓蒙書とかに出てるのですが、その経緯がややこしいので難しく感じるのだと思います。ただ、エーテルなど、SFでよく出てくる用語なので、あえて説明してみました。

次回から、もうちょっとさくっと説明してみようかと思います。

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