物体の運動を書き表そうとしたら、等速運動(速さが一定で運動、もしくは静止している状態)だけではなく、加速運動も考慮しないことにはいけません。なぜならば、ある速度からある速度へ変化させるためには、当然加速、つまり速度の変化を伴うからです。
ちなみに、ここで言う速度というのは物理学での用語で、速さと速さの向きの変化の両方をひっくるめた言い方です。つまり、進行方向を変えるような運動も加速運動と言います。
さて、前回まで取り上げてきた特殊相対性理論は等速運動する物体に対してのみ適用できるものでした。では加速運動する物体に対してはどのような法則を適用すればよいのでしょうか。
アインシュタインはこう考えました。エレベーターの中にいたときに、エレベーターが加速すると体が重く感じたり軽く感じたりします。エレベーターの外がまるっきり見えないようになっていたとすると、中にいる人にとってエレベーターが加速しているのか地球の重力が強くなったり弱くなってるのか区別がつかないのではないだろうか、と。実際にアインシュタインがこのような例を考えたかどうかはわかりませんが、大体このようなことを考えたのでしょう。唐突な気がしますが、実はこのことはある重要な結果を導き出すことになるのです。
光速に近い速度で移動しているエレベーターが一定の加速度で加速したとします。
図を見ていただくとわかるのですが、エレベーターの中で加速方向と直交する方向に光を出すと、エレベーターの外で見ている人にとって光の行路は放物線を描いてるように見えます。
これは何かに似てないでしょうか。
石を水平方向に投げると、石は地球の重力に引かれて放物線を描きます。この石の軌跡と光の行路は似てると思いませんか?
先のアインシュタインの考えをさらに発展させて考えてみると、光の行路が曲って見えるのは、エレベーターが加速してるからとも、エレベーターの下に巨大な重力源があると考えてもなんの変わりもないのではないでしょうか。
この加速運動と重力が同じものと見なせるという考えは等価原理とよばれているのですが、多くの科学者が両者に差がないかどうかの精密な実験をしていて、現在のところその差は見い出されていません。まず両者は同じものとみなして構わないでしょう。
アインシュタインにとって光というのは思考の中心となるものでした。特殊相対性理論においても、光が全てのものさしとして利用できたのです。そこで、今回も光を基準に取ることにしたのです。つまり、加速運動または巨大な重力のもとで、光が曲っているように見えるが、実は光は最短距離を移動しているのではないだろうかと。
そんなことがありうるのでしょうか。
実は空間が曲っていればそれもありうるのです。地球儀の上で糸を使ってふたつの点を結ぶと、その2点がたとい同じ緯度にあったとしても、それはメルカトール図法の地図で見たときに曲ってみえます。
(唯一、赤道上に2点があれば曲りませんが。)
アインシュタインの一般相対性理論というのは、この空間の曲り具合を計算する理論だと言えます。特殊相対性理論の帰結によって、空間も時間もひとつの座標空間で表現されることがわかりましたが、ここでもその影響が出てきます。つまり、空間が曲ることによって時間も変化するのです。一般相対性理論の計算は、特殊相対性理論のときと違い、直観的に理解することはできません。アインシュタインしてからに、その理論を構築するための数学を学ぶのに10年の歳月を要したほどなのですから。ですから、ここでは結論だけを述べてしまいますが、強い重力のもとでは時間の進みは遅くなります。同じことですが、加速してる物体の時間も遅くなることになります。
連動企画の「相対論的エレベーター」がなぜパラドクスとなるかと言うと、加速する物体に対して特殊相対性理論を適用しているからです。加速する物体の時間は遅れるのです。
実際に光が曲ったり、時間が遅れたりするような重力や加速はかなり極端な例と言えますが、光が曲ることは、銀河の向うにある別の銀河がレンズによって光が曲げられた方に見える現象(重力レンズ)効果によって検証されています。未だに、本当に強力な重力のもとでもこの理論が成り立つという検証はなされていませんが、現在提唱されている重力理論の中では、最もシンプルでかつ物理現象を的確に表現しているということで、最も確からしい理論ではないかと言われています。
さて、アインシュタインが一般相対性理論を発表して間もなく、シュバルツシルトという人が、このアインシュタインの重力理論を表す方程式の解を求めることに成功しました。アインシュタイン自身、この方程式があまりにも複雑なので、そんなに早く解がみつかるとは思ってもみなかったことでしょう。これは、回転していない、質量があるだけの天体の周りに適用できる解で、シュバルツシルトの外部解と呼ばれています。天体の中心から十分離れた地点での重力の影響は、従来のニュートン物理で計算された値と一致していました。
ただ、このシュバルツシルト解には不可解なところがありました。先程、重力が強くなると時間が遅くなると書きましたが、この解では、中心からある距離まで近づくと、時間の進みが0になってしまうところがあるのです。その距離は、たまたま遠心力と天体の重力がつりあっているときの軌道速度が光速になるような軌道半径と等しい数値となっていました。(軌道半径が小さくなるほど軌道速度は速くなって、それによる遠心力も大きくなります。)つまり、この距離より内側では光よりも速い速さでないと軌道を離れることができないのですが、特殊相対性理論の帰結から光よりも速く移動する物体はない(少なくとも、光速より遅い物体が光速を越えることはできない)ことがわかってますので、この半径より内側からは光すらも脱出できないことになります。この半径の円のことをシュバルツシルトの障壁とか事象の地平などと呼んでいます。光すら脱出することができないこの天体のことをシュバルツシルトのブラックホールと言います。いみじくも、シュバルツシルトというのはドイツ語で黒い障壁と言う意味だったりします。
次回は相対性理論を検証する実例などについて述べてみたいと思います。
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