物理学において、その理論が正しいとされる理由とはなんでしょう。
ひとつは実験結果を正しく説明できること、そしてシンプルであること、最後に理論から新しい事柄を予言できて、それが実証されるということです。
相対論はそのどれにも今のところパスしていて、それだからこそ正しいものだと言われているのです。
まず最初の実験結果を正しく説明できることですが、これは特殊相対性理論における最初の公理、光速度一定からして当然の帰結ということになります。特殊相対性理論は光速度が一定になる条件のもとで物理がどのようになるかを示したものだからなのです。もちろん、従来からの物理法則も、その範疇内で説明がつかないといけません。特殊相対論の場合、光速度よりも十分遅い状態での物理法則(この場合はニュートン力学)が近似的に成立していることで証明されます。というか、特殊相対性理論の極限がニュートン力学になっていて、また、そうなるように理論が作られているのです。当然、慣性の法則や力の法則は特殊相対性理論のもとでも正しくなるので、実験結果から正しいと言えます。
ただ、これだと特殊相対性理論そのものを説明することにはなりませんよね。特殊相対性理論の予言とはなにかというと、ローレンツ収縮や時間の遅れなどがあります。これは光に非常に近い速さを実現しないことには実証できないので、なかなか難しいことです。ところが、物理学の一分野である素粒子論の実験の中でそれが実証可能であることがわかってきていて、実際に確かめられてきています。
素粒子論というのは、物質を構成している素粒子同士のふるまいを調べる学問なのですが、素粒子同士の反応で出てくるとある素粒子は寿命が非常に短くて、すぐに他の素粒子に変わってしまいます。ところが、実験によってその素粒子が非常に速い速さで飛んでるときに寿命が延びることがわかったのです。つまり、止まってる観測者から見た素粒子の時間がゆっくり進むので、結果として寿命が延びているように見えるわけなのです。素粒子の実験は、粒子加速器や、高エネルギーの宇宙線などを用いますので、比較的簡単に光に近い速さを実現できるのです。
では、特殊相対性理論の大前提である光速度一定そのものはどうでしょう。ひとつにはマイケルソン=モーレーの実験があります。これはもっと精度を高めて今日も実験が続けられています。
その他に、最近生活には欠かすことのできないGPSもまた光速度一定の原理を前提としていたりします。GPSは電波によって多くの衛星との距離を精密に計るのですが、もし光速度が一定でなければ、衛星との距離を電波で精密に計測することは不可能になり、GPSのシステム自体が成り立たなくなってしまいます。(電波も同じ電磁波として光の一種なのですから。)
GPSはまた同時に一般相対性理論の成果も利用してたりします。地上と宇宙空間では地球による重力が微妙に違うので、それによる時間の進み具合も微妙に違います。実はGPSではその時間のずれも考慮しなくてはいけないほど精密な計測が行われているのです。当然、GPSで正確な位置測定ができるということから、相対論は正しそうだ、と言えそうです。
一般相対論は大きな重力がないことには実証できないので、当初はなかなか証明はされないだろうと言われていましたが、発表されてから比較的早いうちにそれを実証しうる結果がみつかってます。
前回、強い重力のもとで光の行路が曲るのだと書いたことを憶えてますでしょうか。日食を利用することで、それを検証することができます。
太陽のふち近くに見える星は太陽の重力の影響で若干内側に見えることになるはずです。ただ、普段は太陽の光が邪魔してそれを見ることはできません。ところが日食のときには太陽の明るい部分が月の影になるので、普段は見ることができない、そのような星を観測することができるようになるのです。観測結果は太陽がないときの、普通の夜空における星の位置と比較されました。結果として星の位置がずれていることが確認され、一般相対性理論が正しいといえそうだということが確認されたのです。
現在は、銀河の巨大な重力がちょうどレンズのように働いて、その後ろにある天体がリング状に見える現象もこの一般相対性理論の効果であると言われています。(重力レンズ効果)
一般相対性理論を証明する現象で有名なものに、水星の近日点の移動というものがあります。
惑星は太陽のまわりを楕円を描きながら回っているのですが、その太陽に最も近い点のことを近日点と言います。ニュートン力学によると、太陽と惑星がそのふたつしかないときには、この近日点の方向は一定とならないといけないのですが、実際には、他の惑星からの重力の影響で近日点は徐々に移動していきます。19世紀の段階で、その近日点の移動の原因はかなりの精度までわかっていたのですが、どうしても説明のつかない誤差が残ったのです。その大きさは100年間で角度にして43秒(1秒は1度の3600分の1)という非常に小さいものだったのですが、それでも観測結果との不一致が問題となったのです。ところが、一般相対性理論を適用してみると、なんとこの誤差の量とぴったりのずれが計算によって求まったのです。水星の軌道は楕円のゆがみ方が他の惑星に比べて大きく、それに太陽に一番近いために相対論的効果を最も受けやすいものでした。
ここで注意しなくてはいけないのは、一般相対性理論は決して水星の近日点の移動を説明するために作られた理論ではないということです。他のことを説明しようとして作られた理論の帰結としてまた別のことを実証することができることが、その理論が健全で正しそうであると言うための根拠のひとつなのです。
今回、できるだけ相対論が正しいと証明された、みたいな決めつけるような表現をしないで、正しそうだと言える、のような書き方をしました。というのは、相対論は上のマイケルソン=モーレーの実験のように今も検証が続けられている理論だからなのです。もしかして、将来、相対論を包括するような理論が生まれ、相対論は近似的にしか成り立たないのだ、ということになるかもしれません。多分、そこにSF作家が想像をふくらませる余地があるのかもしれません。
実際のところ、ブラックホールの内部の状態など、一応一般相対性理論で計算することはできますが、それが正しいかどうかを検証する術を私たちは知りません。そこにはもしかしてまったく未知の理論がころがってる可能性もあるのです。
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