一ヶ月以上前の話になってしまうが、9月28日に東京インターナショナルオーディオショー@東京国際フォーラムに行ってきた。年に一度のとても待ち遠しいイベントだ。私は今回で3回目。このショーは、その名のとおり、海外のオーディオ、ビシュアル製品のニューモデル(たいてい、このイベントに照準を合わせてラインアップを揃えてきているようだ)がいち早く見聴き出来る。
海外メーカーの製品は特にスピーカーに個性的な魅力があり、そのフラッグシップモデルと呼ばれる超ハイエンド機種を、個々の独立したブースで、じっくり聴けるという、普通販売店での試聴では、よほど店と懇意にしているか上得意客でないと出来ない体験が、この3日間だけは(購入のかけひきなどという心配抜きに)気楽に可能なのだ。仮にヤナセのディーラーに行って、「そこのベンツ、ちょっと乗っていい?」といきなり持ちかけてみることを想像すれば、このようなイベントの貴重さはおわかりかと思う。しかも全くのタダである(東京ビッグサイトのオーディオエキスポは入場料千円なにがしは必要なのだ)。
今日は一日一人で自由行動だ。年に一回のイベントなので、と家族の理解は得た。10時会場。まずLINNのブースへ。LINNはスコットランドのメーカーで、デザインがわびさびというか、渋いセンスがあり、俳優の竹中直人さんもユーザーだったのを雑誌で目にしたことがある。他のハイエンドメーカーと違い、パワーアンプやCDプレイヤーでも、何でそんなに小さいのに高価?と思わせるコンパクトさだ。今回の目玉は、フラッグシップモデルのスピーカー、コムリ(ペア480万円)。試聴ブースではCDプレイヤー(CD12:280万円)と組んで宇多田が鳴っていた。早速持参したCDをかけてもらう。「すいません持ってきたCD、聴かせてもらいたいのですが」「ハイ、喜んで!」 くうー!嬉しいなあ。喜んで、だって。リクエストはジャズのピアノトリオ、John
StetchのGreen Groveより2曲目。かの寺島靖国氏が「イベントでかけたら客から拍手が起こった程の好録音」と評した曲。確かにうちのシステムでかけてもびっくり、のベースのゴリゴリ感、一瞬の間に感じる残響からうかがえるスタジオ空間など、おすすめの一枚だ。アンプも含めると総額1000万円からなるシステムが鳴らすその曲は、冒頭、もうちょっとボリューム右へ、と言いたいくらいにさりげなく、自然に流れてきたのだが、やはりドラムソロの迫力たるや、腹の底から胸に響く強烈さだし、あ、ここでミキサーがコンソールつまみ上げたな、と想像できるような反応の良さも感じ取れた。
セコイ話だけれど、他のメーカーでも製品カタログはもらえるが、紙袋まで用意しているのはここだけ。後日だれかがヤフオクで300円で出品していた(笑)。結婚披露宴で引出物をお持ち帰りいただく紙袋、一枚いくら、なんて取られたなあ、と変な感慨にふけったりして。係の人が着ているアメリカンカレッジ風のトレーナーはロゴ入り(売ってないかな)、客への応対の仕方といい、トータルでのブランドイメージをきっちり出そうという印象があった。ファンになったぞ。パワーアンプ(85000円)あたりをうちのフロントに用いる、というのはどうかな、と考え始める自分。
次はALR-JORDANのブース。私の現使用スピーカーENTRY-S(54000円ペア)のメーカーだ。実は2年前のこのショーで耳にしてすっかり惚れ込んでしまい、それまで使っていたB&Wを手放して買い換えたという縁がある。
年に一回のこのイベントには、ハイエンドを多く聴いて自分の耳を肥やすという狙いに加え、自システムの定点観測、同じ又は同程度のクラスがショーで鳴っているのに比べ自分のはどうだろうか、という点にも興味がある。去年はこのブースでENTRY-Sを100万円オーバーの真空管アンプでドライブ、スターウォーズエピソード1のテーマを聴いた。その天井の高さ(空間表現として)、低音のドロドロした表現など、このスピーカー奥が深く、まだまだ鳴らし甲斐があるな、と決意を新たにして一年。今年もいざ、と意気込んだが、残念ながらSは後ろに追いやられていた。
そのかわりにENTRYシリーズはラインアップが充実していた。ENTRY-M,L,XLとわかりやすいネーミングだ。早速、ゴンサロ・ルバルカバの新作Supernova一曲目をMで鳴らしてもらう。キューバ出身の超テクジャズピアノ、ラテンのパーカッシブな瞬発力、始めの一撃「ずんちゃ!」この数秒で、Mは「買い」のスピーカーだと感じる。Sの幅は13センチ、Mの幅21センチ。サイズ一回り大きくなった分、低音の迫力は一段とスケールアップしている。それでいてSの魅力である反応の早さ、解像度のきめこまかい点は少しも鈍っていない。Mの幅そのままにトールボーイにしたL、ダブルウーファーにしたXL、上位になる程多分スケール感はアップするだろうし、それでも底面積は同じなのだ。あとは財布と相談というところ。
わが6畳間シアターでは、スクリーンとの兼ね合いから、この幅21センチがおそらく限界。ENTRY-S登場から2年、そろそろその上を、というタイミングで出た3機種は実に魅力だ。続けてSteelyDan:Gauchoリマスター盤よりHeyNinteen(カールトンのギター、アタック感が強く出ていた)等を聴かせてもらい、さらにLやXLをリクエストしようというところに、某オーディオ評論家登場。自分のプロデュースだかディレクションしたというCDを聴かせに来たようで、私は即退散。さぞかし優秀録音なんだろうけど、自分の好きな曲じゃなければ、何のオーディオか。他にもまわりたいところがある。時間は限られているのだ。
次はB&Wのブースへ。今年は新しいフラッグシップのスピーカーが多くの人を集めていた。ここは進行役があらかじめ準備した(デモに適した)ディスクを一曲一曲しゃべりを入れながら聴かせるという段取りが定着しているようで、おいそれと持ち込みCDを聴かせてもらえそうにない(このデモに適した、というCD、去年はいろんなブースで綾戸智絵がかかっていて笑ったなあ)それでもジャズ系の曲、ベースの実在感、ブルンとした押し出しに感心していると、又別の某オーディオ評論家が登場。退散退散。はい次いってみよー(いかりや風)。
メジャーどころ、JBL、タンノイ、アキュフェーズ等はさらにつまらない。マニアのサロン化していて、人の出入りも多く、音楽をじっくり聴く環境から程遠く、B&W同様の段取りで持ち込みはとても聴けそうに無い。
それにしても、これらの有名メーカー。フラッグシップを最高のドライブで鳴らすのも結構だけど、たくさん集まったこれらの人々の内何人が購入まで至るのかを考えているのかな?そういう意味では、魅力あるエントリークラスだって数多く出しているのだし、それらを自由に聴くことができるブースをもう一つ設ける(当然評論家もなし、持ち込み歓迎)、それで「この位の出費でもこんなにいい音で音楽が」と話がつながる。こういう間口を広げる提案、アクションを興さないと、いつまでたってもオーディオは敷居の高い金持ちの道楽で終わってしまう。若い層はやってこない。あるブースで「高名な」評論家:「若い連中の音楽というと、ヘッドホンステレオ中心で帯域の狭い聴くに耐えないノイズばかり。あれは音楽と言えない」との言に、客が皆うなずいていたが、まあ、それは言えているところはあるにしても、ハイエンド機器に囲まれた世界で一般層を見下した話だけで終わってはいけないでしょう。音楽と真剣に対峙し、その演奏者の感情なり心の動きをつかみとろうとする態度こそ、オーディオが育ててきた文化であるなら、それを次世代に継承させる、そういう流れを作っていかないと。
さて、このコラムはそもそも「おすすめDVD」であるからして、AVの話もしなければ、ですね。雑誌HIVIで米国盤DVD紹介のページを担当されている(私は新号が出たら真っ先にこの欄を開く)堀切日出晴氏のナビゲートで、ハイエンドDVDプレイヤー(エアー&ゴールドムンド)+三菱の三管プロジェクターという究極のシステムによるデモに接することができた。
その印象は、なんというか、もう水平解像度が何本とか、画素がいくつとか、そんな数字上のスペックを通り越して、まさに究極、芸術の域とはこういうものか、というまばゆさであった。映画館に比べて、などというと、このシステムに失礼である。映画館など足下にも及ばない、映画館のフィルム上映以上(ん?)にフィルムライクななめらかさ。
デモ一本目は「宮廷料理人Vatel」。中世貴族の園遊会という設定だろうか、特に盛り上がりの無いシーンだけれど、衣装のきらびやかさ、照明の柔らかな光のあて方、料理や食器の色彩と、スクリーンの向こうに確かに一つの別世界があった。
デモ終了後、氏に声をかけてみた。「2本目(What lies beneath:R2)を再生する前、リージョン設定画面が出ましたが?」「雑誌ではおおっぴらにできないけれど」このような高級機はリージョンなんて関係ないそうだ。メーカーが業界団体に属していないんだって。氏は話しだしたら止まらない、とても気さくな方で言葉の端々に「映画が好きでたまらない」そんな印象を受けた。
というわけで来年もまた楽しみである。今度はDVDソフトを持ち込んでこのシステムでみせてもらおう。プライベートライアンのオープニングは強烈だろうな、ジュラシックパークの低音再生はどうだろう、マトリックスの銃弾はきれいに斜めに飛ぶんだろうな・・・・・・
<おすすめDVD>
1.Silence of the lambs(special edition)
言わずと知れた名作。5.1化され、画質も向上。冒頭、ひたすらトレーニングするクラリス。その森に響く細かな鳥のさえずり、これは前バージョンでは聞こえなかった。その環境音が感じられるからこそ悲愴なメインタイトル曲が引き立てられる、そんな感じもします。レクターとクラリスの初対面シーン。改めて2大俳優の演技合戦だなと確信。画質の向上は、クラリスのルージュの鮮やかさに表れた。
2.Caveman's Valentine
WidescreenReviewで高得点のハイクオリティディスク。確かにすごいです、絵も音も。話は「ケイブマン」のタイトルで日本語訳も出ているミステリー。NYの精神を病むホームレスが探偵(サミュエルLジャクソン)なのです。電波系妄想シーンでdtsサラウンド全開。羽根の生えたヒトが飛び回ります。2月のNYというと観光には全く不向き、華の無い季節だけれど、それでも私は惹かれます。
3.CasinoLights'99
何年か前のモントルージャズフェスティバルのはずなんだけど、私には意味不明のタイトル。出演はFOURPLAYやジョージデュークなど、フュージョンが中心。音はハイクオリティ。dtsも後方は残響中心で、パーカッションを不自然に後ろに振るようなことはしていない。R2も出ているが、R1の方がはるかに安いので、フリー環境の方は輸入をおすすめします。
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