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六畳間シアターより愛をこめて

観逃した貴方、後悔すべし!

ゾンビ

この冬のゴジラ新作「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」は、ものすんごく良かった。どのくらい良かったかというと、まあ去年私はあまり劇場で本数こなしたわけではないけれども、その中ではダントツだし、これは仮にあと何本数を消化したとしても、その順位は変わらないだろうという確信がある。
映画が良かった悪かったというのは、それを観た人の主観によるのであって、例えば去年のヒット作「千と千尋の神隠し」が多くの人の支持を得る程には、本作は評価を集めないだろう。でも、である。私のような人、誰が何と言ったって今回のゴジラはムチャクチャにいい、そう断言する人はけっこういるのではないだろうか。では、その日本に点在するかもしれないとは、どんな人か。私はそれを勝手に「東宝チャンピオン世代」と名付ける。つまり、夏休み、冬休み、一番のイベントは東宝チャンピオンまつりでゴジラに会いに行くことだった、年令でいうと現在30代後半から40代の男性、ということだ。今回のゴジラはその世代層の心をガシっとつかむ狙いが感じられる。
それは、昭和30年代後半から40年代、「怪獣プロレス」と揶揄されながらもその豪華な顔ぶれで日本の観光名所を壊しまくったキングギドラ3部作(と、勝手に呼称)、三大怪獣地球最大の決戦、怪獣大戦争、怪獣総進撃をもう一度、そういったコンセプトがうかがえるのだ。これらの映画に大いに思い入れのある世代が今お父さんになり、「ハム太郎」を観たがる子供も丁度いるという、まことにセグメンテーションもしっかりしたマーケティングではないか。
前半のバラゴン戦が特に素晴らしい。箱根ロープウェイ付近という高低差のある地形を生かしたバトルであり、カメラアングル。その破壊に翻弄される人間側の描写も見事にかみ合っている。まさに死闘と言っていい、バラゴン捨て身の突撃。
日本を襲うゴジラ、守る3怪獣のモチベーションが新しい解釈、視点によるものであり、それはその背景に、荒廃した若い世代のモラルという、これから自分の子供の教育にも力を入れていかなきゃな、というお父さん達が何となく又は切実に感じている日本の現実が反映されている。それ故に怪獣の戦いも説得力を持ち、ストーリーの核として作品から遊離しなかったのだ。
元来、ゴジラといえば昭和29年の初代が別格、とされていた。その評価軸をまとめるとこういうことだ。ゴジラは水爆実験により突然変異、巨大化した恐竜で、都市を破壊され放射能を吐き散らされることで再度日本は被爆している。戦争の悲劇を日本が再体験するということが、反戦、反核の悲痛なメッセージとなっている。しかしながら、その一方で、「ゴジラは反核でなければいけない」そのような暗黙の了解というかドグマが、足枷となっているということが、平成シリーズの一連の出来を眺めればわかると思う。戦後がどんどん遠ざかっていく今にち、反戦、反核という看板をいったん下ろし、独自の論点を持ちえた作品は、対ビオランテ(バイオテクノロジー問題)、対キングギドラ(タイムパラドックス、日米経済摩擦)など数えるほどだ。また一方で、怪獣バトルを極めたと言っていい、対メカゴジラも心に残っている。怪獣映画の本来は、我々が築き上げた文明が一瞬にして踏み潰されるという都市破壊のカタルシスであり、またはリセット願望の充足でもある(などとこのご時勢、無邪気に言い放つことにいささか抵抗があるけれど)。その意味で、今後の怪獣映画がある意味フィクションの世界よりずっと過酷でハッピーエンドの来ない現実にどう向き合っていくのか。次作がまたまた製作されるとのことだが、期待と心配、相半ばというところ。
今回の作品は、怪獣がよく暴れよく壊す。ちゃんと日本の名所巡りもする。人間側のドラマもしっかりしている。かつ独自の論点もある、と全てにおいて怪獣映画の手本のような一本だと思う。しかし!!唯一納得できないのが、キングギドラのデザイン。終盤のゴジラとの肉弾戦(咬みつきなど)を考慮してのことだろうが、今までの見慣れた姿より全体的にひとまわり小さくなり、結果3つの内2つの首は「人間の手」が入っているのがあからさまにわかってしまい、さながら「レッドスネークカモーン:手のひらで口パク」な造形に脱力してしまう。
その点クラシックギドラは違う。「ゴジラより大きくなければゴジラがやっつける意味がない」という命題がまずありき。その必然として中に入る人は手が届かないので、首の動きは操演だ。「どっちにしたって人が入っているんだから一緒じゃん」違う!違うのだ。これは怪獣の「見立て」というワビサビの奥ふかあい世界なのである。首、あごの動きを手でやられては、その肘の位置、手首の位置により動く範囲は限定され、あらゆる動きが中の腕を想像させるし、三つ首「竜」=ヘビのクネクネ感を出すことは不可能だろう。クラシックギドラの首は操演ゆえの不安定さが逆に功を奏し、特に一箇所を標的にしているのではなく、まるでステッキを持たせた間貫平爺の如く、「とりあえず何でもどこでもいいから壊しちゃうもんねー」というアナーキーな気まぐれでもって無重力光線をあたり一面に吐き散らすのだ。まさに荒ぶる神という表現がぴったり。人々は逃げ惑うかその地にひれ伏すしかない。天から降りてきた金の三つ首竜。威厳(そう威厳という言葉がぴったりだ)が不可欠なのである。
というわけで、今回もやっとDVDにつながったぞ。クラシックギドラの昭和39年(私の生まれた年だったりする)デビュー作、「三大怪獣地球最大の決戦」DVD、映画鑑賞後かつてのかっこいいギドラに再会すべく購入。LDは持っていないけれども、機会あるごとに慣れ親しんだこの映画。レストアされて鮮明になったことに感心するだけではなく、改めて往年の東宝特撮のパワーに圧倒された。決戦場所は富士山麓なのだが、その雄大な裾野をシネスコ一杯にフレーミング、それをバックに戦う怪獣との大小関係に違和感を感じさせないのだから、そのセットの巨大さがうかがえる。
かつ、今回新しい発見だったのが縦方向の広がり。ウルトラマンなどにおけるそれを思い浮かべていただきたいのだが、だだっぴろーい平野で正面から向き合い、これを水平位置でカメラフィックス、その枠組みで技なり光線なりをぶつけあう、というのが対決シーンの常套であり、それはよく考えるとかなり不自然な戦い、動きではないか。一方この映画、モスラ幼虫がゴジラ、ラドンの仲に入ってギドラ対応を説得、ピーナツ小美人が通訳するという、怪獣が堕落した瞬間として有名なシーンだが、ゴジラ、ラドンがいがみあっている岩場の下方からうねうねとモスラが上がってくる。これは、人間達が峠から見守るという設定故の斜め上からのアングルで、手前モスラ、中ゴジラ、奥ラドンという奥行きのある構図になっている。なんてことのないシーンではあるが、そういった位置関係にこだわった好例だと思う。
音はDVD化で新しく収録された2001年版5.1chリミックスで聴いた。細かくモノラルのオリジナル(これも当然収録されている)と比較したわけではないが、私は(新しいリミックスなのに)とても懐かしい感じがした。というのも、BGMやエフェクト音のリアへの残響音の付与の仕方が、ローファイはローファイのまま、東宝チャンピオンまつりをやっていたあの時代のあの劇場の広がりを想起させるものであったから。ウルトラシリーズの5.1リミックスで閉口した低音域のブーストもなく好印象。40年近く前の映画を違和感なく5.1化するには、ということを熟考した成果である、と評価したい。

唯一つ惜しいのは、そのプライスタグ。一方で、今やモンスター映画といえば、の代表格、ジュラシックパークシリーズ。パート3(リージョン1)を購入(20ドルちょっと)すると、米国内に限られるのだが、プラス数ドルで他の既発売タイトル(在庫整理でしょうけどね)を送ってくれる。他にもメイキングDVD(購入者限定)も数ドルで入手可だったりと、ゴッドファーザーDVDボックス(1万4千円!)を買えば全然関係ないタイトル(「十戒」だってさ)を一枚やっとこさもらえるどこかのセコい国とはエライ違いだ。とはいえその国でも、MI2購入者はトムクルーズ主演作DVDを一枚プレゼント、ワーナーでは2枚で3千円セールなどという、粋な会社もあるんだけどね。
別にボックスでも2枚組でもない、しかも40年近く前の作品に6000円の値付けをするのは世界で東宝くらいのもの、言語道断の所業だと思う。3000円にしたら倍売れるかというと、それは疑問だけれど、4000円にしたら1.5倍は売れると思うぞ。ご考慮ください>東宝殿。
ジュラシックパーク3の話。前作ラストで、恐竜がとうとう米国に上陸したシーン、竜なだけに蛇足、と評判悪いけれど、私にとっては怪獣は街で暴れてナンボの生き物。大いに盛り上がった。しかも最後に映る翼竜の姿。次作への期待が高まりましたが、それを裏切ることない痛快作でありました。パート3は、役者が現場入りしているのに脚本が上がってなかったなどという心配な噂も入ってきてましたが、スピルバーグがメガホン取るとなりがちな説教くさくて理屈っぽく、妙に小利口な子供が活躍する映画にならなくて良かった良かった。尺は短め、新種も続々登場、しかも水陸空ときたもんだ。このままパート4は是非島から再度都会に出てきてほしいものです。
話は逸れるけど、すっかり皆が真似した恐竜が近づいてくるのを水紋などと重低音で暗示するってやつ。一音、一音の間が長過ぎないかい?恐竜の歩幅ってそんなに広いかっての。

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